私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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最終日の2人目のお客さんをお見送りした後、しばらくして富永さんが私を呼んだ。

 

「有里。ちょっと来てくれ。」

 

「え?なに?どうしたん?」

 

富永さんは私をお客さんの上がり部屋の前に連れて行き、こう言った。

 

「あの人が来てるんじゃ。あの…理奈のお客さんでいつも有里のページの掲示板に書き込んでる…あのぉ…Ryuさんやったかのぉ。この花を持って来てくれたんじゃ。今ここで待ってもらってるから挨拶したらええが。」

 

Ryuさんとはいつも私のページの掲示板に書き込みをしてくれる人のハンドルネーム。

理奈さんをずーっと指名している常連さんで、よく私と理奈さんとRyuさんで掲示板内でやり取りをしていた人だ。

Ryuさんから『有里ちゃんが辞めてしまう前に指名して入ろうかと思っていたけど、やっぱり理奈さんに悪いから最終日にお花だけ届けます』とメッセージを頂いていた。

 

「え?!ほんまに?!来てくれたんや!」

 

メッセージは頂いていたけど、まさかほんとにお花を届けてくれるなんて思っていなかった私はとても驚いた。

 

「Ryuさんは会わんでもええ言うとったけどちゃんと会って挨拶したほうがええやろ?ここで待っててもらってるから。一言言うてきたらええが。」

 

「うん!ありがとう!」

 

こういう場所でお客さんが指名してない女の子に会うことは絶対にない。

女の子のほうも指名されていないお客さんに挨拶をさせてもらえるなんてことは絶対にない。

富永さんの優しい配慮に感謝が湧く。

 

コンコン

 

上がり部屋をノックする。

 

「はい。」

 

部屋の向こうで遠慮がちな返事が聞こえた。

 

「有里です。開けてもいいですか?」

 

いつもと違った緊張感。

なんだかドキドキする。

 

「あ、はい!どうぞ。」

 

ドアの向こうでも緊張している声が聞こえる。

 

「失礼しまーす!」

 

「あー!有里ちゃんやぁー!本物の有里ちゃんやー!わざわざありがとう!」

 

「あははは!こちらこそほんまにありがとうございます!まさかRyuさんに会えると思っていませんでした!お花、ありがとうございます!」

 

Ryuさんが持って来てくれたお花はとても立派でお店の入口に飾ってあった。

その立派なお花には『祝 有里ちゃん』と書かれた札が付いていて、なんだか芸能人にでもなったかのような気持ちにさせてくれた。

 

「いやぁ~…なんか…緊張するわ。あはは。何度も指名しようと思ったんやけど…なんかやっぱり理奈さんに悪いと思ってしまってなぁ。ほんまごめんやで。」

 

Ryuさんははにかんだ笑顔で私に謝った。

でも私は『理奈さんに悪いと思って…』と言うRyuさんをとてもいいと感じていた。

 

「いやいや。なんか…嬉しいです。そういうの。ほんまにありがとうございました!めっちゃ感動してます。わざわざお花まで…。それにお会いできてほんまによかったです。」

 

「あはは…俺も有里ちゃんの顔が見られてよかった。ありがとう。これから頑張ってな。応援してるから。理奈さんと有里ちゃんの話したくさんするわ。」

 

「はい!ほんまにありがとうございました!じゃあ…失礼します。」

 

「うん。ありがとう。」

 

 

素敵な笑顔で私を見送るRyuさん。

ぺこりと頭を下げる私。

 

ソープ嬢って私が思い描いていたのとは違うと改めて感じる。

こんなに温かく接してくれる人がいるんだなぁとドアを閉めながら思う。

 

「富永さん。ありがとう。」

 

Ryuさんに挨拶を終え、優しい配慮をしてくれた富永さんにお礼を言う。

 

「おう。よかったな。優しい人やな。」

 

「うん。ほんま。よかった。」

 

心からそう思うよ。

 

 

 

その日来てくれたお客さんは見知った顔ぶれの人ばかりで、お花やプレゼントをみんなが小脇に抱えて会いに来てくれた。

私はこんなに優しくしてもらっていいのだろうか?と怖くなる。

嬉しい気持ちの反面、いよいよ死ぬんだなという気持ちが強くなっていた。

 

コバくんの前に予約を入れてくれたお客さんは大きなお花と大きなプレゼントを両手で抱えて来てくれた。

「ほんまは俺が最後に入りたかったんやー!」と悔しがりながら。

 

みんな一様に「ほんまに有里ちゃんみたいな子ぉに会えてよかった」と言ってくれた。

そして「これから何するかしらんけど、有里ちゃんならどこでもやっていけるよ。がんばれ。」と応援の言葉をかけてくれた。

私は1人1人に心から「こんな私にそんな優しい言葉をかけてくれてありがとう。」と伝えた。

中には私の最後だからとSEXをしないで帰るお客さんもいた。

一緒にお風呂に入ってお酒を飲んでお話しして帰る。

「この時間がいつも楽しみやったんや。」と言いながら。

 

最終日の今日、私は『ソープ嬢』ってなんだろう?と再び思う。

SEXってなんだろう?と。

 

 

最終日最後の時間。

コバくんは時間ぴったりにお店にやってきた。

 

