私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「…結婚してくれ。」

 

松ちゃんは小さな箱を私の前に突き出し、そっぽを向いたままそう呟いた。

 

…は…?

結婚?

え…と…

結婚ってなんだっけ?

こういうもんだっけ?

 

結婚って…

え?

なんだっけ?

 

 

「…結婚…ってこうやってするもんだっけ?」

 

思わず心の声が出てしまった。

 

松ちゃんと私はまだ3回しか会っていない。

いや、そういう問題じゃなくてそもそもソープ嬢とお客さんだし、お店以外の場所であったこともない。

いや、もしかしたらこういう状況で結婚してしまう人もいるのかもしれないけど、えっと、えーっと…

 

 

「…あかんか?」

 

私の頭が混乱している最中、松ちゃんは「あかんか?」と聞いた。

 

あかんか?って、いや、そういう問題なのか?

 

私はしばらく目をテンにしたまま指輪の箱を見ていた。

 

「…わし、お前と一緒になりたいと思ってるで。」

 

相変わらずそっぽを向いたまま松ちゃんが呟く。

 

「えー…と…そうなんや…ありがとう。」

 

とりあえずお礼を言っておこう。

 

「おう。」

 

指輪の箱を自分の膝の上あたりに持っていき、両手でもてあそび始めた松ちゃんがなんだか切ない。

 

 

「…ありきたりな言葉やけど…まだ本名も知らないし、正直貴方がどんな人かもわかれへんやんか。それに私のことだってなんも知らんやろ?違う?」

 

頭の中はまだ『?』だらけだし、私の結婚観がもしかして間違ってるんじゃないかと疑っている節もありながら、なんとか返事をしようと試みる。

 

「…わしはずっとこんな感じや。このわしを受け入れてくれてるんやと思うたんやけどな!それにわしはお前のどんな姿を見せられたって平気やで。そう思ったんや。」

 

そっぽを向きながら強い口調で話す松ちゃん。

 

これはまずい…

かなり熱くなっている。

どうしよう…

 

「そうなんや。ほんまにありがとう。その気持ちが嬉しいわ。でもな…」

 

私が何かを言いかけた時、松ちゃんが強めに遮った。

 

「嘘言うなや!嬉しいわけないやろがぁ!嬉しかったらすぐ受け取るやろぉ!」

 

松ちゃんは指輪の箱をバンッとベッドの上に投げた。

 

 

…は?

何これ?

この人なにキレてんの?

勝手に浮かれて勝手にキレて。

こんなんだからソープにハマって借金つくるんじゃん!

 

私はだんだん腹が立ってきてるのを感じた。

 

…ヤバい。

なんとか怒りを抑えなければ。

この人はお客さんだ。

私に会いに何度もここに来てくれて、お金を使ってくれている人だ。

 

落ち着けー

私落ち着けー

 

「…ちゃんと話ししようや。なんで怒るん?だって結婚って一生のことやろ?ちゃんと話しできなきゃ結婚なんてできひんよ。」

 

よし。

よく堪えた。私。

 

「…もうええわ。お前はわしと結婚する気はないてことやろ?わしのことバカにしてるんやろ?…もうええわ。」

 

松ちゃんは怒ってそっぽを向いたままだ。

 

うー…

腹立つ…

 

「あんなぁ。ずっとそっぽ向いたままってどういうことなん?ちゃんとこっち向いて話そうや。おかしいやろ?そっぽ向いたままなんは。」

 

ちょっとイライラした口調になってしまった。

マズい。

 

「う…そやかてしゃーないやろが。こうなってしまうんやから。」

 

松ちゃんは開き直った口調で言い放ち、こっちをチラッと見た。

 

まだ個室に入ってから15分しかたっていない。

この後どうするべきか考える。

 

穏便にすませて今後も指名で来てもらえるように努力するか、怒りをぶちまけて帰ってもらうか…

うーん…

 

正直めんどくさい。

おとなしく遊んでくれればいいものを、なぜこんなことをするんだろう。

しかも結婚って…

私が喜ぶとでも思ったのだろうか。

もしそうならだいぶマズいな。

 

松ちゃんは20代のころからソープにハマったと言っていた。

多分普通の女性と普通の恋愛をしてきていないんだろう。

(私も人のこと言えないけど。)

 

さて。

どうするか。

 

 

「これは一旦持って帰ってな。今は受け取れへんから。な?」

 

私はなるべく明るくそう言いながらベッドの上に転がっている指輪の箱を松ちゃんに手渡した。

 

「…なんで持って帰らなあかんねん。わしはお前に渡すために買うたんや。いらんのやったら捨ててくれ。」

 

そっぽを向いたまま指輪の箱をグッと私に付き返す。

 

ぐおー!

なんかムカつく!!

この拗ねた感じ!

こういうの嫌い!!

