私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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送別会の場所は私の大好きな『ふく田』だ。

 富永さんが今日の為に、広い綺麗な個室を予約したと言っていた。

 

「有里ちゃーん!いらっしゃーい!あー相変わらず観音様みたいやなぁー。」

 

店長さんが優しい優しい笑顔で私を迎えてくれる。

相変わらずのセリフと共に。

 

「あははは!いつもそれ言うなぁー。どこが観音様やねんなぁー。」

 

私は店長さんの柔らかい笑顔と優しい声が大好きだ。

そしてやっぱりこの店の凛としてるけど温かい空気が大好きだ。

 

「今日はね、有里ちゃんの門出をお祝いするために美味しい物たくさんだすからね。たくさん食べてやぁ。」

 

店長さんがそう言いながら個室の襖を開ける。

 

「うわぁー!」

 

そこには綺麗に並べられたお皿と共に、鯛の尾頭付きの塩焼きが二尾、ドーンとテーブルに置かれていた。

 

「えー!なにこれー!」

 

私はその光景に驚き、声をあげた。

 

「すごいでしょー?まだまだお料理たくさん出てくるからね。座って座って!」

 

嬉しそうな店長さん。

 

「ほー!こりゃすごいやないの。気張ったなぁ。やりよるやないの。」

 

富永さんが店長さんをからかうように言う。

 

「そりゃそうでしょ!可愛い有里ちゃんのためやんか。ねー!もう娘みたいなもんやから。ははは。」

 

「娘やないやろが。孫やろ?のぉ?有里。」

 

富永さんが座椅子に座りながらさらにからかう。

 

「それはないでしょー。ねぇ?有里ちゃん。」

 

店長さんが私に笑いながら聞く。

 

「店長さんは有里ちゃん大好きやもんなぁ。なぁ?」

 

理奈さんがニコニコしながら店長さんに言う。

 

「いやぁ、理奈ちゃんだって娘みたいなもんやぁ。ねぇ?富さん。」

 

「いや、絶対有里ちゃんには甘いで。笑顔が違うもん。なぁ?富永さん!」

 

「そうやのぉ。わしもそう思うわ。」

 

「やっぱりそうやんかぁー。」

 

「そんなことないわぁー。」

 

「いや、そうやって!」

 

「まぁそれはええわ。はよ飲みもの持って来てくれる?」

 

「あー!そうやね!ビールでいい?」

 

 

私はそのやり取りを聞いて笑っていた。

私をダシにしてじゃれ合っている3人の姿が愛しい。

こんなに幸せな時間、ある?と思う。

 

ねねさんも小雪さんもななちゃんもふく田には初めて来たこともあり、このやりとりをただ笑いながら聞いていた。

 

「有里ちゃんたちはここによぉ来てたん?」

 

小雪さんが「あはは」と笑いながら私と理奈さんに聞いた。

 

「まぁたまにやな。なぁ?有里ちゃん。」

 

「うん、そうやね。私、ここで初めて富永さんに会ったんよ。前の店のおねえさんがここに連れてきてくれて、富永さんを紹介してくれたのが最初なんよ。ここで富永さんに会わんかったらシャトークイーンで働いてなかったんやなぁ。みんなにも会うてなかったんやんなぁ。」

 

小雪さんもねねさんも「へぇーそうなんやぁー」と言いながら、ふく田の個室内をぐるっと見回す。

 

「…そうやな。そうやなぁ。ここで有里と会うたんやもんなぁ。」

 

富永さんがおしぼりで顔を拭きながらしみじみと言った。

 

「そのおねえさんの名前、なんやったっけ?」

 

理奈さんが私に聞く。

 

「ん?原さん。あ、その前は美咲さんって名前やったらしいけどな。」

 

私は理奈さんに答えながら原さんのことを思いだしていた。

原さんはなぜ私をここに連れてきたんだろう。

そしてなぜ富永さんに会わせてくれたんだろう。

たいしてしゃべってたわけでもない私に。

 

「あれは不思議やったなぁ。原とわしは1回か2回くらいしか飲んだことないんじゃ。しかもたまたまここで会うてやで。名前も忘れとったくらいの感じやったんじゃ。それが急に店に電話をかけてきてな、会ってほしい子ぉがおるんじゃ言うてなぁ。

まぁそれやったらふく田に来たらええが言うたんじゃ。そしたらほんまに連れてきたからのぉ。わからんもんやな。何が起こるかなんてな。」

 

富永さんがじっくり思い出すようにそんなことを話した。

私もその話しを富永さんから聞いたときはほんとにびっくりした。

原さんはわざわざ店にまで電話をかけてくれて、私と富永さんを引き合わせてくれたのだ。

 

