私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「有里みたいにこうやってきちんと辞めていく子ぉは初めてや。」

 

富永さんが私をチラッと見ながらしみじみ言う。

 

「そうなんや。へぇ…。そうなんやなぁ。」

 

みんなどうやって辞めていくんだろう。

急にいなくなってしまう子ばかりなのかな。

もしそうなら、その度に富永さんは淋しい思いをしたんだろうなぁ。

 

「この店に来てまだ間がないころ、どこか旅行に行ったやろ?」

 

「ん?あぁ行ったなぁ。」

 

「その時有里が店用とわし用にお土産をくれたじゃろぉ?」

 

「え?あぁ。そうやったね。」

 

「わしはあの時驚いたんじゃ。この子はすごい子ぉやって思ったんやで。」

 

「え?!そうなん?!そんなん当たり前のことやろ?それにたいしたことないお土産やで?!」

 

「いや、そういうことが出来んようになってしまうんや。この世界にいるとな。もしくはそういう事が出来ん子ぉやからこの世界に入ってきてしまう子ぉがほとんどなんやで。有里は未だに知らんやろ?そういうことを。」

 

私は富永さんの話にぽかんと口を開いた。

 

「あー…そうなんやなぁ…。」

 

「有里はこの世界に来てもそういう『普通の感覚』を忘れないでいた貴重な子ぉや。すごいなぁ。この店に来てくれてほんまにありがたかったで。あんまり稼がせてやれんかったのは申し訳ないと思ってるで。ほんまにな。」

 

 

『この店に来てくれてありがたかったで』

 

私は富永さんのこの言葉に目を見開き、胸にグッと何かがこみ上げた。

 

「えぇ…?!ちょっと…もう…やだ…もー…なに言うてるん?もぅ…やだ…」

 

さっき一生懸命引っ込めた涙がぶわっと溢れる。

 

「うー…ありがとう…うぅ…うー…稼がせてくれたやんか…ていうか、そんなことより…めっちゃよくしてくれてありがとう…うぅ…」

 

私はボロボロとながれる涙をそのままにしながら富永さんにお礼を言った。

 

「ほら。鼻水出てるでー。」

 

「うぅ…ありがと…」

 

富永さんは私の方を見ないようにしている。

 

「お!有里。隠れて。」

 

富永さんが私をフロント下に隠れる様に促す。

 

「小林くんがおかえりじゃ。」

 

私は富永さんの足元にグッと身を隠した。

 

「ふふっ」

 

泣き顔のまま笑う私。

 

こうやって何度ここに身を隠しただろう。

お客さんに姿が見えないように。

そういえばこの場所に理奈さんとぎゅうぎゅうになりながら隠れたこともあったな。

 

「あー!ありがとうございました!またよろしくお願いいたします!」

 

富永さんが立ちあがってフロントの向こうにいるコバくんに挨拶をしている。

 

「ありがとうございました。」

 

コバくんも礼儀正しく挨拶をしている。

 

「あ、はい!有里はもういなくなってしまいますが、もしよかったらまたシャトークイーンをよろしくお願いします!」

 

富永さんが深々と頭を下げているのを身を縮こませながら下からジッと見る。

この人はこうやって生きてきたんだなぁ…なんて思いながら。

 

自動ドアの音が聞こえる。

「ありがとうございましたー!」の上田さんの声が響く。

コバくんが帰って行った。

 

富永さんはコバくんが帰って行ったことを確認すると私に向かって声をかけた。

 

「じゃお疲れさんのコールいれるからな。有里はもう少しここにいてくれ。」

 

「え?うん。」

 

富永さんはすぐ控室に『お疲れさま』のコールをいれた。

そのコールを聞いた女の子たちがバタバタと掃除を始める音が聞こえてくる。

 

「あ…私も掃除に行かなきゃでしょ?」

 

控室の掃除も今日が最後だ。

みんなと一緒に掃除をしなきゃと思い、富永さんに聞く。

 

「いや、今日はええやろ。有里は特別じゃ。」

 

「え?いや…そうなん?」

 

「おう。そうじゃ。みんなにやってもらえばええが。それでな、渡したいものがあるんじゃ。」

 

富永さんはそう言うと、封筒を2つと何かの包みを2つ、フロントの台の上に乗せた。

 

「まずこれじゃ。これは社長から。お疲れさまと言ってたで。」

 

「え?!なに?!」

 

富永さんが私の前に差し出した封筒はかなり豪華な飾りがついたもので、『餞別』と書かれていた。

 

「え?!なんで?!なに?!これ?」

 

