私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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12月の頭。

ミーティングに出席するために私の休日である火曜日に店にきていた。

 毎月だいたい火曜日にミーティングが行われているのでもう休日に店に来るのは慣れっこだ。

 

「おはようございまーす。」

「おう。有里。おはよう。」

「アリンコー。おはよー。」

「おはようございます!」

 

シャトークイーンに来て4回目のミーティング。

店に入った時は高橋さんが仕切っていたのが懐かしく感じる。

 

「みんなそろったな。じゃ、始めるでぇ。」

 

今は富永さんがゆるくミーティングを進める。

 

「はーい。」

 

理奈さん、杏理さん、奈々ちゃん、あきらさん、私。

みんな気だるそうに返事をしている。

 

「そうやな。なんかあるか?」

 

さっそくみんなに聞く富永さん。

 

「なんもないで。」

 

理奈さんが笑いながら返事をする。

 

「おう。そうか。わしからは…まぁ加奈のことは…みんなしっとるやろ?もう言わんでもええな?あとは…」

 

「なんもないんやろ?あははは。」

 

富永さんが考えているとあきらさんが茶々をいれた。

 

「ん?まぁ…なんもないな。うん。」

 

「あはははは。」

「なんやそれぇ。」

「毎月それやんか!あははは。」

「ミーティングに集まる意味あるん?あはは。」

 

いつもはお客さんの待合室に使っている部屋が笑い声に包まれる。

高橋さんがいなくなってからのミーティングはいつもこんな感じだ。

 

「そんなことないわ!こうやってな、みんなが集まるいうことに意味があるんじゃ。な?上田。」

 

「ほーい。そうですねぇー。」

 

「なんや?その返事は!」

 

「ほほーい。」

 

「あっはははは!」

 

みんなダラダラと姿勢を崩しながら笑っている。

みんながリラックスしている。

 

 

「じゃ発表にいくか。」

 

 

富永さんがちょっとだけ姿勢を正す。

みんながその言葉に少しだけ緊張感をみせる。

 

「まず1位な。理奈。はい。お疲れさん。」

 

富永さんは理奈さんに『金一封』と書かれた封筒を渡した。

これも毎回のこと。

 

「あ、はい。ありがとう。」

 

こういう時理奈さんはすごく恥ずかしそうにする。

そそくさとその封筒を受け取り、引きつった笑いを浮かべる。

 

パチパチパチパチ…

 

まばらな拍手の中、私は思いっきり大きな音で拍手した。

これも毎回のこと。

 

「ちょっと!有里ちゃん!大きいわぁ。」

 

理奈さんが私の拍手を阻止しようと手を掴む。

 

「むうううう!」

 

私はその手を払いのけまたパチパチと大きな音で拍手をする。

 

「ちょっと!あはははは。なんやのぉー!やめてぇー!」

 

「あはははは!理奈さんはすごい!!すごいんやからたくさん拍手するんやー!」

 

「あはははは。」

 

「有里ちゃんなにやってるん?あはは。」

 

「私もー!」

 

奈々ちゃんが大きな拍手に加わる。

 

「ちょっとー!やめてぇー!」

 

「あはははは。」

 

理奈さんが恥ずかしそうにしている姿が可愛くてついやってしまう。

 

実際これはほんとにすごいことだ。

シャトークイーンに入って、4年間ずーーっとナンバー1を取り続けている。

そしてその本数が尋常じゃない数字。

 

理奈さんは雄琴村全体のソープ嬢ランキングで殿堂入りしているすごいソープ嬢だ。

その有名ソープ嬢が店のミーティングで恥ずかしそうにしている。

 

「もー!有里ちゃんほんまやめてやぁー!」

 

笑いながら私の肩をたたく理奈さん。

 

「あははは。ごめんごめん。だってさぁーすごいことやんかぁ。そりゃ大きな拍手もしたなるわ。」

 

 

ふざけあっていると、富永さんがまたちょっと座りなおして口を開いた。

 

「次いくでー。有里。2位や。」

 

富永さんは私に『金一封』の封筒を渡してれた。

 

「あ、はい。ありがとうございます。」

 

9月のミーティングの時からこの『金一封』を受け取ることができている。

でもいつも2位。

 

私は嬉しくもあり、悔しくもあるこの時間に戸惑う。

 

「有里は今月も指名40本以上とれれば来月から部屋持ちやからな。今月がんばってな。」

 

「あ、はい。がんばります。」

 

私は淡々と返事をした。

 

「有里ちゃんすごいやん。」

 

杏理さんが呟いた。

 

パチパチパチパチ…

 

まばらな拍手。

 

「ほんま。すごいなぁ。」

 

理奈さんが可愛らしく言う。

 

「あー…ありがとうございます。」

 

ペコっと頭を下げる私。

 

嬉しいよ。

嬉しいけどさ…

 

