私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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思った通り映画を観てもまったく入り込めない。

ずっと今夜のことや、どうやって殺されるんだろうか?ばかり考えていた。

 

食欲もなく、映画が終わってからコーヒーを飲み、もってきた本を開く。

文字を追っているだけで内容がまったくわからない。

 

たくさん殴られるのだろうか。

それともどこかに売り飛ばされるのだろうか。

K氏の持っているピストルで撃たれるのだろうか。

ピストルで撃たれるのは痛いだろうか。

どこまで殴られたら気を失うことができるのだろうか。

 

そんなことばかり考えている。

 

緊張で身体がずっと強張っている。

呼吸が浅く、喉に何かが詰まっているような感じが続いていた。

 

私はパルコの中をぐるぐると周り、買いもしない雑貨や洋服を物色する。

 

じっとしてられない。

 

なんとか時間を潰し、比叡山坂本に帰り平和堂に立ち寄った。

こんな状況なのにコバくんの夕飯を気にして買い物をする。

帰って料理をしている方が気がまぎれそうだ。

 

部屋に帰り黙々と料理を始める。

時計を見ると17時半だった。

コバくんはだいたいいつも19時ころ帰って来る。

あと1時間半。

私は身体を強張らせて溜息をつく。

 

料理に没頭して、ふと時計を見て溜息をつく。を繰り返す。

私は気付くと何品もの料理を作り上げていた。

 

「これ…何人前だ?」

 

出来あがっていく料理のお皿が何皿にもなっていた。

 

その時。

 

 

ピンポーン

 

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

ドキッ!!

 

コバくんが帰ってきた。

私はドアのカギを開け、コバくんを迎え入れた。

 

「おかえり。」

 

ニコッと笑って言う。

 

「うん。ただいま。」

 

コバくんも淋しそうな笑顔で答える。

 

「疲れた?」

 

部屋に入りながら聞く私。

 

「ううん。大丈夫。ゆきえは?」

 

靴を脱ぎながらコバくんが私に聞く。

 

「うん…まぁ…落ち着かへんかった。あはは。」

 

なぜか私は笑う。

 

「そうか。…実は俺も。あはは。」

 

なぜかコバくんも笑う。

 

部屋に入り、テーブルの上を見てコバくんが「うわぁ!」と声をあげる。

 

「どないしたん?このご馳走!なんで?パーティー?」

 

コバくんがそう言うのも無理ないほどの料理の数。

まさかこんなにたくさんになるとは私も思っていなかった。

 

「あはは…えと…なんかこうなってしまったんや。」

 

「めっちゃ美味そう!!俺、急いでシャワー浴びてくる!ええか?」

 

コバくんがはしゃいで言う。

 

「うん。ええよ。はよいっといで。」

 

「うん!ちょっとまっとって!」

 

コバくんがシャワーを浴びてる間、私は料理の仕上げをする。

冷めてしまったものは温めて、サラダは更に冷たくする。

綺麗なグラスを用意して、テーブルを整えた。

 

「お待たせ!早いやろ?」

 

コバくんは子どもみたいな顔をして帰ってきた。

 

「あはは。早かったなぁ。じゃ、食べようか。ビール飲むやろ?」

 

「うん!飲む飲む!ゆきえ。ありがとう!」

 

私たちは冷えたビールで乾杯をし、集中して作り上げた料理を2人で食べた。

 

「うまい!!全部うまい!!ゆきえの料理は全部うまい!!」

 

コバくんは顔をくしゃくしゃにしながらそう言った。

 

「あはは。ありがとう。落ち着いて食べぇや。焦らんと。」

 

私は自分で作った料理が美味しいのかどうかわからない。

ほぼ毎日作っていたけど、ずっと美味しいかどうかわからないでいた。

コバくんが美味しいと言っているんだからきっと美味しいんだろう。

 

「…ふぅ…」

 

ビールを飲んで一通り料理に箸をつけた時、私は小さく息を吐いた。

 

「…そろそろ…か?」

 

コバくんは私の小さく吐いた息を見逃さなかった。

箸を置いて不安そうな顔で私に聞く。

 

「…そうやな。そろそろやな。」

 

「そうか。俺、ここにおってええやろ?」

 

「うん。じゃ、隣の部屋で電話かけてくるわ。」

 

「うん。待っとるわ。」

 

「…よし。…じゃ行ってくる。」

 

「うん。…ゆきえ。俺、ゆきえの味方やから。なんでも言うてな。」

 

「…うん。ありがとう。」

 

 

私は携帯電話を持って隣の部屋に入った。

 

ドキドキドキドキドキドキ…

 

鼓動が激しくなる。

喉が詰まり、吐き気がする。

足がガクガク震え、携帯を持つ手もブルブルと震えていた。

 

「…ふぅ!!」

 

大きく息を吐き、携帯電話に登録してあるK氏の番号を表示させた。

今まで何度この番号を見つめただろう。

ここに連絡する日がいつかやってくるんだと思いながら過ごした日々。

とうとうその日がやってきてしまった。

 

これからどんな会話が繰り広げられるか全くわからない。

K氏が今どんな気持ちでいるのか全くわからない。

 

私はただ謝ろう。

急に逃げ出したことを。

そして返したいものがあると伝えよう。

K氏が私を罵倒しようとも、殺すと言おうとも、私はただ謝罪をして返したいものがあるんだと伝えよう。

会って謝罪したいと伝えよう。

 

「…よし。」

 

私はしばらくK氏の番号を見つめてからボタンを押した。

 

プルルルル…プルルルル…

 

呼び出し音が鳴る。

鼓動がますます高鳴る。

吐き気が増す。

逃げ出したい。

でも逃げたくない。

 

 

「…もしもし?」

 

 

ドキッ!!

 

聞き覚えのある懐かしい声が電話の向こうから聞こえる。

 

 

「……」

 

 

緊張が酷すぎて何も言えず黙り込む。

声が出ない。

息が苦しい。

 

「…もしもし?」

 

 

「……」

 

 

やっぱり何も言えない。

どうしよう。

このまま切ってしまおうか。

またかけ直したほうがいいかもしれない。

 

そう思っていた時、電話の向こうのK氏がこう言った。

 

 

「…ゆきえか?」

 

 

ハッと息をのむ。

緊張と共にK氏が私の名前を呼んだことに嬉しさを覚える。

 

 

「…はい。お久しぶりです…」

 

 

やっと声が出た。

この言葉が精一杯だった。

 

 

「…おっまえ…」

 

 

電話の向こうのK氏が大きな声で「おっまえ…」とい出した時、私は「あぁ…いよいよ始まってしまった…」と絶望的な気分を味わっていた。

 

 

 

 

つづく。

 

 

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