「ふぅ…」

 

これでいよいよ終わる。

この時間で最後だ。

あの個室で過ごすのはこれで最後なんだ。

 

「ご案内しまーす!」

 

上田さんの声が待合室から聞こえる。

私は待合室の手前でひざまづき、顔を下に向ける。

ここで何度緊張しながらお客さんを待っただろう。

あの吐きそうになる時間も手に汗握る瞬間ももう来ないのだ。

 

下を向いた目線にコバくんの足が見える。

 

「いらっしゃいませ!」

 

パッと顔を上げ、笑顔で迎える。

これも最後だ。

 

「お二階へどうぞー!」

 

「うん。ありがとう。」

 

大きな花束を抱えたコバくんが、ニコニコ笑いながら私にお礼を言った。

 

腕を組み、2階の部屋へ向かう。

階段を上がりながら小声で「ちょっと!なにその花!すごいやん!」と言う私。

「えへへ。買うてきてしまった。」と恥ずかしそうに言うコバくん。

 

「あははは」

「えへへへ」

 

笑い合いながら個室へ向かう。

こういう最後もいいのかもしれないなぁ。

 

コバくんと私は一緒にお風呂に入り、一緒にビールを飲んだ。

 

「有里ちゃん。今日はどうやった?」

 

コバくんはあえて私を『有里ちゃん』と呼び、この時間の最後までは『有里ちゃん』

でいさせてくれようとした。

 

「うん。たくさんプレゼントもらったで。お花も。コバくんまでくれると思わんかったけど。あははは。」

 

「えへへ。どうしてもあげたくなってしまって…。よかったな。有里ちゃんが頑張ってきた結果やな。」

 

優しい目で私を見るコバくん。

ありがたい。

ほんとにありがたいと感じた。

 

「なんも頑張ってへんけどなぁ。みんな優しい人ばっかりや。申し訳ないくらいや。」

 

最後まで泣かないつもりだったのに涙がこみ上げる。

 

「よぉがんばったでぇ。俺、すごいと思うわ。有里ちゃんはすごいわ。俺、自慢やもん。有里ちゃんと知り合った俺、すごいと思うわ。めっちゃラッキーやと思うで。きっと他のお客さんもみんなそう思ってると思うで。ほんまにそう思う。」

 

コバくんが優しい口調でそんなことをいうもんだから、私の涙腺が崩壊してしまった。

 

「うぅ…そんなん言わんでよ。うー…泣いてしまったやんかー!うー!そんなことないわ!うぅー!うわーん!」

 

コバくんは私の頭をポンポンと撫でた。

そして「うんうん」と何度も頷いて「よぉがんばったで」と言った。

 

最後の90分はあっという間に終わった。

泣いてお話してビールを飲んで思い出を語ってまた泣いて。

 

「さ!もう行かなな。有里ちゃんはこの後送別会やろ?俺、先に寝てるからゆっくり楽しんで来てな。」

 

コバくんが身支度を整えながら言う。

 

「うん。朝まで飲んでしまうかもしれん。ごめんな。」

 

「うん。帰ってきたらいっぱい抱きしめるから!気ぃつけて行ってきてな。」

 

「うん。わかった。」

 

泣き顔を整えてフロントにコールを入れる。

 

「お客様お上がりです。」

 

「はい。…有里。お疲れさまでした。」

 

受話器の向こうの富永さんが気持ちを込めて『お疲れさまでした』を言ってくれているのがわかる。

また泣いてしまいそうだ。

 

 

「有里ちゃん。ほんまにお疲れさまでした。」

 

個室を出る時、コバくんが改めて言葉をかけてくれた。

 

「うん。ありがとう。」

 

今日は何度『ありがとう』と言っただろう。

雄琴に来た時はこんな最後になるなんて想像もしていなかった。

こんなに温かい最終日になるなんて思いもしなかった。

 

 

「お客様お上がりでーす!」

 

階段を降りながら下で待機している上田さんに聞こえる様に声をかける。

階段の下で私を見上げる上田さんの姿を見るのもこれが最後なんだなぁ。

 

「お上がりなさーい!こちらへどうぞー!」

 

上田さんがコバくんを上がり部屋に案内する。

 

「ありがとう。じゃ。」

 

コバくんが私に向かって小さく手を振る。

 

「うん。じゃあ。」

 

ニコッと笑って見送る。

そして私は深々と頭を下げた。

 

「…ふぅ…」

 

顔を上げ、一息つく。

 

「有里。お疲れさん。」

 

フロント横のカーテンが開き、富永さんが顔を出す。

 

「うん。お疲れさまでした。」

 

「ちょっとこっち来て。」

 

富永さんが私をフロントに呼ぶ。

 

「うん。」

 

私は富永さんの横で正座をした。

 

「…終わったなぁ。」

 

富永さんが淋しそうな顔で私にポツリと言った。

 

「うん…。終ったなぁ。」

 

私もポツリと答える。

 

 

「長い事この世界で仕事してきたけどな、有里みたいにこうやってきちんと辞めていく子ぉは初めてじゃ。」

 

富永さんが下を向きながら話し始める。

 

この後私はやっとひっこんだ涙がふたたび溢れることになる。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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