私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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26日当日は予定通りフェスティバルゲートに行き、スパワールドでお風呂に入った。

周りは大阪の新世界という魅力的な街で、私が好きそうな飲み屋さんがたくさんある場所だった。

 

「あー…大阪に住みたいなぁ…もし生きてたら大阪に住んでみたいなぁ。」

 

そんなことを呟いた。

 

「この辺は治安がめっちゃ悪いで。関西人で新世界に住みたいなんていうヤツ、多分おらんと思うで。」

 

私のそのつぶやきを聞いてコバくんは苦笑いでそんなことを言った。

 

治安が悪い?こんなに人がたくさんいるのに?

住んでる人もたくさんいるのに?

 

ふーん…

ここは治安が悪いのか…

 

「…治安が悪いってどういうこと?」

 

私は関西の方たちの言ってることがまだあんまりわからない。

コバくんに「治安が悪い」や「あそこには行かんほうがええ」とか度々いわれることがあるけど、その意味が何度聞いてもよくわからないでいた。

 

帰りの車の中、普段あんまり突っ込んで聞かなかった話しをきく。

 

「今日行ってみてびっくりしたわ。あんなに明るい観光地になってるなんて思わんかった。昔は誰も行きたがらなかったで。通天閣の近くなんて。」

 

新世界と言う場所はあの有名な『通天閣』の周りの街のこと。

人でにぎわっていて観光客もとても多かった。

 

「そんな話しよぉ聞くんやけどなぁ。なんで?どんな場所なん?」

 

私は『治安が悪い』の意味がわからない。

そして今日行った場所はそんな風には見えなかった。

 

「まぁ…そうやなぁ…すぐ近くにドヤ街があってな。日雇い労働者とか浮浪者とかたくさんおる場所なんや。あとはヤ○ザの事務所があったりな。あそこの街では朝から酒飲んでるやついっぱいおるんやで。ゆきえがフラフラ歩いてたらどうなるかわからんわ。」

 

ドヤ街…?

わぁ…なんだかワクワクする響きだ。

 

「あとは部落も近くにあるしな。」

 

でた。

部落。

 

この言葉は関西に来てから何度も耳にした。

コバくんからも何度もこの言葉を聞いた。

 

でも未だになんのことだかよくわからない。

 

「あのさ…何度も聞いてるんやけど部落ってなに?」

 

この質問、何度しただろう。

その度によくわからない返事が返って来る。

 

「あそこの道からあっちは行ったらあかんとか言われへんかった?小さいころ。」

 

コバくんは運転しながら私に聞いた。

 

「うーん…あの道は暗いから行ったらあかんとかならあるけど…」

 

「いや、そうやなくて。この道から向こうの場所には行ったらあかんって言われへんかった?」

 

そんなこと言われたことない。

そんな記憶は私にはなかった。

 

「そんなんないで。コバくんはあるん?」

 

「関西人はしょっちゅうあるんやないかなぁ。こっからむこうは部落やから入ったらあかんとか。もしくはムラやから行ったらあかんとか。」

 

ムラ?

ムラって村?

なんで村に行ったらいけないんだろう?

 

「部落ってなぁ…うーん…ムラのことやなぁ…なんて言うたらいいんやろうなぁ。」

 

コバくんはいつもこんな風な説明になる。

何を言ってるのかさっぱりわからない。

 

「なんで行ったらあかんの?なにがあかんの?」

 

コバくんは「うーん…」といいながらなんとかわかりやすく説明しようと考えている。

 

「あんな、何年か前に仕事である場所に行ったんや。そこは兵庫県の中でも有名な部落でな。ほんま行きたくなかったんよ。でも車のクレームが入ってどうしても行かなあかんくてな。」

 

コバくんは某有名車会社の一級整備士だ。

まだ現場を回っている時代にその場所に行ったと話しだした。

 

「とにかくその場所に入ったらめっちゃ徐行運転で行かなあかんねん。めっちゃゆっくり走らなあかん言われててな。」

 

「うん。なんで?なんでなんで?」

 

なんだか面白そうな話しだ。

なんだかワクワクする。

 

「その場所ではな、道端から犬が飛んできたりするんや。後ろ向きに歩いてくる猫がおったりな。」

 

え?!

なにそれ?!

どういうこと?!

