私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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次の日。

高須店長は夕方ごろお店にやってきた。

 

「有里ちゃーん。ちょっとこっち来てくれる?」

 

高須さんはフロントに呼ばれた私をフロントの後ろの事務室に呼んだ。

そこにはパソコンが一台置いてあり、真っ黒の背景のページが開いてあった。

 

「これこれ。まだイメージなんだけどさ。こんな感じでどうかな?」

 

高須さんは割と真剣な顔で私にそう言い、あれこれと説明してくれた。

真っ黒のページに綺麗な青色の文字で『Ari‘sBar』と書かれていた。

周りには星がちりばめられたような飾りが施されていてとても素敵だった。

 

「そんで、ここに写真がいくつか入るんだけど、これとか…これがいいと思ってて…」

 

高須さんはまだ文字しかでき上がっていないと言って、白い紙にだいたいのページのラフを書き、そして昨日撮った写真を見せながら説明をした。

 

「このへんに『Ari‘sDiary』と『掲示板』に飛べるボタンをつくって、そんでここにはプロフィールを載せて…」

 

次々と話しを進める高須さんの顔は真剣そのものだった。

昨日のちゃらちゃらした雰囲気とはちょっと違う感じがした。

 

「だいたいの雰囲気はこんな感じなんだけどどう?なんとなく感じ掴めたかな?」

 

私をパソコンデスクの前に座らせて、自分は立ったまま説明をしていた高須さんは私の顔を覗き込んだ。

 

「あぁ…はい。なんとなくわかりました。とても素敵ですね。」

 

ほんとに素敵だと思った。

それにこんなものを作れてしまうことがすごい。

 

「ほんと?よかった。じゃこんな感じで進めるね。いい?」

 

高須さんはニッコリ笑って言った。

なんだか嬉しそうだった。

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

私は椅子に座ったままペコっと頭を下げた。

 

「はい!こちらこそお願いします。ありがとう有里ちゃん。」

 

白い歯を見せてニッコリ笑う高須さん。

でも目が笑っていない。

これは最初から感じていたこと。

高須さんはにこやかだけど目が笑うことがない。

 

「あーそうだ。今日大丈夫?飲みに行ける?」

 

きた。

その話題。

 

「あー…はい。大丈夫です…けど…理奈さんも一緒に行っていいですか?」

 

私を飲みに誘う真意がわからず遠慮がちに聞く。

 

「え?理奈さんも?」

 

高須さんが笑顔で聞き返す。

 

「あ、はい。ダメですか?」

 

私も笑顔で聞き返す。

 

「いや、別にいいよ!こっちは俺とボーイさん2人の3人だから。」

 

…よかった。

 

「実はさ…」

 

高須さんがちょっとにやけた顔でもごもごと言った。

 

「え?なんですか?」

 

「あはは…実はさぁ…いや、これ言ってもいいのかな。まぁいいか。」

 

1人でごにょごにょ何かを言っている。

 

「え?なんですか?気になりますよ。」

 

「いや、あはは…。あのさ、実はうちのボーイさんで南ってやつがいるんだけどさ…」

 

「え?南さん?はぁ…」

 

「知ってる?」

 

「いや、知りません。向こうのボーイさん、一人も知らないです。」

 

「あれ?有里ちゃんはトキに飲みに行ったりしないの?」

 

「あー…1,2回飲みに行ったきりですね。飲みに行くのはふく田ばっかりで。」

 

「あーそっかぁ。じゃああんまり雄琴の内部のこと知らないんだねー。」

 

雄琴の内部情報はスナックの『トキ』ともう一つのカラオケスナックの『ピカソ』に集まる。

雄琴内の男女関係もだいたいそこに行けばわかると聞いている。

私はトキの雰囲気もあまり好きじゃなかったし、そういう内部情報も特に知りたいと思わなかった。

まどかさんの一件以来、一回だけ富永さんと行ったきりトキには足を運ばなかった。

 

「はぁ。そうですね。あんまり興味ないんで。」

 

「へー。お酒が好きだって言ったからトキには行ってるんだと思ってたよ。あ、そうそう。その南ってやつがね、有里ちゃんのファンなんだって。」

 

え?

は?

南さんって人が私のファン?

