私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

169

 

自分たちが乗り込んだ電車が逆方向に行く電車だと気づいた私たちは、急いで反対側側のホームに向かって。

 

プルルルルル…

 

発車のベルが鳴っている。

 

「もう出ちゃう!!はよぉ!」

 

理奈さんが荷物を抱えて私に言う。

 

「うわー!待って待って待ってー!」

 

私はちょっとだけヒールのある靴を履いてきてしまったことを後悔していた。

 

「有里ちゃん!はよぉ!」

 

「うん!頑張ってる!!」

 

階段を駆け上り、駆け降りる。

私たちは息を切らせながらなんとか電車に乗り込んだ。

 

「うわーー!何とか間に合った!!」

「よかったぁーー!!」

 

2人で電車の座席に座り込み、「危なかったなぁー!」と言い合った。

そして顔を見合わせて「あはははは!」と2人で笑った。

 

 

「珍道中やな。私と有里ちゃんの2人やとこうなるんやな。あははは。」

 

理奈さんが楽しそうに言った。

 

「あははは。おもろかったなぁ。ほんまに珍道中やな。この後大丈夫かいな。」

 

私は笑いながらこの時間が永遠に終わらなければいいのにと思っていた。

 

 

理奈さんとの温泉旅行はとても楽しいものだった。

一緒に入る温泉。

一緒に食べる豪華な夕食。

浴衣でお布団の上をゴロゴロしながら一緒に観るテレビ。

 

「お布団が気持ちええな。な?有里ちゃん。」

 

ニコニコ笑いながらフカフカのお布団の上で寝っころがる理奈さん。

 

「うん。フカフカで気持ちええなぁ。」

 

ニコニコ答える私。

 

旅館のお布団のほどよく糊の効いているシーツが気持ちいい。

 

「あははは。この芸人さん最近よぉ出るなぁ。おもろいやんなぁ。」

 

お布団でゴロゴロしながらテレビを観て笑う理奈さん。

 

「あははは。うん。おもろいなぁ。」

 

答える私。

 

今のこの瞬間を忘れたくない。

 

たわいもない会話。

笑い合いながら、あーだこーだ言いながら観るテレビ。

ぽつぽつと交わす会話。

 

私にとっては全てが奇跡のような時間だった。

 

「有里ちゃんって前に女の子も好きって言うてたやんか。それってSEXの対象もなるってことやろ?」

 

理奈さんがテレビのCM中にそんなことを聞いてきた。

 

前に理奈さんと2人で飲んだときに私はそんな話しをしていた。

実際私は自分の事をバイセクシャルなんじゃないかと思っていて、どちらも性の対象になりうると思っていたし、女性とのSEXも何度か経験している。

高校生の時は女の子から告白されたこともあった。

 

「あー、うん。そうやね。特に『男好き』ってわけでもないし、だからといって『女性好き』ってわけでもないけどね。SEXの対象?うん。そうやねぇ。別にできるし、女性としたいと思うこともあるで。したいというか、攻めたい!みたいな感じかなぁ。」

 

私は本音を理奈さんに言った。

 

私は女性を屈したいという欲望が少しだけあって、女性との数回のSEXはいつも私が攻める立場だった。いわゆる“タチ”というやつだ。

 

「ほんまぁ?!私は全然思わんなぁ。まぁ男の人ともSEXしたい!と思う事あんまりないけどなぁ。」

 

まぁ…

それは毎日してるからと違いますか?と言いたいところだったけど、私は「うんうん」と聞く。

 

「有里ちゃん、今日私のこと襲わんといてやぁ。あはは。」

 

理奈さんが笑っている。

屈託なく。

 

「まぁ、それはわからんな。」

 

私はふざけて答えた。

 

「えーー!!私とはしたいと思わんやろ?色気もなんもないしな。あはは。」

 

「いや、それはわからんで。」

 

私はニヤニヤしながらもう一度言った。

 

「わー!どないしよー!有里ちゃんに襲われてしまうわ!」

 

理奈さんは胸の前で腕をクロスさせて「いやーん」と言った。

その姿が可愛くて笑ってしまう。

 

「襲わんから大丈夫やで。あはは。理奈さんとSEXしてみたいとも思うけど、それはただの好奇心やから。『したい!!』とかじゃないで。」

 

「そうか。安心したわ。でも有里ちゃんのそれはどういう感じなんやろなぁ。」

 

理奈さんは私の『性欲』というものを疑問に感じていたみたいだった。

私にとっては『性欲』ではなく『SEXと人と自分への強い興味』という感じだったのだけれど、それと『性欲』とはちょっと違うなんじゃないかと思っている。

女性とのSEXも私にとっては『私とSEXへの興味』だから『女性としたい!!』という欲求ではない。

 

私はそれをうまく説明できず、「まぁ興味がめっちゃあるってだけやで。」という言葉になってしまった。

 

「へー。そうかぁ。で?女の人とのSEXってどうやったん?」

 

理奈さんもちょっと興味があるらしい。

理奈さんは風俗誌に載っている、綺麗でスタイルの良い風俗嬢の写真をよく見ている。

それは自分のスタイルを保つための刺激だと言っていたけど、どこかで綺麗な女性に抱く性的な興味みたいなものも含まれているんじゃないかなぁ。なんて思う。

 

「え?そうやなぁ。まぁ興奮はしたなぁ。自分がやったことで喘ぎ声とか出してくれるのって興奮するんやなぁって思ったよ。ちょっと男性の気持ちがわかるーみたいな感じかなぁ。」

 

実際女性とのSEXは興奮した。

男性とのSEXも興奮する時もあるけれどそれはなんとなく『普通』のことで、女性とのその行為は『普通ではない』という点での興奮なのかと感じる。

 

「へぇ。そうかぁ。まぁでも私は無理やなぁ。別にしたいとも思わんしな。有里ちゃんの話し聞いてる方がおもろいわ。で、その相手のことは『好き』やったん?SEXしてみて『愛してるー!』みたいになったん?」

 

でた。

「好きなん?」とか「愛してるん?」とかの質問に私は弱い。

ずっと風俗嬢をやっている理奈さんもどこかで『SEXをする=愛があるから』という図式があるのかと感じ、「へー」と思う。

 

