私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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私はしばらくさつきさんを観察していた。

さつきさんの動きがあまりにもスローで、しかもおどおどとしているのが気になったからだ。

 

猫背の姿勢でテレビをボーっと観ていたかと思うと、急に「あ…あの…」とおどおどとしながら私に話しかけてくる。

そしてその要件が終わるとまた猫背での姿勢でボーっとテレビを観る。

何度かそれを繰り返した時、私はさつきさんに質問をしてみた。

 

 

「さつきさんは…どうしてこの仕事をしようと思ったんですか?」

 

初対面でこの質問はどうなんだろう?と思いながらも、なんとなくさつきさんなら大丈夫のような気がした。

 

「え…?あと…あの…」

 

さつきさんは下を向いたり横を向いたりしながらもごもごと口を動かした。

 

「あー…言いたくないですよねぇ。いきなりすいません。」

 

私はそのおどおどもごもごの姿がいたたまれなくなり、聞いたことを謝った。

 

聞いちゃまずかったか…

 

そう思っていた時、さつきさんが急に話し出した。

 

「あの…主人に…暴力をふるわれて…それで、あの…私が全部悪いんですけど…ずっと暴力をふるわれてて…それで家をでてきちゃって…でもお金ないし、住むところもないし…その時に求人誌を見つけて…それでTELしたのがここだったんです…」

 

しゅ、主人!!

結婚してたの?!

そして暴力!!

 

 

「え?!うわぁ…それは…大変でしたねぇ…じゃ着の身着のままって感じで出てきたんですか?今住むところはあるんですか?」

 

思いがけずセンセーショナルな話しで驚いた。

あんな「えへへ…」と笑っている人にこんな出来事があったなんて思わなかったから。

 

「え…と、はい。ほんのちょっとだけお金を持ってきていたので…富…?岡さん?でしたっけ?に住む場所を見つけて頂いて…近くのアパートなんですけど…そこに住んでます。すごく良くしてもらって…ほんと助かりました…えへへ。」

 

さつきさんはすごくゆっくりとした口調で自分のことを話した。

その話し方は感情があまり入ってなく、『ただ一生懸命話している』という感じだった。

 

「はー…そうなんですか…。でも、その旦那さんから逃げられてよかったですね。怖かったでしょう?」

 

男性から暴力を受けるなんて考えただけで怖い。

しかも自分の旦那さんからなんて。

 

「あー…えへへ…でも私が悪いから…まだここに痣もあるんですよぉ。」

 

さつきさんはワンピースの裾をゆっくりめくって太ももを私に見せた。

そこには少しどす黒さを帯びた青あざが痛々しく残っていた。

さつきさんの抜けるように白い太ももに存在する青あざは、私の目にかなり強烈に映った。

 

「うわ…うわぁ…」

 

言葉がそれ以上でなかった。

 

「すごいでしょ?顔に残らなかったから…まだよかったけど…」

 

さつきさんは「えへへ」の顔でそう言った。

 

「…ふぅ…でも…このお仕事…大変そうですね…有里さんはもうどれくらいやってるんですか?」

 

さつきさんが私に質問をしてきた。

私はさっきの青あざが脳裏から消えず、まだショックを受けていた。

 

「あ…えーと…まだ4ヶ月くらいです。まだまだやり始めたばかりです。」

 

なんとか冷静に答える。

 

「へぇ…すごいなぁ…4ヵ月かぁ…どう…ですか…お仕事は…」

 

さつきさんは首をかしげながらおどおどとさらに質問をしてきた。

 

「うーん…そうですねぇ…。私にとってはとても難しい仕事です。楽しい時間もありますけどねぇ。毎日悩んでます。でもここは親切な人ばかりだし、お店は楽しいですよ。」

 

相変わらず私は毎日悩んでいる。

お客さんに入る度に落ち込んだり反省したりする毎日だ。

 

「そう…ですねぇ…親切ですよねぇ。難しい…。そうなんだ…何が難しいんですか?」

 

「え?何が難しい?えーと…」

 

咄嗟に答えが出てこない。

この仕事の難しさってなんて答えたらいいんだろう?

