私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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私はドキドキしながらコバくんに話し始めた。

ゆっくりと、言葉を選びながら。

 

「私な、こうやって今生きてるのが不思議なんよ。どっかで殺されるのを望んでたんや。やりきったらいなくなれるって思ってたから。もちろん怖かったで。殺されるのは怖かったんやで。でもな、どこかで期待してた。…でもな…今生きてんねん…。」

 

「…うん…俺は生きててよかった思うてるで。でもゆきえは辛いんやな…。」

 

「辛いいうか…うん…そうやなぁ。そやから“これから”のことがなかなか考えられへんくてな。」

 

「うん…そうやんな…そうやな…」

 

「でも帰りの新幹線で一生懸命考えたんや。生きかなあかんしな。」

 

「うん…そうか。…それで…?」

 

「うん。…あんな、今までやってみたかったけどやらなかったことをとりあえずやってみようと思ってる。」

 

せっかく生かされたこの身体。

生きてることがめっけもん。

私はこの身体を使って、『私』を使って実験を試みようと決めていた。

やりたかった仕事をやってみよう。

やりたかった勉強をやってみよう。

そこで私は何を思い、何を知るのか。

そして私の『人生』ってやつがどうやって転がっていくのかを見てみよう。

 

「…そうか。そうなんや。うん。それで?やりたかったことってなんなん?」

 

コバくんはちょっとだけ笑顔になって私の方を向いた。

 

「うん。まずはバーテンダーをやってみたい。お酒の勉強したいんや。どこでどんな風にっていうのはわからへんけどな。」

 

「へぇ。そうか。ゆきえはお酒が好きやからなぁ。」

 

「うん。お酒のこと、全部知りたい。それで、どんなバーテンダーがいいバーテンダーなのかを知りたいんや。」

 

そして私にはバーテンダーという仕事が務まるのかが知りたい。

全く通用しないのかそれとも通用するのか。

バーテンダーにとって何が重要で、何を求められてるのかが知りたい。

 

「…うん。…いいやん。俺、応援する。」

 

「…ありがとう。でな、自分のルールを決めたんや。」

 

「え…?ルール?」

 

「うん。あんな、25歳まではありとあらゆる仕事をしてみようと思ってるんや。あと3年ちょっとやけど。理想としては25歳までに『これ!』っていう仕事に巡り合いたい。そやからそれまではやりたい!と思った仕事は片っ端からやってみようと思う。

もちろんバーテンダーだけになるかもやけどな。それに…その途中でお兄さんのところに戻るっていう選択が出てくるかもやけどな…。」

 

「うん…」

 

「それでな、ただそれだけやったらあかんと思って、重要なルールを作ったんや。」

 

「…え?なになに?」

 

「うん。どの仕事をしても『辞めないでくれ』って懇願されるくらいの実績を作ってからじゃないと辞めちゃだめっていうルール。」

 

「へぇ…。すごい…。」

 

コバくんが笑いながらそう言った。

そしてこう付け加えた。

 

「ゆきえらしいなぁ…。」

 

 

私らしい…?

そうなのかな。

 

「だってそうじゃなきゃその仕事の醍醐味みたいなものや、その仕事の真髄みたいなものを垣間見れないやんなぁ。…ちがうかな?」

 

「いや…ほんまにそう思うで。うん…いいと思う。」

 

「…ありがとう…」

 

 

「…それで…」

 

コバくんが聞きたいことはこれから話すことの方だ。

そんなことはわかってる。

 

「うん…それでな…」

 

「うん…」

 

 

「…コバくんとはもう一緒に暮らせない。」

 

意を決して言った。

心臓がバクバクしている。

 

「…なんで…?」

 

コバくんが真剣な顔で私に聞く。

 

「…私な、誰かが一緒やとやりたいことをトーンダウンしてしまうんや。それにゴハンののこととかお弁当のこととかやらないと気になってしまうし、でもそれで疲れたりしてしまうしな。あとは…これからは一人でやっていきたいんや。だから…。」

 

「嫌や。」

 

コバくんが間髪入れずにきっぱりと嫌だと言った。

 

「なんで一人でやりたいんや?俺応援するって言うたやん。ゴハンもお弁当もいらん。そりゃあったら嬉しいけどそんなんいい。ゆきえがトーンダウンしないように気ぃつける。俺、ゆきえのそばで応援したいし一緒に生きていきたい。それはぜったい譲れん。

もし途中でK氏の元に戻る言うても俺は全力で反対する。でも今は違うんやろ?K氏のところには行かへんのやろ?だったらええやんか。俺はゆきえのそばから離れたない。邪魔しない。応援だけする。一緒におろう。」

 

 

コバくんが強く自分の意見を主張した。

私のそばにいたいと。

私の邪魔はしないと。

 

「…う…ん…ありがとう…でもな…」

 

私が一人になりたかったのには訳がある。

コバくんが一緒に暮らしていることで気が休まらないのだ。

食べ吐きを隠し通さなきゃならないことも苦痛だし、掃除や洗濯やゴハンの仕度やお弁当作りが正直しんどくなっていた。

今さらやりたくないとも言えないし、一緒に暮らし続けたらこれが続いていく気がする。

一人の自由な時間と空間が欲しい。

何をするにしても、何を決断するにしても、コバくんに報告しなきゃならないことが嫌でたまらなかった。

 