 

「は?そう…なんですか…」

 

「うん。南さんて富永さんと仲がいいらしいんだけど、前から有里ちゃんの話しを富永さんから聞いてたんだって。それで前に店まで見に来たらしくて、そんでファンになっちゃったんだって。有里ちゃんのこと。で、今回俺が写真見せたらもっとファンになっちゃったらしくてさ。一緒に飲みたいんだって。今日来るからさ、一緒に飲んでやってよ。」

 

あー…

私を誘ったのはこれだったのかぁ…

 

「はー。そうなんですかぁ。わー。なんか嬉しいなぁ。他の店のボーイさんが私のファンだなんて嬉しいなぁー。行きます行きます!飲みに行きますよー!」

 

高須さんが私を飲みに誘った真意がわかって気が楽になった。

俄然飲みに行くのが楽しみになってきた。

 

「ボーイさんっていっても南はおじさんだよ。若くないよ。大丈夫?」

 

高須さんは私がやけに喜んでいるのをみて、心配そうに言った。

 

「あはは。私おじさん大好きなんで大丈夫です。若い子よりおじさんのが好きなんで。あはは。」

 

「えー!そうなんだ!南さん喜ぶよぉ。じゃ今日終わったら連絡するからメアド教えておいてよ。」

 

「あ、はい。わかりましたー。」

 

「なんか有里ちゃん、急に明るくなったなぁ。なんか感じ悪いなぁ。あはは。」

 

バレてた。

まぁいいか。

 

 

「じゃ後でねー。」

 

高須さんはそう言うと姉妹店のほうに帰って行った。

 

「有里。今南のこと話しとったやろ?」

 

フロントのすぐ後ろで話しをしていた私たち。

富永さんに話しが筒抜けだった。

 

「あ、そうそう。富永さん仲良しなん?南さんと。」

 

「まぁたまに一緒に飲むで。ええ奴やでぇ。あいつ、ずっと有里のことええって言うとったわ。何度も会わせてくれって言うとったんや。一緒に飲みたい言うてな。」

 

「あはは。じゃあなんで私に言わんかったん?友達やろ?」

 

「なんでわしが有里を紹介せなあかんのや。うちの可愛い有里を紹介することなんかないやろがぁ。向こうに引き抜きにでもあったら困るがな。」

 

「あはは。何言うてるん?アホやな。」

 

「今日一緒に飲むんか?」

 

「うん。そうらしいな。」

 

「うーん…。引き抜かれんなよ。困るで。なんかしてきたらすぐ言うんやで。」

 

富永さんはちょっと心配そうに私に言った。

 

「え?だってええ奴なんやろ?そんなことせんやろー。」

 

「まぁそうやけど…男は何するかわからんで。」

 

「ファンいうてるけどお父さんみたいな感覚やろ?あはは。」

 

南さんは50代半ばの男性だと聞いた。

きっと私のことを娘みたいな目で見てるに違いない。

もしくは富永さんのような感覚で。

 

「…男はいつまでたっても男やでな。有里のことだって女として見てるんやで。きっと。」

 

富永さんが私から目を逸らしてそう言った。

そんなわけないのに。

 

他の店のボーイさんがこっそり私を見に来ていたことがなんだかちょっと嬉しい。

そしてファンだと言っている人が雄琴にいることに喜んでいた。

 

えへへ。

ファンだって。

私のファンだって。

お客さんに好きだとかファンだとか言われるのとはなんだか違う嬉しさだった。

 

その日の夜、仕事を終え高須さんの案内で一軒の飲み屋に行った。

2台のタクシーに分かれて乗り込み、大津のおしゃれなバーの個室で飲むことになった。

 

「ここよく来るんだ。綺麗でしょ?女の子はこういうとこ好きでしょ?」

 

高須さんはシルバーのブレスレットをジャラつかせながらそう言った。

 

「おしゃれやなー。こんなとこあったんやなぁ。高須さんよく女の子連れてくるんやろ?」

 

理奈さんがニヤニヤ笑いながら高須さんに聞いた。

 

