私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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控室から理奈さんと2人で出る。

 

「いってきまーす!」

 

「いってらっしゃーい。」

 

あきらさんと杏理さんが私たちに挨拶をする。

 

「じゃ有里ちゃん、私先に行くわ。」

 

店の正面入り口に続くカーテンの後ろに隠れながら理奈さんが私にそう言った。

 

「うん。わかった。」

 

理奈さんはまるで緊張なんかしていない。

かなりリラックスしているのがわかる。

 

「ねぇ。理奈さんは緊張せぇへんの?」

 

もうお客さんを出迎える場所のすぐ裏にいるのになんの変化も感じられない。

 

「え?緊張?せぇへんよ。だって山田さんやし。あはは。」

 

屈託のない笑顔。

ほんとになんにも変わらない。

 

「山田さん以外だったら?フリーのお客さんやったら緊張する?」

 

もうお出迎えに行こうとしている理奈さんにしつこく質問をしてしまう。

さっきの理奈さんとなにも変わらないことが不思議でならなかったから。

 

「え?うーん…そうやなぁ…」

 

ほんのちょっとだけ考える理奈さん。

 

「ほとんどせぇへんな。ずっと私以外の誰かを指名してるお客さんに入らなあかん時は『いややなぁー』とか思う時あるけどな。でも緊張とかではないなぁ。」

 

ほんのちょっとだけ考えてすぐに「緊張せぇへん」と答える理奈さん。

 

「そうなんや…。すごいなぁ…」

 

呟く私。

ほんとにすごいと思う。

 

「何?有里ちゃんまだ緊張するん?可愛らしいなぁー。」

 

「めっちゃするで。今だってほんまは吐きそうやもん。」

 

正直に答える。

ほんとに吐きそうだ。

 

「えぇっ?!そうなん?!大丈夫やって!な?大丈夫!!ほな行くわ。」

 

理奈さんは私の背中を優しくさすってから上田さんにチケットを受け取って、カーテンンからサッと出て行った。

 

 

「いらっしゃいませ。待っとったでぇ。」

 

 

カーテンの向こうでかなりフランクな出迎えの声が聞こえる。

その理奈さんの出迎えの声にすこしだけモヤモヤとした気持ちになっていた。

 

 

うー…

緊張する…

 

これはさっきの指名のお客さんでも変わらない。

もちろん初めてのお客さんの方が緊張度合いがすごいけど、いくら何度も指名で来てくれてるお客さんでも出迎える前の緊張感はあまり変わることはなかった。

 

 

「アリンコー、行けるかー?」

 

上田さんがカーテンを開けて顔を出す。

 

「あ、はい!行けるで!」

 

ピッと背筋が伸びる。

 

「ほい。これね。よろしくぅー」

 

上田さんがチケットを渡してカーテンから出て行く。

 

「ふぅーー…」

 

深呼吸をして「よし」と呟いてからカーテンを開け、サッとひざまずいて顔を下に向ける。

 

「お待たせしましたー!どうぞー!」

 

上田さんの声が聞こえる。

お客さんの足が視界に入る。

 

「いらっしゃいませ!お二階へどうぞ。」

 

パッと顔をあげ、出来うる限りの笑顔を見せる。

 

私にはあんなフランクな出迎えはできない。

もちろんこのお客さんは初対面だから仕方がないけど、私にはあんな理奈さんのような出迎えは永遠にできないんじゃないかと感じていた。

 

「こちらへどうぞ♡」

 

私はお客さんの腰にそっと手を添えて2階へと続く階段へと促した。

 

「うん。ありがとう。」

 

そのお客さんは笑顔で私を見て優しくそう言った。

理奈さんの言う通り優しそうなおじさんだ。

 

仕立ての良さそうな茶色のツイードのスーツ。

胸ポケットには上品な濃い青のハンカチーフ。

スーツよりも一段濃い茶色のベストが上品さをより醸し出している。

白髪交じりの髪は綺麗に整えられ、細い黒縁の眼鏡が知的な印象だった。

 

「有里ちゃん?やろ?おー。うんうん。可愛らしいなぁ。」

 

おじさんは階段の踊り場で急に私から離れ、大げさに上から下までを見る真似をした。

 

「え?ちょっと!あははは。やめてくださいよぉー!恥ずかしやないですかぁ!」

 

私はおじさんにくっつき、ジロジロ見られないように阻止した。

 

「なんでやぁ。可愛らしいんやからええやないかぁ。」

 

「ちょっと、もー!早くお部屋行きましょー!」

 

柳原さんというそのおじさんはニコニコしながら「うんうん。そうやな。」と言って、私の腰をグッと抱いた。

 

よし。

最初の印象は良さそうだ。

 

私は心の中でガッツポーズをとった。

 

「有里です。よろしくお願いします。」

 

部屋に入り、三つ指をつき挨拶をする。

 

「うんうん。聞いとるで。理奈ちゃんと仲良しなんやって?よろしくなぁ。」

 

柳原さんはベッドに腰かけてにこやかにペコっと頭を下げた。

 

「こちらこそよろしくお願いします。えーと…お茶…飲みます?ビールですか?」

 

理奈さんが後で呼びにくると言っていたけど…どうしたらいいんだろう?

