私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

179

 

若干ふらふらする足取りとボーっとする頭をなんとかごまかしながら電車を乗り継ぎ、やっとの思いで比叡山坂本駅に辿り着いた。

 

コバくんには回らない頭を駆使しながらこんなメールを送っておいた。

 

残業大変やなぁ。

私の体調は…まぁまぁかなぁ。

 

コバくんには申し訳ないんやけど、何日間かちょっと一人で過ごしたいんだ。

どうしても誰かがいると気を使ってしまう自分がおるんよ。

体調が悪くてもどうしても無理してしまうから、ちょっとの間だけ一人で過ごしたいんだ。

いいかな?

今日はとりあえず実家に帰ってくれる?

ごめんやで。

 

お仕事がんばって。

お疲れさま。

 

これを読んだらコバくんは相当なショックを受けるだろうと思いながらも送ってしまった。

返事はまだない。

仕事が忙しくてまだ読んでいないのか、それともなんて返事を書いたらいいかわからず迷っているのか…。

 

もっと気の利いた文面を考えればよかったのかもしれないけど、今の私はこれが精一杯だった。

 

途中に平和堂に立ち寄り、これから数日間の買い物をしようと思い立つ。

ただふらふらなのでたくさんの荷物は持てない。

どうしようかと考えながら買い物をする私。

目の前がぼんやりとする。

人がまばらな店内がとても寒々しい。

 

あぁ…

私は何を買えばいいんだろう…

 

ふらふらと平和堂をさまよいながら、結局私はお水とポカリスエットとビールをカゴに入れた。

 

お腹…は…空いていない。

でも後でお腹が空いたらどうしよう。

家に何かあっただろうか。

 

ふらふらともう一度さまよい、私はおにぎりを2個カゴに入れた。

 

レジでお金を払い、袋に詰める。

 

重い…

買った荷物を持つと、結構な重さに感じた。

普段だったらどうってことない重さなのに。

 

ふらっとした足元をふと見る。

 

なんで私は今日もヒールを履いているんだろう。

中絶手術に行くにもヒールを履いてしまう自分に嫌気がさした。

 

ふらふらと歩きながらなんとか部屋に着き、ドアを開ける。

すぐにソファーに倒れこみたい衝動を抑え、買って来た水やポカリスエットやビールを律儀に冷蔵庫に入れる自分がとても嫌だ。

 

レジ袋をくるくると丸め、ギュッと結ぶ。

コートを脱ぎ、ハンガーにかける。

洋服を脱いでタイツを脱ぎ、部屋着に着替える。

洗濯カゴに服とタイツを入れ、カバンをいつもの場所に置く。

 

早く寝っ転がりたいのに、早くバタンと倒れこみたいくらいしんどいのに、それをやらない自分。

もっとぐっちゃぐちゃなままバターンと倒れこみたいと思っているのにやらない自分。

淡々といつものような動きをしている自分が嫌で嫌でたまらないのにやめない自分がいた。

 

嫌だ。

嫌いだ。

こんな私を私はとても嫌いだ。

 

「ふぅーーー…」

 

私はやっとソファーにバタンと倒れこんだ。

 

天井を見上げる。

右手をおでこの上に乗せる。

下腹の鈍い痛みともいえない不思議な感覚が私を襲う。

 

さっきまで私はどこにいたんだろう。

そして何が行われていたんだろう。

 

頭がボーっとしてとろとろとした眠気が私の瞼を閉じようとしている。

お布団で眠りたい。

 

私はベッドにノソノソと向かい、もぐりこんだ。

ベッドに入ってすぐにとろとろとした眠気に負け、私はまた眠ってしまった。

 

 

 

どれくらい時間が経っただろう。

目ざめて時計を見ると、夜中の3時だった。

 

私はふらふらとトイレに行き、おしっこをして部屋に戻った。

キッチンの辺りでもう一度ベッドに戻ろうかソファーで過ごそうか迷っている時、ふいに私の中に“何か”が起こった。

 

う…

 

お腹から喉にかけて、ひどく締め付けるような“何か”がこみ上げる。

 

うぅ…

 

胸を締め付けるような“何か”。

 

うううぅぅ…

 

私はキッチンの前の床でしゃがみ込んだ。

 

「うううう…ううぅぅぅぅ…うわーーーーーー!!」

 

自分でも驚くような嗚咽が部屋に響く。

 

「うーーーー!!うわーーーー!!うわーーーーーー!!ああーーー!」

 

気付くと私は声をあげて泣いていた。

 

「うわーーーー!!うわーーーー!わーーーーー!!」

 

胸の辺りを掻き毟りながら床にぺたりと座り込み、私は泣き叫んでいた。

 

別に悲しいなんて思っていない。

別に傷ついてなんかいない。

どうってことない出来事だ。

ただちょっと身体がしんどいだけ。

 

そう思っていたはずなのに、私は気付いたらありえないほどの嗚咽をあげて泣いていた。

 

泣きながら床に寝っ転がる私。

嗚咽が治まり、仰向けになって余韻の涙を流す。

 

「うぅ…う…うぅーー…」

 

ボロボロとながれる涙をわざと拭わず、ぐちゃぐちゃなままにする。

 

私、なんでこんなに泣いているんだろう。

何が私に涙を流させるんだろう。

 

悲しいとも思っていないし、辛いとも感じていない。

中絶手術をしたことを悔やんでもいない。

なのに私の目からはボロボロと涙かこぼれて止まらない。

 

「はぁーーーー!!」

 

大きなため息をつき、起き上がってソファーに移動する。

そしてソファーにゴロンと寝っ転がった。

 

あ。と気づき、涙が止まらないまま携帯のメールをチェックする。

コバくんからの返信。

「ふぅ…」とため息をつきながらメールを開けた。

 

ゆきえ。

大丈夫か?

