私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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シャワーから出ると、私は下着と洋服を選んだ。

K氏に会うのはかなり久しぶりだ。

「綺麗になったな」と言わせたい自分がいる。

貴方の元にいたときより綺麗になったでしょ?と思わせたい自分がいる。

「いい女だ」とK氏に思ってもらいたいと切に感じている自分が強く現れる。

 

私は黒いTバックと黒いレースのブラジャーを選び、身に着けた。

そして黒のタイトスカートに細かい網目の網タイツを履き、黒いカシュクールタイプのカットソーを選んだ。

 

全身黒。

私は私の葬式をする。

そのための服だ。

 

いつもより丁寧にお化粧をして何度も自分の姿を確認する。

全身を鏡に映し、自分のスタイルの悪さに辟易とする。

 

こんなスタイルの悪い女をよくみんな指名してたなぁ…

 

そんなことをしみじみと思う。

 

時間をかけてやっとのことで身支度を整え、部屋を整え、普通に部屋を出る。

ただちょっと出かけるだけのようなふりをして、平然と鍵を閉めた。

 

 

比叡山坂本駅から京都に着き、私はきょろきょろと“あるもの”を探した。

 

「ないなぁ…」

 

ちょうどいいものがなかなか見つからない。

新幹線の駅近く、観光客向けのお土産物が並ぶお店を物色する。

 

「ここもないなぁ…」

 

いくつかのお店を見て回り、私はやっとちょうどいい“あるもの”を見つけた。

 

「あった。これこれ。」

 

独り言を言いながらレジに持っていく。

 

「こちらのお色、綺麗ですよねぇ」

 

レジを打つお姉さんが私に笑顔でそう言った。

 

「あ、はい。そうですね。」

 

私も笑顔で返す。

 

「どなたかにお土産ですか?素敵なチョイスですねぇ。」

 

お姉さんが満面の笑みで私に聞く。

その言葉に少し戸惑いながら私は引きつった笑顔で答えた。

 

「ええ。大切な人に。」

 

 

私がそのお土産物屋さんで買ったのは西陣織の小ぶりな風呂敷。

700万円を包むために綺麗な布が欲しかったのだ。

700万円がどれだけの厚みで、どれだけのものなのかわからないまま、その小ぶりな風呂敷を私は買った。

 

青を基調にした、綺麗な花柄の布。

手触りがとてもいい。

西陣織』と書かれているけれどこれが本当に西陣織なのかは私にはわからない。

さっきのお姉さんはまさかこれを私を殺すかもしれない人に渡すなんて、微塵も思わないのだろう。

 

 

京都から新幹線に乗り込む。

新横浜までかなり時間がある。

私は気を紛らわすために普段は読まない女性週刊誌を2冊持ち込んだ。

ビールを飲み、週刊誌を読む。

ふとこれからの時間のことが頭をよぎると、すぐに追い払い、週刊誌の内容に意識を向ける。

 

しばらくすると眠気が襲って来た。

週刊誌を閉じ、目をつぶる。

 

眠ろうとすると不安が一気に押し寄せる。

胸がドキドキとしてくる。

K氏は何と言うだろう。

私を殴るだろうか。

なじるだろうか。

どこかに監禁したりするかもしれない。

 

その時私はどうなるのだろう。

 

痛いのだろうか。

傷つくのだろうか。

絶望するのだろうか。

 

私はこのまま父にも母にも姉にも兄にも会えないかもしれない。

私が存在したことを誰もが忘れるかもしれない。

 

 

え…?

私が…?

存在したことを…?

誰もが忘れる…?

