私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

138

 

「…お兄ちゃんだ。」

 

TELの向こうから聞こえてくる声は久々に聞く私の兄の声だった。

 

爆発しそうなほどバクバクと鳴っている鼓動。

手が震え、足がガクガクする。

 

「…なんで?なんで電話番号…」

 

震える声でなんとか言葉を発する。

それを遮るように兄が低い声で聞いてくる。

 

「お前今どこにいるんだよ?」

 

その声は切なく、そして呆れているように聞こえた。

 

「え…今…」

 

私はなんて答えようかと一瞬考える。

でもその時間は一瞬で、うまく嘘がつけない。

 

「今…京都…」

 

滋賀県だと言ってしまうとすぐに風俗だとバレてしまうかもしれないし、探しにこられても困る。

とっさに出た嘘は滋賀県のすぐ隣の県、『京都』という言葉だった。

 

 

「京都…?お前…風俗やってるだろ?」

 

「?!!」

 

せっかく滋賀県ではなく京都と答えたのに、なぜか兄は「風俗やってるだろ?」と聞いてきた。

 

どきどきどきどきどきどき…

 

なんて答えようと思う時間もなく、私は開き直ってこう答えた。

 

「…そうだよ。やってるよ。」

 

全身が膨張しているような、全身が心臓になってしまったかのよう感覚に陥る。

 

言ってしまった…

そうだと言ってしまった…

 

 

「お前なぁ!!…今から迎えに行くから。どこにいるのかちゃんと言え。お父さんもお母さんもお前のことどんだけ心配してると思ってんだよ。お兄ちゃんだってどれだけ心配したと思ってるんだよ。」

 

私の言葉を聞いて突然怒りだした兄。

でもその怒りをなるべく抑えようとしているのが口調でわかる。

最初の「お前なぁ!!」の声のトーンをすぐになるべく冷静な口調に変えている。

 

私は兄のその言葉になぜか怒りが湧いてきていた。

全身がメラメラと音を立てているかのような感じだった。

 

 

「は?迎えに来る?今から?何言ってるの?心配してる?そんなの嘘でしょ?!私がいなくなったって別に何も変わらないでしょ?なんなの?この偽善者!!」

 

わなわなと震えながら言い返している私。

胸のどきどきはマックスまで達していた。

今まで私は兄にこんな風に言い返したことはない。

 

 

「お前…ふざけんな!!お前なに言ってんだよ!!今からすぐそっち行くから!!京都のどこだ?!教えろよ!!すぐ連れて帰るからな!!」

 

兄は私の言葉を聞いて怒りが絶頂に達していた。

私の怒りも治まらない。

なぜ怒りが湧いてるのかわからない。

 

「はぁ?!迎えになんか来る気ないくせに!!絶対来ないでよ!!居場所なんて教えるわけないでしょ!!ほんとは心配なんかしてないくせに!!」

 

口から次々とひどい言葉がでてくる。

でも止められない。

これが今私が思っていることだから。

 

「…お前…最低だな…。わかった。お前はそう思ってるんだな。じゃあもういい…。お兄ちゃんはお前をずっと許さないからな。お父さんとお母さんにはお前が風俗やってることは言わないでおく。言えねぇし。もう二度と連絡しないから。じゃあな。」

 

兄はわなわなと震える声でそう言うと一方的に電話をプツッと切った。

 

私は切れた電話を凝視しながら号泣した。

 

「うわぁーーー!!うわぁーーー!!あーーー!!」

 

たまたま2人がお休みの日の出来事で、コバくんが隣の部屋で私を待っていた。

多分会話が聞こえていたんだと思う。

 

コバくんは私が号泣しているのを聞いて静かに部屋の引き戸をスーッと開けた。

 

「…ゆきえ…お兄さんからだったん?」

 

心配そうな顔。

 

「うわーー!!うん…うーーー!!」

 

怒りと悲しみと緊張で興奮していた。

 

「…大丈夫?大変やったな。」

 

コバくんは号泣している私の背中を優しくさすった。

 

「うーーー!!なんで?!なんであんなこと言われなあかんの?!なんで?!偽善者!私のことなんて心配してないくせに!!私のことなんて何もしらないくせに!!うーーーー!!何が今から迎えに行くだよ!!うわーーーー!!」

 

私は怒りと悲しみと憤りを口にした。

「偽善者!偽善者!!」と何度も言っていた。

コバくんはずっと「うん。うん。」と優しく頷きながらずっとどこかをさすってくれていた。

 

 

「う…うぅー…うぇ…うぅ…」

 

思いを吐き出すだけ吐き出すとだんだん気持ちが落ち着いてきた。

 

「どう?ちょっと落ち着いてきた?」

 

コバくんが優しく聞く。

 

「…う…うぅ…うん…」

 

泣きじゃくりながら返事をする。

 

「そうか。よかった。もう少し落ち着いたら話し聞かせてくれる?」

 

コバくんは穏やかな顔で私に聞いた。

 

「う…うん…いいよ…」

 

「…じゃあ…顔洗ってどこか出かけようか。気分転換せん?」

 

ニッコリ笑ってそう言った。

 

「う…うん…ありがとう…」

 

私がそう言うとコバくんはギュッと私を抱きしめた。

 

