私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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私はコバくんにK氏とのやりとりの内容を話した。

 

K氏はずっと私の居場所を知っていたこと。

お店の場所までわかっていたこと。

私からの連絡をずっと待っていたこと。

綾子さんがしばらく私を探し続けていてくれたこと。

そして「戻ってこい」と何度も言われたこと。

 

考えが、話が、まとまらないままポツポツと。

 

私のまとまらない話しをコバくんは黙って聞いていた。

下を向いたまま。

 

しばらく黙り込み、コバくんは言葉を詰まらせながらこう言った。

 

「…で…?ゆきえは…戻りたいって思うん?…K氏の元に…戻りたいって思ったん?」

 

私は“今起こった出来事”を話した。

コバくんはその私に“今の気持ち”を問いただした。

 

 

「……」

 

 

下を向いたまま黙り込む私。

 

なんて答えたらいいんだろう。

今さっき終ったばかりのK氏とのやりとり。

まだ気持ちが高揚していて自分の気持ちがわからない。

 

実際心が揺れ動いているのは確かだ。

思いがけずK氏から優しい言葉をかけられて浮足立っている。

K氏と過ごした優しい時間が蘇る。

“いい女”として扱われた夢のような時間を思い出す。

もう一度K氏のそばで過ごすのもいいのかもしれないとちょっとだけ思っている自分がいる。

 

でも、それをコバくんに伝えてもいいんだろうか。

 

 

「…黙ってるってことはそういう気持ちがあるってことやんな?」

 

コバくんが涙声で黙っている私に聞いた。

 

「…うん…ちょっとだけそう思ってる自分がいるんだ…」

 

答えてしまった。

黙っていられなくてそう答えてしまった。

 

「…う…うぅ…なんでやねん。ひどいこといっぱいされたんやで!ここまできてなんでやねん…なんでそんなこと思うねん…うぅ…」

 

コバくんが泣いている。

私が言っていることもやっていることもめちゃめちゃだからだ。

自分でも嫌になる。

“死”を覚悟してまでここまでやってきたのに、心が揺らぐんだから。

 

「…ごめん…ごめんな…K氏には4月2日に町田で会うことになってん。…でもな、その時に殺される可能性もあるんや。ほんまにK氏はわからん人やねん。今電話で優しい言葉をかけてきたけど、これも演技の可能性もあるんや。会って私がK氏の要望に答えなかったらなにされるかわからんねん。ほんまに。だから会ってお金を渡すまでどうなるかほんまにはわからんねん。」

 

これはほんとに懸念していることだった。

K氏は長年裏社会に精通していた、いや、今も精通している男性だ。

人を殺すことも多分いとわない。

K氏のことを近くでみていたから、私にはわかる。

彼は嘘を巧みにつき、相手の心を操作する天才だ。

私のこともどうするかはまるでわからないのだ。

 

「うぅ…でも…そうだとしても…K氏に心が動いているのは事実やろ…?」

 

コバくんが痛いところをつく。

その通りだ。

『殺されてもいいからちゃんと会いたい』と思っているこの感情はなんなんだろう?

これを『愛』と呼ぶ人もいるのかもしれないし、『恋』と感じる人もいるのかもしれない。

 

「…そうやね…でもな、K氏の元に戻っても絶対に上手くいかないって感じてる自分もおるんよ。私がまた壊れてしまうとも思ってるんよ。」

 

「…うん…そうなんや…」

 

「うん。だからもしK氏に会っても無事だったとしても、K氏の元に戻ることはないと思ってるんよ。」

 

「…うん…でも戻りたいと感じているゆきえもおる。そうやろ?」

 

「…うん…そうやな…そう思ってる自分もおる。でも戻らんとも思ってる。」

 

「…ふぅ…」

 

 

コバくんは泣きながらため息をついた。

私はそのコバくんの様子をジッと見つめた。

そして私も涙を流した。

 

「…なぁ?ゆきえ…」

 

コバくんがチラッと私を見ながら口を開く。

 

「ん…?なに…?」

 

「…ふぅ…」

 

コバくんがもう一度溜息をつく。

しばらくの沈黙の後、コバくんが私にこう尋ねた。

 

 

「…ゆきえの未来に俺は居る?」

 

 

「…え…?」

 

 

急な問に驚く。

私の未来?

私の?

未来?

 

「ゆきえのこれからの毎日に俺は居る?ゆきえの思い描く未来に俺は存在する?」

 

 

「…え…?」

 

 

私の思い描く未来…

私の…

これから…?

コバくんが居るかどうか…?

 

私はコバくんの質問に頭が混乱した。

“これからの毎日”なんて考えたこともなかったし、未来を思い描いたことなんてなかったから。

 

 

「…え…と…ごめん…ほんまにわからへん…ごめん…」

 

 

私は正直に答えた。

ほんとにわからなかったから。

 

そう答えた次の瞬間、。

コバくんがすごい勢いでこう言った。

 

「そうやろうな!!どうせゆきえは俺のことなんて好きやないもんな!!俺はどうせ“ただたまたま隣におった人”なんやもんな!!なんやねん…もう…なんやねん…俺知っとったで!ゆきえが俺のこと好きやないって!!でもな…それでもええと思っとったんや…でもな…俺、それでもええと思っとったんや…でもひどいわ…俺、ゆきえがおらんくなったらどうしたらええんや…もう…ゆきえ…ずるいわ…」

 

珍しく声を張りあげたコバくんに驚く。

そして最後の「ずるいわ…」に胸が痛む。

私は、ずるい。

 

コバくんの横で黙り込むことしかできない私。

黙り込む私に泣いて抗議することしかできないコバくん。

 

居心地の悪い時間がただただ流れた。

 

 

「…ごめん…もうそれしか言われへんわ…今日はお酒も飲んでしまったからこのままここで寝ていって。明日になったら出て行ってくれてもいいし、どうしたいか言うて。」

 

 

コバくんもこんな女と一緒にいたくないだろう。

そして私もこんな居心地が悪い時間を過ごすのは嫌だった。

 

「…そんなん言うなや…もう…俺かてどうしたらええかわからんねんから…」

 

コバくんはうなだれ続けた。

私はテーブルの上の食器を片づけ始め、無言のままの時間を過ごした。

 

 

 

 

つづく。

 

 

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