 

 

「そうだな…。人間…って難しくないですか?」

 

私はそう答えていた。

こんなことを言ったのは初めてだ。

 

 

「人間…?て…難しい…?」

 

 

さつきさんはキョトンとした顔で私を見た。

よくわかってないみたいだ。

 

「はい。人間…の難しさを感じてますねぇ…。いや、細かく言ったらいろいろあるんですよ!マットも難しいし、椅子洗いも難しいし、会話?も難しいし。全部難しいっすよ!」

 

わかり辛かったと思い、わざと少しだけふざけながら答える。

するとキョトンとしていたさつきさんの顔が少し緩んだ。

 

「あー!難しかったです。あれは…私にはできません。ぜんぜんできませんでした。どうしよう…。ほんとにできなかったんです。なのに研修終わってしまって…どうしよう…どうしよう」

 

さつきさんは焦ってる様子もなく、ただ「どうしよう」をゆっくりとした口調で何度も言った。

 

「まぁ…お客さんには新人だって言ってくれますし…それを承知で来るお客さんしかつけないと思うんで大丈夫だと思いますよ。許してくれますよ。さつきさんなら。」

 

私は本気で「どうしよう」とは思っていないであろうさつきさんに、一応安心させるような言葉をかけた。

 

「そうかなぁ…。でも有里さんがそう言ってくれるなら大丈夫ですね。えへへ。」

 

 

安心すんのはやっ!

 

私はこの短いやりとりでさつきさんの『天然っぷり』をひしひしと感じていた。

というか…これは『天然』と呼んでいいのだろうか?と疑問も感じていたけど。

 

会話もあまりスムーズじゃないし、いちいちおどおどしたりきょとんとしたりするさつきさんを正直ちょっとだけウザいと思っていた。

 

でも…こういう女の子が男性にうけたりするんだよなぁ…。

 

心のどこかでそれが許せない自分がいる。

なんだかイライラする。

 

 

「有里さん。有里さん。」

 

 

その時、スピーカーから声が聞こえた。

 

「はい。」

 

「ご指名です。スタンバイお願いします。」

 

「はい。」

 

 

指名?

誰だろう?

 

「わぁ…有里さんすごい。指名ですねぇ。」

 

さつきさんが首をかしげながら私に言った。

なんだかムカッとする。

なんだろう?

このムカつく感じ。

私は私の器の狭さを恥じた。

 

「たまたまですよ。全然すごくないですよぉ。」

 

ムカつきを隠し、笑顔で答える。

この人はご主人の暴力から逃げてきた人だ。

大変な目にあってきた人なんだからムカつくなんて失礼だ。

 

「有里さん。いってらっしゃい。」

 

猫背で首をかしげながらさつきさんはそう言った。

 

「はい。いってきますねー!」

 

なんとか笑ながら控室を出て行く。

なんだか不愉快だ。

なんだろう。

 

 

 

ひざまづきお客さんを待つ。

 

誰だろう?

あの人かな?

この間のあの人かな?

 

ドキドキしながら指名のお客さんの予想をする。

さっき上田さんが渡してくれたチケットには名前が書いていなかった。

 

待合室からお客さんの足が見える。

 

サッと頭を下げて「いらっしゃいませ!」と言いながら顔を上げた。

 

 

「有里ちゃん。来たで。」

 

 

そこにはニヤニヤにこにこしている中川さんがいた。

 

「あ!中川さん!」

 

 

もう来ないだろうと思っていた中川さんが私の目の前に立っていた。

 

「行こうか。」

 

中川さんは私の腰を抱きながら階段を上がった。

 

なんだか気まずい感じがする。

私はこの居心地の悪さを感じたまま90分間を過ごすのだろうか。

 

 

つづく。

 

 

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106 - 私のコト

 

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