 

 

今自分で考えたことにふと立ち止まる。

 

それ…

いいかもしれない…

 

私がこの世からいなくなったって誰も困らない。

コバくんが少しは悲しむかもしれないけれど、きっとすぐに忘れるだろう。

私の家族だって私がいなくなったことで誰も悲しまないだろうし、すぐに忘れるだろう。

 

なんだ。

そうか。

 

いつの間にか不安がなくなり、これから始まる未知なるショーに心が躍る。

私は傷つけられたがっている。

私は罵られたがっているのだ。

 

どれだけ痛いのだろう。

“傷つく”とはどういうことだろう。

どん底”とはどこだろう。

 

目をつぶりながらそんなことを考える。

そして私は眠れないまま新横浜まで運ばれていった。

 

 

新横浜から横浜線に乗る。

この電車に乗るのは久しぶりだ。

高校生の頃は毎日のようにこの電車に乗っていた。

関西とは違う雰囲気を感じ、私は今関東にいるんだと実感する。

 

 

町田駅

この少し泥臭い雰囲気が懐かしい。

この場所に来ると胸が締め付けられる。

 

私は知り合いに会わないかとびくびくしながら町田駅を歩いた。

 

まずは郵便局に行って700万円をおろしてこなければならない。

時刻は13時半。

K氏との約束まであと1時間半。

私は足早に郵便局に向かい、窓口で「お金をおろしたい」と告げ、記入した用紙を差し出した。

 

「え…と…そうですか。700万円を今おろしたいのですね。えー…と…少々お待ちください。」

 

窓口の女性が戸惑った様子で席を外した。

後ろにいた上司であろう男性になにやら話している。

 

「お待たせしてすいません。私が代わりに対応させていただきますね。」

 

上司であろう男性がにこやかに言った。

 

「あ、はい。」

 

私は淡々と返事をし、「ちょっと急いでるんですけど」と告げた。

 

「あぁ、申し訳ございません。お急ぎなんですね。えー…」

 

その男性は少し引きつった笑顔で揉み手をした。

こんなにわかりやすい揉み手は初めてだ。

 

「あの…差支えなければお聞かせいただきたいのですが…」

 

その男性は引きつった笑顔のまま私に質問をしてきた。

 

「はい。なんでしょう?」

 

私は淡々と答える。

 

「どういった理由でお引き出しされるのでしょうか?」

 

「え?」

 

まさかの質問に戸惑う。

そんなことを聞かれると思わなかった。

 

「あ、いや…700万円といいますとかなりな金額になりますので…。どういったことで一気にお引き出しされるのかと思いまして…。いや、差支えなければでいいのですが…」

 

男性が不自然な笑顔のまま私に言う。

 

あー

こんな小娘が一気に700万円を引き出すなんてそりゃ怪しいよなぁ…

 

「え…と…ある方に今日お渡しすることになってまして。その為に貯めていたんです。なので今日引き出せないと困るんですが…。無理ですか?」

 

私の預金を私がどうしようと勝手なはずなのに、なぜかひるんでいる私がいる。

 

「いえいえ!そんなことはございません。お客様のご預金なんですから。失礼いたしました。すぐに手配いたしますね。少々あちらでお待ちください。」

 

その男性はうやうやしく私にそう言った。

私は用意できると言われてホッとしていた。

 

ここで引き出せなかったら私の計画が狂ってしまうし、こんなに格好悪い事はない。

 

「お待たせいたしました。」

 

窓口に再び呼ばれ、私はドキドキしながら男性の方に向かう。

 

「あの…大変申し訳ないのですが…」

 

男性がさも申し訳なさそうな表情で話し始める。

 

「はい?なんですか?」

 

「今こちらに700万円という現金がございませんので…」

 

「え?ないんですか?」

 

「あ、はい。ほんとに申し訳ございません。」

 

深々と頭を下げる男性。

目を丸くする私。

 

「え…じゃあ…どうしたらいいんですか…?」

 

途方に暮れる私。

 

「現金でご用意するには明日か明後日になってしまいます。それでどうでしょうか?」

 

あ…明日か明後日?

無理無理無理。

そんなの無理だ。

今!今なきゃ意味がない!

 

「いや、困ります。今ないと困るんです。」

 

目を見開いたまま訴える私。

 

「そうですかぁ…」

 

困った様子の男性。

 

どうしよう。

まさかこんなことになるとは。

 

なんとか700万円を15時までに用意しなければ。

ここはとても重要だ。

ぜったい用意しなきゃだめだ。

 

「なんとかなりませんか?」

 

必死に聞く私。

 

「そうですねぇ…」

 

首をかしげる男性。

 

郵便局の窓口で、私はすがる様な状態だった。

 

 

 

 

つづく。

 

 

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