「うーん…まぁ好きは好きやったけど…それはなんていうか…『人間として好き』って感じかなぁ…『愛してる!!』とか『お前だけだぁー』みたいな感じではないで。」

 

ただSEXをしたというだけ。

私もしたかったし、相手もしたかったからしただけ。

そしてそれはとてもいい時間だった(ように感じる)っていうだけ。

 

「へー。で?相手は?向こうは有里ちゃんのこと『好きだー!』みたいにはならへんかったん?ハマっちゃったりせぇへんかったん?」

 

理奈さんが興味津々に聞いてくる。

女性とのSEXをした私の話しが面白いようだ。

 

「うーん…別にならへんかったなぁ。距離が縮まったっていう感じはあったけどなぁ。」

 

「へー。もし私が有里ちゃんとSEXしたら恥ずかしくてあかんわ。あはは。もう店でも話せんくなるかもしれんわ。」

 

理奈さんがはにかみながら言う。

 

か…かわいい…

 

「可愛らしいなぁ。へー。そうなんやなぁ。」

 

私は理奈さんをジッと見ながら答えた。

 

「やめてやぁ!襲わんといてやぁ!」

 

また腕を胸の前にクロスさせて身をくねらせる理奈さん。

 

「あははは。大丈夫やって!そんな鬼畜違うで!」

 

「鬼畜ってなんやねん!あははは。」

 

「ビール飲む?」

 

「そうやな。飲もうか。」

 

私たちはお布団から身を起こし、缶ビールを開けた。

 

「有里ちゃんはおもろいソープ嬢やなぁ。お客さん喜ぶやろ?」

 

ビールを飲みながら理奈さんが改めて言う。

 

いや、それを貴女の口から言われても。

 

「どうやろなぁ…。おもろいのかなぁ。もう毎日が精一杯でわからんわ。あはは。未だにどうしたら喜んでもらえるのかわからんしな。理奈さんにはかなわんしな。あはは。」

 

ほんとに毎日が精一杯だ。

もうすぐこのソープ嬢の期間が終わろうとしているのに、これは最後まで続くんだろう。

 

「有里ちゃんは真面目やなぁ。絶対お客さん満足してる人多いで。私がお客さんやったら有里ちゃんに入れたらめっちゃラッキーって思うで。」

 

理奈さんがそんなことをいうもんだから、うっかり泣いてしまいそうになった。

 

「えー?!ほんまに?!またまたぁ~。理奈さんはほんまにほめ上手やなぁー!」

 

うっかり泣きそうになったことをごまかす。

 

「ほんまやって!辞めてしまうのもったいないなぁ。」

 

なんて嬉しい事を言うんだろう。

雄琴ソープ嬢の中で人気ランキング殿堂入りを果たしている人にそんなことを言ってもらえるなんてすごいことだ。

 

「ありがとう。そんなこと言われたら嬉しくて抱きたくなるわ!」

 

「えぇ?!やめてぇ~!!」

 

「あははは!」

 

「あはははは。」

 

 

ひとしきり話し、私と理奈さんはリラックスしながら眠りについた。

ほどほどに酔い、温泉で温まったことで私の心が緩んだようだった。

 

こんなにリラックスしたのはどれくらいぶりだろう。

いつもの私がどれほど緊張しているかがわかる。

帰りたくない。

またあの現実に向き合わなければいけないんだ。

 

 

理奈さんとの一泊旅行は夢のような時間の連続だった。

ただ下呂温泉に行って、温泉に入って、美味しいお酒を飲んで、美味しい食事を食べて、浴衣でゴロゴロしながらテレビを観てお話ししただけなのに。

それが夢のような時間だった。

 

 

つづく。

 

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170 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

 

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はじめに。 - 私のコト

 

168

 

「有里ちゃーん!おはようー!」

 

次の日、私は比叡山坂本駅で理奈さんと待ち合わせをしていた。

今日から一泊の旅行だ。

 

「おはようー!うー、寒いねー。」

 

1月の滋賀県は寒い。

琵琶湖から吹く風が冷たくて、身を切られるような鋭い寒さだ。

 

「ほんまやなぁ。でも晴れてよかったね。」

 

理奈さんはすっぴんの顔でニコニコと笑っている。

子どもみたいで可愛い。

 

「行き方わかるん?調べたん?」

 

理奈さんに聞く。

理奈さんが「調べておくでー」と言っていたので任せてしまった。

理奈さんがあまり計画を立てられないと知っていながらも、「やっておくからええで」と言っていたので全て任せてしまったのだ。

 

「え?ちゃんと調べたで!あはは。じゃ私に着いてきてやぁー!」

 

理奈さんは得意げな顔で私にそう言った。

 

「あははは!ほんまに大丈夫なんかぁ?」

 

「なによぉ!大丈夫やでぇー!あはは。」

 

「あははは。頼みますよぉ!」

 

 

始まりから楽しかった。

私たちは電車の中もずっとおしゃべりをしてずっと「あははは」と笑っていた。

 

そして名古屋に着いたとき、理奈さんが「乗り換えの電車が来るまで2時間ちょっとあんねん。名古屋をちょっとぶらぶらしてお昼ご飯食べよー。」と言った。

 

理奈さんは名古屋のピンサロで少しだけ働いたことがあるとらしく、「ちょっとだけなら名古屋のこと知ってんねん。」とはにかんだ笑顔で言った。

 

駅の周りの街をプラプラと歩き、なんとなく良さそうな店に入る。

可もなく不可もなくの味のご飯を2人で食べ、「まぁまぁやな」「うん、そうやね」と言い合った。

そんなやりとりでさえ私には宝物のようだった。

 

「有里ちゃん、まだ時間いっぱいあるわ。どないする?」

 

電車の時間までまだ1時間ほどある。

 

「そうやなぁー。あ!さっきゲーセンあったなぁ。ゲーセン行く?」

 

私はさっき見たゲームセンターに行こうと言い、理奈さんは「ええよー。」と笑いながら答えた。

 

2人で昼間のゲームセンターに入る。

 

