私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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なんとか11時のチェックアウトを済ませ、酷い二日酔いの身体を引きずるように新幹線に乗った。

 

「…はぁ~…」

 

吐き気と頭痛。そしてひどい怠さが抜けない。

私はコバくんのこととこれからのことを、そのひどい状態で考えようとしていた。

 

どうしよう。

私はどうしたいんだろう。

 

朦朧とした頭で必死に考える。

 

コバくんもK氏も『待ってる』と言った。

私のやりたいようにやれと言った。

 

私のやりたいように…?

私の…?

やりたいように…?

 

目を瞑り、じっと考える。

 

私のやりたいようにやるってなんだろう?

なんだろう…?

 

 

しばらく考えていると、おぼろげながら考えがまとまってきた。

 

私は一度死んだ人間だ。

『死』を覚悟した女だ。

今何故か生きているのは『たまたま』であり、そして『幸運』なのかもしれない。

雄琴ソープランドという『世間の端っこ』のような場所に行ったのに、ひどい目にも合わず、なんなら優しくされまくった。

そして無事に目標を達成できたことも『奇跡』のようなことなのかもしれない。

 

私は何故か生かされた。

運だめしのような気持ちで雄琴まできた私が今生かされている。

私は強運なのかもしれない。

 

 

「うん…そうだな…」

 

私の中にポッと小さい一つの光を見つけた。

どうやって生きて行くか、ほんの少しの答えが見えた気がした。

 

目を瞑りながら何度も頷く。

 

「うん…うん…」

 

自分との対話が続く。

 

これをコバくんに言おう。

ちゃんと言えるかはわからないけど、私は私の言葉で一生懸命コバくんに伝えよう。

私の言葉を聞いてコバくんがどうするかはわからない。

私は私が見つけた『やりたいようにやる』を言うだけだ。

 

何度も自分の気持ちを確認する。

どうしたい?

これでいい?

どうやって生きていきたい?

 

そして私は「うん…そうだね…うん…」と自分の気持ちに答えていく。

 

 

だんだんと二日酔いも治まってきたころ、私は比叡山坂本駅に降り立っていた。

 

「…ふうーー…」

 

空気が綺麗だ。

そして田舎だ。

故郷でもなんでもないここに降り立ち、ホッとしている自分が不思議だった。

 

初めて比叡山坂本駅に降り立った時のことを思い出す。

所持金がほとんどなく不安でいっぱいだった。

ここが何県かもわからなかった。

知らない車に乗せられて、どこに連れて行かれるかもわからなかったあの日。

必死だった。

めちゃくちゃだったけど必死だった。

 

そして今。

やっぱり私は必死だ。

 

せっかくめちゃくちゃなことをしたんだから、そしてせっかく生かされたんだから、このまま必死に生きてみよう。

『私』を実験していこう。

 

ひどい摂食障害は治る気配がない。

私は私が大嫌いなのも変わらない。

ほんとは消えてしまいたいくらい辛い。

でも消えることはできない。

 

だったら実験してみよう。

私には未来なんて元々なかったんだから。

 

 

コバくんが待つ部屋に向かう。

ドキドキしている。

これからどんな会話が繰り広げられるのかわからないから。

コバくんの口からどんな言葉が飛び出すかわからないから。

ちゃんと聞こう。

『待つ身』のほうがしんどかったと思うから。

 

 

ピンポーン

 

 

ドアのチャイムを鳴らし、コバくんが開けてくれるのを待つ。

 

「はーい。」

 

ガチャ

 

ドアが小さく開き、目を真っ赤にしているコバくんが顔を出す。

 

「おう。おかえり。」

 

引きつった笑顔。

頑張って笑っているのが痛々しい。

 

「うん。ただいま。」

 

私もつられて痛々しい笑顔を向けてしまう。

 

「疲れた?」

 

「ううん。ひどい二日酔いやけどな。」

 

「そうか。…ゆきえ。おかえり。」

 

「うん。ただいま。」

 

「うん。…よぉ帰ってきたな。…ぎゅってしてええか?」

 

「…うん。ええよ。」

 

コバくんは私の身体をぎゅっと抱きしめた。

 

「…おかえり…おかえり…俺…待っとってんやで…辛かったけどちゃんと待っとったんやで…うぅ…よかった…顔見たら泣けてきた…うぅ…うぅー…」

 

コバくんは強く私を抱きしめて泣いた。

 

「うん…うん…待っとってくれてありがとう…辛かったやろ?よぉ待っとったなぁ…」

 

私はコバくんの頭を撫でた。

子どもをあやすような気持ちで。

 

「…話し、聞かせてくれる?…怖いけど…俺、聞くわ…」

 

コバくんは私を抱きしめながら小さな声で呟いた。

 

「うん…話すわ。ちゃんと話そう。」

 

私たちはリビングに行きソファーに腰かけた。

 

空気が重い。

俯いているコバくんの姿が辛い。

 

傷つきたくないし傷つけたくない。

でもそんなことはこれから先もありえないことなのかもしれない。

 

「…で…どうやったん?」

 

