私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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お正月気分がだいぶ落ち着いてきた1月8日。

今年最初のミーティングがあった。

 

私はまたナンバー2の賞金をもらい、そして部屋持ちになったことをみんなの前で発表された。

杏理さんとあきらさんは引きつった笑顔で拍手をし、ななちゃんは「すごいやないですかー!」と嬉しそうに拍手をした。

理奈さんは「有里ちゃん、よかったなぁ。」とニコニコしていた。

 

私は「ありがとうございます。」と頭を下げ、少しだけ照れた。

 

理奈さんの部屋が1号室。

私はその理奈さんの部屋から1部屋隔てた3号室を選んだ。

シャトークイーンに入店して、一番使わせてもらっていた部屋だったから。

 

理奈さんの1号室と同じくらいの広さのある部屋。

シックで落ち着いた雰囲気が気に入っていた。

 

 

「有里さん!部屋持ちになってどんな気分です?」

 

ミーティングが終わって控室にちょっとだけ寄ろうと向かっている時、ななちゃんが嬉しそうに聞いてきた。

最近のななちゃんはまだあんまり指名がとれず、いつも悩んでいる風だった。

 

「えー…そうやなぁ。うーん…まぁ嬉しいは嬉しいで。」

 

12月はトータルで48本の指名がついた。

50本を超えられないことが悔しい。

こんな私がシャトークイーンで部屋持ちになれたことは素直に嬉しかったけど、この先のことを考えると憂鬱な気分にならないこともない。

もうこれから一回も40本を切ることは許されないという約束をしてしまったかのような気分だった。

 

40本以上を今月もとれるのかどうか…

これで来月すぐに部屋持ちじゃなくなったらどうしよう…

 

そんな不安が私にのしかかってきていた。

 

「えー!なんでそんなに嬉しそうやないんですかぁ?!部屋持ちですよ?!すごいことやのに!!」

 

ななちゃんは私の返事を聞いて驚いていた。

 

…すごいこと…

そうだよね。

これって割とすごいことなんだよね。

 

「ありがとう。そうやね。すごいことやんねぇ。ほんまほんま。」

 

「そうですよぉ!私なんて全然指名とれないんやからぁ。こないだも富永さんによびだされちゃって…私だって頑張ってるんですよぉ。」

 

ななちゃんは自分がいかに指名をとることで悩んでいるかを語った。

私は自分を指名してくれる人がなんで私を指名してくれるのか未だにあんまりわからなでいた。

それが50本以上の指名がなかなかとれない理由なんじゃないかと思っている。

 

「有里さん。どうしたら指名とれるんですかぁ?」

 

ななちゃんが少し泣きそうな顔で私に聞いた。

 

「え?え…と…そうやなぁ…」

 

私がそんなことを聞かれる立場になるなんて思ってもみなかった。

そんなこと私が聞きたいくらいだ。

 

「どうしたら…うーん…それは理奈さんに聞いた方がええんちゃうかなぁ。」

 

私はななちゃんの質問には答えられない。

だってわからないんだから。

 

「理奈さんにも聞いたことあるんですよ。でも理奈さんは『ぼちぼちやってけば指名とれるってー』って軽く言うだけなんですよ。あははー!って笑ってね。」

 

ぶっ!

理奈さんらしいな。

そんなんで指名がとれたら苦労しないわ。

 

「あははは。そうやな。理奈さんに聞いても無駄やったな。あはは。」

 

「そうですよぉ!もー。誰も答えてくれへんなぁ!」

 

どうやったら指名がとれるか。

その質問に答えられるソープ嬢なんているんだろうか。

きっとどこかにはいるんだろうなぁ。

 

「あ!有里ちゃーん!そこにおったん?ちょっと控室寄っていくやろ?旅行の話ししようやー。」

 

理奈さんが控室の前の廊下で呼んでいる。

 

「はーい!ちょっと寄ってくわー。今行くー!」

 

ななちゃんはその様子を見てこんなことを言った。

 

「理奈さんと旅行行くんですか?うわ!すごい!ナンバー1とナンバー2が旅行行くってすごいわぁ!」

 

私はその言葉を聞いてまんざらでもない気分だった。

私が理奈さんと並んだ立場になったような錯覚を起こす言葉だったから。

 

「えぇ?そんな。すごないよ。へへ。」

 

理奈さんとの差は歴然としている。

指名の数なんてまるで及ばない。

それはちゃんと自覚している。

だけどななちゃんの様な後輩にそんなことを言われると、ちょっと勘違いしそうになってしまう自分がいた。

 

こうやって捨てられないプライドって作られていくんだろうなぁ、と頭の片隅で思う。

この無意味なプライドに侵略されるのはいとも容易いことなんだろう。

 

「有里ちゃん。これ見てー。」

 

ハワイ帰りで真っ黒になっている理奈さんが下呂温泉のパンフレットを数枚私に見せた。

 

「うわ!こんなん用意してくれたん?嬉しいわぁー。理奈さんこういうの用意しない人やないの?」

 

「そうやでー。私こういうの自分でやらん人やねんで!それだけ有里ちゃんと一緒に行きたいいうことなんやでぇ。わかってるかぁ?」

 

チラッと私を見る目がいたずらっ子のようで可愛い。

私はこの人がナンバー1であろうとなかろうと関係なく大好きだ。

 

「嬉しいわぁ。で?どこ泊まりたい思ったん?もうだいたい決まってるんやないの?」

 