 

うー…

ガマンできなくなってきた。

 

でもお客さんだし、傷ついてるんだろうし、断ったの私だし…

 

うー

 

「捨てるなんてできひんよ。一旦持って帰って言うてるだけやろ?な?」

 

堪えた。

なんとかもう一回堪えた。

 

「…そやからお前に上げるために買うたんやから持って帰るの嫌なんや!捨てるなり売るなり好きにしぃや。わしは持って帰らへん。」

 

松ちゃんは子どもみたいに拗ねている。

身をよじってまで指輪の箱を受け取ろうとしない。

 

うー…

 

「…困ったなぁ…。ほんならこれ預かっとくわ。それでいい?」

 

なだめすかす私。

 

「…おう。好きにせぇや。有里、酒出せや。」

 

松ちゃんはやっと私の方を見てそう言った。

 

「わかった。ビール?水割り?」

 

「ビールや。お前のおごりやで。」

 

「うん。ええよ。」

 

「いっしょに飲むか?」

 

「うん。飲む。」

 

「そうか。」

 

 

気まずい雰囲気の中、二人でビールを飲む。

この雰囲気は耐えられない。

もうこうなったらさっきの出来事を笑い話にしてしまえないだろうか。

 

私は賭けにでた。

 

「びっくりしたわぁー!あんな急に結婚とか言うんやもん!どうしたかと思ったわぁー!」

 

私は「あはは」と笑いながら松ちゃんの肩をバンッと叩いてそう言った。

 

さあ!

どう出る?

松ちゃんどうでる?

 

「…そやかてそれしか思いつかんかったんやからしゃーないやろがぁ。」

 

お?

いい感じの返しだ。

 

松ちゃんは拗ねながらもちょっと恥ずかしそうに答えた。

 

「でもな、ほんまに嬉しかったで。その気持ちが。私のこと、考えてくれたんやろ?」

 

松ちゃんの感情がちょっと落ち着いているのを感じて、私はさっきの言葉をもう一回言ってみた。

 

「…そうか。なんかムカつくな。まぁしゃーないな。」

 

グラスを口につけながらぼそりと言う松ちゃん。

 

「お風呂入る?」

 

ビールが一本空いた。

私はお風呂に入るかどうかでこの後のことがわかる気がして聞いてみた。

 

「…おう。入るか。」

 

入るんだ。

じゃあSEXもするつもりだな。

 

「マットは?」

 

私はニヤニヤしながら聞いた。

 

「…マットか。そやな。お前の腕前を見てみるか。」

 

ニヤリと笑いながら松ちゃんは言った。

 

「きゃー!怖いわー!全力を尽くします!!」

 

私は跪き、グッと頭を下げた。

「あはは」と笑いながら。

 

「…お前…アホか。」

 

松ちゃんは「ケッ!」と言いながらグラスに残っているビールをグッと飲み干した。

 

 

松ちゃんは私のマットを「まぁまぁやな」と言い、ベッドに戻ってSEXをした。

激しい打ち付けるようなSEXだった。

「はぁはぁ」と息を荒くして私の上で腰を動かす松ちゃん。

 

「…お前…はぁはぁ…ムカつくなぁ…はぁはぁ…」

 

松ちゃんはそう言いながら私を抱きしめて射精をした。

 

 

「…ほなな。また気が向いたら来るわ。」

 

「そう。指輪、持って帰ってくれる?このまま来なくなってしまったら困るから。」

 

個室の入口でそんなやりとりをする。

 

「…また来るから持っとけや。アホか。」

 

口をゆがませて吐き捨てるように言う松ちゃん。

 

「…うん。わかった。」

 

「時間やろ?行くで。」

 

個室を出て階段を降りる。

 

「お客様お上がりでーす!」

 

大きな声で言う私。

 

「はい!お上がりなさい!」

 

上田さんが階段の下で上がり部屋のドアを開けて待っている。

 

「わしな山下いうねん。山下隆。これが本名や。ほんまやで。あとこれTEL番号。かけんでもええで!」

 

あと少しで階段を降り切るというところで松ちゃんが言う。

小さな紙きれを渡しながら。

 

「え?山下…隆?そうなんや。んふふ。」

 

「なんやねん。TELはかけてもかけんでもええで!ほなな!アホ。」

 

タンタンっと階段を駆け下りて上がり部屋に入っていく山下さん。

 

「ありがとうございましたー!」

 

手を振りながら上がり部屋のドアが閉まるのを見る。

 

 

「…ふぅ…」

 

個室に戻ると小さな水色の箱が目に入る。

 

 

「…結婚て…なんやねん。アホか。」

 

 

私はその小さな水色の箱からサッと目をそらし、淡々と個室を整えた。

 

綺麗になった個室を出る前、何事もなかったかのように籐のハンガーラックの引き出しにポンとその箱をほうりこむ。

 

「…めんどくさいなぁ…」

 

そう呟きながら控室に戻っていった。

 

 

 

つづく。

 

 

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