「ゆきえ。辛かったなぁ。よぉ言ったなぁ。頑張ったなぁ。」

 

抱きしめて頭を撫でながらコバくんは優しくそう言った。

 

「うぅ…うん…うー…」

 

私は兄にひどいことを言った。

私の今思っている本当の気持ちだったとはいえ、もっと言い方があったんだと思う。

ムカムカする気持ちと共に反省と自責にかられている私に向かって、コバくんは「よぉ言ったなぁ。頑張ったなぁ。」と言った。

 

「…ありがとう…うー…」

 

また泣けてきた。

 

「うんうん。もう泣かんと。出かけようやぁ。な?」

 

私はコバくんの存在に救われていた。

今日コバくんがいなかったら私はどうしていただろう。

 

 

私の兄は7つ年上のすごく優しい人だ。

さいころは毎日からかわれ、毎日泣かされていた。

でも私を可愛がっているのはわかっていたし、よくふざけて私を笑わせたりもしてくれた。

兄は中学3年くらいになると反抗期を迎え、父親とよくぶつかっていた。

とっくみあいの喧嘩をしているときもあり、まだ小さかった私はその度に怖くて泣いてた。

父親は反抗期の息子にがっつり向き合っていただけなんだと思う。

兄も父親にかなわないと思いながらも向かって行っただけなんだと感じる。

でもその後「もうお兄ちゃん家を出て行くから」と言って兄が18の時に出て行ってしまったのは幼い私にとっては衝撃的なことだった。

 

出て行ってしまった兄の部屋で声を殺して泣く母親。

何も言わずに何かをグッとこらえてビールを飲む父親の姿。

 

その姿をこっそり見ていた私は「私は反抗なんかしない」と密かに心に決めていた。

 

その密かに決めていたことはいつしか爆発してしまい、こんな現状になっていた。

 

連絡を絶ち家出をするという最悪な反抗だ。

しかも私はソープ嬢になっている。

 

こんな私は家族にとっていなくなった方がいい存在だと思っている。

きっと私がいなくなって多少は動揺しただろうけど、今は何事もなかったかのような日常をおくっているに違いない。

 

兄は家を出て少ししてから両親とちょっと仲を取り戻した。

家を出たことでありがたみがわかったんだと言っていた。

 

私はその兄の言葉を聞いてホッとしながらも「何勝手なこと言ってるんだよ」と思っていた。

兄のことが大好きだった私のことなんてほっといて出て行ってしまったことに傷ついていたんだと思う。

 

兄とは会えば仲良く話していたけれど、高校生になっていた私をいつまでも5歳くらいの扱いをしてくる兄を疎ましく感じていた。

 

 

『私が幼い小さな子だと思ってるから可愛がってるんでしょ?』

『私は大きくならないと思ってるんでしょ?小さいまんまのゆきえでいてほしいんでしょ?』

『今の私が何を考えてるか知らないくせに心配だとか言わないで』

 

そんな思いがぐるぐると渦巻いていた。

それは兄にだけでなく、姉や両親にも感じている思いだった。

 

『今の私をそのまま出してしまったら愛されない。』

 

SEXに興味がある私。

摂食障害でめちゃくちゃな私。

好きでもない人とカラダを重ねている私。

逃げ出して来た私。

 

私のそんな部分を知ったら絶対愛されるわけがない。

 

私が幼くて純粋で小さいままだから愛してると言うんだ。

兄だってそんな私だから「心配だ」と言うんだ。

 

このままの私を心配しているわけじゃない。

 

 

 

コバくんは顔を洗って化粧をし直した私を連れ出した。

 

「どこ行きたい?ゆきえが行きたい場所ならどこでも連れて行くで。」

 

優しく笑うコバくん。

 

「えと…琵琶湖の周りのドライブと後で夕飯の買い物したいから平和堂!!比叡山坂本のじゃなくて堅田のね!」

 

私は少し考えてそう答えた。

 

「ぶはっ!!そんなんでええの?!堅田平和堂?!いつも行ってるとこやんか!あははは!」

 

コバくんは私の答えに笑った。

 

「え?!いつも言ってるのは比叡山坂本平和堂でしょ?!堅田のはあんまり行ってないやんか!あははは。」

 

「笑った!あはは!ゆきえが笑った!!そうやな!堅田の方は最近あんまり行ってないな!じゃ少しドライブして平和堂行こう!」

 

「うん!お願いしまーす!」

 

笑いながら車に乗り込む。

コバくんはさっきの出来事とは全然関係ない話しをして私を笑わせる。

 

「あははは!アホやなぁー!」

 

私は笑っていた。

ケラケラと笑っていた。

 

でも心の中では何かがくすぶっているような、モヤモヤとしたものが常にある。

 

心から笑うってどんな感じだろう?

 

コバくんと話しながらそんなことを思う。

 

私に心から笑える日なんてくるんだろうか。

 

 

 

私はすぐに携帯を変え、絶対に家族にTEL番号がバレないように細心の注意をはらった。

 

「家族とは縁を切ったんだ。それの方が家族にとってもいいんだ。」

 

私は自分にそう何度も言い聞かせていた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

続きはこちら↓

139 - 私のコト

 

 

はじめから読みたい方はこちら↓

はじめに。 - 私のコト