俺がいるといろんなことやらなきゃいけないもんなぁ。

俺ゆきえみたいにできひんし。

すっごく心配やけど、ゆきえがそれのほうがゆっくりできるなら実家にしばらくおるよ。

でも約束してほしいんやけど、必ず毎日連絡してや。

俺からも連絡していいって言うて。

これ約束してほしい。

あと助けてほしいことあったらちゃんと言うてや。

俺すぐに飛んで行くから。

あ、『飛んで』は無理やった。

 

めっちゃ淋しいけど、ゆきえの言う通りにする。

ゆっくり休んではよ元気になってな。

明日連絡するわ。

電話していい?

電話出れんかったら…淋しいけどええから。

 

俺、ゆきえのことめっちゃ好きやねん。

だから、えーと…

それだけ!!

 

また明日。

おやすみ。

 

 

コバくんのメールを読んで私はまた涙がボロボロこぼれた。

 

「う…うぅ…」

 

この人のことを心から好きになれたらどんなにいいだろう。

この人と同じくらい、素直に人を好きになれたらどんなにいいだろう。

 

私にはできない。

 

お腹にやどった赤ちゃんでさえ愛しいと思えない私。

中絶するのに何の躊躇もなかった私。

こんなに優しくしてくれる男性に嘘をつきまくる私。

家族になんの連絡もとらずソープ嬢になって、もしかするともうすぐ死んでしまうかもしれない私。

食事を普通に摂れない私。

私が大嫌いな私。

 

「はぁーーー…」

 

また大きなため息をついて、右手をおでこに当てる。

 

このまま無くなってしまいたい。

私は私から逃げたい。

 

「うぅ…」

 

ボロボロと涙を流しながら、私は夜が明けるまでソファーで寝っ転がりながら天井を見つめ続けた。

 

コバくんからの電話がいつかかってくるかが気になる。

電話に出れなくなるから眠ってはいけないような気がして、結局いてもいなくても私は気を使うことになるのかと嫌な気持ちになった。

 

今日からの数日間、仕事にも行けずこの部屋で休まなればいけないことに怖さを感じていた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

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はじめに。 - 私のコト

178

 

フ…

 

目がうっすらと開き、ぼやけた視界に病室の天井が映る。

 

「あっははは」と遠くからおばさんたちの笑い声が聞こえる。

 

え…と…

ここは…どこだっけ…

 

だんだんはっきりとしてくる視界。

無機質な風景が私の記憶をよびさます。

 

あぁ…そうか…

 

白いシーツのかかった掛け布団が顎にあたる。

ふと足元を見るとベッドの周りにひかれていたカーテンが開いている。

病室のドアが開いていて、廊下の向こうの部屋のドアも開け放たれている。

おばさんたちの笑い声はその部屋から聞こえてきているようだった。

 

あぁ…

もう帰らなければ…

 

何故かあんまり長居しては申し訳ないと思い、ベッドからフラフラと立ち上がる。

まだ頭がはっきりしない。

足元もおぼつかない。

でもここに長く居てはきっと迷惑だ。

早くここから出ないと。

 

私は着てきていた洋服をバックから取り出し、病衣を脱いで着替え始めた。

フラフラする。

股の間に大きな脱脂綿のようなものがあてがわれている。

これはどうしたらいいんだろう?

とりあえずこのままで下着を着けよう。

 

なんとか着替え終えた私は、ふらふらする足取りで病室を出て廊下の向こうの部屋の前でおばさんに声をかけた。

 

「あの…もう帰ります…ありがとうございました…」

 

部屋のドアに手をかけ、寄りかかりながら声をかける。

部屋の中からおばさん数人が「え?!」と振り返った。

 

「ちょっと!まだふらふらするんやろ?そんなんで帰られへんやろ?もうちょっと寝ていきなさい。ね?」

 

1人のおばさんが私のそばに駆け寄り、私の腕を持ちながらそう言った。

おばさんは私の行動に驚いているようだった。

 

「痛みには弱いのにねぇ…」

「急に帰るなんてなぁ…」

「どうしたん?あの子」

 

部屋の奥で他のおばさんたちがそう言っているのが聞こえる。

 

あぁ…

そうか。

私はまだ帰れるような状態じゃないんだ。

 

「あ…はい…そう…ですね…」

 

おばさんにふらふらとする身体を支えてもらい、病室に戻る。

 

「ほら。横になって。もう少し寝て行きなさいね。時間は気にしなくてええから。」

 

おばさんは私を洋服のままベッドに寝かせ、白いノリの効いたシーツのかかった掛け布団を私の上にそっとかけた。

 

「あぁ…はい…」

 

返事をしながら、もう目が閉じていく。

 

