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理奈さんとの旅行から帰ってきてからも私はピルを飲み続けた。
このまま来月まで飲み続けてしまおうと思っていた。
が、ピルが1ヵ月分とあと少ししか手元にないことに気付く。
もうすぐピルがなくなってしまう。
出勤前にいつも行っている婦人科の病院に寄ってピルをもらおうと思っていたのだけれど、食べ吐きがひどくて毎日時間がギリギリになってしまう。
今日は行こう、今日こそは行こうと思いながら数日が過ぎた。
そしてとうとう手元にピルがなくなった。
とりあえず今日と明日はまだ生理がこないから大丈夫。
3日目はどうしよう。
そんなことを考えてお店に出勤した。
あれ…
そういえば…
ふと今まであまり考えていなかったことを考え始める。
今日ピルを飲まないじゃん。
そうすると、ホルモンが変わるんだよね?
てことは今日から『排卵』されるってことだよね?
てことは、明日とかあさってのまだ生理が来てないときに『中出し』されてしまったら…
妊娠してしまうってことなのかな。
え?
そうなのかな?
いやいやいや…
そんなことないでしょ。
そもそも『排卵』されてるかどうかもわからないし、ただ生理がきてるだけかもしれないもんねぇ。
いやでも…
私は頭の中でぐるぐると考えた。
今まで一度もそのことを考えなかった自分に驚く。
よくここまで無事にきたもんだ。
「まぁ…でも…みんな無事なんだし…そんなことあるわけないでしょ。」
自分で自分に言い聞かせる。
そもそも私の食生活はめちゃめちゃだし(食べ吐きガンガンやってるし)、酒だって飲んでるし、私が妊娠なんてするわけがない。
「ねぇ、あのさ、ピル抜いてる日に中出しされたら妊娠ってするん?」
私は控室で小雪さんとねねさんと理奈さんに聞いた。
「え?せんやろー。」
理奈さんが答える。
「え?するやろー。そりゃすることもあるんちゃう?」
小雪さんが答える。
「え?どうなんやろ?考えたことなかった。」
ねねさんが答える。
結局ほんとのところはわからなかった。
どうなんだろう。
もし妊娠したらどうするんだろう。
私は頭の片隅でそんなことを思っていた。
いやいやいや…
そんなことあるはずない。
そう打ち消した後、すぐに『妊娠したらどうしよう』という考えがやってくる。
そして『もし妊娠したら私どんな体験するんだろう…』とちょっと興味が湧いてしまう。
そんな疑問と不安と興味がない交ぜになった気持ちで仕事をしていた。
ピルが無くなって2日目。
3人目のお客さんに入った時、アクシデントが起こった。
「あ…?あれ?あれ?」
SEXが終わっておちんちんを抜いたお客さんが焦っている。
「え?どうしました?」
正常位でフィニッシュを迎えたお客さん。
私は焦っているお客さんの姿を見るために上半身を起こした。
「いや…コンドームが…」
私の股の間で正座の姿勢をとっているお客さんが引きつった顔で私を見ている。
「え?」
私はグッと起き上がり、お客さんのおちんちんを見る。
…コンドームがついていない…
「あ…あれ?中に入ったまんま?あれ?とれちゃったのかな…?」
まだ30代だろうそのお客さんは引きつった笑顔で焦っている。
「あー…たまにあるんですよ。大丈夫です。ちょっと待っててくださいね。」
私はお客さんのおちんちんを丁寧にティッシュで拭き、ベッドに座らせて股間にタオルをかけた。
とにかくお客さんを安心させなければとなるべく落ち着いた態度をとる。
そして私はお風呂場に行き、シャワーを流しながらお客さんから見えないような姿勢をとって膣内にはいったまんまのコンドームを指で掻きだした。
「有里ちゃん、大丈夫?」
ベッドに腰かけたままお客さんが心配そうに聞く。
「あー大丈夫ですよ!今取れましたぁ。たまぁにあるんですよ。」
私は笑いながらタオルで身体を拭き、お茶の用意をした。
「病気の検査も毎回してるし、ちゃんとピルも飲んでるから心配しないで大丈夫ですよ。」
ニッコリ笑って言う私。
いや、ほんとはピル飲んでないんだけど。
「あぁ…そうなんや。よかった…。」
あからさまに安心するお客さん。
まぁそんなもんだ。
中出しされてしまった。
意図的ではなくアクシデントだ。
こんなことでまさか妊娠するはずがない。
そりゃそうでしょ。
そんなはずはない。
その後、ピルを飲んでいないのに生理がくることはなかった。
くるはずの生理が、こない日々が私にやってきた。
『まさか』のことが私に起こっているらしかった。
つづく。
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