「へへへ。わかる?あんなぁ、ここかここがええと思ってるんやけど…。有里ちゃんはどう?」

 

理奈さんはパンフレットの中から2軒の旅館をピックアップして私に見せた。

 

「おー。ええやんええやん。どっちもええなぁ!」

 

どちらもとても綺麗で料理も美味しそうだった。

 

「温泉も良さそうやろぉ?どうする?」

 

理奈さんはとびきり楽しそうな顔で私を見た。

もうその顔を見せてくれただけでいいかぁと思わせるような顔だった。

 

「んふふ。私はどっちでもええよ。理奈さんがええ方にして。」

 

これが私の最後の旅行になるかもしれない。

理奈さんが私と行きたいと思ってくれただけでありがたいし嬉しい。

それにこんなに楽しそうな顔を見せてくれた。

もうこれで充分だと思った。

 

「有里ちゃん。ほんまに3月いっぱいで辞めるん?」

 

小さな声でふいに理奈さんが聞いた。

一緒に福田で飲んだとき、3月いっぱいで辞めるのが目標だと伝えていた。

ただ私が殺されるかもしれないということは言ってないのだけれど。

 

「あー…うん。そうやな。」

 

私は笑顔で答えた。

 

「そうかぁ…。店辞めても友達でおってくれるやろ?」

 

「え?!もちろん!!」

 

生きてればだけど。

 

「よかったわぁ。それやったらこれが最後の旅行やないな。辞めても一緒に行かれるやろ?」

 

笑いながら聞く理奈さん。

 

「そうやね。うん。あたりまえやろ。理奈さんさえ良かったらな。」

 

笑顔で返す私。

 

「ほんなら旅館私が決めてしまうで!ええんやな?ほんまにええんやな?」

 

ニヤニヤしながら聞く理奈さん。

この人はなんとも可愛い。

嫌になってしまうくらい。

 

「楽しみにしてるわ。日程は生理休暇のときやね?えーと…このへんかな?」

 

「そうやね。1月の後半やね。」

 

「じゃあ早速富永さんに言うてくるわ。」

 

「うん。別々で言うた方がええかな?2人で旅行行くってバレへんほうが休みとれるかな?」

 

「あー、そうかもしれんなぁ。」

 

「じゃ有里ちゃん帰りに言うていくやろ?私は夜言うわ。な?」

 

2人でコソコソと話す。

楽しかった。

まるで自分が普通の女の子になったかのような気分だった。

やってることがまるで普通じゃない毎日なのに。

 

「じゃまたなー。」

 

「うん。ほなねー。」

 

お店のみんなに挨拶をして控室を出た。

そして私は店を出る前に富永さんに生理休暇の申請を出した。

 

 

「この辺りでおねがいしまーす!」

 

「おう。わかった。有里。部屋持ちになってどうや?快適か?」

 

富永さんは申請をあっさりと受け入れ、すぐに話題を変えた。

 

「えー…と、そうやねぇ。快適ですよ。あはは…」

 

なんとなく気恥ずかしいのと、快適かどうかなんてわからなくて笑ってごまかしてしまう。

 

「まぁあと3ヶ月もないけどな。頑張ってくれ。わしもなんとか有里に稼がしてやりたいからな。頑張るで!な?」

 

富永さんにも3月いっぱいで辞めることは伝えてある。

富永さんはいつも「稼がせてやりたい!」と言ってくれていた。

ほんとにありがたい。

 

「はい。できるだけ頑張りますよ。あはは…なんか…プレッシャーもかかってますけどね。あはは…」

 

「プレッシャーはあった方がええ。そうやなきゃあかん。この仕事はそうやないとあかんのや。な?」

 

そうなのかもしれない。

でもこのプレッシャーってやつはあんまり好きになれない。

 

「まぁがんばってくれ。きっとお前のことやから3月で辞めてしまったらもう二度と戻って来ないやろう。それまでのことや。気張らな。な?」

 

富永さんは下を向きながら少し淋しそうな顔でそんなことを言った。

 

「…はい。そうやね。うん。がんばるわ。」

 

「おう。じゃゆっくり休め。またな。」

 

「お疲れさまです。また。」

 

 

もう1月だ。

3月までもう少し。

雄琴に降り立った時が遠い昔のことのように感じる。

目標金額の700万円まであと少し。

目途は立ちそうだった。

 

コバくんのことどうしようかなぁ…

親には連絡したほうがいいのかなぁ…

K氏にはなんて言って連絡しようかなぁ…

ほんとに殺されるのかなぁ…

 

私、どうなるんだろうなぁ…

 

タクシーの中でそんなことを考える。

バックからチラッと『賞金』と書かれた封筒が見える。

封筒を取り出すと『賞金』の下に『2位』と書かれている。

 

「2位かぁ…」

 

小さな声で呟く。

 

2位のまま死ぬのかぁ。

1位になりたかったなぁ。

1位になってみたかったなぁ。

 

ふと窓の外に目をやると琵琶湖が見えた。

いつの間にかその琵琶湖にも驚かなくなっている。

 

私の毎日は確実に過ぎていっていて、確実に変わっていっていることに気付き、静かに驚く。

この私の毎日がもうすぐ終わるかもしれない。

 

「それならそれでいーかぁ…」

 

窓の外の景色に向かって呟いた。

 

 

つづく。

 

 

 

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