私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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ピルを飲まずに過ごすこと1週間。

お客さんのコンドームが私の膣内で取れてしまって結果的に中出しされてから6日。

生理はまだきていない。

 

私は焦ることもなく、もしかしたら体調が悪いだけかもと思っていた。

頭の片隅には『妊娠』の二文字がちらついていたけど。

 

それから数日後。

私は出勤前に毎日一回摂取していたダイエットサプリを飲んだ。

 

ななちゃんが海外通販で購入したサプリと筋トレでだいぶ痩せたことで、シャトークイーンの控室ではその海外通販のカタログからダイエットサプリを購入することが流行っていた。

常に痩せたいと思っている私はすぐにその話しにとびつき、その海外通販カタログで見つけた1箱2万円のサプリを買ってせっせと飲んでいた。

 

透明な小袋に青や赤や白の錠剤とカプセルが6個ずつ小分けにされているそのサプリを1日1袋飲むだけ。

それだけで痩せられると書いてあった。

 

1箱に30袋入っているそのサプリをもうすでに半分は飲んでいる。

痩せる効果はなかなかのもので、私はスッキリしたお腹と太ももにちょっとだけ期待をしていた。

 

いつものように小袋を開け、ガバッと口に入れて水で流し込む。

時計を見ると、まだ少しだけ出勤には早かったから「ふぅ」と言いながらソファーに座った。

 

…あれ?

ん?

なんだ…?

き…気持ち…悪い…

 

急に襲ってくる吐き気。

 

え?

なに?

ヤバい…

ガマンできない…

 

私は猛烈な吐き気に襲われ、トイレに行くのも間に合わず、キッチンの流し台に吐いた。

 

「おえーーー!!おえ…う…お、おえーーーーー!!!」

 

ついさっき飲んだサプリとお水がジャバジャバと口から出る。

 

ほぼ毎日食べ吐きをしている私は、口の中に何も突っ込んでいないのに吐けてしまったことに驚いていた。

たとえ体調が悪くて気持ち悪くても、多少何かを口に突っ込まなければ吐けない身体になってしまっていたはずなのに。

 

流し台の水道をジャージャー出し、私は自分の嘔吐物を流した。

 

「おえ…おえーー…うぅ…おえーー」

 

出てくるのは水だけ。

そしてそれに混ざってたまにポツンとさっき飲んだ錠剤がでてくるだけだった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

何となく吐き気が治まってキッチンの床に座り込む。

 

「はぁはぁはぁ…」

 

口のまわりがびちゃびちゃだ。

涙もボロボロと出た。

四つん這いで部屋のチェストまで行きタオルを出す。

 

口と顔を拭き「ふぅ…」と息を吐く。

 

ムカムカムカムカ…

 

さっきよりはいいけれど、気持ち悪さが続いていることに気付く。

 

…気持ち悪い…

 

私の頭の中に『つわり』という文字が浮かぶ。

 

そしてすぐに「いや、そんなはずはない」と打ち消す。

 

「さ。仕事行こう。」

 

私は何事もなかったかのようにそう言いながら玄関をでた。

小さな吐き気と共に。

 

 

私のそこはかとない吐き気は治まることなく、とうとうお酒も飲めなくなった。

ビールの匂いもウイスキーの匂いも焼酎の匂いもただただ気持ち悪さが増すだけだった。

 

ピルを飲まなくなって15日。

気持ち悪さもひどくなり、私はとうとう観念した。

 

私は控室で1人になると、部屋の片隅にあったタウンページをめくった。

 

『婦人科・産婦人科』のページをめくる。

 

私は滋賀県の病院には行きたくなくて、京都や大阪の病院を調べていた。

誰にもバレたくない。

もしかしたら妊娠してるかもしれないことを誰にも知られたくない。

 

私は大阪の九条という場所にある婦人科の番号を携帯に入力した。

なぜそこの病院に行こうと思ったのかはわからない。

気付いたら「ここに行こう」と手が勝手に動いていた。

 

お店の裏口から外に出て入力した番号に電話をかける。

 

もう2月だ。

滋賀県の冬はとても寒い。

控室に置いてあるブランケットを肩にかけ、私は電話の呼び出し音を聞いていた。

 

「ふぅー…」

 

緊張しながら息を吐くと真っ白だった。

 