「いやぁ店の子ぉばっかりだよ。」

「またまたぁ~。モテそうやもんなぁ。あはは。」

「いやいや。彼女いないからさぁ。」

「作らんのやろ?それのが都合いいんやろ?そうやろ?あはは。」

「ちがうって!理奈さんにはかなわないなぁ。あはは。」

「高須さんはタヌキやなぁ。あはは。」

 

理奈さんと高須さんが気さくにやりあっている。

私はその姿を見て「理奈さんやるなぁ」と思っていた。

 

私の目の前には黒いジャケットに白いシャツを着たおじさんが笑顔で座っていた。

彼が南さんだ。

 

「あ、有里ちゃん。こちら南さん。有里ちゃんのファン。あはは。」

 

高須さんが私に南さんを紹介した。

 

「あ、初めまして。有里です。よろしくお願いします。」

 

「あ、南です!ちょっとー高須店長ー!ファンとか言わないで下さいよぉ。恥ずかしいやないですか!ごめんねぇ。有里ちゃん。」

 

南さんは細身の男性でとても優しそうな顔をしていた。

腰が低く、落ち着いたしゃべり方をする好感のもてる人に感じた。

 

「いや、嬉しかったですよ。ありがとうございます!」

 

私は南さんにぺこりと頭を下げた。

 

「うわぁー。やっぱりこういう子だったんだ!思った通りの子ぉやった!有里ちゃんはええ子やぁ。うわぁ。嬉しいなぁー。」

 

「え?なんで?ただお礼言うただけですよ。普通ですよね?」

 

「いやいやいや…大きな声では言えないけどね…小さな声では聞こえない!ってね、ははは!」

 

南さんは自分で言ったことに大笑いをしていた。

THE・おじさんだ。

こういうの結構好きだったりする。

 

「ていうのはいいんやけどさ、なっかなかいないんだよぉー有里ちゃんみたいな子!ね?高須店長!理奈ちゃんみたいな子ぉもなっかなかいないんだよぉー!ね?」

 

南さんはそのことを力説した。

 

「もうね、ここだけの話し。うちの店の子ぉたちなんて顎で使うわけ!『ちょっと!部屋掃除しといてや!』ってな感じよぉ。ね?高須店長!そうですよね?」

 

それを聞いた高須さんは苦笑いをしてこう言った。

 

「いやぁ…いい子たちばっかりだよぉ。ははは…南さん!そういうことは…もっと言って!なんてねー。ははは。あ、この話しはシーだからね!有里ちゃん理奈さん。」

 

「ははは!いーねぇ高須店長!」

 

南さんが「よっ!」と言いながら高須さんを持ち上げる。

もう一人のボーイさんは若くて無口だった。

南さんの隣で頷いたり笑ったりしているだけだった。

 

「あ、ちょっとごめん。」

 

そのとき高須さんの携帯が鳴り、そとに電話をしに行ってしまった。

 

「いやぁー、ほんとに今日は良い日だなぁー。有里ちゃんと一緒に飲めるなんてなぁ。いやぁーもうどうしよう。あ、富永さん怒ってなかった?大丈夫だった?」

 

南さんはずっとニコニコ笑いながら私に聞いた。

 

「あーなんか気ぃつけろって言うてました。あはは。引き抜かれないようにって。そんなわけないのにねぇ。」

 

「え?富永さん心配しとったん?有里ちゃんのこと?」

 

理奈さんが驚いた顔で私に言う。

 

「うん。なんかやたら心配しとったわ。行かんほうがええ、みたいなこと言うてな。」

 

「えー!そんなん私には一回も言うたことないわ!あははは。」

 

「私が頼りないからやろ?世間知らずやしな。理奈さんの事はもう絶対的に信頼してるんや。うらやましいわ。」

 

本心だった。

私はまだ信頼されてないのかと思い、ちょっと不本意だった。

 

 

「富永さん、有里ちゃんのこと好きなんちゃう?」

 

理奈さんが思いもよらないことを言った。

 

「うんうん。私もそう思うんですよ。」

 

南さんが理奈さんの言葉に同意した。

 

「は?!何言うてるん?富永さんが?あはははは!ただ娘みたいに思ってるだけやろ?そんなわけないやろ!」

 

もう一人のボーイさんも「うんうん」と頷いている。

南さんも理奈さんも真剣にそう言っていた。

笑ってるのは私だけだった。

 

「だってね、私が有里ちゃんと飲みたいって何回も言ってるのに会わせてくれなかったんですよ!おっかしいでしょー?!」

 

「うん。私もちょっと富永さんの態度はおかしい思う事ちょいちょいあるで。」

 

「あ、僕も前に聞いたことあるんですよ。富永さんが一番入れ込んでるのは有里さんだって。」

 

…なんかおかしな話しになってきている。

富永さんが私を好き?

