私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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病院に行った次の日の水曜日。

私はコバくんに心配をかけないように一生懸命元気にふるまった。

コバくんは「だいじょうぶか?」と何度も聞いてきていたけど、私は「平気やでー。」と笑って答えていた。

 

木曜日、出勤してすぐ富永さんに来週の月曜日から10日ほど休みたいと伝えた。

富永さんが「どうしたんや?」と心配そうに聞いてきたので「ちょっと東京に帰らなきゃならなくなった。」と嘘をついた。

富永さんは「実家にバレたんか?」とますます心配していたけれど「そんなんちゃうで。ちょっと野暮用で。」と笑いながらまた嘘をついた。

「ちゃんと帰って来るから大丈夫やで。」と言うと、富永さんは「ほんまやで。ちゃんと帰ってくるんやで。」と何度も言った。

 

私は月曜日までの一週間、毎日毎日気持ち悪さと格闘しながら仕事をこなした。

誰にも私が妊娠していることを悟られないように気をつけながら。

そして毎晩仕事が終わると自分の下腹をちょっとだけ眺めて「ほんとにここに赤ちゃんがいるんだろうか?」といぶかしく首をかしげていた。

 

 

月曜日。

私はふたたび九条にある婦人科の前に立った。

 

ガチャ。

ガタガタ…

 

若干緊張しながら真鍮のドアノブを握り、ドアを開ける。

 

ガラガラ…

 

私がドアを開けると、受付のガラス窓が開いた。

 

「あ、来たのね。」

 

先週と同じおばさん看護師さんが受付から顔を出す。

 

「あ、よろしくお願いします。」

 

私は靴からスリッパに履き替え、先週もらった診察券を出した。

 

「はい。じゃあこちらへどうぞ。」

 

おばさんが早速診察室へ私を誘導する。

私は「はい。」と答え、診察室に入った。

 

「来たね。じゃ早速だけどこっちに寝てくれる?」

 

おばあさん先生が何の説明もなく、診察台へ寝ろと言う。

 

「あ…はい。」

 

「もう一回エコーで診て見ようかね。ちゃんと説明するから心配しなくて大丈夫やで。」

 

私が戸惑っているのを察知したのか、おばあさんは何かをカチャカチャと準備しながらそう私に言った。

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

私は下着を脱ぎながら返事をした。

 

診察台に上がり、おばさんが先週と同様ジェルを下腹に塗り、おばあさんが男性の髭剃りのような形の機械を下腹にくっつけた。

 

「はい。じゃこっちの画面見てやー。」

 

私は診察台横のモニター画面に目をやった。

 

「あー…ちょっと大きくなってるなぁ。わかる?」

 

おばあちゃんがモニター画面に指差しながら私に説明する。

 

「ここね。これがあかちゃん。先週より大きくなってるのわかる?」

 

「あ…はい…」

 

確かに先週より大きくなっている。

先週見たのが小さな点だとしたら、今日のは小さな豆つぶのような形になっている。

 

「これなら手術できるな。どうする?気は変われへんの?」

 

おばあさんが淡々とした口調で私に聞いた。

 

「え…はい。変わりません。」

 

なんの躊躇もない自分に驚く。

戸惑いも迷いもない。

なんの感情もわかないのだ。

 

「そうか。じゃ処置し始めるけどええんかな。」

 

「はい。お願いします。」

 

「同意書は?用意できたん?」

 

おばあさん先生は私の股の間で何かを用意しながら聞いた。

 

「あ…はい。できました。」

 

私は自分で同意書にサインをした。

架空の人物の名前、架空の住所を筆跡を一生懸命変えて。

 

「そうか。なら薬入れるで。ええな?」

 

「はい。」

 

私がまた躊躇なく答えると、おばあさん先生は私の膣内に器具をグッと押し入れ処置をした。

 

「はい。今日はこれでええわ。下着履いて。こっち出てきてから話しするわ。」

 

 

私は下着をつけ、診察室の丸椅子に腰かけた。

 

「今膣に入れたんが子宮口を広げる薬やでな。今夜はシャワーはええけどお風呂は止めてや。お酒もあかんで。夜10時以降は何も食べへんでな。夜12時以降は水分もあかんで。」

 

「はい。わかりました。」

 

「あとな、できれば今日はなるべくぴょんぴょん跳ねてくれるか?まぁ10回くらいでええんやけど。できれば10回を何セットかやってくれるとええなぁ。わかったか?」

 

え?

