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「明穂さん。明穂さん。ご指名です。」
控室のスピーカーから佐々木さんの声が聞こえる。
「はぁい!」
明穂さんがアニメ声で返事をしていそいそと準備を始める。
「いってきまーす。」
「いってらっしゃーい!」
控室にいるみんなで送り出す。
…指名か…
ナンバーワンか…。
私は明穂さんがなぜナンバーワンなのか気になった。
容姿が取り立てて良いわけではない。
顔が綺麗なわけでも、スタイルが抜群なわけじゃない。
ましてや若いわけでもない。
なのに指名がつく。
どうやったら指名がつくんだろう…。
まだ2日目。
マットもまだままならない、接客もままならない私がそんなことを考えるなんておこがましいと思いながらも考えてしまう。
「あのぉ…、明穂さんがここではずっとナンバーワンなんですか?」
おずおずと隣の原さんに小声で聞いてみる。
「あー。明穂さんはナンバーワンになったりならなかったりするで。
割と波が激しいんちゃうかなぁ。急に休みだしたりもするしなぁ。」
「へぇ…。そうなんですか…。」
その話しがちょっと聞こえたのか、原さんの隣に座っていた美紀さんがガラガラ声で参戦してきた。
「明穂さんは頑張り屋やからなぁ。頑張りすぎて急にバタッと疲れてしまう時があんねんなぁ…。」
美紀さんはガラガラ声で品はないが、すごく優しい人だった。
「あの、あの子。なんでしたっけ?もう戻って来ないんですかね?」
原さんは敬語で美紀さんに聞いた。
「あー!麗ちゃんな!もう来んやろぉー。あれはもうヤバいもんなぁー。」
麗ちゃん?
ヤバい?
知りたい!
「麗さんって…。このお店にいた子ですか?」
原さんと美紀さんは顔を見合わせた。微妙な表情で。
「まぁなぁ…。まぁいずれわかることやから…。」
「そうですよねぇ…。」
何か不穏な空気。
私は麗さんのことが気になった。
「え?なんかあるんですか?」
「うーん…」と言いながらなかなか教えてくれない二人。
「ここの店のナンバーワンやったんよ。ダントツの。」
原さんは苦笑いをしながら言った。
「まぁなぁ。あれはなるわなぁ。まぁでもなぁ…。」
美紀さんは曖昧な口調で話す。
何かあるな。
でもなんだろう?
「有里さん。有里さん。お客様です。お願いします。」
インターホンから声が聞こえる。
ドキッ!
急に鼓動が激しくなる。
やっぱり…怖いし緊張する。
「はーい!」
大きな声で返事をして身支度を整える。
「有里ちゃん。お客さんからも麗ちゃんの話し聞くことあると思うわ。
麗ちゃんのお客さんだった人を有里ちゃんにつけようとすると思うしな。
麗ちゃんも若かったからなぁ。」
「はぁ、はい。」
結局麗さんがどんな人だったのかは聞けずじまいだった。
ドキドキしながら階段の下で待つ。
猿渡さんが静かな足音でやってきた。
「有里さん。お願いします。」
チラッとこちらをみながらチケットを渡す。
70分コース。
「はい。お願いします。」
ジッと見ながら返事をする。
猿渡さんはまたどぎまぎとした態度で、ぺこりと頭を下げてフロントに戻っていった。
「あはは。変わった人だなぁ~」
小さな声で呟く。
ドキドキドキドキ…
今日はどんな人だろう?
麗さん、ナンバーワン、あやふやな原さんと美紀さんの話しっぷり…
気になるところがたくさんある。
でも今はお客さんに集中だ。
足音が近くに聞こえてきた。
小娘有里の一日が今日も始まった。
つづく。
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