「へー!その原さんって人、すごいなぁ。」

 

ねねさんが感心するように言った。

 

ほんとにすごいよ。

原さんは。

でも何が原さんをそうさせたのかはよくわからないんだよなぁ。

 

 

「はいはい!お待たせしましたー!」

 

店長さんが飲み物を持って来て、乾杯の音頭をとるために富永さんが立ちあがる。。

 

「じゃあね、今日で有里が店を去るってことで…淋しいけどな、これはお祝いじゃ。有里が新たなスタートを切るお祝いじゃ。ご馳走もたくさんでるから。のぉ。ほんまは淋しいんやで。のぉ。でもな、今日はお祝いしながら飲みましょう。のぉ。有里。ほんまにお疲れさん。乾杯。」

 

富永さんがグラスを掲げる。

みんながそれに答える。

 

「かんぱーい!!」

「有里ちゃんお疲れさまー!」

「おつかれさーん!」

「かんぱーい!ほんまにお疲れさまー!」

 

みんなが私のところに来てグラスをカチンと合わせていく。

 

「あー。ほんまにありがとう。ありがとう。」

「あ、ありがとう。おつかれさま。」

「あーうん。ありがとう。」

 

私…こんなことしてもらったの初めてだ。

嬉しいけど受け取れない。

「あはは…」と笑うのが精一杯だ。

 

 

「じゃ小雪。あれ渡して。」

 

「あ、はーい!」

 

富永さんが小雪さんに何か指示をだし、小雪さんが個室の襖を開けて出て行った。

 

「有里。みんなから渡したいものがあるんじゃ。」

 

富永さんが立ったまま私に向かって言った。

私はいたたまれなくなり、ビールのグラスを持ったままこう返した。

 

「え?なに?!やだやだやだ。いらないから。なんにもいらないし受け取らないから。」

 

ほんとにもう何にもいらないし、何にもしてほしくない。

だってもう十分すぎるほどだから。

 

「そんなこと言わんとー!受け取ってくれな困るわー!なぁ?」

 

理奈さんが私の隣で肩をポンポンと叩いた。

 

「やだやだやだ。いらないから。もう十分だから。」

 

私は戸惑いながら首をブンブン振っていた。

その姿を見てみんなが笑ってる。

 

「じゃ、有里。これ。」

 

富永さんがそう言うと同時に、小雪さんが大きな大きな花束を抱えて個室に入ってきた。

小柄な小雪さんの顔が見えなくなるほどの花束。

百合とバラと名前がわからない綺麗な花たちがたくさん。

 

「えーーー!!もう…ほんまにいらないのに。こんなんどうするん?なんにもお返しできひんよ!こんなことしてどうするん?!」

 

私には不釣り合いな大きな花束。

こんなのもらえない。

 

「今日買うてきたんやでー!有里ちゃんのイメージに合わせて作ってもらったんや。綺麗やろ?」

 

ニコニコ笑いながら私に大きな花束を差し出す小雪さん。

 

「綺麗やなー!有里ちゃんによぉ似合うわー!」

 

理奈さんが感嘆の声をあげる。

 

「ほんまに綺麗じゃ。これはな、女の子たちが企画して、みんなで買うたもんじゃ。みんなからの気持ちやから。受け取ってくれ。」

 

富永さんが私に受け取るように促す。

『女の子たちが企画した』。

その言葉に胸がグッと詰まる。

『みんなからの気持ち』。

その言葉に鼻の奥がツーンとしてきた。

 

「もー…なんでこんなこと…ありがとう。」

 

私は泣きそうになりながら花束を受け取った。

 

「よかったな。有里。」

「お?泣いてるんか?アリンコー。」

「え?有里ちゃん泣いてるん?」

「泣いてないわ!うっさいなー。」

「泣いてもええんやでぇ。ええ子ええ子ぉ。」

「そうやでぇ。泣いてもええんやでぇ。あとついでに辞めんでもええんやでぇ。」

「お?辞めるの止めるか?有里。」

「そうやな。辞めるの止めたらええわ!な?有里ちゃん。」

「もう!うっさいなー。飲むよー!今日は飲むでー!」

「あはははは。」

「あっはははは。」

 

 

ふく田での送別会はものすごく楽しいものだった。

ふく田の料理はどれも絶品で、みんなで飲むお酒も美味しかった。

 

 

「有里ちゃん。私も一杯頂いていいかな?」

 

宴会も終焉に向かっている頃、個室にお酒を持って来てくれた店長さんが私の隣にちょこんと座ってグラスを持ってそう言った。

 