身体が思うように動かない。

早くここから出たいのに帰る事すらできない。

ベッドに横たわった瞬間、安堵を感じている自分に腹が立つ。

情けない。

私は情けない奴だ。

 

とろとろともう一度眠りにつき、私は夢を見た。

 

赤ちゃんを抱いている夢。

ふんわりと温かい赤ちゃんを抱っこしてる私。

その温かさに一瞬顔がほころぶ。

「うわぁ。かわいいー」とつい口にでた次の瞬間。

赤ちゃんを見るとまるで可愛くない顔。

そして顔色がどす黒い。

「なにこれ?!ぜんっぜんかわいくない!!」

私はそう思ってしまう自分を責める。

私は自分の赤ちゃんを可愛いと全く思えない欠陥のある女なんだ。

どうしよう。

どうしよう。

産んでしまったのにどうしよう。

こんな可愛くない、いや、むしろ気持ち悪い子を産んでしまってどうしたらいいんだろう。

私はこの子をどうしたらいいんだろう。

そして我が子を可愛いと思えない、醜いと思ってしまう私はこれからどうしていったらいいんだろう。

赤ちゃんを抱きかかえながら右往左往する私。

この子を殺してしまうかもしれない。

この子を捨ててしまうかもしれない。

どうしよう。

誰か助けて。

いや、こんなこと誰にも言えない。

どうしよう。どうしよう。どうしよう……

 

 

ハッと目覚めると私は涙を流していた。

 

あぁ…

夢だったんだ…

 

ハラハラと流れる涙。

目はただただ見開いている。

 

…今度こそ帰ろう…

 

目を見開いたまま涙を拭い、私はゆっくり起き上がった。

 

その時、病室のドアの横でおばさん看護師さんが私に声をかけた。

 

「起きた?もう夜の7時やけどー。もう帰れる?」

 

病室の時計を見るともう19時を少し過ぎていた。

 

「あ…はい…帰れます。」

 

私はゆっくりとベッドから立ち上がり、さっきよりしっかり足が着けることを確認して安堵した。

 

「じゃ支払いしてもらうから、荷物まとめて受付に来てねー。」

 

おばさんはサバサバとした口調で私にそう言った。

 

「あ、はい。」

 

私は淡々と荷物をまとめ、ゆっくりと自分の足取りを確認しながら受付へと向かった。

 

「大丈夫?帰れそう?」

 

受付の窓からおばさんが顔を出し、私に聞いた。

 

「あ、はい。大丈夫です。」

 

そう答えた時、奥の診察室からおばあさん先生がガチャッとドアを開けてやってきた。

 

「どう?大丈夫?痛みは?」

 

腰の曲がったおばあちゃん先生はゆっくりと歩きながら私に聞く。

 

「あぁ…先生。ありがとうございました。痛みは…ないです。」

 

「出血は?してた?」

 

「あ…そんなにはしてないかったです。」

 

私はさっき見た股に挟んであった脱脂綿のようなものを思い出し、そう答えた。

じっさい出血はほとんどしていなかった。

 

「そうか。じゃ気をつけて。1週間後にまた来てくれる?経過見たいから。それと、仕事な。2週間は空けた方がええで。まぁ自分の判断でみんなやってしまうけどな。こっちがいくら言うてもな。」

 

おばあさんは半分呆れたようにそう言いながら「じゃ、お大事に」と診察室に帰って行った。

 

私は「はぁ」と答えてその後ろ姿をボーっと見送った。

 

「じゃ支払いお願いしますね。麻酔も規定内でおさまったので11万円です。」

 

「あ、はい。」

 

私は封筒に入れて持って来ていた11万円を支払い、余分に持ってきたお金を使わなくてよかったと内心ホッとしていた。

 

「領収書いります?」

 

おばさんが私に聞く。

 

「あ…じゃ一応お願いします。」

 

私は必要なのかな?といぶかしく思いながらも一応もらうことにした。

 

「じゃ、これ領収書ね。お大事に。気をつけて帰ってや。」

 

おばさんがやっぱりニコリともせず、淡々とした口調で私に言った。

 

「はい。お世話になりました。」

 

私は頭を下げ、靴を履いた。

おばさんは私が靴を履き終え、ドアを出るまで見送った。

 

「お大事に。気をつけて。」

 

ドアを出る私に声をかける。

今日は受付のガラス窓をピシャリと閉める音を聞かなくてすんだ。

私はドアを閉めるときにぺこりと頭を軽く下げて挨拶をした。

おばさんは「うんうん」と二度ほど頷いて、私を憐れんだような目で見ていた。

 

 

終ったんだな…

 

病院の外に出ると辺りは真っ暗でそしてとても寒かった。

 

あ…コバくん…

 

私はすぐに携帯を取り出し、電源をオンにした。

 

コバくんからメールが届いている。

なぜかドキドキしながらメールを開ける。

 

ゆきえー

体調どない?

俺、今日めっちゃ帰り遅くなるわ。

トラブルがあって残業!!

何時になるかわかれへん。

もーいややー!