私は驚いてその封筒を富永さんに押し返してしまった。

 

「いや、もらっていいんじゃ。ちゃんと辞めていく子ぉにはこうやって渡すもんなんじゃ。社長からのねぎらいやから。な。」

 

私は富永さんの言葉を聞いて、その豪華な封筒を驚きながら受け取った。

 

「あぁ…なんか…申し訳ないなぁ…ありがとう。」

 

恐縮する。

私はこれを受け取れるほど店に貢献していないから。

 

「あとこれはお店からじゃ。」

 

富永さんは恐縮している私にもう一つの封筒を差し出した。

社長からのものよりはシックな封筒に、また『餞別』と書かれている。

 

「え?!やだ?!なんで?もういいよ!!」

 

私はいたたまれない気持ちになり、また富永さんに封筒を押し返してしまう。

 

「いや、これはわしらからの気持ちじゃ。受け取ってくれな困る。な?」

 

なんで…

なんでここまでしてくれるんだろう…

なんだか困り過ぎて泣けてくる。

 

「うー…なんで?困るわぁ…私、こんなことしてもらえるようなこと、なんもしてへんのに…」

 

こんなことならもっと頑張ればよかった。

怠けたこともあきらめたこともたくさんあったのに。

 

「よぉ頑張ってくれたで。ほんまに。ほら。受け取れ。」

 

富永さんが優しい小さな声で私に言う。

 

「うぅ…ありがとう…うん…」

 

私は泣きながら『餞別』を受け取った。

 

「あとはこれじゃ。」

 

「え?まだなんかあるん?もうええわー…」

 

「そう言わんと。これはわしからじゃ。」

 

富永さんはそう言うと小さな包みを私に差し出した。

 

「何をあげたらいいかわからんくてなぁ。良さそうな茶碗があったから買うてきたんじゃ。よかったら使うてくれ。」

 

「うん…ふふ…ありがとう。」

 

何を買ったらいいかわからず茶碗を買う富永さんがなんだか可愛くて笑ってしまう。

この人のこういう可愛らしいところが好きだ。

 

「あとは…これなんじゃ。これは有里がどう思うかわからんのやけど…。わしは絶対にあげたかったんや。これは最後の日に絶対渡そうと思ってたものなんじゃ。ここにも書いてあるけどな、帰ってから開けて欲しいんじゃ。もしいらんかったら捨ててくれ。」

 

富永さんは小さな小さな木の箱を私に差し出した。

その小さな小さな木の箱の蓋には『帰ってから開けて♡』と書かれたシールが貼ってあり、セロハンテープで蓋が閉じられていた。

 

「えぇ?!なに?これ?」

 

「まぁ帰ってから開けてくれ。のぅ。」

 

「えー!気になるー!なんやろ?…でも富永さんが最後の日に絶対渡したいって思ってくれた物やもんなぁ。中身知らんけど、それだけで嬉しいわ。ありがとうな。ほんまに。」

 

「わからんで。開けてみて有里がどう思うか知らんで。でも渡すわ。」

 

「んふふ。どう思うかな。」

 

「…有里。お疲れさん。」

 

「うん。富永さんもお疲れさまでした。いろいろサポートありがとう。」

 

「いや…。わしの力不足でな。有里ならもっと人気がでたやろうにのぉ。」

 

「あはは。そんなことないわ。私の力不足や。もっと店に貢献できたんやろなぁ。ごめんやで。」

 

「…のぉ。有里。」

 

「え?なに?」

 

「…辞めても会ってくれるかのぉ。」

 

富永さんはことさら小さな声で私に聞いた。

胸がドキンと鳴る。

 

「…んふふ。そうやね。会おうね。」

 

生きてたらね。と胸の中で言葉を繋ぐ。

 

「…ほんまか?連絡くれるか?」

 

「んふふ。うん。するよ。」

 

生きてたらね。

 

「そうか。わしはずっと待っとるで。ずっとやで。」

 

「うん。ふふ。わかった。」

 

「はぁ…よかった。安心したわ。よし!じゃあこの後送別会やからな!着替えてみんなで行こうか。」

 

「うん。ありがとう。じゃみんなに挨拶してくるわ。」

 

「そうやな。そろそろ控室の掃除も終わるやろ。」

 

「うん。じゃあ後で。」

 

「おう。後でな。」

 

富永さんが私に手を差し出す。

私は笑いながらその手を握り、握手をした。

富永さんは私の手をギュッと握り、「うんうん」と頷いた。

 

私はまだ少し流れていた涙を拭い、控室へと小走りで向かう。

女の子たちにもたくさんありがとうを言おう。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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