「なにやるー?」

「そうやねー。」

 

広い店内をぐるぐると周り、いつの間にか私たちは別々のゲームをそれぞれがやる形になっていた。

久しぶりのゲームセンターにちょっとワクワクして、対戦ゲームと車のレースゲームをやった。

私は相変わらずゲームが下手で、すぐに終わってしまう。

 

理奈さんを捜しに行くと、メダルゲームのコーナーでスロットを打っていた。

理奈さんは休みの日に必ずパチンコに行く人だ。

スロットもいつもやっていると言っていた。

片一方の足を床につけ、もう一方の足をスツールチェアの足掛けにひっかけて座っている理奈さんがかっこよく見える。

 

「スロットやってんの?いつもやってるんやないの?」

 

私は理奈さんの隣に座って話しかけた。

 

「え?うん。スロットおもろいで。有里ちゃんもやりぃや。」

 

私のことをチラッと見て理奈さんはそう言った。

 

「理奈さん、これお金に変えられないで。しっとる?」

「しっとるわ。なんにもならんのやろ?メダルが増えるだけやろ?」

「うん。それでもおもしろいの?」

「ひまつぶしやんか。」

「あーそうかぁ。」

「有里ちゃんもやりぃ。」

「うん。でも一回しかやったことないねん。」

「教えたるわ。」

「うん。じゃメダル持ってくる。」

 

そんな会話をして、私はお金をメダルにかえた。

私はパチンコというものを2回くらいしかやったことがない。

スロットも一回だけ兄に連れて行ってもらってやっただけだ。

その時に兄に『目押し』というものを教わったのだけれど、私の性格がパチンコにもスロットにも合わなかったらしくハマることはなかった。

 

「もってきたで。で?どうするん?」

 

「ここにメダル入れるやろ?そしたらスタート押して、あとはこの3つのボタンを押すだけや。マークが揃ったら当たり。それだけ。」

 

「あー…なんか『目押し』っていうのがあるんやろ?」

 

「なんや有里ちゃん。目押しなんて知ってるんや。そうそう。」

 

理奈さんは私に目押しのやり方を教えてくれた。

私はこういうことを教わると『メダルを増やす』という目的を忘れてしまう。

目押しを教わった時点で『いかにマークを綺麗に一直線に並べられるか』のゲームになってしまうのだ。

マークの種類が違ってようがなんだろうが構わない。

ただ『私の目押し』で『マークを綺麗に一直線に並べられるか』のゲームになってしまうのだ。

 

私は顔をスロットの画面にグッと近づけて、真剣に『目押し』をした。

 

「あぁー…ここがずれたぁ…」

「あー!おしい!もう少しで綺麗に並べられたのにぃー」

「うお!めっちゃ綺麗に並んだ!!」

 

私はこんな言葉をぶつぶつと呟きながらスロットに集中していた。

本来の遊び方とは違うけど。

 

「有里ちゃん、何言うてるの?」

 

理奈さんがニヤニヤ笑いながら私に聞く。

 

「え?あはは…これ難しいなぁー」

 

私は顔をスロットに近づけたまま理奈さんに言った。

 

「何が?何が難しいん?」

 

理奈さんはリラックスした姿勢でポンポンポンとボタンを押している。

私はグッと顔と身体をスロットに近づけて「えい!」と言いながらボタンを押している。

 

「あははは!有里ちゃんなにやってるん?」

 

理奈さんは私のその姿を見て笑った。

 

「え?このマークが綺麗に揃わないんよー。これ難しくない?」

 

私は「このマークを綺麗に一直線に並べたいんよー。」と口をとんがらせて言った。

 

それを聞いた理奈さんが笑う。

 

「あははは!有里ちゃん、別のゲームになってるやん!マークが同じやないと意味ないんやでぇ!」

 

「そんなん知ってるわぁー。でもなんや綺麗に揃えたくなるやんかぁ。」

 

「あははは。有里ちゃんは真面目やなぁ。」

 

理奈さんがポンポンとスロットのボタンを押しながら私に言った。

 

「えーー?真面目やないよぉ。お!今度は綺麗に揃った!」

 

「アホやなぁ。そんな遊び方する子ぉ初めて見たわ。」

 

私は綺麗に並べることに没頭し、理奈さんはひまつぶしに没頭した。

結果、結構な数のメダルが私たちの目の前に積み上がってしまった。

 

「有里ちゃん、そろそろ行かんと。でもこれなくならんなぁ。」

 

理奈さんが時計を見て私に言う。

 

「ほんまやな。これどうする?」

 

メダルを増やそうとしていないのに増えている不思議。

私はただなんとか綺麗にマークを並べようとしていただけだったのに。

 

「うーん…あの人にあげてくるか?」

 

理奈さんは2つ席を開けてスロットを打っているおじさんを指差した。

 

「うん。そうやね。私言うてくるわ。」

 

私はメダルの入った箱を2つ抱えておじさんのところに行った。

 

「あの…もしよかったらこれ使います?」

 

スロットに夢中になっているおじさんに話しかける私。

 

「え?あ…いいんですか?」

 

突然話しかけられてメダルをやると言われたおじさんは驚いている。

 

「はい。もう行かなきゃいけないんで。よかったらどうぞ。」

 

「あー…ありがとうございます。あ、じゃあこれ。よかったら。」

 

おじさんは自分の目の前にある缶コーヒーを私に差し出した。

 

「さっき買ったばかりなんで…よかったら。」

 

おじさんはおずおずと私に缶コーヒーを差し出した。

 

「あー…ありがとうございます。じゃ…もらいます。」

 

「あ…じゃあ。」

 

お互いがおずおずとしている時間が流れた。

このおじさんは私がソープ嬢だと知ったらどんな反応をするんだろう?