はよゆきえに会いたいわぁー

 

 

残業…

めっちゃ遅くなる…

 

その文面を見て「やった」と思っていた。

今日はできれば1人でいたい。

できるならこれから何日かは1人で過ごしたい。

なんて言おう…

 

コバくんの実家はコバくんの会社からそんなに遠くない。

もちろん私の部屋に帰って来るよりよっぽど実家の方が近い。

ずっと実家から会社に行っていたんだから。

これから数日間はコバくんに実家で過ごしてもらいたい。

 

でもなんて言おうか。

 

私は術後の朦朧とした頭でグルグルと考えを巡らせていた。

はやく自分の部屋で横になりたい。

誰に気兼ねすることなくゆっくりと眠りたい。

 

これから乗る電車を思うと憂鬱だ。

コバくんに送るメールの文面を考えるのも億劫だ。

でも電車に乗らなければ家に着けない。

コバくんにメールを送らなければ1人の時間を手に入れられない。

 

はぁ…

 

私は溜息を1つ吐き、携帯の画面をジッと見ながらゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

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はじめに。 - 私のコト

177

 

「じゃこのままいくでー。」

 

おばあさんは淡々とした様子でひんやりとした器具を私の膣内に入れてギリギリと動かす。

 

痛い…

鈍い痛みがじわじわと私を侵す。

 

ギリギリと器具を動かしては出し、そしてまた挿れる。

 

だんだんと鈍い痛みが強くなる。

 

ギリギリギリ…

 

4回目には「うぅ…」と声を出してしまう程の痛みになる。

 

「痛いか?まだ平気やろ?」

 

おばあさんが軽く言う。

 

「あ…はい…まだ平気です。」

 

ほんとは怖い。そして痛い。

この後もっと痛くなるかもという恐怖。

でも私は「ガマンしなければ」と思い、そう答えた。

 

ギリギリギリ…

 

思った通りどんどん痛みは増してくる。

 

「うぅ…痛い…」

 

思わず「痛い」と言ってしまう。

 

「痛い?もうちょっとガマンしてや。」

 

「う…は…はい…」

 

痛い…痛い…結構痛い…

 

私はギリギリと器具を動かされる度に「うー」と呻いた。

 

「もうちょっとだから頑張って!麻酔使うと後で大変やから!」

 

私が呻いて「痛い」と言うと、おばさん看護師さんが半分怒りながらそんなことを言う。

 

 

だんだん強くなるこの痛みに耐えられなくなり、私は思わず大きな声で「痛いー!」と

身をよじりながら言ってしまった。

 

「えぇ?痛い?もう少しだから!」

 

おばさんが私の顔を覗き込みながらイライラした口調で言う。

でも私は一度「痛い!」と大きな声で言ってしまったのでもう耐えられなくなっていた。

 

「痛いです!ほんとに痛い!!もうだめです!!」

 

半泣きの状態で訴える私。

おばあさんは構わずギリギリと器具を動かす。

 

「痛い?あー…もう少しやねんけどなぁ。もうあかん?」

 

身をよじりたくなるほどの痛みが私を強く襲う。

小さな穴をギリギリグリグリとこじ開けられている痛み。

そして身をよじりたくても手足を縛られていてそれもままならない。

もう全てが絶望的などん底の気分にさせる。

 

「痛い!痛いです!いったーーい!!」

 

私は泣きながら叫んだ。

もう耐えられない。

これ以上この痛みが強くなるなんて無理だ。

 

「えぇ?もう無理なん?ほんまに?」

 

おばさんが冷酷な口調で私に言った。

ますます泣けてくる。

 

「もう無理です!痛いです!」

 

歯を食いしばりながら訴え続ける。

 

「あーそう。じゃ麻酔しよか。」

 

おばあさんが私の股の間からおばさんに声をかける。

 

「はい。じゃあ麻酔しましょう。」

 

おばさんはゆっくりとした動作で麻酔の準備をした。

私は「ゆっくりやってんじゃねーよ!!」と心の中で悪態をつきながら痛みに耐えた。

 

「じゃ麻酔しますねー。」

 

おばさんは私の腕をさすって血管を浮き上がらせようとした。

 

「えー。この子血管細いのねー。なかなかいいの出ぇへんわ。これは大変やわぁ。そう言われへん?」

 

この人は私が痛みに耐えていることがわからないのだろうか。

こんな時に私の血管の細さをめんどくさそうに悪く言うなんてどうかしている。

 

「…痛い。痛いです。うぅ…。」

 

情けなくて涙か出てくる。

なんで私はこんな場所でこんな体験をしているのだろうか。

 

「はいはい。この子痛みに弱いのねぇ。大袈裟なんやから。」

 

こんなに痛いのに「弱い」と言われ「大袈裟だ」と言われた。

なんて惨めなんだろう。

 

「はい。麻酔はいりましたよー。じゃあ一緒に数を数えてや。いーち、にーい…」

 

「いーち、にーい…」

 

私はおばさんに言われた通りに数を数えた。

が、「にーい」まで数えてから後はわからなくなった。

 

 

ハッ…

 

どれくらい時間が経ったのか経っていないのか、私は急に目覚めた。

その目覚めを誘発したのは『痛み』だった。

 

 

え?

あれ?

