159
中島さんは私の股の間に自分の下半身をねじ込んだまま、自分の右手でおちんちんを支えて私の膣の入口に押し当てている。
まだ半勃ちにもなっていない、柔らかいおちんちんが入口に触れていることが不快でならなかった。
「ちょ…ちょっと!」
私は大きな声を出してグイッと起き上がり、右手で中島さんのカラダを押しのけた。
私の上にのしかかっていた中島さんは、私の股の間に正座をする形になった。
「なんやぁ。もう少しやったのに。」
中島さんはちょっとだけバツの悪そうな顔をして小さな声でそう言った。
私はサッとカラダを起こし、中島さんと向き合うようにベッドの上に正座になった。
「もう少しとかの問題やないですよね?コンドーム着けてないですよ。それにこれじゃ入らないでしょ?どういうつもりですか?」
私の口調は子どもに怒っているお母さんのようだった。
私がいつまでも黙っていう事を聞いてると思ったら大間違いだ。
小娘を舐めんなよ。
中島さんはニヤニヤ笑ったまま「へへっ。ごめんなさい。」と頭を下げた。
そのニヤニヤ顔がほんとにムカついて、私のハラワタはほんとに煮えくり返ってしまったかのようだった。
「もうあと15分です。おちんちんは勃ってません。どうしますか?私は今みたいのは嫌です。どうします?」
怒った口調で言う私。
正座でベッドの上に向かい合わせに座ったまま。
「おう。じゃもうええか。酒飲もう。な?有里。今日はもうあかんわ。」
中島さんはいたずらっ子が怒られたような顔をして、正座を崩してベッドに腰かけた状態になった。
「ビール頼んでくれ。」
私に背を向けタバコを吸う中島さん。
相変わらずニヤついている。
「中島さん。こういうこと他の女の子に入った時にやっちゃダメですよ!ほんと最低なことですよ!」
私はバスタオルをカラダに巻き付け、インターホンに向かうために立ちあがりながらそう言った。
「そんなに怒んなや。有里が怒るとは思わなかったんや。な?一緒にビール飲もうや。」
ニヤけた気持ち悪い顔でなんとかごまかそうとしている。
ムカつく。
「ビール頼みますけどちゃんとビール代払ってくださいね。」
いつもはビール代を請求したりしない。
ビール代が女の子持ちだと知らない人は結構多い。
小瓶2本で500円。
たいしたことない額だから私はいつもどのお客さんにも請求しないでいた。
たまに常連さんでその内情を知ってる人がちゃんとビール代を置いて行ってくれたりもしたけど、いつもは私が払っていた。
こいつにだけは払いたくない。
私の怒りと憤りはかなり限界にきていた。
「おう。」
ビールが運ばれてきてグラスに注ぐ。
「有里も飲め。な?」
ちょっと機嫌を取ろうとしているのがわかる。
「はい。飲みますよ。」
「怒ってるんか?」
「怒ってますよ。」
言ってしまった。
もうこれで最後にしよう。
これからはこの人は絶対にNGにしてもらおう。
今日のエピソードで富永さんも納得するだろう。
「…寒いな。服着るわ。有里。服…着せてくれ。」
…はぁ?!
今…今なんとおっしゃいましたか?!
私今「怒ってますよ」っていいましたよね?!
聞いてました?
