コラム~有里ちゃんこぼれ話し③~
前回『富永さんとのその後』を書いてみたら「切ない~(/_;)」という声が多くて驚いています。
『援助交際』で富永さんとヤっちゃったことに引かれるかと思っていたから。
なんでそんな“今さら”感満載なことを思ってしまうのだろう。
有里ちゃんのお話しでこれでもか!!と赤裸々に書いたのに、未だみなさんの反応にビクビクしながら書いている、どうしようもなく弱気で切ないゆっきぃです!
これからも『弱気でビクビクしまくり』ながら書いていこうと思います。
さて、今回のこぼれ話はシャトークイーンのボーイさん、上田さんのこと。
このお話もどこかで書いておこうと思ったので、よかったらお付き合いください。
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シャトークイーンを辞めてから、私は定期的に理奈さんと連絡を取り合っていた。
それはメールであったり電話であったり、そしてたまに会ってゴハンを食べに行ったりだった。
そして都合が合えば理奈さんのお家に泊まりに行ったりもしていた。
理奈さんはいつまでも“相変わらず”で、会うといつも癒された。
シャトークイーンを辞めて2年か3年程経ったある日。
理奈さんから「そろそろまた会おう」というお誘いのメールが来て、私は理奈さんとの逢瀬の場所と日にちを選び、ウキウキと出かけた。
京都のとあるバー。
私は理奈さんとカウンターで並んで座り、楽しい時間を過ごした。
その時理奈さんが唐突にこんなことを言いだす。
「有里ちゃん。あんなぁ、上田さん死んだで。」
まるで「あんなぁ、昨日の夕飯は唐揚げやったで」という報告をするような口調の理奈さん。
私はその口調で言われたものだから、一瞬理奈さんが何を言ってるのか理解できなかった。
「…へ…?今なんて言った?」
ホケーとした顔で聞く私。
一体何が起こったのかわからない。
「上田さん、死んだんや。」
淡々とした口調の理奈さん。
なんならちょっと笑っている。
「え…ちょ…え?…なんで?!…それほんまのこと?」
理奈さんがちょっと笑ってたりするもんだから、私は騙されてるんじゃないかと思って何度も「ほんま?」と聞いた。
「うん。ほんまや。首つったんやて。」
理奈さんは「びっくりしたわぁー」と言いながらちょっと酸っぱめのカクテルを口につけた。
私はカウンターの椅子に横座りして、理奈さんの方に身体を向けながら「え…?!えぇ…?!うわ…なんで…?えぇ…?」と驚きと放心がいっしょくたになったような態度で呟いていた。
「上田さん、雄琴内のあの団地に住んでたやんかぁ。あの団地の部屋の一室で首吊ったんやて。」
上田さんは雄琴村内に数棟ある団地に住んでいた。
その団地内で首を吊ったらしい。
「え…?いつ?なんで…?」
「ちょっと精神的におかしなって、割と仕事休んでたんや。そやなぁ、3、4ヵ月くらい前からかなぁ。来たり来なかったり、来ても帰ってしまったりやったんや。そんで、ここ2週間くらいぜんぜん来てなくてな。そしたら首吊ってたって。」
理奈さんは「昨日見たテレビでこんなこと言ってて…」くらいのテンションで上田さんの首吊りについて報告をしてくれた。
それが意図的なのかどうかは理奈さんのキャラクター的になかなかみわけられない。
「え…原因は?なんで首吊ったん?」
私はその理奈さんのテンションに巻き込まれ、いつの間にか冷静に質問していた。
「恋愛沙汰らしいで。よぉ知らんのやけどな。」
恋愛沙汰…
上田さんが?