ぴょんぴょん跳ねる?

 

「へ?跳ねる?」

 

私はキョトンとした顔でおばあさん先生を見た。

 

「うんうん。跳ねてくれると薬がよぉ効くんや。」

 

ぴょんぴょん跳ねると薬がよく効く?

子宮口が開く薬が?

 

「はぁ…わかりました…」

 

私は全く意味がわからず、首をかしげなから返事をした。

 

「あ、あとな、明日は昼の11時に来てくれるか?で、帰れるのは夕方になるな。麻酔が切れてから歩くのにどれくらいかかるかわからんけど、だいたい遅くても…夕方6時くらいには帰れるやろ。もっと早い人もおるで。大丈夫か?」

 

「あ…入院とかしなくていいんですか?」

 

私はその日に帰れることに驚いて、おばあさんに聞き返した。

 

「そうやで。みんなその日に帰るで。あ、あとな、今ソープランドで働いてるんやろ?

だいたい手術してから2週間くらいは仕事せんほうがええで。休めるか?」

 

あ…

2週間…

私、10日しか休みもらってない…

 

「あー…はい…大丈夫です…」

 

そのことは手術が終わってから考えよう。

 

「ほな、後わからんことあったらこの人に聞いてくれるかー。じゃ明日ね。気ぃつけて来て。あ、お風呂と食事と水分ね。守ってや。」

 

「はい。わかりました。」

 

「あ、あとぴょんぴょんな。」

 

「はい。ぴょんぴょんします。」

 

「うん。ほなな。」

 

 

私は「失礼します」と頭を下げて診察室を出た。

膣内に器具を入れられた時のひんやりした感覚がまだ残っているような気がする。

 

 

「じゃもし持って来ていたら書類預かります。」

 

受付のガラス窓からおばさん看護師さんが顔を出して言う。

 

「はい。これで大丈夫ですか?」

 

私は父親のサインが入った同意書と、私のサインが入った同意書を二枚おばさんに渡した。

 

「えー…はい。大丈夫です。じゃ明日ですね。さっき先生が言ったことを守って、明日11時にこちらに来てください。」

 

「はい。わかりました。」

 

「じゃお待ちしてますね。」

 

相変わらずピクリとも表情を変えないおばさん看護師さん。

「明日、よろしくお願いします。」と伝えて、スリッパから靴を履き替えている最中、ピシャリと受付の窓ガラスが閉まった。

 

 

病院の外へ出て深呼吸をする。

 

「ふぅーーー」

 

今日私は仕事に行っていると思っているコバくんにはなんて言おう。

そして明日からのお休みのことはなんて説明しよう。

 

私は10日ほどの休みをもらっていることをコバくんに言っていない。

体調があまりすぐれないことをコバくんは知っているから、ダラダラと「今日も休む」と言って毎日を過ごすしかないだろう。

 

お家に着いたら「今日は早退した」と言おう。

そして明日は仕事に行くと嘘をついて手術に行こう。

 

私はコバくんにつく嘘をシュミレーションしながらお家に帰り、コバくんがまだ帰ってきていないことにホッとしてメールを打った。

 

今日体調が悪くて早退しちゃった。帰って来たら私がいるけどびっくりしないでね。あ、ゆっくりしてたら大丈夫やからあんまり心配しないでね。

 

 

 

メールを打ち終わり、バタッとソファーに倒れこむ。

 

「ふぅ…」

 

気持ち悪い。

ずっと気持ち悪い。

明日のこの時間にはもう気持ち悪くなくなっているんだろうか。

気持ち悪さがなくなっても痛みが残ったりするのだろうか。

中絶手術がうまくいかなくて、二度と妊娠できなくなることもあると聞いたことがある。

同意書にもそんなことが書いてあった気がする。

 

「…もうこれで妊娠できないかもしれないんだなぁ…」

 

3月には死んでる可能性が高いというのに、そんなことをちょっと気にしている自分がいる。

 

「まぁ…もし生きてたとしても私が子供を産むことなんてありえないし…いいかぁ…」

 

ソファーに寝っ転がりながらブツブツと独り言をつぶやく。

 

なるようになれ。

 

もう何も考えたくない。

何も考えられない。

 

フッと目を瞑ると私はいつの間にか眠っていた。

 

 

明日は手術の日だ。

明日の今頃、私はどうしているんだろう。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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