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理奈さんとの歴然とした差を見せつけられた私は、それからしばらく悶々とした毎日をおくった。
コバくんに話してみたけどうまく伝わらない。
コバくんも一生懸命聞いてくれるけど結局「ゆきえはゆきえのままでええやんか。焦らんでもええって。」という返事が返って来るだけだった。
その言葉は嬉しいものではあったけど、私のモヤモヤがスッキリするような言葉ではなかった。
そしてコバくんにうまく言葉にして伝えることができないもどかしさを感じていた。
お客さんとの距離感…
どうやったら縮まるんだろう…
私は時間の隙間が出来ると常にそのことを考えるようになっていた。
私の個室に入った瞬間から『異空間』を感じてもらいたい。
ここでしか味わえない“何か”を感じてもらいたい。
そうすれば有里ちゃんを忘れられなくなるんじゃないかな…
そんなことを考える様になっていた。
ただ、その『異空間』をどうやったら作れるのかはまるでわからなかったのだけど。
理奈さんは会った瞬間「理奈ワールド」へ引き込んでしまうような不思議な魅力がある。
決して派手ではないけど、じわじわとハマっていくような魅力だ。
私にはそんなものがあるのだろうか。
人は人のどこに魅力を感じるんだろう。
理奈さんは椅子洗いやマットが上手いわけでもSEXが特別すごいわけでもない。
フェラチオもほとんどしないと本人が言っていた。
ソープランドってSEXを売りにしてる場所でしょ?
“本番”ができるところが売りでしょ?
それなのに、そのソープランドという場所で人気がある人はSEXもソープランド特有の技もフェラチオすら売りにしていない人だった。
いろんなタイプのソープ嬢がいるけれど、特に突出して人気がある人は結局SEXや技だけを売りにしている人はいないんじゃないかと感じていた。
雄琴には伝説のソープ嬢が何人かいるとお客さんから何度も聞いたことがある。
そのうち3人が50代の現役ソープ嬢だ。
驚くのはその3人ともずっとナンバー1をキープしていること。
私は一度その50代のソープ嬢の方に会いたいと思っていた。
何がそんなに人を惹きつけるのか知りたかった。
本気でコンタクトを取ろうと思っていた時があり、富永さんに相談したことがある。
その時富永さんは「迷惑がられるだけやから止めておけ。有里は有里のやり方でやっていけばいいんや。」と言われた。
私はその言葉に負けた。
そうだよねぇ…。こんな小娘に会いたいって言われてもねぇ…と。
そんな時、50代のソープ嬢の1人『百合さん』に入ったことがあるというフリーのお客さんについた。
私は大興奮して「どんなでしたか?!教えてください!!」とくらいついた。
そのお客さんは伝説のソープ嬢『百合さん』のことをこんな風に言っていた。
「とにかくほんまに優しいんや。気遣いも自然だけどすごくてなぁ。あとマッサージがほんまに気持ちええんや。やっさしい綺麗なお母さんみたいな感じやなぁ。」
百合さんは50代半ばを過ぎてる方。
特に美人なわけではないけど綺麗にしているとそのお客さんは言う。
そして『とにかく優しい』と何度も繰り返していた。
「マットは?どんな感じですか?!」
とにかく知りたい。
人が人のどこに惹きつけられるのか知りたい。
その一心でくらいつく。
「うーん…特に何かすごい技があるわけやないで。でもなぁ、とにかく気持ちええんや。マットにも“優しさ”がでてるいうんかなぁ…」
…全くわからなかった。
一つだけわかったのは男性は『優しさ』を求めている人がたくさんいるんだってこと。
でもその優しさを出すにはどうしたらいいのかわからない。
「百合さんは年齢が年齢やからああいう接客ができるんや。有里ちゃんはまだ若いねんから百合さんみたいにやろうとしてもあかん思うで。若いときは若さを売りにしたらええんや。有里ちゃんは有里ちゃんやろー。」
そのお客さんは私にそんなことを言いながら指名してくれることはなかった。
「俺はもう指名せぇへんのや。もう指名はせぇへん。」
そのお客さんが何度もそう言ってたのが印象に残る。
よくよく聞くと、とある1人のソープ嬢に入れあげて結局振られるということがあったらしい。
「指名せんで楽しむっていうお客さんもぎょうさんおるんやで。」
毎回違う女の子と出会うことを楽しむ人もたくさんいるとそのお客さんは言う。
それはわかってる。
でも『指名はしない』と言っている人を惹きつけて指名させてしまうソープ嬢がたくさんいるのも事実。
私は“それは何故なのか?”を知りたい。
「有里は有里のやり方でやればええんや」
「ゆきえはゆきえのままでええんや」
「有里ちゃんは有里ちゃんやろー」
みんなそう言うけど、それが今の結果なら何かしなくてはいけないんじゃないかと思う。
そして焦る。
私には時間がない。
あと4ヵ月もないんだ。
私の目標は3月までに700万円貯めてK氏に返すこと。
その後は死んでも構わないと思っている。
(常にその覚悟は揺らいでしまうけど)
この世界に入った当初、指名の数や順位をまるで気にしていなかった。
毎日がびっくりすることだらけで、仕事を“ちゃんと”こなすことに精一杯だったから。
そんな私がいつの間にか『ソープ嬢』という仕事の難しさと奥深さに気付いてハマっている。
もどかしい。
答えがまるでわからなくてもどかしい。
嫉妬も焦りもとても心地悪い。
「うーーー!わからん!!」
私は1人の部屋で何度も頭を抱えて叫ぶ。
そして「私なりのやり方」が見つからないまま、お客さんにつく。
毎瞬毎瞬気が抜けない。
どこにお客さんとの距離を縮める突破口があるかわからないから。
そしてどこにお客さんの離れていくポイントがあるかわからないから。
「…今日もわからなかった…」
仕事が終わると自分の仕事の内容に納得できないもどかしい時間がやってくる。
頭も身体もクタクタだ。
そんな状況とは関係なく、お金だけはどんどん貯まっていく。
「3月までに何かわかるのかなぁ…」
頭の中は『指名』のことや『人の魅力』や『一体SEXってなんなんだろう』のことでいっぱいだ。
私にはきっと魅力がないんだ。
指名50本いかないのはそのせいだ。
どうやったら魅力を出せるのか。
技ももっと磨いた方がいいのか。
SEXのやり方も変えたほうがいいのか。
優しさってどう表現したらいいのか。
気づかいってなんだろう。
『個室内での90分間は自由演技』だとわかってから、難しさが増している。
何をやってもいいと言われるのって難しいんだ。
裸になる仕事って難しい。
そんなことにじわじわと気づいていっていた。
つづく。
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