なんとなく心から喜べない。

 

「部屋持ちになるとなにかと楽やからな。それにハクがつくやろ?有里、がんばりや。

他のみんなも2人に続いてくれ。な。頼むわな。」

 

「はーい。」

 

気だるそうな返事が待合室に響く。

 

「じゃ、これでミーティング終わり。おつかれさーん。今月もよろしくなぁ。」

 

富永さんがそう言うと「どっこいしょっと」と椅子から立ち上がる。

 

 「おつかれさまー」

「終わった終わったー」

ゴハン食べよっかなぁー」

 

みんなそんなことを口々に言いながら控室に向かっていく。

 

「有里ちゃん、これからどこ行くん?」

 

理奈さんが笑顔で私に話しかける。

 

 

「んー…どないしようかなぁ。」

 

コバくんが一緒にいない、唯一の休日が火曜日だった。

私は毎週火曜日を心待ちにしていた。

私の自由にできるから。

でもその時間も夕方まで。

夕方になったら夕飯の支度をはじめなければならない。

コバくんがそれを楽しみにしているから。

 

「ちょっと控室で話していけばええやんか。」

 

理奈さんは毎回ミーティングの時にこうやって控室に誘う。

私はそれが嬉しくてつい控室に寄ってしまう。 

せっかくの1人の休日なのに。

 

「うーん…」

 

私が考えていると理奈さんは決まってこんなことを言う。

 

「有里ちゃんがいてくれると嬉しいな!ちょっと話していってくれたら嬉しいな!」

 

ふざけて甘えた声をだす理奈さん。

 

「もー!可愛いやんかぁー!ちょっと寄ってくわぁ。」

 

「あはははは。やったぁー。」

 

理奈さんが自然に私の腕を組む。

 

「さ!有里ちゃん、こっちこっち!」

「控室の場所しっとるわ!あはは。」

「あははは。知らんかと思ったわ。教えたるからなぁ。こっちやでぇ。」

「だから知っとるって!」

「あははは。」

 

こりゃ人気出るわなぁ…

 

そんなことを思う。

この独特の感じは理奈さんにしかだせない。

スッとこちら側に入ってくる感じ。

嫌味もてらいもなく、そして『いつの間にか』腕を組んでいる感じ。

 

私もお客さんだったら定期的に理奈さんに会いに来ちゃうと思う。

きっと理奈さんの個室内はセラピールームみたいになってるんじゃないかとさえ思う。

 

 

「あのさ…、部屋持ちってそんなにいい?」

 

控室に連れていかれた私は、隣でニコニコしている理奈さんに聞いてみた。

 

「ん?部屋持ち?楽やで。荷物毎回運ばなくてええし、毎回決まった部屋やしな。ある程度なら自分の好きなもので部屋を変えられるしな。」

 

『部屋持ち』とは自分専用の個室が与えられるということ。

部屋持ちじゃない女の子は毎回休みの前日になると部屋の私物を全部カゴに入れて撤去しなければならない。

大量のタバコ、お酒や飲み物、大量のコンドーム、コースターなどなど…

これが結構な量で、毎回大変な思いをする。

 

そして休み明けに店に出勤すると「部屋どこ使えばいいですかぁー?」とフロントに聞いてセッティングする。

つまり毎週部屋が変わることがあるということ。

 

部屋持ちになるには40本以上の指名を3か月間取り続けなけばならない。

 

「そうかぁ。そりゃ楽やんなぁ。」

 

「有里ちゃん、前の店で部屋持ちにならへんかったん?」

 

「あー…来月から部屋持ちですーってなったときに辞めてしまったんよ。」

 

「えーー!あははは!それすごいなぁー。」

 

「うん。めっちゃ気まずかったわ。」

 

「そりゃそうやろー。それにそんな時に辞める子ぉおらへんのちゃう?おもろいわー。」

 

 

『花』では部屋持ちになるという報告を受けた時に辞めると伝えた。

なんだか遠い昔の話しみたいだ。

 

 

「あ、あとな、お客さんも嬉しいみたいやで。部屋持ちになると。」

 

理奈さんが思い出したようにそんなことを言った。

 

「え?お客さんが?嬉しい?なんで?」

 

部屋持ちになるとお客さんが嬉しい…?