 

「へ?!なに?なに?なにそれ?」

 

「まぁ…当たり屋なんやけどな。そんでその犬とか猫とかに車がぶつかったとするやん?そうするとすぐに道ばたの草むらに隠れていたおじいちゃんとかおばあちゃんとかが出てくるんや。『家の大事な子ぉになにすんねん!!』ってな。」

 

すごい?!

なんだかすごい話しだ!

 

「そんで?そんでどないなるん?」

 

「まぁ金払えってなるわな。病院連れていかなあかんって言うてな。金払うまで離せへんよ。タチ悪いで。」

 

「え?お金払え?自分で飛ばして来たのに?後ろ向きに歩いてくるってそういう事やろ?その犬とか猫とかはその人たちが飼ってるやつなん?」

 

「しらん。まぁビジネスパートナーなんちゃう?はは!」

 

…なんだその話しは…

それ日本の話しでしょ?

兵庫県

すぐ近くじゃん。

 

「まぁそういうとこばっかりやないけど、部落っていうたらそんな感じをイメージしたらいいんちゃうかな。」

 

「…なんやそれ…じゃ関西にはそういう場所がたくさんあるってこと?」

 

「そうやなぁ。まぁ部落をさっきみたいな場所だ!とは一概には言えへんけどな。関東にはないん?」

 

聞いたことない。

もしかしたらあるのかもしれないけど、私の生活にはそんな言葉は入って来なかった。

 

「うーん…聞いたことないなぁ…」

 

「そうかぁ。関西にはいろんな部落があるで。朝鮮部落とかな。」

 

なんだか『部落』とか『ムラ』という言葉が怖くなってきた。

でもそもそもその『部落』とはなんなんだろう?

 

「…で…その『部落』ってそもそもなんなん?」

 

まったくなんのことだかわからない。

どこの部落も犬や猫が飛んでくるわけではないでしょ?

 

「えーと…なんやったかなぁ…なんていうたかなぁ…俺らは『部落』とか『ムラ』とか普通に言うてることやから、それがなんなのか?って聞かれるとうまく答えられへんなぁ。」

 

関西ではこの『部落』や『ムラ』という言葉は小さい時から普通に使われているらしく、それが一体なんなのか?はよくわからなくなっているらしい。

「あそこ部落やろ?危ないんちゃう?」とかそんな感じで伝わるみたいだった。

 

「えーと…なんやったっけ…ゆきえが何度も聞いてくるから母ちゃんに聞いといたんやけど…えーと…」

 

何が危なくて何があかんのか。

『治安が悪い』や『部落やから危ない』の内容が微塵もわからなかった。

 

 

「あ!そうや!思い出した!!」

 

私が「意味わかんない。何言ってるか全然わかんない」と連発しているとコバくんが急に大きな声を出した。

そして私が驚愕するような言葉を口にした。

 

「歴史の授業で『えた・ひにん』って習ったやろ?あれや。あれ。部落ってあれやねん。」

 

え?

は?

何言ってるの?

はい?

 

「…え…?『士農工商』の下のやつ?江戸時代の身分のことでしょ?」

 

「うん。そう。それ。その『えた・ひにん』の末裔が今の部落。」

 

 

頭をカチ割られたような驚きだった。

 

それ、人種差別ってことだよね。

しかもいつの時代のことなの?

日本の話しだよね?

しかも現代の話しだよね?

 

「…なに?それ?どういうこと?だってそれって江戸時代のことでしょ?なんで?今もそれが続いてるってことなの?日本で?しかもこんなに近くにその場所がたくさんあるってこと?」

 

私はあまりのショックで目の焦点が合わなくなっていた。

 

「そうやで。未だに関西にはそんな場所がたくさんあるんやで。奈良とか京都とかもめっちゃあるんちゃうかな。」

 

「…なにそれ。意味がわかんない。なんで?なんでそんなことがあるん?誰が差別なんてしてんの?同じ人間やんか。今江戸時代ちゃうで。『えた・ひにん』の人って何か違うん?」

 

人があからさまに人を差別しているということを身近に感じた初めての体験だった。

私はあまりのショックに泣いてしまった。

 

「…うー…意味わかんない!なんで?なんでそんなことするん?じゃあその部落の人たちはずっとその差別を受けるん?私と何が違うの?コバくんと何が違うん?うー!うわーん!!」

 

ショック過ぎてパニックだった。

 

「…そんなに泣くと思わんかった…なんか…ごめんな。」

 