 

周りを見回すとまだ手術が続いている。

おばさん看護師さんが周りでウロウロしていて、何やら話している。

 

「あれ?この子目が醒めちゃった。」

 

1人のおばさんは私の方を見て驚いている。

その瞬間猛烈な痛みが私を襲う。

 

「いったい…痛い…痛い痛い痛い痛----い!!痛い痛い…痛ーーーいい!!」

 

 

どうやら私は術中に麻酔が切れてしまったようだった。

 

さっきよりの数十倍、いや数百倍の痛みが私を襲う。

『身をよじりたくなるような』なんていう程の痛みでなかった。

 

痛い痛いと騒ぐ私を見て、さすがにおばさんたちが慌てている。

 

「はいはい!今麻酔するから!!ほんっとにこの子は大袈裟な子やねぇー!大丈夫よー!」

 

慌てながらも「大袈裟な子だ」と言われたことにいら立ちを覚える。

 

「痛い!!痛い痛い痛い!!!」

 

手足を縛られているから動けない。

それでも身体を動かさずにいられないほどの痛みだった。

 

「はいはい!動かないで!!麻酔打てないから!!」

 

おばさんは今度は私の手の甲に注射を打とうとした。

 

痛い!!

猛烈に痛い!!

 

「いったーーーーい!!痛い痛い痛い痛い!!」

 

注射の針が確実に血管に入っていない。

身体も痛いし手の甲も猛烈に痛い。

 

「どっち?!どっちが痛いの?注射?!」

 

大騒ぎをしている私におばあさんが聞いた。

 

「こっち!!注射痛い!!痛い!!」

 

私は「身体も痛いんだよ!!」と叫びたい気持ちをグッとこらえておばあさんに訴えた。

 

「え?!ほら!!注射!!外れてる!!」

 

おばあさんがおばさん看護師に怒りの声をあげる。

 

「あ!はい!!ごめんなさいねー。今やり直すから。もーほんと大袈裟。」

 

おばさん看護師の言葉に私の怒りがマックスになった時、麻酔がスーーっと効いてきた。

そして私は再び深い眠りについた。

 

 

 

「終わりましたよー!起きてくださーい!ほら!終わりましたよー!」

 

どれくらい時間が過ぎたのかまったく見当がつかない。

ハッと気が付くと、私はおばさんに揺り起こされていた。

 

「起きた?大丈夫?じゃあこの車いすに移動してくれる?ゆっくりね。」

 

「あ…はひ…」

 

私は「はい」と返事をしようとしたのに「はひ」と言ってしまった自分に驚く。

口が上手く回らない。

 

手術台からなんとか起き上がり、下に足をつこうと足にまったく力が入らないことにも驚いた。

 

フラフラ…

 

「あ…」

 

よろけた私はおばさん看護師につかまった。

 

「まだ力が入らないでしょ。じゃこっちに座って。よいしょっと。」

 

おばさんは慣れた手つきで私を車いすに座らせ、最初に着替えた個室に私を連れて行った。

 

「はい。じゃここでゆっくり休んで。夕方までここで眠ってていいから。ちゃんとしっかり歩けるようになるまでいなさいね。」

 

おばさんは上手に介助をして、私を車いすからベッドに寝かせた。

 

「じゃまた様子見に来るから。ちゃんと寝ててや。」

 

「…はひ…」

 

朦朧とした頭で返事をする。

まだ「はい」とは言えない。どうしても「はひ」になってしまう。

不思議だ。

 

私はまどろみながらさっきの出来事は夢だったのかもしれないと思っていた。

 

カーテンで仕切られたベッドの上。

無機質な空気。

薄汚れてはいるけれど、目に入るものほとんどが白やホワイトの色ばかりだ。

点いていない蛍光灯を凝視する。

下腹に鈍い痛みがある。

いや、痛み…なのだろうか。

これは『違和感』と言った方がいいのかもしれない。

 

「あぁ…夢じゃなかったんだ…」

 

この下腹の違和感に気付き、さっきの出来事が夢ではなかったことがわかってしまった。

 

とろとろとした眠気に襲われる。

でも何故か眠ってはいけないような気がして私は眠気と戦う。

ここで眠ってはいけない。

私はここで眠る資格なんてない。

眠ってはいけないんだ…

眠ってはいけない…

 

私は眠っては…いけ…ない…んだ…

 

 

無意味な戦いに無様に負けた私は眠りについた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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178 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

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はじめに。 - 私のコト

 

 

176

 

コバくんが帰ってきてソファーに寝ている私を起こした。

 

「ゆきえ。大丈夫か?風邪か?」

 

「あぁ…おかえり…なんやわからんけど調子悪くてなぁ。寝てれば平気や。」

 

「ほんまか?お風呂でも入る?あったかくなったらよくなるかもしれん。」

 

コバくんが私の横で心配そうにのぞき込む。

 

お風呂…

今日は入っちゃいけないんだ。

 

「あ…いや、シャワーでええわ。お風呂入ったら気持ち悪くなりそうやし。」

 

「そうかぁ…ご飯は?食べられる?」

 

「あ…なんも用意してなくてごめんやで。寝てしまってたわ。朝も調子悪くて作っていかれへんかった…ほんまごめん。」

 

こういう時、私はものすごく罪悪感にかられる。

コバくんのお世話をなんにもしてあげられないと何度も「ごめんね」と言いたくなる。

 

「何言うてるん。そんなんええねん。でも俺ゴハン作られへんからなぁ…何か買うてくるわ。何がいい?」

 