コバくんが重い口を開いた。

 

「うん…お金を受け取ってもらってちゃんと謝ることができたよ。やりたかったことはやり遂げられた。ちゃんと目標は達成できたよ。」

 

「…そうか…おめでとう。よかったな。うん…」

 

コバくんが淋しそうな笑顔で私に言った。

 

「うん。よかった。ありがとう。」

 

「…で?それで?」

 

「…うん。殺さないって。私のことは殺さないって。それで…戻って来いって言われたんや。」

 

「…うん…それで?それでゆきえはどう答えたん?」

 

コバくんは下を向きながら涙を流していた。

ボロボロと涙がコバくんの履いているジーパンに滴り落ちていた。

 

「…わからんって答えた…戻るか今はわからんって…殺されるって本気で思ってたから…殺されてもいいって本気で思ってたから…急に『これから』のこと聞かれてもわからんって答えたんや…」

 

「そしたら?K氏はなんて言ったん?」

 

「待つって…いつまでも待つって言うた。」

 

「それで?それでゆきえはどう思ったん?」

 

泣きながら聞くコバくん。

私の顔を見ようとしない。

 

「…どう…って…うん…正直嬉しかったし本気で迷った。今も少し迷ってる。でも…今すぐ戻る気は…ないで。」

 

その時コバくんがキッとこっちを向いた。

 

「やっぱり。やっぱりK氏のことがまだ好きなんやな。やっぱり迷ってるんやな。…なんやねん…なんでやねん…」

 

うなだれるコバくん。

「ごめん…」と謝る私。

 

「これ…読んで。ゆきえがいない間、どうしようもなくて書いてたんや。自分の気持ち書いておきたくて。読んで見て。」

 

コバくんはぶっきらぼうに一冊のノートを私に手渡した。

ドラえもんのノートだったのが少し笑えたけど、真剣に受け取った。

 

「読んで…いいの?」

 

「うん…読んで。」

 

コバくんから受け取ったノートには6ページほどに渡っていろんな言葉が綴られていた。

 

PM7時

今頃ゆきえはK氏に会ってるのだろうか。

無事でいてくれ。

俺と別れるという決断を持って帰ってきたとしてもいいから無事でいてほしい。

この世からゆきえがいなくなるなんて絶対に嫌だ。

たとえ俺と離れたとしても。

 

PM10時

さっき書いたことは取り消したい。

やっぱり嫌だよ。

ゆきえと別れるなんて嫌だ。

ゆきえがいなくなるのはもちろん嫌だし、無事でいて欲しい。

そして…やっぱり一緒にいたいよ。

ゆきえが無事でそしてもし別れたいと言ってきたら全力で阻止したい。

俺はわがままだ。

 

PM11時

ゆきえから連絡がない。

無事なんだろうか。

心配だ。

泣けてきた。

こんなに好きなんだと改めて気付く。

辛いよ。

 

 

こんな言葉たちがたくさんたくさん並んでいる。

私は一言一句漏らさないように丁寧に読んだ。

コバくんの心の叫びのような気がして。

これをちゃんと読むのが礼儀のような気がして。

 

コバくんの言葉を真剣に読み進めて行き、私はある文章にピタリと目を止めた。

 

AM9時45分

ゆきえから連絡があった。

無事だった。よかった。

でも怖い。

ゆきえの決断を聞くのが怖い。

俺はゆきえが決めたことを受け入れられるのだろうか。

ゆきえにとって俺は『ただなんとなく隣にいる人』なのかもしれない。

それでもいい。

俺にとってゆきえは絶対に離したくない女なんだとつくづく感じる。

もし別れることを決断していたら受け入れる自信がないよ。

全力でその決断を止めさせたくなるかもしれない。

 

 

 

ゆきえにとって俺は『ただなんとなく隣にいる人』なのかもしれない。

 

 

その一文に目が止まる。

 

ボロボロと涙が流れる。

まったくその通りすぎて切なかった。

それでも離れたくないというコバくんが切なかった。

そしてまったくその通りだと感じている自分が辛かった。

 

 

「…俺…まとまってないんや。どうしたらいいかわかれへん。ゆきえがどうしたいのか聞きたいけど、それを反対してしまうかもしれん。受け入れられへんかもしれん。…どうしたらいいかわからへんのや…ごめん…」

 

なんで謝るんだろう。

この人はなんで謝るんだろう。

 

「…これ…もらってもいい?このノート、もらってもいい?」

 

泣きながらコバくんに聞いた。

この言葉たちは私の手元に置いておきたい。

そう思ったから。

 

「え…うん…恥ずかしいけどな…でもええよ。ゆきえになら恥ずかしいところも全部明け渡したいから。」

 

この人は誠実だ。

そして優しい。

いい人すぎる。

 

 

「それでね…私が決めたことなんだけど…聞いてくれる?」

 

誠実ないい人には誠実に答えよう。

ちゃんと話そう。

 

私は正座をしてコバくんに話し始めた。

私の決めた“これから”のことを。

 

 

 

つづく。

 

 

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