私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「おもろかったなぁ。また行こうな。」

 

帰りの電車で理奈さんが私に笑いながら言う。

 

「うん。ほんまに楽しかったなぁ。また行こうな。」

 

電車に乗る前に買ったお菓子の袋を開けながら答える。

『また行こうな』が実現することはないんだろうなぁと思いながら。

 

帰りの電車の中、理奈さんはほとんど眠っていた。

私も温泉の効果なのか身体がダルくてすぐに眠ってしまった。

 

「ほな。またお店でな」

 

「うん。またね。お店でね。ありがとう。」

 

「うん。ありがとうな。あ、有里ちゃん、これ。」

 

もうすぐ比叡山坂本駅に着くという時、理奈さんがお土産物屋さんの小さな袋を私に差し出した。

 

「え?なに?」

 

「有里ちゃんにあげたくなったから買うたんよ。これあげるわ。」

 

理奈さんは少しはにかみながらそう言った。

 

「え…なんやろ?開けていい?」

 

「うん。たいしたもんやないで。」

 

袋を開けてみると小さな紫の石の付いた携帯ストラップだった。

 

「わ!かわいい!え?なんで?いいの?」

 

突然のことに驚いた私は何度も「え?なんで?」と繰り返した。

 

「なんでって、可愛いやろ?お揃いやねん。」

 

理奈さんはそう言うと、自分の携帯に付いているストラップを私に見せた。

小さな緑の石の付いたストラップが揺れている。

 

「うわ!ほんま?!うわー!嬉しいわぁー!」

 

理奈さんが私にお揃いの物をプレゼントしてくれた。

しかも一緒に行った旅行先で買ってくれたもの。

すごい嬉しい!!

 

「有里ちゃんはなんか紫って感じやねんなぁ。イメージがな。私は緑とか青って感じせぇへん?」

 

理奈さんが笑いながら言う。

 

「うんうん。理奈さんはそんな感じするわぁ。私は…紫なんやなぁ。自分ではよぉわからんわ。」

 

貰ったストラップをニヤニヤしながら眺めて返事をする。

 

「あ、もう着くで。」

 

「あ、ほんまや。」

 

まもなく比叡山坂本駅に到着すると車内アナウンスが流れた。

 

終ってしまう。

この時間が終わってしまう。

 

「ほんまにありがとう。これ、めっちゃうれしいわ。帰ったらすぐ携帯に付けるわ。」

 

「うん。じゃあね。」

 

理奈さんは一つ先の堅田駅で降りることになっていた。

私とはここでお別れだ。

 

電車を降り、理奈さんが座っている姿が見えるところで手を振る。

発車した電車を手を振りながら見送る。

理奈さんも私の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

「はぁ…帰るか…」

 

1人で呟く。

 

ふと、昔読んだマンガ『湘南爆走族』のセリフが頭をよぎる。

 

 

『思い出ができる瞬間ってあっけねーよなー…』

 

思い出ができる瞬間。

 

きっと今がそうなんだろうな。

ほんとにあっけないな。

 

思い出…

あれ…

この今できた思い出は私が死んだらどうなっちゃうんだろう…?

 

駅から家までの道のり、とぼとぼと歩きながらそんなことを考える。

 

この私の思い出は私にしかわからないことなんだ。

今までのことも今日のことも。

 

私が死んだら今日のこともきっとなかったことになってしまうんだ。

昨日のあの夢のような時間も。

 

 

…死にたくないな…

 

 

え?

私、死にたくないって思った?

今死にたくないって考えた?

うそ?

 

私は一瞬自分が『死にたくない』と思ったことに驚いた。

 

毎日が辛くてしんどくて、もし今後も生きていくのならば超えなきゃいけない山がたくさんある。

それがわかっているのに『死にたくない』と思った自分。

 

なぜだろう。

なぜ死にたくないと思うのだろう。

なぜ生きていたいと思うのだろう。

 

生きるってなんだろう…。

 

答えなんかでない疑問に埋没する。

この答えが出る日まで、私は生きているんだろうか。

 

 

 

その日の夜、私は仕事から帰ってきたコバくんに旅行がいかに楽しかったかを話した。

 

「よかったなぁ。ゆきえが楽しかったならよかったよ。」

 

ニコニコしながら私の話しを聞くコバくん。

この人は「生きている意味」を考えるのだろうか。

 