コバくんは優しい。

そんな彼に私は嘘をつきまくっている。

 

「うーん…梅干しのおにぎりとかでええわ。ありがとうな。」

 

「え?おにぎりだけでええんか?あとは?」

 

コバくんはものすごく心配そうに私を見る。

こんなに人のことを心配できるのってすごい。

 

私は「おにぎりだけでええわ。」と言い、コバくんは「…わかった」と子犬のような顔で家を出て行った。

 

この間にシャワーを浴びておこうと思いお風呂場へ行く。

あそうだと気付き、洋服を脱ぐ前にぴょんぴょんと飛び跳ねる。

お風呂場の前で垂直にぴょんぴょん飛び跳ねている自分が滑稽だった。

これでほんとうに子宮口が開くのだろうか。

 

シャワーを浴び終え身体を拭き、下着をつける。

もう一度やっておこうと思い立ち、またぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

フ…

 

ん?

 

膣内から何かが流れ出てきた感触がある。

下着に何かが付いてしまったような感覚。

慌てて下着の中を見てみると、股の部分に白と青が混ざったような粉っぽい液体が付着している。

 

あれ…?

これってさっき入れた錠剤が流れ出てきてない?

 

しばらく自分の下着を凝視して考える。

 

これ、大丈夫なのかな…

 

はっ!

コバくんがそろそろ帰ってくるかもしれない。

 

我に返り、新しい下着をつけて着替える。

 

コバくんが買い物から帰ってきて一緒に夕飯を食べ、ゴロゴロとしながらテレビを観る。

私は気持ち悪さを隠し、一緒にテレビを観てわははと笑う。

ほんとはさっきの下着に付いたアレが気になって仕方がないのに。

 

「あー…なんか眠いわ…もうお布団はいるね。」

 

私は梅干しおにぎりを食べてしまったことを後悔しながら布団に入った。

 

コバくんは心配そうな顔で「うん。ゆっくりな。」と言い、私の頭を優しく撫でた。

 

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…

 

横になっても目をつぶっても布団を抱えてもどうやっても気持ちが悪い。

 

うー

早く明日になれー

 

私はコバくんに気付かれないように小さな声で「うー」とうめいた。

逃れられない気持ち悪さに涙が出てくる。

 

「うー…もうやだよぉ~…なんで…なんでこんなこと…うー…」

 

泣きながら「なんでこんなことになるんだよぉ…」と何度もつぶやく。

 

早くこの気持ち悪さから逃れたいよぉ…

 

ゴロゴロと体勢を変えながらしばらく格闘し、私はやっと眠ることができた。

 

 

次の日。

 

私はコバくんに「今日はもう平気だから仕事に行く」と嘘をつき、コバくんは心配しながら出社した。

 

11時。

私は時間ぴったりに病院のドアを開けた。

 

 

「じゃこれに着替えてくださいね。」

 

おばさん看護師さんは私に水色の手術着を渡し、「下着は全部とってね」と言った。

 

私はベッド2台が置かれた病室で着替え、荷物を小さくまとめた。

 

「着替えましたか?」

 

ドアをコンコンと叩きながらおばさんが私に尋ねる。

 

「あ、はい。」

 

私は淡々とした気持ちでドアを開け、おばさんに返事をした。

 

「じゃあ剃毛しちゃうから。」

 

おばさんは私をベッドに寝かせ手術着の前をパッと開き、ゾリゾリと私の下の毛を剃り始めた。

 

あー…剃るのかぁ…

 

私はそんなことをされるなんて思ってもみなくて驚いた。

そして10日後のお仕事再開の時にどれくらい生えているのだろう?

じょりじょりしてマットの時困るかなぁ…と考えていた。

 

「じゃこちらへどうぞー。」

 

おばさんはレストランで席に案内するかのような言い方で、私を手術室へ誘導した。

 

真ん中にドンと置いてある、股を広げて寝っ転がる手術台。

周りにはいろんな器具がたくさん置いてある。

 

「じゃここに寝てねー。」

 

看護師さんは全部で3人。

全ておばさんだ。

 

「あ、はい。」

 

手術台に股を広げて寝っ転がると、おばさん2人が「こっちに手をおいてねー」と左右それぞれの腕を置くようになっている台の上に私の両手を紐でしばりつけた。

 

「え?なんで?」

 

私は急に紐で縛り付けられ戸惑った。

 

「だいじょうぶよー。動くと危ないから固定しているだけやからねー。」

 

おばさん2人はニコリともせず、淡々と私に言った。

 

「じゃ点滴するねー。」

 

「こっちは血圧図るねー。」

 

片方の手は点滴。

片方の手は血圧。

そしてもう一人のおばさんが私の両膝のあたりを紐で縛る。

 

私は両手両足を紐で縛られ、手術台に張りつけ状態になっていた。

 

「来たね。じゃちょっと子宮口みるねー。」

 

やっとおばあさん先生登場。

おばあさんは登場したと思ったらすぐに私の股のところに顔を突っ込んで子宮口の開きを確認し始めた。

 

「あらー…ちょっとあれやなぁ…そうかぁー」

 

おばあさんが何やらブツブツ言っている。

 

「昨日ぴょんぴょん跳んだ?よおけ跳んだ?」

 

おばあさんが股の間からひょいと顔を出して私に聞く。

 

「あ…はい。けっこう跳んだと思いますけど…」

 

「あーそう。ちょっと強く跳びすぎたかなぁ…」

 

ん?