 

 

「あげてきたでー。」

 

「うん。喜んでた?」

 

「うん。これ貰った。」

 

「へー。やったな。」

 

 

缶コーヒーなんていくらでも買える程お金を持っている理奈さんが「やったな」と言うのがなんだか可愛らしかっった。

 

「有里ちゃん、急ごう。電車来てしまうわ。」

 

理奈さんと私は小走りで駅に向かった。

 

「あ!電車来てるわ!あれあれ!」

 

理奈さんがホームを指差して走り出した。

 

「え?ほんま?!」

 

私も本気で走る。

 

「間に合ったぁー!はぁはぁ。」

 

「よかったなぁー。はぁはぁ。」

 

電車に乗り込み、息を切らせながら4人掛けの席に隣同士で座る。

 

「あははは。さっきまで余裕やったのになぁ。はぁはぁ…」

「ほんまやなぁ。あはは。はぁはぁ…」

 

2人で「暑くなったわ」と言いながらコートを脱ぐ。

 

楽しい。

まだ下呂温泉に着いてないのに、もう楽しい。

 

「さっきの有里ちゃんのスロット、おもろかったわ。あははは。」

「え?なんで?」

「あんな遊び方誰もせぇへんで。」

「そうかなぁ。」

「だってメダル増やそう思ってないやろ?」

「あー。うん。いかに揃えるか!しかないで。肩凝ったわ。」

「あははは。有里ちゃんらしいわぁ。なんでも真面目やな。まぁ真面目の方向がちゃうけどな。あっははは。」

「あーそうかぁ。あっはははは。」

 

理奈さんと私はさっきのスロットのことについて話した。

理奈さんが「有里ちゃんらしいなぁ」と言うと私は嬉しくなる。

私のことを知っていてくれることが嬉しい。

 

 

「あれ?!有里ちゃん!この電車間違ってるかもしれん!!」

 

理奈さんが向こうのホームの電車を窓から見ながら大きな声で言った。

 

「え?!そうなん?!」

 

「うん!はよ出よう!」

 

「えーーーー!!」

 

 

私と理奈さんの一泊旅行はこうやって始まった。

 

 

 

つづく。

 

 

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167

 

1月半ばの月曜日。

出勤するとすぐにフロントに呼ばれた。

「なんだろう?」と思い、フロントに顔を出すと高須店長が「有里ちゃん!こっちこっち!」と手招きをして私を呼んだ。

 

「あー!こないだはありがとうございました。っていうか、すぐ帰っちゃうんやもんなぁ。」

 

高須店長とはこの間の飲み会以来顔を合わせていなかった。

飲み始めてすぐにいなくなってしまった高須さんに、少しだけ拗ねたような口調で声をかけた。

 

「あー!ごめんごめん!店の女の子がなんか泣きながら電話してきたんだよぉ。俺だって有里ちゃんたちと飲みたかったんだからぁ。」

 

白い歯を見せながら言う高須さん。

嘘ばっかりなのがすぐわかる。

 

「はいはい。そういうのいいですって。」

 

私は冷めた顔でそう言った後「あはは」と笑った。

 

「あー!有里ちゃん冷たい!ほんとだって!で?南さんとは仲良くなった?」

 

ニヤけた顔で聞く高須さん。

この人はすぐこういう事を面白がる人なんだな。

 

「なりましたよー!面白かったですよ。南さん、すごく良い方でした。」

 

「ほんと?よかったー。それ南に言うわ。大喜びだろうなー。また飲みに行こうよ。」

 

「またって高須さんは一緒に飲んでないでしょ?別に高須さんと一緒に飲みに行かなくてもいいですよ。南さんと行きますから。あはは。」

 

「うわ!有里ちゃん、いつの間にそんなこと言うようになったの?冷たいわー。」

 

「はいはい。でー…今日は?」

 

私は高須さんを笑いながらあしらい、話しを進めた。

この人とはこのくらいの距離がいいと気づいたから。

ただちゃらちゃらした男だということを確信したから。

 

「あ!そうそう!ホームページできたよぉ~。すごくいいよぉー。」

 

高須さんは嬉しそうな顔をして私に言った。

 

「え?!ほんまですか?見たい見たい!」

 

なんだかんだで楽しみにしていた私。

どんな仕上がりなのかワクワクする。

 

「うん。今見せるね。」

 

私たちはフロントの後ろの部屋にあるパソコンの前に顔を並べた。

 

「えーと…あ、これこれ。」

 

高須さんはマウスとキーボードを手慣れた手つきで操作しながらシャトークイーンのページを開いた。

 

「これが新しいシャトークイーンのページね。」

 

パールホワイトの画面にブルーの文字で『シャトークイーン』とかっこよく書かれている。

そして在籍している女の子の写真が一覧に並ぶ。

顔出しOKの小雪さんとねねさんはかなり目立つ配置になっていた。

2人ともとても綺麗だ。

 

そして『ナンバー1』の文字が大きく書かれた理奈さんの写真が大きく掲載されている。

理奈さんは口元を隠して黒いTバックのお尻をこちらに向けて写っていた。

 

か…かっこいい…

 

見事なヒップラインに見とれる。

 

その下には『当店ナンバー2』と書かれている私の写真。

 

口元を隠してベッドに腰かけている私。

ピンクの花柄の下着を着て、おしとやかに座っている。

 

…う…

…太ってんなぁ…

 

自分の写真にがっくりくる。

こんな写真載せていいの?とみんなに聞きたくなる。

 

「でね、ここをクリックすると…」

 

高須さんはページの上方にある『Ari‘s Bar』と書かれたバナーをクリックした。

 

「ほら!どう?」

 

黒い背景に綺麗なブルーとシルバーの文字で『Ari‘s Bar』と書かれていて、その下には私の写真が何枚も載っていた。

前に見本で見せてもらった時よりもはるかに綺麗でかっこよくなっている。

 

「うわぁ…すごい…」

 

私の写真は直視したくないけど、レイアウトやデザインが素敵で、遠目から見るとめっちゃいい女が載っているようにみえるから不思議だ。

 

「で、ここを開くと有里ちゃんの日記が観られるようになってて、こっちを開くと掲示板。ここでお客さんとやりとりできるから。」

 

高須さんは次々と私に説明した。

その説明は早口ながらもすごくわかりやすく、すぐに全体像が把握できるものだった。

 

「じゃあ有里ちゃんの携帯からもここのパソコンからも操作出来るように教えておくね。」

 