「はい。○○婦人病院です。」

 

暗い小さな女性の声。

冷たい印象を受ける。

 

「あ…あの…お忙しい所失礼します。ちょっと伺いたいことがあるのですが…」

 

緊張する。

ただ聞くだけなのに緊張する。

 

「はい。どうぞ。」

 

抑揚のない声にますます緊張が高まる。

 

「あの、もしかした妊娠しているかもしれなくて…で、もし妊娠していたら中絶手術をお願いしたのですが…。どうしたらいでしょう?あと保険証をもっていなくて…あの…費用って幾らぐらいかかりますか?」

 

なるべく緊張を悟られないように冷静に話す。

『中絶手術』という言葉も淡々と言えたはずだ。

 

「あ、そうですか。それでしたら一度検査に来てもらわないとなんとも言えませんね。

でー…中絶手術ですが、保険がもともと効かないので実費になりますね。費用は11万円です。一度検査にいらしてください。いつ来られますか?」

 

電話の向こうの女性は慣れた様子で話しを進めた。

私はドキドキしながら一言一句聞き洩らさないように真剣に話しを聞いた。

 

「あ、はい。わかりました。えーと…明日伺います。大丈夫ですか?」

 

今日は月曜日。

明日は私の休みの日だ。

コバくんもいない日。

これなら誰にもバレないで行かれる。

 

「はい。明日は午後3時からの診療になりますが大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。では明日の3時に伺います。」

 

 

その後も電話の向こうの女性は淡々と事を進め、無事に病院の予約ができた。

 

明日、私は妊娠の検査をする。

初めての経験だ。

そしてそこでもし妊娠が確定したら私は中絶手術というものをすることになる。

 

 

今はまだ他人事のようだ。

わかることはこの気持ち悪さだけ。

 

明日私はどんな体験をして、どんな思いにかられるのだろう。

お店は何日休まなければならないのだろう。

もう2月だというのに、もうすぐソープ嬢の期間が終わるというのに、私は何日お店を休まなければいけないんだろう。

 

私は悲しむのだろうか。

私は自分を責めるのだろうか。

私は自暴自棄になるのだろうか。

 

もし悲しむならどんな悲しみだろう。

もし責めるのならどんな風に責めるのだろう。

もし自暴自棄になるのならどんなにめちゃめちゃになるんだろう。

 

「…嫌だなぁ…」

 

そう呟きながらもどこかで『明日の自分』を早く知りたいと思っていることに気付く。

 

どんな病院でどんなことを言われるのか。

病院の帰り道で何を思うのか。

 

私は『明日の私』に思いをはせる。

 

「…めんどくさいなぁ…」

 

そう言いながら控室に戻った。

この後常連さんの予約が入っている。

私は自分の席に置きっぱなしになっていたタウンページを部屋の片隅に「よいしょっと」と言いながら戻し、座椅子に座ってテレビをつけた。

 

「あははは。」

 

関西ではおなじみのタージンさんがめちゃめちゃしゃべっている。

そのしゃべりがウザくて面白い。

 

「あははは」

 

1人の控室で笑う私。

 

妊娠してるかもしれなくて、もしかしたら中絶手術をするかもしれないのに、私はテレビのタージンさんを観て笑うんだ。

 

泣いたり責めたり自暴自棄になったりしたって、きっと私はこうやってテレビを観て笑ったりするんだろう。

 

そんな自分が嫌だなぁと思っていた。

きっと他のみんなはもっと嘆き悲しんだりすんだろうなぁ。

 

「有里さん。有里さん。」

 

スピーカーから声が聞こえる。

 

「はい。」

 

「ご指名です。スタンバイしてください。」

 

「はーい。」

 

返事をした後「あはは」と笑う。

タージンさんはすごい。

こんな状態の私を笑わせるんだから。

 

「さ!行こう!」

 

私はちょっとだけ化粧を直し、サッと立ち上がった。

 

「上田さーん。もう行けるでー。」

 

ほんとは相変わらずめちゃくちゃ緊張しているのに、その緊張がバレないように上田さんに声をかけた。

 

私はこの後も個室に入って「あははは」と笑うんだろう。

お客さんと話しながら。

お腹には赤ちゃんがいるかもしれないのに。

 

 

 

つづく。

 

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