は?

なにがどうなってそんな話しになるんだろう?

私は22歳。

富永さんは…えと…いくつだっけ?

多分50代後半ぐらいでしょ?

 

「有里ちゃんはどうなの?富永さんのことどうなの?」

 

南さんがぐいぐいと聞いてきた。

 

「は?富永さん?ちょっと!おかしなこと言わないでくださいよぉ!もー!あるわけないでしょ!あははは。」

 

笑いながら否定する私。

まさかそんな事を言われるなんて思ってもみなかった。

 

 

「いやーごめんごめん。」

 

その時電話を終えて高須さんが店に戻ってきた。

 

「大丈夫ですか?何かありました?」

 

私がそう聞くと高須さんは「申し訳ない!」と言いながら頭をかいた。

 

「ちょっと別件が入っちゃって…ここの支払いは俺に回してくれていいから飲んでって。俺行かなきゃ。ほんとにごめん。これタクシー代ね。これ帰りに使って。ね?また穴埋めするから。ほんとにごめん!」

 

高須さんはそう言うと急いで店を出て行った。

 

「あらー…じゃあここじゃなくてもよかったやんねぇ。」

 

理奈さんが呟いた。

 

「ほんとだねぇ。なんかここおしゃれ過ぎておじさん落ち着かないよ。ははは。」

 

南さんが笑いながら言った。

 

「…雄琴に帰りましょうか?」

 

私がそう言うとみんな「うん!そうしよう!」と頷いた。

 

 

 

「今日は飲もう!ね?有里ちゃん!理奈ちゃん!」

 

南さんがタクシーの中で嬉しそうに私たちに向かって言う。

 

「南さんは有里ちゃんと2人で飲みたいんやろー?お邪魔ですよねー?ねぇ?」

 

理奈さんが助手席に座っているボーイさんに「ねぇ?」と話しかける。

 

「そうですよねー!!」

 

若いボーイさんは可愛い顔をひょこっと出していたずらっぽく答えた。

 

「違う違う!そうやないって!理奈ちゃんとも飲みたいって!まぁ…有里ちゃんと2人でもいいんやけど…いやいや!違うって!あははは。」

 

「やっぱりそうやんかー!気ぃ悪いわ!帰ろか?」

 

「いやいやいやいや、帰らんといて!一緒に飲みたいなぁー!理奈ちゃんと!」

 

「うっさいわ!あははは。」

 

私のことなんかそっちのけで盛り上がっている姿をみるのが楽しかった。

私はずっと笑っていた。

 

「トキに行く?トキで富永さんが有里ちゃんのことを好きだっていう話し、もう一回ちゃんとしようや!な?」

 

理奈さんがふざけてそんなことを言いだした。

 

「そうやな!その話しははっきりさせなあかん!トキでその話しをしよう!まぁくんにも聞いてみよう!」

 

南さんが大盛り上がりでその話しに乗った。

 

「それいいですね!」

 

助手席のボーイ君も何故かその話しに乗った。

 

「は?!なんで?だからそれはないって!絶対ないって!みんな何言うてんの?」

 

タクシーの中は大騒ぎだった。

ソープ嬢と店のボーイが22歳の小娘と50代後半の店長の仲を疑う話しをしている。

これは一体なんだ?

 

「よーし!今日は飲むぞー!有里ちゃんは富永に渡さないぞー!」

「そうだそうだー!有里ちゃんは私のものだぞー!あははは!」

 

理奈さんが拳を上げて「私のものだぞー!」と言ったことが嬉しかった。

けど、なんともない顔をした。恥ずかしいから。

 

なんだかおかしなことになっている。

この後トキでどんな時間を過ごすんだろう。

 

私はタクシーの後部座席で小さくなって笑っていた。

 

 

つづく。

 

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