私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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K氏と私はかなりのお酒を飲んだ。

レモンサワーから始まったこの店での宴は、そのうちに焼酎のロックに変わり、そして最後にはテキーラのショットをガンガン飲み合う時間に変わっていった。

 

「ゆきえ!もっとグイッといけよ!いけー!」

 

「はい!いきます!!」

 

「ぶははははー!おまえは酒が強いなぁー!サルート!」

 

「あっははははは!飲みますよぉー!お兄さんと飲むのは久しぶりですからねぇー!」

 

 

ふらふらになるまで飲んだ。

私は私がやり遂げたかったことをやり遂げた嬉しさを味わい、そして戸惑いを味わっていた。

テキーラを何杯も飲み、思い出話をたくさんしながらいつの間にか「あははは!」と笑っていた。

 

「で?おまえはいつ戻って来るんだ?おい?」

 

K氏はふざけながらも話しの合間に何度も聞いてくる。

 

「いやぁ~。あははは。」

 

何度も笑ってごまかす私。

酔っぱらってはいるけれど、頭ははっきりとしている。

笑いながらもちゃんと戸惑いや葛藤を感じていた。

 

何度目かの「で?おまえはいつこっちに戻って来るんだ?」の質問を受けた私はとうとうこんなことを口にしていた。

 

 

「私はぁ、今日までこの日のことしか考えてなかったんですよぉ!今日で死んじゃうと思って生きてきたんですよぉ!なのでね、えと、あの、…わかんないんですよー!もーー!」

 

酔いがかなり回っていた。

もうやけくそだった。

笑ってごまかすのに限界を感じていた。

 

わからないよ。

今の私にはわからないよ。

今日のことしか考えてこなかったんだから。

 

 

「お?…そうか。うん…そうだな。そうかそうか。」

 

K氏が珍しく酔っぱらった顔をして「うんうん」と頷いていた。

 

「だからー!もうちょっと待ってくださいよー!ね?お兄さん!私が逃げ出したのが悪いんですよ!それはわかってます!たくさん迷惑もかけました!すっごくわかってます!だからー!だからー!殺される覚悟で生きてたんやないですかぁー!でもね、お兄さんが生かしたんですよ!なんでか生かされたんですよ!もうね、びっくりですよ!

どうしたらいいんですか?私。人生ってなんですか?生きるってなんなんですか?

知ってます?お兄さん知ってますか?知ってたら教えてくださいよー。もー。」

 

酔っていた。

酔っていたけど自分が何を言っているのかはわかっていた。

わかっていながら口が止まらなかった。

 

「ははは。…わかったよ。わかった。おまえの言いたいことはわかったよ。…『生きる』って切ないよなぁ。うん。」

 

笑いながらK氏は私の方を見た。

 

「向こうで待ってる人がいるんですよー!私が殺されるかもしれないけど待つって言って待っててくれる人がいるんですよー!もうね…どうしたらいいかわからないですよ。私、どうしたらいいんですかね?わかららないっすよ。」

 

気付いたら泣いていた。

コバくんのことはK氏には言わないつもりでいたのに言ってしまった。

 

「…ゆきえはその待ってる奴のことが好きなのか?」

 

K氏が真剣な顔で私に聞いた。

 

「え?…好き…?…わかりません。待たなくていいって言ったんですよ。でも待つって…。私、今生きてるし、向こうが待ってるならけじめはつけなくちゃですよね。それもどうしたらいいかわからないんです。」

 

『けじめ』という言葉をなんとなくつかってしまった。

その『けじめ』のつけかたなんてしらないし、『けじめ』がなんなのかも知らないくせに。

そんな自分に辟易する。

かっこつけやがって!と自分を心の中で罵倒していた。

 

「…そうか。…わかった。」

 

K氏は私の心の中の罵倒にまったく気づかず、納得している様子できっぱりと「わかった。」と言った。

 