強く跳びすぎた?

…嫌な予感…

 

「ちょっと薬が出て来てしまったみたいでぇ。子宮口全然開いてないから、まず開かせるわー。」

 

…やっぱり…

昨日下着についたアレは薬だったんだ…

 

「ちょっと痛いかもしれんけど大丈夫やから。がんばってー。」

 

ちょっと痛いかもしれんけど大丈夫って?

大丈夫ってなんやねん。

 

「え…と…はい…」

 

私は手術台に張りつけられたまま、小さな声で返事をした。

 

「じゃいくよー。」

 

おばあさんは私の膣内に冷たい器具をスルッと差し入れ、ギリギリと少し音を立てて器具を動かしてからスッと抜いた。

 

「こんな感じやねんけど。大丈夫やろー?」

 

ちょっと膣を広げられたような鈍い痛みがあったけど、大したことはない。

 

「はい。大丈夫です。」

 

「そうやろー?これを10回くらい繰り返すからー。極力麻酔使いたくないねん。できるだけ頑張ってやー。」

 

え…?

じゅ…10回?

麻酔使いたくないから頑張れ?

 

…ますます嫌な予感。

 

「じゃどんどんいくでー。」

 

おばあさんはまた冷たい器具を私の膣内に入れてギリギリと動かす。

 

さっきより痛い。

一体なにをされているのか、どんな器具を入れられているのかさっぱりわからない。

 

私はこの後何をされるのだろうか。

 

 

そしてこの後私を地獄が待っていた。

 

 

 

つづく。

 

 

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177 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

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はじめに。 - 私のコト

175

 

病院に行った次の日の水曜日。

私はコバくんに心配をかけないように一生懸命元気にふるまった。

コバくんは「だいじょうぶか?」と何度も聞いてきていたけど、私は「平気やでー。」と笑って答えていた。

 

木曜日、出勤してすぐ富永さんに来週の月曜日から10日ほど休みたいと伝えた。

富永さんが「どうしたんや?」と心配そうに聞いてきたので「ちょっと東京に帰らなきゃならなくなった。」と嘘をついた。

富永さんは「実家にバレたんか?」とますます心配していたけれど「そんなんちゃうで。ちょっと野暮用で。」と笑いながらまた嘘をついた。

「ちゃんと帰って来るから大丈夫やで。」と言うと、富永さんは「ほんまやで。ちゃんと帰ってくるんやで。」と何度も言った。

 

私は月曜日までの一週間、毎日毎日気持ち悪さと格闘しながら仕事をこなした。

誰にも私が妊娠していることを悟られないように気をつけながら。

そして毎晩仕事が終わると自分の下腹をちょっとだけ眺めて「ほんとにここに赤ちゃんがいるんだろうか?」といぶかしく首をかしげていた。

 

 

月曜日。

私はふたたび九条にある婦人科の前に立った。

 

ガチャ。

ガタガタ…

 

若干緊張しながら真鍮のドアノブを握り、ドアを開ける。

 

ガラガラ…

 

私がドアを開けると、受付のガラス窓が開いた。

 

「あ、来たのね。」

 

先週と同じおばさん看護師さんが受付から顔を出す。

 

「あ、よろしくお願いします。」

 

私は靴からスリッパに履き替え、先週もらった診察券を出した。

 

「はい。じゃあこちらへどうぞ。」

 

おばさんが早速診察室へ私を誘導する。

私は「はい。」と答え、診察室に入った。

 

「来たね。じゃ早速だけどこっちに寝てくれる?」

 

おばあさん先生が何の説明もなく、診察台へ寝ろと言う。

 

「あ…はい。」

 

「もう一回エコーで診て見ようかね。ちゃんと説明するから心配しなくて大丈夫やで。」

 

私が戸惑っているのを察知したのか、おばあさんは何かをカチャカチャと準備しながらそう私に言った。

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

私は下着を脱ぎながら返事をした。

 

診察台に上がり、おばさんが先週と同様ジェルを下腹に塗り、おばあさんが男性の髭剃りのような形の機械を下腹にくっつけた。

 

「はい。じゃこっちの画面見てやー。」

 

私は診察台横のモニター画面に目をやった。

 

「あー…ちょっと大きくなってるなぁ。わかる?」

 

おばあちゃんがモニター画面に指差しながら私に説明する。

 

「ここね。これがあかちゃん。先週より大きくなってるのわかる?」

 

「あ…はい…」

 

確かに先週より大きくなっている。

先週見たのが小さな点だとしたら、今日のは小さな豆つぶのような形になっている。

 

「これなら手術できるな。どうする?気は変われへんの?」

 

おばあさんが淡々とした口調で私に聞いた。

 

「え…はい。変わりません。」

 

なんの躊躇もない自分に驚く。

戸惑いも迷いもない。

なんの感情もわかないのだ。

 

「そうか。じゃ処置し始めるけどええんかな。」

 

「はい。お願いします。」

 

「同意書は?用意できたん?」

 

おばあさん先生は私の股の間で何かを用意しながら聞いた。

 

「あ…はい。できました。」

 