高須さんは私の携帯で日記と掲示板の管理ができるように設定してくれた。

そして店のパソコンからもアクセスできるようにやり方を丁寧に教えてくれた。

 

「これで有里ちゃんの携帯からいつでも投稿できるから。なるべく日記書いてよ。なんでもいいから。あと、掲示板でもやりとりしてくれるとお客さん喜ぶからさ。」

 

…なんか嬉しい…

私が一つのページを持てるなんて嬉しい。

そして私が自分の日記を書いて、誰かが読んでくれるなんて。

 

「うわぁ…なんかすごいですねぇ…。嬉しいなぁ…」

 

私はこの信じられない事実を噛みしめるように高須さんに言った。

 

「え?そう?嬉しい?」

 

高須さんはニコニコ笑いながら私に聞いた。

 

「はい…なんか信じられません。こんな大したことない実績しかあげてない私がページを持てるなんて。ありがとうございます!」

 

私は高須さんにペコっと頭を下げた。

 

「えー…そんなに喜んでもらえるなんてこっちが嬉しいなぁ。また少し経ったら写真入れ替えたりしようね。じゃこれで大丈夫?今日からみんなが見られるようにしちゃっていい?」

 

「はい!大丈夫です。よろしくお願いします。」

 

「うん。じゃあ店にもどったら早速やるからさ。楽しんでよ。またわからないことあったらなんでも聞いて。あ、小雪ちゃんも詳しいみたいだから小雪ちゃんに聞いてもいいかも。」

 

高須さんは上機嫌で私にそう言った。

そして「じゃ、またね!」とさわやか風に店から出て行った。

 

何度も自分のページを見る。

「ふふ」と笑みがこぼれる。

 

 

「有里。話し終わったか?」

 

フロントから富永さんが顔を出し、私に聞いた。

 

「あ、もう終わったー。」

 

パッと顔を上げて返事をする。

ニヤニヤ見てたことがばれたら恥ずかしい。

 

「どうや?どんな感じになったんじゃ?」

 

富永さんが顔をにゅっと近づけてパソコンの画面を見る。

 

「え?これこれ。どうかな?」

 

自分の写真を見られるのは恥ずかしかったけど、どうせ後で見られるんだしと開き直った。

 

「おー。ええやないかぁ。ええ女やのぉ。綺麗やないかぁ。立派なページやのぉ。」

 

富永さんは目を細めながらそう言った。

 

「あはは…そう?ありがとう。もうすぐ辞めるのにこんなページ作ってもらっちゃって…ありがとうね、富永さん。」

 

嬉しいけど申し訳ない。

そんな気持ちだった。

でもとてもありがたいと思っていたから心からお礼を伝えた。

 

「いや、ええんじゃ。有里はこういうことをやるだけの女やで。あと少しだろうがなんじゃろうが、こうやった方が店にとってもいいと思ったからやったまでやで。

日記、わしも楽しみにしてるから。のぉ?」

 

富永さんは真剣な顔で私に向かってそう言った。

 

泣きそうになった。

 

そしてあと少しの期間だけどもっと頑張ろうと思った。

 

「えへへ…ありがとうね。頑張るわ。」

 

「おう。頼むわな。」

 

富永さんはあれから『援助交際』のことを自分からは口にしていない。

私が声をかけるまで、自分からは言わないでおこうとしているみたいだった。

そして仕事中は今まで通りの何も変わらない態度でいた。

そんな富永さんを私は「いいな」と思っていたし、ありがたいと感じていた。

 

 

「明日から旅行行くんやろ?理奈と。」

 

富永さんが表情を変えずに私に聞いた。

 

「あ、そうそう。明日から一泊でね。お土産買ってくるわ。」

 

「そんなんいらんわ。楽しんできぃ。また酒でも飲みながら話し聞かせてくれ。のぉ?」

 

目を細めて優しく言う富永さん。

 

「うん。ありがとう。帰ってきたら酒でも飲もう。」

 

「おう。」

 

 

明日から理奈さんと旅行だ。

女友達と2人で旅行なんて生まれて初めてだ。

そしてこれが最後の旅行になるかもしれないんだ。

 

あ、この旅行のことを日記に書いたらお客さん喜ぶんじゃないかなぁ。

きっと理奈さんファンの人たちが喜ぶなぁ。

なんて書こう?

あ、理奈さんの好きなお酒とか書いたら喜ぶかも!

理奈さんの癖とか、私たちの会話とか…

どんな文体で書こうか。

フランクな感じだけど、バカっぽいのはいやだなぁ…

 

気付くと私は日記の内容の事ばかり考えていた。

 

私の文章が誰かに読まれるんだ。

 

そのことを考えただけでワクワクしてくる。

 

あ!

今日のお客さんとの会話も書こう。

楽しい会話がいいなぁ。

あ!

お酒のことも書かなきゃ。

だってBarだもんね。

一番最初はどんな挨拶にしようかなぁ…

 

 

自分の日記のことばかり考えている私。

どんな世界観にしていこうか、理奈さんや小雪さんやねねさんやななちゃんのことをどんな風に書こうか、私のことをどれだけ書こうか、考えているだけで嬉しい。

 

 

「えーと…早速今日のを考えようかな…」

 

個室の準備をしながらブツブツと文章を考える私。

 

楽しい。

 

今日出会うお客さんがどんな人なのかさえも楽しく考えられる自分に驚く。

 

私は誰かに読まれるであろう日記を書くことがこれほど楽しみになるとは思っていなかった。

 

「えーと…初めまして、有里です!かなぁ…うーん、それじゃありきたりかぁ…」

 

私は自分が『文章を書く』ことが好きだとふと思い出していた。

 

それからの私はホームページ上の『日記を書く』ことが毎日の楽しみになっていく。

 

 

 

つづく。

 

 

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166

 

次の日。

コバくんが私を起こさないようにそーっと起きてきたことに気付き、「おはよう…」と声をかけた。

 

「あ、おはよう。起こしちゃってごめんやで。寝てて。」

 

私が酔っぱらって4時ごろ帰ってきても彼は怒らない。

それどころかこんなことまで言うのだ。

 

「ゆきえ大丈夫か?飲み過ぎた?お水持ってこようか?」

 

