私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「有里ちゃん。今日な、私のお客さんのお連れさんが有里ちゃんを指名してくるから。よろしく頼むわぁ。」

 

12月のある日、理奈さんが出勤したばかりの控室で私にそう言った。

 

「え?そうなんや。うん。こちらこそよろしくお願いします。」

 

私はぺこっと頭を下げた。

 

「ずっと指名で来てくれてる常連さんがな、たまにお連れさん連れてくるんやけどなかなか気に入った子ぉおらんくて。今日は久々にそのお連れさんが来る言うから有里ちゃんのこと紹介してしまったわ。勝手にごめんやでぇ。」

 

理奈さんはなぜか恐縮しているような態度をみせた。

紹介してくれたのに「ごめんやでぇ。」とほんとにちょっと申し訳なさそうにする理奈さんの姿を見て、『この人ほんとに天狗にならない人だなぁ』と感心する。

 

「いや!なんで謝るん?紹介してくれてありがとうやろー!ほんま、ありがとうね。

気に入ってもらえるかどうかはわからんけど頑張るわ。理奈さんの大事なお客さんのお連れさんやもんね。」

 

なんとか気に入ってもらわなければと思い緊張が走る。

 

「絶対大丈夫やわ。有里ちゃんなら絶対気に入られるわ。多分15時ごろ来るからな。よろしくお願いします。」

 

理奈さんが頭を下げる。

 

「はい!頑張ります!」

 

私も頭を下げてそう言った。

 

「あはははは。」

「あはははは。」

 

顔を上げて二人で笑い合う。

 

私はこのやりとりがなんだか嬉しかった。

ちょっとだけ理奈さんレベルのソープ嬢の仲間入りができたような気がして。

 

 

そんな会話をした後、12時過ぎにその日の一本目のお客さんに入った。

そのお客さんはシャトークイーンに入ったばかりのころから指名をしてくれている常連さん。

いつもマスカットや巨峰をお土産に、箱で大量に持ってきてくれる人だ。

 

 

「有里ちゃん。葡萄ってどこが一番甘いか知っとるか?」

 

「先っぽか根本かどっちが甘いと思う?」とそのお客さんは毎回聞く。

 

「もー!前もそれ聞いたやんかぁー!えーと…あれ?どっちだっけ?」

 

私は毎回どっちだかわからなくなる。

 

「ほらぁー!だからぁ…ま、食べてみぃ。ん?どっちが甘い?」

 

これも毎回のこと。

 

私は立派なマスカットや巨峰をお風呂場の水道で洗ってお皿に出す。

そして根本と先っぽを食べ比べる。

 

「んー!全然違う!」

 

実際ほんとに甘さが全然違う。

 

「そうやろ?これ、知らんヤツいっぱいおんねん。」

 

そのお客さんの実家は岡山の葡萄農園で、いつも頂くマスカットはかなりの高級品だった。

 

(根本と先っぽ、どちらが甘いか知ってますか?)←*有里ちゃんからみなさんへ質問です。*

 

 

「有里ちゃん。酒飲もうや。」

 

そのお客さんはいつも90分間のほとんどを酒を飲んで過ごす。

口数が少ないその方は飲みながら私の他愛もない話しを聞くのが好きなようで、私の日々のやらかした話しをつまみに酒を飲む。

そして時間の中盤か最後の方でお風呂に入って優しいSEXをして帰っていく。

 

「そうやね!飲もう!」

 

私は笑顔でビールを注文する。

 

でも今日はこの後理奈さんの大切なお客さんのお連れさんをお相手しなければならない。

いつもならこのお客さんと「わっはっはー!」と言いながら酒を飲んでしまうのだけれど(ほんとはダメだよねぇと思いながら)、今日はちょっと考えなければ。

 

「かんぱーい!」

 

ゴクゴクとビールを飲み干しながら、どうやったらあんまり酒を飲まずにいられるかを考える。

酒飲みは一緒に飲んでくれないと淋しがる習性を持ち合わせるものだと思う。

このお客さんもそう。

 

「有里ちゃん。もっと飲もうや。」

 

ビールの小瓶をスッと差し出す。

 

「うわー!ありがとうございまーす!美味しいですねー!」

 

思ってないことを口にする。

 

どうしようかなぁ…

 

私は何か策を考えなければと思い、「あ!」と思いつく。

 

「あー!私この後水割りにしまーす!○○さんはどうします?」

 