私は自分で同意書にサインをした。

架空の人物の名前、架空の住所を筆跡を一生懸命変えて。

 

「そうか。なら薬入れるで。ええな?」

 

「はい。」

 

私がまた躊躇なく答えると、おばあさん先生は私の膣内に器具をグッと押し入れ処置をした。

 

「はい。今日はこれでええわ。下着履いて。こっち出てきてから話しするわ。」

 

 

私は下着をつけ、診察室の丸椅子に腰かけた。

 

「今膣に入れたんが子宮口を広げる薬やでな。今夜はシャワーはええけどお風呂は止めてや。お酒もあかんで。夜10時以降は何も食べへんでな。夜12時以降は水分もあかんで。」

 

「はい。わかりました。」

 

「あとな、できれば今日はなるべくぴょんぴょん跳ねてくれるか?まぁ10回くらいでええんやけど。できれば10回を何セットかやってくれるとええなぁ。わかったか?」

 

え?

ぴょんぴょん跳ねる?

 

「へ?跳ねる?」

 

私はキョトンとした顔でおばあさん先生を見た。

 

「うんうん。跳ねてくれると薬がよぉ効くんや。」

 

ぴょんぴょん跳ねると薬がよく効く?

子宮口が開く薬が?

 

「はぁ…わかりました…」

 

私は全く意味がわからず、首をかしげなから返事をした。

 

「あ、あとな、明日は昼の11時に来てくれるか?で、帰れるのは夕方になるな。麻酔が切れてから歩くのにどれくらいかかるかわからんけど、だいたい遅くても…夕方6時くらいには帰れるやろ。もっと早い人もおるで。大丈夫か?」

 

「あ…入院とかしなくていいんですか?」

 

私はその日に帰れることに驚いて、おばあさんに聞き返した。

 

「そうやで。みんなその日に帰るで。あ、あとな、今ソープランドで働いてるんやろ?

だいたい手術してから2週間くらいは仕事せんほうがええで。休めるか?」

 

あ…

2週間…

私、10日しか休みもらってない…

 

「あー…はい…大丈夫です…」

 

そのことは手術が終わってから考えよう。

 

「ほな、後わからんことあったらこの人に聞いてくれるかー。じゃ明日ね。気ぃつけて来て。あ、お風呂と食事と水分ね。守ってや。」

 

「はい。わかりました。」

 

「あ、あとぴょんぴょんな。」

 

「はい。ぴょんぴょんします。」

 

「うん。ほなな。」

 

 

私は「失礼します」と頭を下げて診察室を出た。

膣内に器具を入れられた時のひんやりした感覚がまだ残っているような気がする。

 

 

「じゃもし持って来ていたら書類預かります。」

 

受付のガラス窓からおばさん看護師さんが顔を出して言う。

 

「はい。これで大丈夫ですか?」

 

私は父親のサインが入った同意書と、私のサインが入った同意書を二枚おばさんに渡した。

 

「えー…はい。大丈夫です。じゃ明日ですね。さっき先生が言ったことを守って、明日11時にこちらに来てください。」

 

「はい。わかりました。」

 

「じゃお待ちしてますね。」

 

相変わらずピクリとも表情を変えないおばさん看護師さん。

「明日、よろしくお願いします。」と伝えて、スリッパから靴を履き替えている最中、ピシャリと受付の窓ガラスが閉まった。

 

 

病院の外へ出て深呼吸をする。

 

「ふぅーーー」

 

今日私は仕事に行っていると思っているコバくんにはなんて言おう。

そして明日からのお休みのことはなんて説明しよう。

 

私は10日ほどの休みをもらっていることをコバくんに言っていない。

体調があまりすぐれないことをコバくんは知っているから、ダラダラと「今日も休む」と言って毎日を過ごすしかないだろう。

 

お家に着いたら「今日は早退した」と言おう。

そして明日は仕事に行くと嘘をついて手術に行こう。

 

私はコバくんにつく嘘をシュミレーションしながらお家に帰り、コバくんがまだ帰ってきていないことにホッとしてメールを打った。

 

今日体調が悪くて早退しちゃった。帰って来たら私がいるけどびっくりしないでね。あ、ゆっくりしてたら大丈夫やからあんまり心配しないでね。

 

 

 

メールを打ち終わり、バタッとソファーに倒れこむ。

 

「ふぅ…」

 

気持ち悪い。

ずっと気持ち悪い。

明日のこの時間にはもう気持ち悪くなくなっているんだろうか。

気持ち悪さがなくなっても痛みが残ったりするのだろうか。

中絶手術がうまくいかなくて、二度と妊娠できなくなることもあると聞いたことがある。

同意書にもそんなことが書いてあった気がする。

 

「…もうこれで妊娠できないかもしれないんだなぁ…」

 

3月には死んでる可能性が高いというのに、そんなことをちょっと気にしている自分がいる。

 

「まぁ…もし生きてたとしても私が子供を産むことなんてありえないし…いいかぁ…」

 

ソファーに寝っ転がりながらブツブツと独り言をつぶやく。

 

なるようになれ。

 

もう何も考えたくない。

何も考えられない。

 

フッと目を瞑ると私はいつの間にか眠っていた。

 

 

明日は手術の日だ。

明日の今頃、私はどうしているんだろう。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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176 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

 

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