私が遅くまで飲んで帰ってきたことで彼の朝のコーヒーとお弁当はなしになっているのに。

 

「ううん。ありがとう。…お弁当…ごめん。」

 

私は少し後ろめたい気持ちをコバくんに伝えた。

 

「ええよ。また美味しいの作ってな。」

 

コバくんは私にキスをしながらくったくのない笑顔でそう言った。

 

「うん。明日は作るね。」

 

「うん。もう向こうで寝たらええよ。ソファーやったらちゃんと眠れんやろ?まだたくさん寝られるで。俺勝手に行くから大丈夫やで。」

 

コバくんは私の頭を撫でながら優しく言う。

 

「うん。じゃ…向こうで寝るわ。いってらっしゃい。」

 

今度は私の方からコバくんにキスをした。

 

「うん。ゆきえ。大好きやで。」

「あはは…私もやで。」

 

寝室のドアをパタンと閉める。

私は布団に潜り込み、まだ酔っぱらって朦朧としている頭で今の状況を反芻する。

 

あー…

私何してんだろー…

 

たいして好きでもないコバくんにキスをして、「大好きやで」というコバくんに「私もやで」と言っている。

昨日の富永さんの言葉に興奮しながら。

 

昨日「好きな人いるの?」と聞かれた時のことをふいに思い出す。

脳裏にはK氏の顔が浮かんだ。

たくさんひどいことを言われたし、殴られたし蹴られた。

ガラスの大きな灰皿まで投げられたのに、脳裏に浮かぶのは笑っているK氏の顔だった。

K氏は私を『最高の女に育てたいんだ』と言って、あらゆることを教えてくれた。

ホテルのバーや高級なレストランに連れて行きマナーを教え込み、こんな小娘を女性としてエスコートしてくれた。

そうかと思えば新宿のゴールデン街に連れて行き、その独特な雰囲気にも私を馴染ませようとした。

私はK氏の知識の多さと所作にいつもときめいていたのだ。

怒られることも殴られることも怖くて辛かったけど、全て私を育て上げるためにやっていることなんだと思っていたし、今もそう信じている自分がいる。

 

「ゆきえ。お前は最高の女になれる素質があるんだぞ。俺はお前を離さないからな。」

 

K氏は私がへこたれそうになっている時、絶妙なタイミングでそんな言葉を私にかけた。

 

私はK氏の元にいることが辛すぎて逃げ出したのに今になってK氏にときめいているのだ。

 

「…なぁにやってんだかなぁ…」

 

脳裏に浮かぶK氏との素敵な思い出を噛みしめながら、自分の今やっていることへの矛盾に自虐的な笑いがこみ上げる。

 

K氏に会うことが怖い。

でも会えるかと思うとときめく。

あの人に殺されるならそれでいいかと思っている自分に驚く。

 

あの人は久しぶりに会う私になんと声をかけるのだろうか。

狂人的な暴力性を持つK氏のことだから会っていきなり殴り飛ばすかもしれない。

でもそれでもいいと思っている。

私はあの人に700万円を返して「これが私の生き様です。」と伝えるんだ。

 

そうしなければならないと思っているから。

 

「…あと少しだな…」

 

コバくんのことも富永さんのことも考えられず、私はK氏のことと死ぬことばかりを考えながら眠りについた。

 

 

しばしの眠りから覚めお店に出勤する。

飲み過ぎて頭がボーっとしている。

そのボーっとした頭のまま、私はフロントのカーテンを開けた。

 

「おはようございます。」

 

富永さんがいつも通りどっしりと椅子に座っている。

 

「あ、おはようございます。今日もよろしく。」

 

丁寧に頭を下げて挨拶をする富永さんがなんだか可愛い。

 

「よろしくお願いします。」

 

雑費の2千円を払って私も頭をさげた。

 

「酒残ってへんか?ん?」

 

床にひざまずいている私を椅子に座っている富永さんがのぞき込む。

 

「あー…残ってるわぁ。昨日はごちそうさまでした。あれからまだ飲んだん?」

 

そうだ。

昨日…

そうだ。

 

私は昨日の富永さんの言葉を忘れていた。

K氏のことばかり考えていて富永さんの言葉をすっかり忘れてフロントに来てしまったことを思いだす。

 

『わしは有里を抱きたいと思ってるで。』

 

そうだ。

そうだった。

 

「おう。あれから少しだけな。昨日はありがとうな。楽しかったわ。有里は疲れたやろ?おっさん2人の相手して。」

 

富永さんは両手をお腹の下で組んで、椅子の背もたれにグッと身体をあずけたいつもの姿勢で私に言った。

ちょっと目を泳がせるのもいつも通りだ。

 

「そんなことないわ。私も楽しかったで。また行こうな。」

 

ほんとに楽しかった。

雄琴という村でソープ嬢になった私がこんなに良くしてもらえていいのか?と思う程。

ここに来た当初はどんなひどい目に合うんだろう?といぶかっていたのに。

 

「ほんまか?また行こう。な?」

 

「うん。行こうね。」

 

私は笑いながら答えた。

その時富永さんが小声でこう言った。

 

「で…どうなん?有里は…抱かせてくれるんかのぉ?」

 

でっぷりと出たお腹の下で両手を組んだまま首をかしげて聞く富永さん。

 

…可愛い…

 

私はその姿を見て、こう答えた。

 

「…ええよ。富永さんに抱かれるの興味あるわ。」

 

富永さんは私のその答えにびっくりして目をまるくした。

自分が聞いて来たくせに。

 

「ほんまか?そうか。うん。そうか。援助交際でええんじゃ。うん。それでいいんじゃ。」

 

何度も頷きながら「それでいいんじゃ。援助交際でええんじゃ。」と言っている富永さん。

私はちょっと優位に立った気持ちになり、「ふふ」と笑ってしまう。

そしてそんな自分がちょっと嫌だった。

 

「そしたらいつにするかのぉ。有里が大丈夫な時に声をかけてくれ。わしはいつだってええんじゃから。のぉ?」

 

「ふふ」とまた笑ってしまう。

こんな私のどこがいいんだろう。

 

「わかった。今日はちょっとあかんから、また言うね。」

 