「え?あ、じゃあ俺も。」

 

いつもビールを飲み続けるお客さんをウイスキーの水割りに誘う。

ウイスキーの水割りなら自分で濃さを調節できる。

 

私はなんとか薄い水割りでごまかして、お客さんを上機嫌で帰すことができた。

 

「有里ちゃん、また来るわー。」

 

いつも通り優しく可愛らしいSEXを終え、すっきりした笑顔で帰って行った。

 

 

「…ふぅ…さてと…」

 

時間は2時。

あと1時間で理奈さんのお客さんのお連れさんがやってくる。

 

緊張するなぁ。

もし気に入られなかったらどうしよう。

もし気に入ってもらえなかったら理奈さんがせっかく紹介してくれたのに応えることが出来なかった自分を責めまくるだろう。

 

うぅ…

怖い…

 

私は自分で勝手につくりあげたプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

 

「理奈さん、いらっしゃるお客さんってどんな方なん?」

 

私は控室に戻ってから理奈さんに聞いた。

 

「私のお客さんが会社の社長さんで、お連れさんはその会社の常務?だったと思うで。

すごい優しいおじさんやでー。私のお客さんは山田さん言うねんけど、有里ちゃんを紹介したおじさんは柳原さん。山田さんもいい人やし、柳原さんも優しいいい人やで。」

 

私は理奈さんの話しを聞いて「ん?」と思う。

 

「なんで理奈さんが柳原さんのこと知ってるん?柳原さんにも入ったことあるん?」

 

ソープランドは個室で接客をする。

連れのお客さんと顔を合わせることはないはずだ。

そしてだいたいのお客さんは自分のお気に入りの子を連れに紹介して入らせるようなことはしない。

自分のお気に入りは自分だけのものだから。

なのに理奈さんが柳原さんのことを知ってることに疑問を感じていた。

 

「何度も一緒に食事に行ってるからなぁ。いつもいいところに連れて行ってくれるんや。私も山田さんなら安心して外で会えるんやぁ。柳原さんはだいたいお食事のとき一緒に行くんやでぇ。」

 

理奈さんがニコニコしながら私の質問に答えた。

 

「あーそうなんやぁ。外で会っても大丈夫なん?SEX求めてけぇへんの?」

 

私は中川さんのことを思い出して嫌な気分になる。

 

「え?そんなんないでー。そんな人とは外で絶対会わへんしな。ただ食事してお酒飲んで帰るだけや。ちゃんとタクシー代もくれるしな。」

 

…さすがだな…

 

「そうかぁ…。なんか緊張してきたわぁ。」

 

私は正直に理奈さんにそう言った。

 

「大丈夫やって。来たらみんなで私の部屋でちょっと飲もうや。」

 

え?

理奈さんの部屋で?

みんなで飲む?

 

「え?個室から移動してもいいのん?お客さんも一緒に?」

 

私はそんなことを一度もしたことがないし、一旦お客さんと個室に入ったら出てはいけないと思い込んでいた。

 

「え?よぉやるで。お客さんをそれぞれ案内したらあとで有里ちゃんの部屋ノックするわ。」

 

「えー…うん。なんか楽しそう!」

 

「おもろいで。ゆったりやろうなぁ。」

 

余裕の笑顔をみせる理奈さん。

やっぱり私はこの人にかなわない。

 

 

「理奈さん、有里さん。」

 

控室のスピーカーから富永さんの声が聞こえる。

 

「はい。」

「はーい。」

 

2人で答える。

 

「ご指名です。スタンバイお願いします。」

 

「はーい。」

「はーい。」

 

「来たな。じゃ準備しよか。」

 

理奈さんがサッと立ち上がりトイレに行く。

 

「うん。」

 

私は答えてから化粧を直す。

 

なんか面白くなりそうだ。

理奈さんの個室にあとでみんなで集まるというだけでなんだかワクワクする。

 

緊張とワクワクが入り混じった気分が心地いい。

 

「ふっ…」

 

化粧を直しながら思わず笑いが出る。

 

こんな体験してる22歳の女が他にいる?

毎日が辛くてしんどいし、私はまだまだ自分が嫌いで消えてしまいたくなる時がたくさんあるけど、この体験は面白いよね。

 

「ふふっ…」

 

変なの。

 

私は緊張しながら笑っていた。

 

この後に始まる時間がどうなっていくかが楽しみになっていた。

 

 

つづく。

 

 

 

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148 - 私のコト

 

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