「有里。寒いわ。服着せてくれや。」
中島さんは手を横に広げて「シャツを着せてくれ」の格好をした。
私は呆れすぎて目をパチクリとさせてしまった。
「…あんなぁ。今私『怒ってますよ』って言ったんですよ。聞いてました?」
私は座ったまま中島さんに呆れた口調で言った。
「聞いとったで。わはは。有里。さぶいわ。服。はよぉ。ほら。」
中島さんは両手を広げたまま「ほら!はよぉ!」と何度も言った。
「はい。自分で着てくださいね。私も着るんで。」
私は中島さんのパンツやシャツやズボンが入っている籐製の脱衣かごの中に、ハンガーに掛けてあったシャツと上着をボンボン入れて中島さんの横に置いた。
「おぉ?なんや、ほんまに怒ってるんやな。着せてくれへんのか。なんや。」
ブツブツ言いながらおとなしく自分でシャツを着る中島さん。
私はその姿を横目に下着とワンピースを素早く身に着けた。
「もっとビールついでくれ。もうすぐ時間なんやろ?」
中島さんはずっとニヤニヤしている。
ずっと私を小バカにしているようでほんとにムカつく。
「あと5分です。」
「おう。今度は先に切り…なんやったっけ?切り…のやつしとけばええんやな。な?有里。」
ビールを飲みながら私に確認してくる。
こんな態度をとられてもまた来る気なのがすごい。
「そうですね。」
ぶっきらぼうに答えてビールを飲み干す。
その時。
プルル…
インターホンの呼び出し音が鳴る。
慌てて受話器をとる私。
「はい。有里です。」
「もう時間やけど。大丈夫か?」
富永さんが心配してコールを入れてくれた。
「あ…はい。大丈夫です。もうすぐ出ます。」
「おう。お疲れさまです。」
…やっと…やっと終わる…
この人からお金をもらったら終えられる…
「なんやて?もう時間やて?」
中島さんはそう聞くとフルフルと震える手でグラスを持ち、ビールを飲み干した。
「はい。もう時間です。」
「そうかぁ。今日は短かったなぁ。なぁ?有里。」
こいつほんとにアホだ。
私は長くて仕方がなかったよ。
「…じゃ、お支払いお願いします。」
「おう。いくらやったっけ?」
何回来ても金額を覚えられないお客さんは多い。
中島さんもいつもその質問をする人だった。
「3万5千円とビール代の千円で3万6千円です。」
「お?おう。じゃこっから出してくれ。」
中島さんは私に汚い2つ折りの黒い財布を投げた。
「え…?はい…」
その態度にほんとにもうこいつはダメだと心の中で溜息をついた。
不本意ながらもお財布の中身を開けるとお札がびっしりと入っていた。
こんなにお金を持ってるのにまるで幸せそうじゃない。
そしてこれじゃ誰からも相手にされないに決まってる。
「じゃこれ。確認してください。3万6千円ですよ。とりましたからねー。」
私は一応取り出したお金を広げて中島さんに確認してもらおうとした。
「ええよ。わかった。もっととったってええんやで。わはは。」
…あんたからもらいたくないわ。
「じゃ行きますよ。忘れ物ないですか?」
「忘れたらまた取りに来るからえーわ。それか有里が届けてくれるか?わはは。」
アホか。
絶対いやじゃ。
「ほなな。今日は短かったから他の店か他の子ぉ紹介してもらうわ。ヤキモチやくか?嫌ならやめておくか?有里ぃ。」
階段をフラフラと降りながら中島さんは上機嫌で私に言った。
「あー…もう帰った方がいいんちゃいます?ヤキモチなんて絶対に焼きませんけどね。」
この人につく他の子がかわいそうだ。
願わくばどの子にもついてほしくない。
「そうか?まぁ有里がそう言うならそうするか。パチンコ行って帰るか。な?わはは。」
「そうしてください。じゃ。お客様お上がりでーす!」
階段下で待っている上田さんに向かって声をかける。
「お上がりなさい。こちらへどうぞ。」
うやうやしく上がり部屋に案内する上田さん。
チラッと私に目配せをしながら。
「がんばったな」
その目配せからはそんな言葉が感じられた。
私はちょっと頭を下げて上田さんに答えた。
「がんばったよ。ありがとう。」
そんな返事のつもり。
「今日は切り…なんやったっけ?長くできひんかったのはなんでや?!次の予約断ればええやろー!」
上がり部屋に入りながら中島さんは上田さんに文句を言っていた。
「いやぁ~予約が入ってしまったんでねぇ。すいませんでしたねぇ。」
上がり部屋のドアを閉めながら上田さんが対応している声が聞こえる。
ごめん。
私がワガママ言ったばっかりに。
謝らせてごめん。
私はそう思いながら、フロント横のカーテンを開けて富永さんに挨拶をしに行った。
「お疲れさまです。ありがとうございました。ワガママ言うてすいません。」
私は富永さんの足元に正座をして頭を下げた。
「おう。どうやった?大変やったか?お疲れさま。」
大変やったか?