「おまえなりのけじめをつけて来いよ。おまえなりの答えを見つけて来いよ。…俺は待ってる。おまえが戻って来るのを待ってるよ。すぐじゃなくていい。でも俺は待ってるぞ。それは俺が決めたことだ。おまえがなんと言おうと俺は待つと決めたんだ。だからおまえはおまえなりの答えを見つけろよ。な?」

 

K氏は腕を組みながら大きな声で私に言った。

私はハラハラと涙を流しながらK氏の言葉を聞いた。

 

「…はい。ありがとうございます。…はい。…そうします。」

 

「まだ飲めるだろ?飲めよ!」

 

K氏は明るい声で私に酒を勧めた。

私は「はい!」と返事をして「テキーラもう一杯ください!」と店主さんにお願いをした。

 

「もう一回乾杯しようぜ!サルートー!」

 

K氏はショットグラスを上に掲げ、私と腕を絡ませた。

腕を一回絡ませてからお酒を飲むのがK氏は好きだ。

これもK氏の演出なんだとわかっているけれど、酔っている時にこれをやられるのはなかなか嬉しかったり楽しかったりする。

 

「おまえの門出だな。おまえの新たな人生が始まるんだろ?大人になれよ。ますますいい女になれよな。まぁ俺のそばにいればなれるんだけどな。はははは。」

 

K氏はそう言いながら綺麗なZippoのライターを取り出し、私に見せた。

 

「こうやってこのライターを見るだろ?どんな形に見える?」

 

「え?長方形です。四角いです。」

 

カタンとカウンターの上に乗せられたZippoが綺麗に光っている。

 

「じゃあこの角度から見たら?」

 

K氏はZippoを持ち上げ、斜めから見せる。

 

「さっきとは違う形です。これは…どんな形っていうんだろうなぁ…」

 

「じゃあこれは?」

 

K氏はまた違う角度からZippoを私に見せる。

 

「さっきとは大きさも細さも違う長方形です。」

 

「うん。そうだな。…そういうことだよ。」

 

カタンと音を立ててZippoをカウンターに置くK氏。

 

「…え?」

 

「同じZippoでも見る角度で全く違うように見えるだろ?そういうもんだよ。世の中っていうのはそういうもんなんだよ。いろんな視点を持てよ。同じ物事をいろんな視点で見られるような女になれよ。それがいい女ってもんだ。なぁ。」

 

K氏はニヤリと笑いながら言った。

 

「…ほんとにそうですね。…まだ私にはよくわからない部分があると思いますけど、その言葉、ずっと覚えておきます。そういう女になりたいです。」

 

「おう。待ってるぞ。な?」

 

 

K氏と私はその後もかなりのお酒を飲んだ。

「わははは」と笑いながら、いろんな話しをした。

K氏の話しは面白く、改めて彼の知識量に驚かされた。

 

「さ!そろそろ帰るか!ホテルまで送るぞ。」

 

私はかなり酔っていて足元がフラフラになっていた。

 

「あい…おねがいしまぁふ!」

 

K氏は私を抱え、町田の街を歩いてホテルの部屋まで送り届けてくれた。

 

「おい!大丈夫か?!ここにお水置いておくからな!おい?!帰るぞ!」

 

遠くでK氏の声が聞こえる。

 

「え…?あい!ありがとうございましたぁ…」

 

朦朧とした意識の中、私はお礼を言った。

気付くと私はホテルのベッドの上だった。

 

「じゃあな。またな。」

 

K氏が私の唇に自分の唇を合わせた。

 

「ん…ふふふ…おやすみなさぁい…」

 

酔っていた私はK氏とキスをしたことを笑っていた。

 

「…おまえ…しょーがねぇなぁ…またな。」

 

K氏の声がますます遠くで聞こえた。

バタンとドアの閉まる音がかすかに聞こえる。

 

「ふふ…ふぅ~…」

 