「他の店の娘ぉと長いこと付き合ってたらしいわ。同棲してたんやろなぁ。」
そうだったんだ…
何にも知らなかった。
「上田さん、割と神経質なとこあったし、いろいろ考えてしまうことあったんやろな。歳もとってくるし、いつまでもあそこでボーイやってるのもなぁ。」
理奈さんは自分のことも重ね合わせているかのような言い方でそんなことを口にした。
「…そうやったんや…そうかぁ…」
『先が見えない不安』
『未来に絶望する恐怖』
『生きていることの無意味さ』
そんな言葉が頭の中に浮かび、どうしようもないやるせなさが込み上げる。
「雄琴では定期的にあるわな。首吊りとか自殺。そんなこと知っとったけど、まさか自分の店の人が、しかも長年一緒にいた人がそうなるとは思わんかったわ。」
理奈さんが変わらぬ口調でそんなことを呟いた。
「びっくりしたやろ?!」
理奈さんがカウンターに肘をつきながら私の方を見て言った。
「そりゃ…びっくりしたわ。…なんか…あれやなぁ…もうあの『アリンコー』は聞きたくても聞けないんやなぁ…。なんか変な感じやなぁ…。」
「そうやなぁ。よぉ有里ちゃんに『アリンコー』言うとったもんなぁ。」
「首吊ったんやなぁ…」
「そうやで。首吊ったんやでぇ。」
「どうにもならんかったんかなぁ。」
「どうにもならんかったんやろなぁ。」
「…理奈さんは死なんでよ。まぁ死なんやろうけど。」
「私?…怖くてよぉ死なんわ。でも、なんか気持ちはわかるとこあるわぁ。」
私も、ある。
上田さんの気持ち、なんとなくわかるとこ、ある。
「上田さん、淋しかったんやろなぁ。誰にも言えんことあったんやろなぁ。」
理奈さんがカクテルを飲みながら遠くを見て言った。
「…そうやねぇ。言えんことは言えんもんなぁ。」
私にも人になかなか言えないことがある。
言いたくないんじゃなくて、言えないこと。
「私は有里ちゃんには言うで。聞いてな。有里ちゃん。」
理奈さんがいたずらっ子のような顔で私を見て、ギュッと手を握った。
「え?う、うん!聞く聞く!なんでも言うて欲しいわ。理奈さんのこと、なんでも聞くで。」
本心だった。
1人で抱え込むくらいなら、私に言ってほしかった。
そういう私はいろんなことを1人で抱え込んでいるんだけれど。
「上田さんも言うてくれたらよかったのになぁ。」
「ほんまやなぁ…。」
いつの間にか上田さんが死んでいた。
しかも雄琴村内での首吊り。
理奈さんは恋愛沙汰だと言ったけれど、ほんとのことはわからない。
しかも『恋愛沙汰』だなんて、こんなほんの少しの文字数で片づけられるはずもない。
雄琴村では年に最低1件は自殺があると聞いた。(当時ですよ)
その理由がだいたい『恋愛沙汰』だ。
私はその話しを聞くたびに「よく恋愛で死ねるなぁ」と思う。
ちょっと羨ましかったりもする。
上田さんの生涯はどんなものだったのだろう?
上田さんが何を思い、何を感じて生きていたのか、誰か知っているのだろうか。
もっと話しを聞けばよかった。
どうして雄琴に来たのか。
どうしてシャトークイーンで働くことになったのか。
どんな女を好きになったのか。
そしてどんな毎日だったのか。
私がそれを聞いたところでどうにもならなかったんだろうけれど、なんとも切なくやるせなさすぎて肩を落とす。
「…なんで生きてるんやろなぁ。」
私の口からそんな言葉が漏れてしまう。
「私そんなこと考えたことないわ。有里ちゃんそんなこと考えてるん?」
理奈さんが驚いて私を見る。
「うん。私、そんなことばっかり考えてるで。ただ毎日オナニーしてるだけちゃうで。あはははは。」
「あははは。有里ちゃんオナニストやもんな!それしかしてないのかと思ってた!」
「しっつれいな!ちゃんとSEXもするわ!あれ?なんか話が違うわ。あははは。」
うっかり口から出てしまった「なんで生きてるんやろなぁ」をかき消すように私はふざけた。
理奈さんもそれに乗っかった。
理奈さんが意図的だったのかどうかは理奈さんのキャラクター的に見分けられないのだけれど。
それからの私たちは上田さんの自殺について触れないで酒を飲んだ。
私は意図的に。
理奈さんは意図的なのかわからないまま。
どこまでいっても切なくてやるせない。
そしてどうしようもない。
『雄琴ソープランド村』では毎日そんな切ない時間が流れている。
そこかしこで。
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そうなんです。
上田さんが自殺したんです。
私に中では結構衝撃的な出来事でした。
『花』に勤めていた時、雄琴内で自殺はよくあると聞いていたのですが、まさか上田さんがそうなるとは思ってもみなかった。
雄琴村にいる人たちはそれなりにみんな訳ありです。
そりゃそうですよね。
そうじゃなきゃあそこに来ないと思いますから。
雄琴村から抜け出せない人たちがたくさんいる。
抜け出し方も知らないし、もはや『抜け出す』がわからないほどその毎日に埋没してる人たちがたくさんいる。
それがその人の『幸せ』ならそれでいいと思うんです。
その本人が『私はこれでいい』と思っているなら抜け出す必要なんてない。
でも「抜け出せない絶望」を感じているなら…
そう思うと胸が痛くなったりする。
それも私のただの感傷なんだけれど。
シャトークイーンに上田さんというボーイさんがいました。(仮名だけど実在する人物です)
そして私を「アリンコー」と呼び、黙って優しい行動をしてくれたことも多々ありました。
不器用だけど、お客さんに親切に話しかけたりしていました。
女の子たちにもです。
そしてそんな上田さんというボーイさんがなんらかの理由で首を吊って自殺しました。
そのホントの理由は誰も知りません。
彼に何があって、何を思っていたのか。
そんな男性がいたんだということをなんだか知って欲しくって書きました。
だからなんだ?って感じだろうけどね。
ただそれだけです。
いまだにわからない。
人間ってなんだろうね。
そんな話しです。
ではまたー。
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