私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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毎日が緊張と葛藤と反省で過ぎていく。

時に身悶えるほどの悔しさと悲しみを感じながら私の毎日が過ぎていっている。

 

理奈さんと富永さんは相変わらず優しく一緒にいると楽しい。

そしてこの2人の存在があるから私はやっていけてるんだと思う。

 

家に帰ればコバくんが私に優しくしくれる。

いつも大切なものを包むかのように抱きしめてくれる。

 

お金は順調に貯まってきていてお客さんの指名も増えた。

 

指名のお客さんは概ねみんないい人で、いつも何かしらの差し入れを持ってきてくれるような人たちばかりだった。

 

「有里ちゃんみたいな娘ぉ初めてやぁ。ほんまに好きになってしまうわぁ。」

 

そんなことを言ってくれる人も何人もいて、嬉しいながらもその言葉に戸惑ったりしていた。

 

中川さんは相変わらず定期的に来てくれていて、何故かわからないけどある日を境に外で会おうと誘ってこなくなった。

 

 

毎日の現象を冷静に見れば何も問題なく、むしろ恵まれてて安定しているのかもしれない。

でも私の毎日はずっと緊張と葛藤と反省で埋め尽くされているようだった。

 

 

雄琴に来て7ヶ月が経つ。

世間はもう11月になっていた。

 

乙葉さんが来なくなり、しばらくの間女の子は4人のままだった。

が、ある日、体調が良くなったという奈々ちゃんが復帰した。

 

「また戻って来ちゃいましたー!えへへ…」

 

また一段とふくよかになった奈々ちゃんは「えへへ…」と言いながら相変わらず枝豆を食べている。

 

結局彼と連絡は取れず、たくさん泣いてたくさん寝てたくさん悪態をついたらだいぶ体調が戻ったと奈々ちゃんは言った。

 

「借金はもうどうしようもないんで。返さなきゃしょうがないんで。えへへ。」

 

もう吹っ切れたようなことを言う奈々ちゃんの目は、絶対に吹っ切ってないだろう?とつっこみたくなるほど生気が感じられなかった。

 

「…無理せんとなぁ。ぼちぼちやらななぁ。」

 

いろんな事情を抱えてる女性がいる。

奈々ちゃんのこの毎日は想像するだけで胸をかきむしりたくなるけど、奈々ちゃんが選択したことだし私が人のことをどうこう言えるような立場じゃない。

ましてや私の毎日だって同じようなものだ。

 

 

 

毎日、毎回、お客さんに入る前は相変わらず吐きそうなほど緊張する。

手が冷たくなり、小さな声で「うおー!」と言わずにはいられないほどだ。

 

お客さんと一緒に過ごす90分。

私の頭は常にフル回転で、少しでもお客さんがゆるんだ瞬間を見逃さないようにしていた。

 

どうやったらこのお客さんが満足するか?

何をやったらこのお客さんが私を忘れなくなるか?

どんな会話を求めているか?

 

この90分を満足行かせること自体が難しいのに、それに加えて私は指名を取りたいのだ。

 

どうやったら印象に残るのか。

もう一回会いたいと思ってもらうにはどうしたらいいのか。

私のセールスポイントはなんなのか。

 

常にそんなことを考えていた。

 

いくら考えてもそれがわからず、お客さん一人一人の反応を見て一喜一憂する毎日。

 

 

これから入るお客さんは私で満足してくれるだろうか。

私のことが全然タイプじゃなかったらどうしたらいいんだろう。

マットも椅子洗いも「下手くそ!」と怒られたらどうしよう。

 

そんな不安がいつもつきまとう。

 

 

考え始めるといつもドツボにはまる。

 

ぐるぐると同じことを考え、そしてその考えはだいたい良い方にはいかない。

 

 

私なんてダメなんだ…

もうこれ以上指名増やすなんて無理なんだ…

私なんてそんなもんだ…

きっとお金だって貯められずに失敗に終わるんだ…

こんな私を指名してくれる人がいたことが奇跡なんだ…

 

…私なんて早く殺されちゃえばいいんだ…

 

思うように結果が出ない時や、毎日の緊張で疲れが溜まっているときは必ずこんなことを思う。

 

 

早く死にたい。

 

 

自分で死ぬ勇気なんかないくせにそんなことを思ってしまう。

 

この毎日を早くリセットしたい。

緊張と葛藤と反省の毎日が辛い。

でもこれしかやり方を知らない。

 

そして死にたいと思ってしまった自分を責める。

 

なんて卑怯な奴なんだ。

そしてなんて根性のない奴なんだ。

自分で決めた目標なのに。

殺される前にそれだけは達成したいと覚悟を決めたはずなのに。

 

あんたまた逃げ出すの?!

ほんとに最低な奴だね?!

 

いつもいつもこのループに陥り、結局私は胸をかきむしる。

 

 

いくら理奈さんと富永さんが気づかってくれようと、いくらコバくんが優しくしてくれようと、これは消えることがない。

 

そしてたとえどんなに指名がとれようと、どんなに優しい親切なお客さんに囲まれようと、どんなにお金がたくさん貯まったとしても、これは消えない。

 

 

私は私が嫌いで許せない。

 

あと5ヶ月。

自分で決めた日まであと5ヶ月。

 

その日がきたら私はどんな気分になるんだろう。

どんな顔でK氏に会うんだろう。

その前にその日を迎えられるのかどうかもわからないのだけれど。

 

 

 

「ゆきえ。俺はゆきえに生きて欲しいって思ってるで。たとえそれが『俺と一緒に』じゃなくても、ゆきえには生きていて欲しいって思うとるで。」

 

コバくんはそんなことをよく言っている。

きっと本心なんだろうと思う。

いろんなことを考えて、私の気持ちや想いも一生懸命想像して言ってくれてる言葉なんだと思う。

 

「うん。ありがとう。」

 

そう答えてる私にその言葉はまるで響かない。

 

なんで?

なんで生きていて欲しいって思うの?

それが貴方にとって何になるの?

こんな私に生きていて欲しいって?

は?

偽善者なの?

私の何を知ってるっていうの?

 

一体「生きる」ってなんなの?

 

 

私の胸にはそんな言葉が渦巻いている。

この言葉はコバくんには伝えない。

私の嫌な部分だから。

嫌なヤツの部分だから。

こんなことを思ってるなんて知ったら誰も私を好いてくれなくなる。

 

私は好かれても響かないとか言いながら好かれないのは嫌だと思っていた。

 

 

そんな11月のある日。

 

私の携帯に非通知の着信があった。

 

誰だろう?

私の番号を知ってる人なんてほんの数人しかいないはずだ。

誰かが公衆電話からかけてるのかもしれない。

 

そう思いながら通話ボタンを押した。

 

「もしもし?」

 

私がそう言うとTELの向こうからしばしの沈黙が流れた。

 

「もしもし?」

 

もう一度言う。

誰だろう?

 

「…ゆきえか?」

 

どきっ!!!

 

聞き覚えのある声。

 

「う…うん…」

 

どきどきどきどきどきどきどき…

 

鼓動が一気に早くなり、心臓が胸を突き破って飛び出してきてしまいそうなほどだった。

 

「…わかるか?」

 

「…うん…」

 

TELの向こうからやるせない声が聞こえてきた。

 

「…お兄ちゃんだ。」

 

TELをかけてきたのは私の携帯番号なんか知るはずない実兄からだった。

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

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138 - 私のコト

 

 

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