私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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奈々ちゃんがシャトークイーンに戻ってきて、またお店は5人態勢になっていた。

前は週末だけの勤務だった奈々ちゃんは「借金返さなきゃならないんで…」という理由で週5勤務になった。

 

元々岐阜県から週末だけ雄琴にやってきて、こっちに来た時はお店の控室に泊まる生活をしていた奈々ちゃん。

 

「週5勤務やったらどないしてんの?どこに泊まってるん?部屋借りたん?」

 

私がそう聞くと奈々ちゃんはこう言った。

 

「シャトークイーンに寮があったんですよ。だからそこに寝泊まりしてます。」

 

寮?!

シャトークイーンに寮があったなんて初めて聞いた。

 

「寮なんてあったんやぁ。初めて聞いた!で?どんなとこ?」

 

「それが…」

 

奈々ちゃんは苦笑いを浮かべながら言葉を濁した。

 

「なに?どないしたん?」

 

「…まぁ汚くて…それはまぁいいとして…デルんですよ…」

 

おー…

そうかぁ…

 

奈々ちゃんは「デル」と言った。

そう。

幽霊が。

 

「それヤバいやつっぽい?奈々ちゃん見たん?」

 

「まぁ…はい…男も女もいますねぇあれは。音もすごいです。」

 

わー…

 

私は小さいころから人が見えないものが見えてしまう。

実家にはそんな存在がたくさんいたので、その手の話しは特に驚いたりはしない。

ただその相手がヤバい奴なのかどうかは心配になってしまう。

 

「奈々ちゃん結構見てしまう人?」

 

「そうなんですよぉ。よく見ちゃうんですよぉ。」

 

「そうかぁ…。」

 

奈々ちゃんは未だに睡眠薬精神安定剤を常備している。

もしかしたら幻覚のようなものなのかもしれないけど、もしそれが『ホンモノ』だったとしたら結構ヤバい。

あいつらは弱ってる人間に悪さをしたりするから。

 

「部屋はどんな感じ?暗い?ジメジメしてる?」

 

「はい。めっちゃ暗くてカビ臭いです。トイレもめっちゃ汚いし…」

 

おー…

バッチリな環境だなぁ…

 

「そうかぁ。そいつら見た時どんな感じやった?すんごい怖かった?」

 

私は大したことない奴に出くわすと「ふーん」て感じがして、めっちゃヤバい奴に出くわすと「うおー!めっちゃ怖い!!」な感覚になる。

「うおー!めっちゃ怖い!!」な奴を察知したらすぐにその場から離れることにしている。

 

「うーん…そうですねぇ。そんなに言う程怖くはなかったかなぁ。」

 

「部屋にいる時は?どんな感じ?」

 

「とにかく居心地は悪いです。たまーにゾクッとするくらいですかねぇ。」

 

その話しを横で聞いていた理奈さんが「こわー!」と声をあげた。

 

「よぉそんなとこで寝られるなぁ。ここで寝た方がいいんちゃう?奈々ちゃん大丈夫?」

 

理奈さんは両腕を身体に巻き付けブルブル震えるような仕草をしながらそう言った。

 

「…うん…私もそう思うわ。そこの部屋に毎日おったらちょっと心配やな。奈々ちゃんの体調おかしくなるで。」

 

今のところ特に悪さはしてないようだけど、ああいう奴らはだんだん距離を縮めてきたりするから油断ならない。

 

「そう…ですよねぇ…ちょっと富永さんに言ってみようかなぁ。」

 

「それのがいいって。今言うてきたら?」

 

「そうですねぇ。言うてきます。」

 

奈々ちゃんはそそくさと控室から出て行った。

 

「有里ちゃん、奈々ちゃんの話し聞いてわかったん?どう?ヤバそう?」

 

理奈さんが私に聞く。

理奈さんは私が『人に見えないものが見えてしまう』ことを知っている。

 

「うん…。ちょっとヤバいやろなぁ。多分場所も良くないで。」

 

「そうなんやぁ。怖いなぁ。」

 

「理奈さんはシャトークイーンに寮があること知ってたん?」

 

「うん。知っとったよ。場所とかしらんけどあるってことは知っとったよ。

前にも寮で寝泊まりしてるって子が何人かおったで。」

 

「え?その子たちなんて言ってたんですか?」

 

「え?知らん。特になんも言ってなかったんちゃう?みんなすぐに辞めてしまったしな。あはは。」

 

うーん…

理奈さんらしい答えだ。

 

「言ってきましたー。今日からまたここに泊まっていいって言われました!」

 

奈々ちゃんが笑顔で帰ってきた。

 

「おー!よかったやん!」

「よかったよかった!それのがええって!」

 

私と理奈さんがそう言うと、奈々ちゃんは引きつった笑顔で「富永さんが『やっぱりかぁ…』って言うたんですよ!」と言った。

 

「え?やっぱりかぁ?嘘?!」

 

「それどういうこと?」

 

「前に寮で寝泊まりしていた娘ぉも同じこと言ったらしいんですよ。デルからあそこにはいたくないって。」

 

おー…そうですかぁー…

 

「ちょっと富永さんにその話し聞いてくるわ。」

 

私はなんとなくその話しを詳しく聞きたくなりフロントに向かった。

 

「富永さーん。ちょっといい?」

 

フロント横のカーテンをチラッと開けて顔を出す。

 

「お?なんや?ええで。」

 