「あ!もちろん!どうぞ!」

 

私は喜んで店長さんのグラスにビールを注いだ。

 

「そりゃ店長が有里に注ぐもんやろがぁ。なんで有里が店長にビールを注ぐんじゃ。」

 

その姿を見て富永さんがふざけて文句を言う。

 

「いやいやいや…。有里ちゃんが注いでくれるビールを飲みたかったんよぉ。ええやんねぇ?有里ちゃん。」

 

ニコニコと笑いながら言う店長さん。

 

「はい!喜んで!店長さん。お世話になりました。ここに来られてほんまに良かったです。この場所があったから救われたこと、何度もありましたよ。ほんまに。」

 

私は店長さんとグラスを合わせながら心からのお礼を伝えた。

店長さんは「あー!有里ちゃんに注いでもらったビールは美味しいわぁー!」と大袈裟に言いながらビールを飲んだ。

私は「そうだ。渡したいものがあるんです。」と言いながら、持ってきた紙袋の中から一つの包みを店長さんに差し出した。

 

「え?!なに?!」

 

驚く店長さんに「たいしたもんやないんです。」と言いながら私はプレゼントを渡した。

 

「うわぁ!ありがとう。遠慮なく頂くわー。うれしいなぁ。有里ちゃんはこういうことが出来る子ぉやねんなぁ。」

 

店長さんがほくほくの顔で喜ぶ。

私はその顔を見て嬉しくなる。

 

「あ、みんなにもあるんや。私からみんなへお礼がしたいから。」

 

私はこの日の為に全員にプレゼントを用意していた。

それはネクタイとかタオルとか下着とか、ほんとにたいしたものではないのだけれど。

なにか、そう、なにか形として渡したかっただけなのだけれど。

 

「えー!なんで?!」

「そりゃあかんわ。」

「えー!嬉しいー!」

「ええの?俺ももらってええの?」

「なに?これなに?」

「有里ちゃんありがとー!」

 

1人1人に手渡し、もう一度「ほんまにありがとう」と伝える私。

会えるのもこれが最後かもしれないから。

 

「有里。あけてもええんか?」

 

富永さんが私に聞く。

 

「え?ええよ。でもほんまにたいしたもんやないんやで。がっかりせんといてな。あはは。」

 

「がっかりなんかせんよ。するわけないやろが。」

 

富永さんはそう言いながら包みを開けた。

 

「ほー!これは…ええやないの。これは…つかえんのぉ。もったいなくて使えんわ。飾っとくかのぉ。こんなにええのをもらったことないが。のぉ?見てくれや。これは使えんわ。」

 

顔を赤くした富永さんが何度も「これは使えんが」と言っている。

あげたものはほんとにたいしたことのないネクタイなのに。

 

「あははは。そんな風に言うてくれてありがとう。使ってくれなあかんで。せっかくあげたんやから。たいしたもんやないんやって。あはは。」

 

「いや。これは使えんわ。わしはずっと飾っとくで。これをいれる額を買わなあかん。のぉ?わしはこれを眺めて酒を飲むが。そうじゃろ?のう?理奈。」

 

…可愛い。

酔っぱらっている富永さんが可愛い。

 

「富永さんはほんまに飾るで。あははは。」

 

理奈さんが笑う。

 

「おっさんはほんまに飾るわ。わははは。」

 

上田さんが笑う。

 

「富永さんはやるな。あははは。」

「ネクタイ額に入れるおっさんがどこにおるんや!あははは。」

「ここにおるやんかぁ。あははは。」

 

小雪さんもねねさんもななちゃんももう一人のボーイさんも笑う。

 

「富永さんが酔っぱらてるでー!あははは。」

 

私が笑う。

 

 

こんな店があるんだな。

ソープランドでこんな店があるんだな。

 

私は笑いながら、この時間を絶対に忘れたくないと思っていた。

 

「次の店行くやろ?カラオケでも歌うか?」

「あ!行く行くー!」

「有里ちゃん行くやろ?」

「そりゃ有里ちゃん来なきゃあかんやろ。」

「アリンコ行くやろ?」

「わしのサブちゃん聞きたいやろ?のぉ?」

「有里ちゃんが行くなら私も行くー。」

 

みんなが私を誘ってくれる。

みんなが私に良くしてくれる。

こんな奇跡みたいなことがあるんだな。

 

 

「うん。行くでー!富永さんのサブちゃん、聞きに行こうー!あははは!」

 

 

送別会はまだまだ続きそうだ。

まだまだずっと続けばいいのに。

このまま終わらなければいいのに。

 

そんな不可能なことを考えている私がいた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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