「…ごめん…私は一人で暮らしたい。私は私の人生を自分で決めていきたい。何かを決める時、コバくんに報告しなきゃいけないと思うのが苦痛なんや。」

 

言ってしまった。

苦痛だと。

 

「…なんで?なんでなん?一人くらい応援したい奴がそばにおってもええやろ?……じゃあわかった。俺は一緒に暮らさない。でも別れへん。一緒に生活しなきゃええやん。な?たまにゆきえの部屋に泊まらせてくれたら嬉しいけど。それでええやん。違う?」

 

「…え…?」

 

一緒には暮らさないけど別れない。

離れない。

そうコバくんは言った。

 

『一人ぐらい応援したい奴がそばにおってもええやん。』

 

確かにそうかもしれない。

でもそこにはやっぱり“重さ”が伴っていた。

 

どうしよう。

別れたいのか別れたくないのか。

私はただ“一緒に暮らす”ということから解放されたかっただけなのか。

 

「…う…ん…コバくん…ありがとう。」

 

返事をしかねてお礼を言う。

ほんとにありがたいと思っている。

 

「ありがとうはいらんねん。俺はゆきえと離れとうないねん。何があかん?俺が言ってること、何があかん?」

 

食い下がるコバくん。

こんなことは珍しい。

この人は本気だ。

 

「俺、部屋探すわ。もうここも出なきゃあかんやろ?バーテンダーやるにしても滋賀県ではあかんやろ?俺、ゆきえの新しい部屋探すわ。ええやろ?もちろん勝手には決めへん。ゆきえの意見を尊重する。でも探してもええやろ?」

 

「…え?」

 

「俺は一緒には暮らさへん。ゆきえが嫌がるなら。でも俺がゆきえの新しい部屋探す。応援するって言うのは本気やから。な?それでええやろ?」

 

「…え…?…うん…それでええの?…コバくんはそれでええの?」

 

「俺はそれがええの!ほんまは一緒に暮らしたいで。ずっとゆきえのそばにおりたいもん。でもゆきえがそれじゃ自分の人生思いっきり生きられへん言うならガマンする。俺は応援したいんやから。」

 

 

コバくんの決意は固いものだった。

私はこの関西地区の事はなにもわからない。

どこから手をつけたらいいかわからないのが本音だった。

 

 

コバくんがそこまで言うなら任せてみてもいいかもしれない。

 

 

私は自分のことをズルい奴だと罵倒しながらもそう思い始めていた。

 

「…じゃあ…お願いしてもいいかな?コバくんがそれでいいって言うなら…。」

 

罪悪感に苛まれながら私はコバくんにそう言った。

 

「うん!いいねん!俺、それがいいねん!で、たまにゆきえの部屋に泊めてな。そうやなきゃ淋しいから。な?」

 

コバくんはいつもの子犬のような笑顔で私に笑いかけた。

 

「…うん…ありがとう。…ほんまにありがとう…。」

 

「ありがとういらん。俺がありがとうや。俺、ゆきえと別れへんから。そばにおりたいから。な?応援させてや。」

 

泣けた。

コバくんの言葉に。

そして私の狡さに。

 

 

 

コバくんは次の日から早速仕事の合間に新しい部屋探しを始めた。

部屋の間取り図を数枚持ち帰ってきて、嬉しそうに私に見せる。

 

「俺はここが一番ええと思うんや。ゆきえはどない?」

 

阪急塚口駅から徒歩2分。

1DKの部屋。

家賃は7万円。

塚口駅はコバくんの職場のある駅だ。

 

「ここやったら仕事帰りにもゆきえのところ寄れるし、俺はここにゆきえがおったら嬉しいな。」

 

コバくんは塚口駅付近で部屋を探していた。

 

「ここやったらキタにもすぐ出られるし、ミナミも楽に行けるで。」

 

阪急塚口兵庫県だけど、電車ですぐ大阪のキタやミナミにも出られる場所だった。

 

バーテンダーやるにしてもやりやすいんやないかなぁ。」

 

コバくんはどうしてもその部屋に住んでほしそうだった。

 

「一回見に行かへん?」

 

コバくんがにこにこしながら私を誘う。

 

「うん…そうやね。」

 

「じゃ明日来て。俺、昼休みに行くから。」

 

「え?明日?」

 

「うん。明日。12時に塚口に来てな。不動産屋に連絡入れるわ。」

 

 「あ…うん…」

 

コバくんはすぐに不動産屋に連絡をいれた。

 

「あ、はい。今日伺ったものです。明日見に行きたいんですけどいいですか?はい。12時ちょっと過ぎに行きますんで。あ、はい。現地に行きます。あ、はい。そうです。じゃ。よろしくお願いします。」

 

目の前でどんどん何かが動いている。

私は何もしていないのに。

 

「明日大丈夫やって。そやから明日来てな。塚口の行き方は…」

 

コバくんが電車の乗り継ぎの説明を始めた。

私はただメモをとり、「うん。うん。」と聞いていた。

 

流れて行く。

流されている。

 

私の人生がまた動き始めているのを感じていた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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