「失礼しまーす。」

 

私は富永さんの足元にちょこんと正座をした。

 

「寮の話しなんやけど…ちょっと詳しく聞かせてくれへん?」

 

私がそう言うと、富永さんは「お?」と言ってちょっだけ目を伏せた。

 

「おぉ。寮な。今奈々から聞いたんか?」

 

「うん。聞いた。そういうこという子、結構おったん?」

 

「うーん…まぁそうやなぁ。なんも言わん子ぉもおるんやで。なんともなくいる子ぉもおるんや。でもまぁ…言うてくる子ぉもまぁまぁおるわなぁ。」

 

「そうかぁ。富永さんはどうなん?それを聞いてどうなん?」

 

「わしか?わしは…そういうの全くわからんタイプやし、どこでも寝られてしまうからなぁ。有里、ほんまなんか?ほんまに見えるんか?」

 

確かに富永さんは何も感じなさそうだ。

確かにどこでも寝られてしまいそうだし。

 

「あははは!富永さんらしい!!どこでも寝られそう!」

 

「ん?そうやで。酒さえあればご機嫌やしな。どこでも寝られるで。」

 

「あははは。そういう人はええんよぉ。奴らもそういう人は相手にせんからなぁ。ていうか相手にできひんやろ?ただなぁ…奈々ちゃんみたいな子ぉがそういう場所で寝泊まりしてしまうとちょっとまずいかもしれんよ。」

 

この世界に入ってくる女性たちはなにかしら問題を抱えている。

そして弱ってたり、暗い何かをまとってたりすることが多い。

そんな人は奴らの格好の餌食だ。

 

「そうなんか?うーん…わしにはよぉわからん。そうや!有里、一回見に行ってくれんかのぉ?わしにはわからんからのぉ。」

 

「え?私が?見に行ってどないするん?」

 

「ずっと借りっぱなしの部屋なんじゃ。家賃がいくら安い言うたかて毎月そのお金がかかってるんや。有里が見に行ってくれてヤバいようやったら解約しようかのぉ。」

 

え?

私の判断?

え?

私がその場所に行くの?

 

「一回泊まってみてくれんかのぉ。」

 

え?!

私が泊まるの?!

そこに?!

 

「いや…泊まるのはさすがに…見に行くだけなら…まぁいいですけど…」

 

ほんとはすごく嫌だった。

ぜったいヤバい感じがするだろうと思ったから。

でも今後も奈々ちゃんみたいな女の子がその場所で寝泊まりするようなことになって、それでその後…なんてことになるのは絶対に嫌だった。

 

「じゃあ早速今日の夜ええか?店終わったら寮に奈々の荷物もとりに行かなあかんし。

その時一緒に行ってくれ。店からすぐやから。」

 

え?!

今日?!

さっそく?!

 

「おー…急ですねぇ…えーと…はい…。わかりました。私で役に立つかわかりませんけどね…」

 

「頼むわ。そんなん頼めるの有里しかおらんやろ。理由があれば社長に寮の契約止めるって言いやすいしな。」

 

「はぁ…」

 

「ま、頼むわ。店終わったら奈々と控室で待っとってくれ。」

 

「…わかりましたぁ。」

 

 

…なんかおかしなことになってしまった。

ただ寮の様子と富永さんがどう思ってるのかを聞きたかっただけなのに…

 

私は「ふぅー」と息を吐きながら控室へと続く廊下を歩いた。

 

「ただいまー」

 

控室のドアを開ける。

 

「おかえりー!有里ちゃん、どやった?」

 

理奈さんが興味津々な顔で私に聞く。

 

「なんて言ってました?」

 

奈々ちゃんも目をキラキラさせて私に聞いた。

 

「うん…。なんかわからんけど私に見に来てほしいって言われてしまったわ。」

 

興味津々な顔してる場合じゃないって!

目をキラキラさせてる場合じゃないって!

 

「えー!で?有里ちゃん行くん?見に行くん?!」

「えー?!見てくれるんですか?!」

 

2人が一気に盛り上がる。

 

盛り上がってる場合じゃないって!

 

「まぁ…うん…なんか今日見に行くことになってん。奈々ちゃん荷物取りにつれて行ってもらうやろ?その時一緒に行くから。」

 

「わー!有里さんが見てくれるんや。なんかすごいなぁ!」

「有里ちゃんめっちゃ見えてしまうからなぁ!なんかワクワクするわ。私も行こうかなぁ。私は全然わからへんけどな。あははは!」

 

だから…さぁ…

 

結局話しが盛り上がってしまい、店が終わってから3人で寮を見に行くことになってしまった。

 

 

「はよ店終わらんかなぁー。」

 

理奈さんが呑気にそんなことを言ってる時、私は自分の体調を保つのに必死だった。

 

店が終わり、控室に集まった3人。

 

「おー!なんかドキドキしますねぇー!」

 

奈々ちゃんが楽しそうに言った。

 

「なー!なんか冒険に行く感じやなぁー!」

 

理奈さんが無邪気な笑顔で言った。

 

あのね…

 

「さ!冒険に行こーー!!なんて。あははは。」

 

理奈さんが小さく拳を掲げた。

 

この人超有名ソープ嬢だよね?

 

まぁいっか。

確かに冒険みたいだよね。

 

さ。

これから『シャトークイーンの幽霊寮探検』が始まる。

 

 

つづく。

 

 

 

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140 - 私のコト

 

 

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