「うんうん。そうやな。毎日大変なんやからな。有里が体調が良くて今日ならええかなぁと思った時でええんやからな。わしはいつまでも待っとるで。な?」

 

こそこそとフロントで話す私たち。

お店の店長のおじさんと22歳の一ソープ嬢がこんな会話をしているなんて誰も知らないだろう。

 

「わかった。じゃ今日もよろしくお願いします。」

 

「おう。今日も頑張ろうな。よし!やるぞ!わしはやるぞ!」

 

富永さんは拳を握りしめて「やるぞ!」と繰り返した。

「ふふ」とまた笑みがこぼれる。

そんな自分がやっぱり嫌だった。

 

 

「有里ちゃーん。おはようー。」

 

控室に行くと理奈さんが炬燵に寝っ転がっていた。

どうやら2日酔いらしい。

 

「おはよー。何?残ってるん?」

 

「残ってるわー。有里ちゃんは?残ってへんの?」

 

「残ってるわ。頭ボーっとするもん。」

 

「そうやろー。あれからまだ飲んだん?」

 

そうだよ。

あれから富永さんがね…

 

と言いたいところをグッと我慢する。

 

「そうやで。まだ結構飲んだでー。南さんも富永さんも結構酔っぱらってたわ。まぁ私もやけど。あはは。」

 

「そうかぁー。でも楽しかったな。有里ちゃんモテモテやったやんか!」

 

そうか。

そうだね。

 

「あはは。そんなんめったにないからなぁ。たまにはええやろー。理奈さんはいつもモテモテやもんなー。」

 

「なんでや。そんなことないやろがー。また行こうなー。」

 

「うん。また南さんも一緒に飲もうな。」

 

理奈さんには富永さんのことは言えない。

ほんとは話したいけどこれだけは言えない。

 

「もうすぐ旅行やなー。はよ行きたいわ。」

 

理奈さんとの旅行の日程が迫っている。

来週には一緒に温泉旅行だ。

 

「ほんまやなー。私たちでたどり着けるのかなぁ。あははは。」

「ほんまやな。あははは。」

 

K氏のことも、富永さんのことも、コバくんのことも、お金のことも、指名のことも、部屋持ちになったことも、死んでしまうかもしれないことも、いろいろいろいろあるけど、今、私は笑っている。

理奈さんと。

 

 

「理奈さん、有里さん。」

 

控室のスピーカーから私と理奈さんを呼ぶ声がする。

 

「はーい。」

「はい。」

 

2人で返事をする。

それぞれのトーンで。

 

「2人ともご指名です。スタンバイお願いします。」

 

「はーい。」

「はいー。」

 

返事をして顔を見合わせる。

 

「ほなやろかー。」

「そうやね。やるかー。」

 

「あはは」と2人で笑い合う。

 

「今日も始まるなぁ。」

 

理奈さんが鏡で自分の髪型を直しながら言う。

 

「そうやね。今日もはじまりますねぇ。」

 

私も鏡で自分の化粧を確認しながら答える。

 

「ほな先行くわ。また後で。」

 

理奈さんが立ちあがって私に言う。

 

「うん。いってらっしゃい。あとでね。」

 

まるで買い物にでも行くかのように控室をでる理奈さん。

私も買い物に行く友人を送り出すかのように「いってらしゃーい」を言う。

 

これから行く場所は買い物なんかじゃないのに。

 

「じゃ、私もいってきまーす。」

 

控室にいる小雪さんとねねさんに言う私。

 

「はーい。いってらっしゃーい。」

 

同じように送り出される私は理奈さんと違って内心心臓が飛び出しそうなほどドキドキしている。

でも私は平然とした顔で「いってきまーす。」と言うんだ。

笑いながら。

ちっぽけなプライドを守るために。

 

 

今日も私の一日が始まった。

 

 

つづく。

 

 

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167 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

 

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はじめに。 - 私のコト

 

 

165

 

「有里。南はええ奴やろ?」

 

若いボーイさんと理奈さんが帰って、私の隣の席に移動してきた富永さんがトロンとした目で私に聞いた。

 

「うん。おもろい人やな。優しそうやし。」

 

私は笑いながら本心を口にした。

南さんはほんとに優しそうだし、いやらしい感じがまるでないおじさんだった。

なんなら品すら感じるほどの人だ。

 

「そうやろ。あいつは優しいで。」

 

「うん。そうやね。」

 

富永さんがチラッと私の方を見る。

 

「…好きになったらあかんで。」

 

小さな声で呟くように富永さんが言った。

 

「は?なに?何言ってるん?」

 

私は富永さんの顔を覗き込むようにして聞き返した。

 

「いや、南のこと好きになったらあかんでって言うたんや。」

 

はぁ?!

私が?

南さんを?

おじさんのボーイさんですけど?

 

「え?何で?なんでそんなこと言うん?あはは。おかしなこと言うなぁ。」

 

私は富永さんの肩をポン!と叩いて笑った。

 

「笑いごとちゃうで。好きになったん?もう好きになってしまったんか?」

 

富永さんは小さな子供のような口調でボックス席のソファーに深く腰を沈めながらそう言った。

 

「あははは!どうしたん?なに言うてるん?」

 

富永さんの態度がおかしい。

お酒を飲み過ぎてしまったのかもしれない。

 

「…わしな…有里のこと抱きたい思ってるで。」

 

富永さんがソファーに深く座りながら水割りを両手にもって呟いた。

 

は…?

え…?

今なんて?