私の動揺っぷりに戸惑うコバくん。

 

「…でもな、差別受けてる方もそれを利用してたりするんやで。『差別はんたーい!』って言いながらデモ行進かなんかして、お金の補助受けてたりするんやから。

部落内の家賃、めっちゃ安いとこ多いらしいで。1ヶ月3千円とかだったりする場所もあるんやで。そやから差別する方も悪いけど、差別されなくなったら困るやつもおるんやで。それが現状やな。」

 

…なんだそれ…

 

私はますますショックを受けた。

今この瞬間もその人たちは生きていて、今この瞬間も『差別』があるということに触れてしまったショックだ。

 

「…意味わかんない…ほんとにわかんない…人が人をあからさまに差別してるのもわからないし、人が人を平気で傷つけているのもわかんない。治安が悪いってどういうこと?なんで治安が悪くなるの?どうしてフラフラ歩いたら危なくなるん?人間ってそういうもんなの?だってさ、だってさ…うわーーん!!」

 

どこにぶつけたらいいかわからない戸惑い。

知らなかった世界を知ってしまった。

 

「…ゆきえ…ショックやったんやなぁ。ゆきえは優しいな。俺はそんな風に思ったこと一度もないわ。小さいころから当たり前のことやったからな。」

 

優しくなんかない。

だってなんにも知らなかったし、知ったところで私にはどうすることもできない。

ただショックを受けて泣いているという情けない事実だけだ。

 

「せっかくのデートやのになんかごめんやで…。滋賀県帰ったら美味しいもん食べに行こう。な?」

 

コバくんは泣き続けている私を元気づけようと必死だった。

 

「うん…そうやな。」

 

泣き続けた私はコバくんに気を使ってそう返事をした。

でも気分はずっと落ち込んだままだ。

 

「あそこの割烹行こうか?あそこ美味しかったもんな。な?」

 

「うん。そうやね。ありがとう。」

 

コバくんの提案どおり、家の近所の割烹屋さんにタクシーで行く。

美味しい料理と美味しいお酒を飲む。

…けど、私の気分はまったく晴れない。

でもそれに気付かれないように振る舞う。

 

「ゆきえ。美味しいなぁ。」

「うん。そうやね。連れてきてくれてありがとう。」

 

しゃべると今にも泣きそうになる。

この感情をコントロールできない。

 

「ゆきえ。今日は楽しかったねー!またどっか一緒に行こうな。な?」

 

帰り道、コバくんは上機嫌で私に言った。

さっきの『部落』話しはまるで覚えていないような態度だった。

 

「うん。楽しかったね。ありがとう。また行こうな。」

 

ひきつった笑顔で答える私。

 

頭の中からさっきのことが離れない。

ショックが強すぎて感情が乱れっぱなしだ。

 

「今日のジェットコースターすごかったなぁー!」

 

呑気に話しているコバくんが腹立たしい。

なんでこんな風に話せるんだろう?

あんなに身近に『差別』があることをずっと知っていたのに、この人は何をヘラヘラしてるんだろう?

 

「うん。すごかったなぁ。」

 

取り繕って答えている自分が嫌でたまらない。

 

「明日は何する?明日もずっと一緒におれるなぁ。やったー!」

 

はしゃぐコバくんがうっとおしく感じる。

 

「…そうやね。」

 

胸が苦しい。

息ができない。

吐き気がする。

 

「…ゆきえ?大丈夫か?顔色悪いで。」

 

私の様子に気付いて心配するコバくん。

 

「…うん…気持ち…悪い…」

 

タクシーの後部座席で吐きそうになっている私の背中をさする。

 

「もうすぐやから。もうすぐやで。」

 

なんとか家に帰り着き、すぐに布団に潜り込む。

 

「だいじょぶか?欲しいもんあったら言うてな。」

 

「うん…。ちょっと1人にしてくれる?」

 

「あ…うん。わかった。なんかあったらすぐ呼んでや。」

 

コバくんはそう言いながら寝室のドアを閉めた。

 

 

「う…うぅ…」

 

布団をかぶって声を殺して泣く。

 

「…差別ってなんなん…?えた・ひにんってなによ…?うぅ…人間って…うー…」

 

私はまったく答えのでないことをぐるぐると考えて涙を流した。

 

 

 

それから私はショックで3日間寝込むことになる。

 

 

 

つづく。

 

 

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