私には意味がさっぱりわからなかった。

 

 

「自分が応援してる子が部屋持ちになると嬉しいって言うとったで。あと、なんや優越感があるっていうとった人がおるわ。」

 

へー…

そんなことを男性は思うんだ…

 

「まぁ後毎回馴染んだ部屋に来るっていうのが落ち着くって言うてる人もおるで。」

 

なるほど。

そりゃ落ち着くわなぁ。

 

「有里ちゃんもう今月も余裕やろ?40本なんて余裕やろ?部屋持ちになれるなぁ。」

 

理奈さんがなんの疑問も持たずに「余裕やろ?」と言う。

そこには何の嫌味もなく、ほんとに純粋にそう思っているのが伝わってくる。

 

「あー…そうでもないでぇ。40本ギリギリちゃうかなぁ。まぁ部屋持ちになれたら嬉しいけどなれなくても別にええわ。」

 

先月の指名は45本だった。

ほんとにギリギリだ。

 

私はできれば部屋持ちになりたいし、できればナンバー1にもなってみたい。

でも今の私にはそんなこと言えない。

私はその思いをスッと心の片隅に追いやる。

 

「絶対いけるわ。有里ちゃんなら絶対いけるって。」

 

理奈さんが励まそうとしてる訳じゃなく、本気で言ってるのがわかる。

 

「まぁ…がんばるわ。それでさ、理奈さんは…」

 

私は理奈さんがお客さんにたいして気をつけていることや、指名を50本以上にするにはどうしたらいいか?や、彼がいなくて淋しくないのか?や、どんなタイプが好きなのか?を根掘り葉掘り聞いていった。

 

「有里ちゃんは質問がじょうずやなぁー!なんでもしゃべってしまうわぁ。」

 

ケラケラと笑いながら理奈さんがそう言った。

 

「え?!そうなん?!私はただ理奈さんに興味があるだけやで?!」

 

「いつもそう思ってるでー。今までこんなにたくさん自分のこと話せたのは有里ちゃんだけやぁ。もう!話させてぇー!」

 

理奈さんがふざけて私をドンと押した。

 

「えーー?!そんなことないやろー?!」

 

私は理奈さんのその言葉に驚いた。

 

私が…質問が上手で話させている?

 

「お客さんにもそうやって話し聞いてるん?」

 

理奈さんが笑いながら聞く。

 

「うー…ん…そうやねぇ。そうかもしれん。ていうか、それが普通やんか。理奈さんもそうやろ?」

 

「まぁそうやけど、私の場合はもっと軽い…というか、有里ちゃんほど質問もうまくないし、話しがすすまへんこともあるで。」

 

えー…

 

「きっと有里ちゃんのお客さんは話しを真剣に聞いてくれるし、質問をして話させてくれるのが嬉しいんやろなぁ。」

 

そう…なのか…?

それが普通のことでしょ?

来たお客さんに興味を持つのが普通のことだよね…?

 

「理奈さんはお客さんに興味持つでしょ?どんな人なのか知りたくなるでしょ?」

 

「うーん…おもろそうやったら興味持つけど…そうでもないなら別に興味もたへんで。

だから有里ちゃんみたいに話し聞かへんこともいっぱいあるで。」

 

意外だった。

理奈さんの口からそんな言葉が出てきたのが意外だった。

 

「有里ちゃんの魅力はそこなんやろなぁ。」

 

そう言われたことも意外だった。

 

確かに私は個室内でお客さんを好きになる。

自分の話しをしてくれるとその人の内部が垣間見え、なんだかとても愛しくなってしまう。

もちろん乱暴だったり話してくれないお客さんは好きにはならないけど。

 

私はこの仕事を割と好きだと思っていた。

体力的にも精神的にも大変な仕事だし、毎回気が狂いそうなほど緊張をする。

それでもお客さんと心が通い合ったような時間があると「うおー」と感動するほど嬉しい。

 

「有里ちゃんはそのやり方でファンを増やしていけばいいんよ。そんな子なかなかおらんのやから。」

 

理奈さんがニコニコしながら言い切った。

 

「う…ん。そう…なのかなぁ…。」

 

まだ腑に落ちない。

そう言ってくれたことは嬉しいし、そうなのかもしれない。

でも私には時間がない。

あと4ヶ月しかないのだ。

 

「ありがとう理奈さん。旅行のことも考えような。じゃ、私もう行くわ。」

 

「え?!もう行っちゃうん?淋しいなぁー。そうやね。旅行の日程まず決めような。」

 

「うん。ほんまありがとう。また!」

 

「うん。ほななー。」

 

 

私の魅力…

私のウリ…

私が指名を増やすには…

 

指名数2位をとっても、もうすぐ部屋持ちだと言われても、なんだか心から喜べない。

きっとそれは今までの指名の内容に納得してないから。

 

私の何がよくてお客さんが指名してるのかわからない。

いままで40本以上指名がとれたのはまぐれだと思った。

 

50本以上の指名をとるにはなにか大きな壁があるように感じていた。

 

まぐれではいけない数字だな…

 

どうせ死ぬならとことんまでやって死にたい。

達成できるかどうかわからないけど逃げ出さずにとことんまでやって死にたい。

 

「…がんばろう…」

 

そう言いながらシャトークイーンを後にした。

 

K氏に会いに行くまであと4ヶ月を切っている。

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

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147 - 私のコト

 

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