大変?
富永さんや上田さんやお店に対して悪いと思う気持ちと、でも私には無理だったという気持ちと、だけどもう少し辛抱しようと思えばできたんじゃないかという気持ちと、結局私の力量不足なだけだったんじゃないかという気持ちと、めっちゃガマンしたひどいモヤモヤ感と…
もういろんなものがない交ぜになって、私は声を詰まらせた。
泣いたんじゃなくて、涙があふれたんじゃなくて、声が詰まってしまった。
「う…うぅ…」
喉が詰まる。
涙は出ていない。
こんなことは初めてだ。
「どうした?そんなに辛かったんか?」
心配して富永さんが私の顔を覗き込む。
「うぅ…はぁ…はぁ…」
喉が詰まって声が出ない。
「大丈夫か?水でも飲むか?」
驚いた富永さんが急いで立ちあがってお水を汲みに行った。
「ほら。ゆっくり飲め。」
富永さんが私の口にコップを当ててお水を飲ませ、背中をさする。
「うぅ…はい…はぁはぁ…ありがとうございます…はぁはぁ…」
なんとか声が出るようになった。
私も初めてのことに戸惑う。
「…すいません…私…やっぱりあの人どうしても無理です。ごめんなさい。」
なんとか声をひねり出して言った。
今の私にはこれしか言えない。
「…そうか。なんかあったんか?」
冷静に富永さんが私に聞いた。
なんかあったかって?
あったよ!
もういろんなことがあったよ!!
でもそれは私が未熟だから起こったことだったかもしれないんだけど…。
「…いや…もうどうしても無理です。ごめんなさい。」
説明できない。
出来事だけ説明したってどうしようもない。
この私の『嫌な気持ち』はどうしたって今の私には説明できない
「そうか。じゃあもうおっさんは予約とらんほうがええな?そうなんやな?」
富永さんはあくまでも優しく冷静に聞いている。
私の意思を確認している。
「…はい。お願いします。ほんとにすいません。」
情けなくて仕方がない。
そんなことを言っている自分が情けない。
どんなお客さんでも対応しようと思ってたのに。
上手く対応出来るようになろうとしてたのに。
どうしても無理。
もうほんとに無理。
そう思ってしまっている自分が情けない。
「わかった。相当嫌やったんやな。有里がそこまで言うんやから。もうあのおっさんはとらないから。安心しぃ。な。」
私の頭を撫でて富永さんがそう言った。
「…はい。すいません。」
「おう。あ、そーや。15時から指名が入ったんや。できるか?○○さんや。この人は優しいやろ?いけるな?」
その指名のお客さんはとても優しいおじさんだった。
「あ…はい。大丈夫です。」
「おう。頼むな。」
私は再度頭を下げるとフロントから出て、個室の掃除に向かった。
怒りや憤りよりも情けない気持ちが強かった。
申し訳なくて仕方がなかった。
「うぅ…う…」
ふいに涙が出てきてしまう。
モヤモヤとした感情がおさまらない。
「ふうーーーー!!!」
私は大泣きするのも嫌で息を大きく吐いてごまかした。
あいつのことで大泣きするなんて嫌だ。
「ふーーーーー!!」
私、よくがんばった!!
よくやったよ!!
いいのいいの!
これでいいの!!
ほんとは自分のことを情けない奴だと感じていたけど無理やり私は私を褒めた。
そうじゃなきゃ泣いてしまいそうだったから。
ぜったい泣きたくない!
あいつのことで泣くなんて私の涙がもったいない!
「ふうーーーーーーー!!」
ポロッと出てしまった涙を見なかったことにして私は個室を綺麗に整える。
さっき使っていたタオルもシーツもグルグルに丸めてリネン室に投げ入れた。
「さあ!!おしまい!!」
もう一度「ふっ!!」と大きく息を吐いて、私は階段を降りた。
控室では笑って過ごそう。
何事もなかったかのように。
そう決めながら。
つづく。
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