「すごい楽しかったんだけどな、帰り道にめっちゃ切なくなってなぁ。泣きそうになったわ。」

 

私はさっきの帰り道の気持ちを思い出し、泣きそうになる。

 

「うん。そうかぁ…。終わってしまうのって淋しいもんなぁ。でも思い出が出来てよかったな。」

 

思い出…

 

「…その思い出って私が死んだらどうなるんやろ…全部なくなってしまうってことなんやろか。」

 

さっき考えたことをコバくんにぶつける。

こんなことをしたって答なんて出ないってわかっているのに。

 

「…そんなん言うなやぁ。ゆきえが長く生きればその思い出を誰かに語れるんやろ?そうすればいろんな人の中にその思い出が生きつづけるやないかぁ。」

 

…そういうことじゃないんだよ…

私が言いたいのはそういうことじゃないんだよなぁ…

 

私は自分が一体何を言いたいのかまとめられず、「そうじゃない」と思いながらも

「うん。そうやね。」と答えていた。

 

 

「コバくんはさ…なんで生きてるん?」

 

答えなんか出ないと知っている疑問をまたぶつける。

この人はなんて答えるだろう。

 

「え…?なんで生きてるんかって…そうやな…」

 

コバくんがしばし考える。

 

うん。

どうして?

なんで生きてるの?

 

「…よぉわからけど…今はゆきえを笑わせるために生きてると思ってるで。ゆきえと一緒に生きたいと思って生きてるで。」

 

コバくんはなんの迷いもなく、言い淀むことなくそう言った。

 

「あ…ありがとう。へぇ…そうなんや。なんかすごいな。コバくんすごいなぁ。」

 

私はなんの躊躇もなくそう言えるコバくんをほんとにすごいと思った。

私の聞きたかったこととズレてはいるのだけれど。

 

「え?なんで?そりゃそうやろー。あははは。俺はゆきえがおらんとあかんからなぁ。」

 

コバくんが子どもみたいに笑う。

この人はなんなんだろう。

 

「ゆきえ、明日もお休みなんやろ?ええなぁ。一緒におりたいわ。」

 

こんなにも人と一緒にいたいと思えることがすごい。

私にはコバくんの気持ちが全くわからない。

 

「ゆきえ、今生理休暇なんやろ?今生理ってこと?温泉平気やったん?」

 

コバくんは私の体調の事をよく気にかけてくれる。

いつもいつも私を心配して気にかけているのがひしひしと伝わる。

 

「うん。生理休暇やったんやけど、生理来させてないねん。温泉入るのに気ぃ使うの嫌やから。ピル飲み続けたんや。まだ抜いてないねん。」

 

今回の旅行は私にとってとても特別なイベントだった。

だから心配要素をなるべく減らしたいと思った私は生理をこさせるのを止めた。

生理休暇の扱いなのに。

 

ソープ嬢は毎日ピルを飲む。

そして生理を来させたい日の2日前にピルを飲むのをストップすると見事に2日後に生理がくる。

そして見事に4日間で生理が終わる。

 

月に一度、ちゃんと生理を来させないと体調がおかしくなると先輩たちが言っていた。

お金をガンガン稼ぎたいソープ嬢はずっとピルを飲み続けて生理をストップさせるらしい。

そしてある日体調を崩してしまうと。

 

私はその話しを聞いてから、必ず月に一度ちゃんと生理休暇をとって生理を来させた。

生理を来させなかったのはこれが初めてだ。

 

「大丈夫なん?え?生理来させてないってどうするん?」

 

コバくんが心配そうに私に聞く。

言わなきゃよかった。

 

「うーん。どうしようかなぁ。まぁなんとかなるやろ。」

 

この時点で私は先のことをちゃんと考えていなかった。

このまま来月までピルを飲み続けるか、もしくは生理を来させてしまってお店をお休みするか。

 

とにかく私はこの旅行のことしか考えていなかった。

目いっぱい旅行を楽しんで、それから考えようと思っていたのだ。

 

「身体しんどくなったらすぐ言うてや。ほんまに大丈夫?」

 

「うん。ありがとう。なんとかなるよ。」

 

 

この『なんとかなるよ』がなかなか大変なことになていくことをこの時の私はまだ知らない。

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

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