 

「…え?何?今なんて言うたん?」

 

私はきょとんとした顔で聞き返した。

 

「…わしは有里を抱きたい思うてるで。援助交際でもええんや。あかんか?」

 

拗ねた子供のような顔。

富永さんはチラッと私を見ながら両手で持っている水割りを舐める様に飲んだ。

 

「ほんまに?!私を?!富永さんが?」

 

思ってもみない言葉だった。

富永さんが私を抱きたいと思っていたなんて。

 

「…そうや。あかんか?一回だけでもええんや。…あかんな。わしは店長やもんな。こんなん言うんわし初めてやで。あかんわな。南には内緒やで。あかんわなぁ。」

 

「あかんあかん」と繰り返す富永さんがなんとなく可愛く見える。

そして私はまるで悪い気がしなかった。

むしろ「抱かれてもいいな」という気になっていた。

 

「…びっくりしたわ。富永さんがそんなこと言うなんて思ってもみなかったからなぁ。あはは。」

 

私は笑いながら水割りをグッと飲んだ。

 

「そうか?前からずっと思っとったんやで。気付かんかったか?」

 

チラッと見ながら遠慮がちに話す富永さん。

なんだかちょっとだけ愛しさが湧いてしまう。

 

「気付かんよー。そんなん気付くわけないやろー。」

 

「そうか。で?どうなんや?抱かせてくれるんか?援助交際でもええんや。」

 

…あはは…

富永さんから『援助交際』という言葉がでるなんて…

なんだか笑ってしまう。

 

「えー…と…そうやなぁ…うーん…」

 

子どものようにソファーに座っている富永さんが可愛くて愛しく感じる。

そして『抱かれてみたい』という好奇心がムクムクと湧きあがる。

この人はどんなSEXをするんだろう?

 

「いいよ」と言いかけた時、南さんがトイレから帰ってきた。

 

「なに?なんの話し?富さん、有里ちゃんのこと口説いてたんか?わははは!」

 

南さんは絶対そんなことないと思って言っている。

実際は口説かれてたんだけど。

援助交際をだけどね。

 

「そうやでぇ。帰って来るん早いんじゃ。もう1回トイレに行ってくれぇ。」

 

富永さんはふざけながら南さんにほんとのことを言っている。

南さんは信じてないけど。

 

「なんやぁ!それやったら僕も有里ちゃん口説くわー。じゃ今から口説くで!いくでぇー!」

 

「なにそれ!そんなこと言って口説く人いますかぁ?あははは!」

 

南さんの話にツッコミを入れる私。

なんか今日はおかしなことになっている。

50代のおじさん2人と22歳の私。

面白い。

富永さんの申し出もなんだか面白い。

 

「富さん。こうなったら有里ちゃんを2人占めにしましょう。それしかない。ね?有里ちゃんは2人のもの。ね?そうしよう!わははは!」

 

南さんは酔っぱらって上機嫌だ。

すごく楽しそうだった。

 

「なんじゃそれはー。わしは嫌じゃ。わしは1人占めしたいわ。なんでおっさんと分け合わなあかんのや。のぉ?有里。」

 

富永さんが真剣な顔で私に言う。

 

「そんなん知らんわ!2人ともなに言うてるん?」

 

「もー今日は楽しすぎる!もっと飲もう!ね?有里ちゃん!富さん!」

 

南さんはフラフラになりながら水割りを作っている。

 

「わしは有里と2人で飲みたいわ。のぉ?有里。」

 

富永さんも酔っぱらって遠慮がなくなっている。

南さんはそれを聞いて笑っている。

 

「ちょっと2人とも飲み過ぎやな。そろそろ私は帰るで。」

 

時間を見るともう4時前だった。

 

「え?!有里ちゃんもう帰るの?」

 

「は?もうってもう4時になるで!」

 

「え?そうか?!もうそんなか?!じゃ帰るか。」

 

富永さんがちょっと淋しそうに言う。

 

「うん。まぁくーん!帰るわー!タクシー呼んでー。」

 

私はカウンターの中のまぁくんにそう言った。

 

「え?!ほんまに?もう帰るん?!」

 

南さんがテーブルに身を乗り出して私に聞いた。

 

「うん。もう帰るよ!南さんも帰りぃ。富永さんも帰るやろ?」

 

隣の富永さんの方を向いて肩をポンと叩く。

 

「おう。有里。わしは本気やで。考えておいてくれ。わしは有里が好きなんじゃ。」

 

富永さんが小さな声で私にしか聞こえないように言った。

 

「あはは…あー…うん。ありがとう。わかった。」

 

私はなんて答えていいかわからず、引きつった笑顔で答えた。

 

「え?!なに?今富さんなんて言ったの?抜け駆け?ずるい!!僕も有里ちゃんと内緒話しする!」

 

…あはは…

南さん、相当酔っぱらってるな。

 

「有里ちゃん、タクシー来たでー!」

 

まぁくんが私を呼ぶ。

 

「はーい!じゃ帰るわ。幾ら払えばええ?」

 

私はお財布を取り出し、南さんに聞いた。

 

「え?有里ちゃんは払わんでええの!ね?富さん。」

 

「おう。有里はええよ。」

 

「え?払うよ。なんで?」

 

私がお財布を開けようとすると富さんが「ええが」と言って私の手を止めた。

 

「おっさん2人の相手をここまでしてくれたんやからええんじゃ。帰りぃ。」

 

「あー…ありがとう。またな。」

 

私は富永さんと南さんに「ありがとう。」と言ってトキを出た。

 

 

タクシーに乗り込み、さっきの出来事を思い出す。

 

富永さんがまさかあんなことを言いだすなんて…

 

少し興奮していることに気付き驚く。

 

富永さんに抱かれる…

 

想像するとワクワクする。

今まで想像すらできなかったことだったから。

 

私を抱きたい?

富永さんが?

 

なんか興奮する。

ただの好奇心だけどすごく興奮している自分がいる。

 

「…どうしようかなぁ…」

 

窓の外を見ながら呟く。

私も結構酔っぱらっているみたいだ。

明日また考えよう。

 

 

私は寝ているコバくんを起こさないようにそーっと部屋に戻り、ソファーにゴロンと横になった。

 

わんわんわんわん…

 

耳鳴りがする。

酔っぱらうといつもこうだ。

 

わんわんわんわん…

「わしは有里を抱きたいと思うてるで。」

 

耳鳴りと共に富永さんの言葉が繰り返される。

 

…抱かれちゃおうかな…

 

「ふふっ…」

 

ちょっと笑いながら、そして耳鳴りの音を聞きながら、私は眠りについた。

隣の部屋にコバくんがいることもなんだか面白く感じながら。

 

 

 

つづく。

 

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166 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

 

 

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はじめに。 - 私のコト