私の酔いは酷く、気づくと眠りに落ちていた。

 

 

 

ピピピピピピ…

 

ベッドの横にある目覚ましアラームの音が響く。

 

「ん…んー…」

 

アラームの音に目を覚ますと朝だった。

 

「え…?あれ…?」

 

昨日の帰り道をまったく覚えていない。

どうやってここまで来たのかわからない。

 

「え…?え…?」

 

ベッドの中の自分の身体を確認すると、ブラジャーとパンツだけになっている。

 

「え?あれ?」

 

K氏が帰っていった時の様子をおぼろげながら思い出す。

 

「え…と…あれ…どうしたんだっけ…」

 

きょろきょろとベッドの周りを見回すと、ベッドサイドにお水とメモが置いてある。

 

「え…?」

 

メモを手に取り、しょぼしょぼする目をこらす。

 

『苦しそうだったから服脱がせておいたぞ。何にもしてないからな!楽しかった!愛しているぞ!またな。』

 

 

K氏の懐かしい文字で殴り書きしてあるメモ。

私はそれを見て「ふふ」と笑った。

 

お水を飲み、ひどい頭の痛みに気付く。

 

「っつ…あー…飲み過ぎたなぁ…」

 

ひどい二日酔いだ。

身体が動かない。

ぐるぐると回る天井を見つめながら昨日のことを思いだす。

 

右手をおでこの上にのせ、軽く目をつぶる。

 

終ったんだ。

やり遂げたんだ。

ちゃんと謝罪をして、700万円を渡せたんだ。

 

「うん…よかった…よかったな…」

 

目をつぶりながら1人呟く。

 

「…さあ…今後のことを考えなきゃな…」

 

終ったと思ったらもう始まっている。

コバくんのこと、これからのこと、諸々のことを片付けていかなければ。

 

時計を見ると午前9時半過ぎ。

チェックアウトは11時だと言っていた。

なんとか動き出さなければ。

生きていかなければいけないんだから。

 

「…よし…」

 

ドロドロに動かない身体をなんとか起こし、携帯電話を手に取った。

 

プルルルル…

プルルルル…

 

呼び出し音が響く。

『けじめ』。

私なりの『けじめ』ってなんだろう?

そしてその『けじめ』は、いつつけられるんだろう。

 

 

「…もしもし?」

 

コバくんの憔悴した声が聞こえる。

 

「もしもし?私。ゆきえ。」

 

「…うん。…どない?」

 

元気がまるでない。

昨日から今日にかけて、コバくんがどれだけ気を張っていたのかがわかる。

 

「…うん。生きてるよ。」

 

「…うん。…よかった。ほんまによかった…」

 

泣いている。

電話の向こうでコバくんが泣いている。

 

「…ありがとう。無事に終わったよ。」

 

「…うん。…で…どないなん?」

 

「…今からそっちに帰るな。それから話そう。」

 

「うぅ…うん…待ってる。待ってるで。うぅ…とりあえず…無事でよかった…」

 

「…うん。ありがとう。まだ町田やから、何時にそっち着くわからんけど。待っとってくれる?」

 

「うぅ…うん。ゆっくりでええよ…俺、ずっと待ってるから…よかった…よかった…」

 

「うん…じゃあ…あとで。」

 

「うん…気ぃつけてな…」

 

 

電話を切り、溜息をつく。

 

「…重いな…」

 

頭も身体も重い。

そしてコバくんの想いも重い。

これからのことを考えると、とても重い。

 

「はぁ~…」

 

バタンともう一度ベッドに倒れこむ。

このままギリギリの時間まで身体を休めよう。

これから私は『重い』時間を過ごしに向かうんだから。

 

私はもう一度右手をおでこの上に乗せ、軽く目をつぶった。

これから私は何をコバくんに話すだろう。

コバくんは私に何を語るだろう。

 

私はこれからどうなっていくんだろう。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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