 

「おー。でも多分もうすぐ呼ばれると思うけどなぁ。社長の部屋に行くと思うで。まぁ僕はこのまま有里ちゃんと2人で過ごしたいけどなぁ。あ、社長には内緒やで。あはは。」

 

柳原さんは私を隣に座らせ、腰を抱きながらそう言った。

 

柳原さんは多分60代半ばのおじさんだ。

私は毎回こういうおじさんを相手にすると思うことがある。

 

『男の人ってずっと“男”なんだなぁ』と。

 

22歳の小娘の腰を抱いてニコニコしている60代半ばのおじさん。

ほんとに嬉しそうに笑っているとなんだか可愛く感じてしまう。

 

「有里ちゃんは可愛らしいなぁ。今日は嬉しいわぁ。」

 

柳原さんはどうやら今のとこ私を気に入ってくれてるみたいでホッとしていた。

 

 

コンコン…

 

ドアを小さくノックする音が聞こえる。

 

「はーい。」

 

柳原さんの腕をスッと外してドアに向かう。

 

「来たな。」

 

ニヤッと笑って柳原さんが呟く。

 

ドアがガチャッと開いて隙間から理奈さんが顔を出した。

 

「今ええ?いちゃいちゃしてへん?」

 

小さな隙間から理奈さんがそう言った。

 

「ちょっとしてたけどええで!あはは。」

 

私はドアをグッと大きく開けて柳原さんが座っている場所から理奈さんの顔が見えるようにした。

 

「いちゃいちゃしてたとこごめんやでー。山田さんが一緒に飲もうって言うてるで。柳原さんお邪魔してごめんなぁー!あははは。」

 

理奈さんが柳原さんに向かってふざけてそう言った。

 

「ほんまやで!これからもっといちゃいちゃしよう思ってたのにぃ。あははは。ほな有里ちゃん、行こうか?社長は淋しがり屋やから。あはは。」

 

 

「はーい!行きましょう行きましょう。」

 

柳原さんは終始上品な嫌味のない態度だった。

柳原さんが腰を抱いてきてもまるで嫌な感じがしない。

 

出迎えてからここまで、まだ短い時間だけど遊び慣れてる感を醸し出している。

 

 

「連れてきたでぇー。」

 

理奈さんが明るくそう言いながら自分の部屋に私たちを連れて行く。

 

「おう。ひっさしぶりやなぁー。さっきぶりやんか。あっははは。」

 

ベッドの上にはツルツルの頭の横山ノック似のおじさんが腰かけていた。

柳原さんに向かって「ひっさしぶりやなー」と言って笑いを誘う。

 

「ほんま!社長しばらく見ない間に増えたんちゃいますか?髪が!」

 

柳原さんがすかさず返す。

 

「そうか?ん?」

 

自分の頭を撫でる山田社長。

 

「んなわけないやろがぁー!こいつ!わっはははは。」

 

「あっはははは!」

 

山田さんと柳原さんの仲の良さが伺える会話だった。

 

「あははは。なに言うてるん?!おもろいなぁ。」

 

理奈さんがリラックスして笑っている。

 

「あ、山田さん。有里ちゃんやで。可愛らしいやろ?」

 

「あ、有里です。よろしくお願いします。」

 

私は正座になり、ぺこりと頭を下げた。

 

「ん?有里ちゃんか。うん。可愛らしいやないかぁ。こちらこそよろしくなぁ。今度一緒に食事でもしようや。な?理奈。」

 

山田さんは笑うと顔がくしゃくしゃになる。

それが大きな武器なんじゃないかと思わせる。

 

山田のおじさんはもうすでにスーツを脱ぎ、白いランニングに白いステテコ姿でビールの入ったグラスを片手に持っていた。

 

横山ノックがランニングとステテコ姿でビール飲んでる…

 

私は心の中でそんなことを思っていた。

鼻とほっぺがちょっと赤くなった山田さんは柳原さんとはまた違った可愛らしさを醸し出していた。

 

「そうやな!あ、みんなビール飲む?山田さん、ビール飲んでいいやろ?」

 

理奈さんが山田さんに言う。

その言い方があまりにもフランクでまた私はびっくりする。

 

「おぉ。頼んでや。理奈、みんなにグラス出して。」

 

「うん。ちょっと待ってやー。」

 

山田のおじさんは柳原さんより少し年上のようだった。

たぶん70歳手前かすでに70歳を超えているかもししれない。

 

そのおじさんが理奈さんを「理奈」と親しみを込めて呼び、そして信頼して指示をだしている。

そしてそれに当たり前のように答える理奈さん。

それはまるで家族のような空気感だった。

 

「はい、お待たせー。」

 

ほどなくしてみんなにビールが行きわたる。

 

「はい。乾杯。よろしくね。有里ちゃん。」

 

山田さんは私にちょっと顔を寄せて小さな声で私にそう言った。

 

「あ、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

山田さんが私のほうにグラスを差し出す。

私は「あ、はい!」と言いながら少しだけ自分のグラスを下げてカチンと乾杯をした。

 

「ほう…よぉ知っとるなぁ…」

 

山田さんが小さな声で感心した様子を示した。

 

「どこで覚えたん?自分のグラスを下げて乾杯すること。」

 

にこやかに私に尋ねる。

 

「え…と、前に務めていた会社の社長がめっちゃくちゃ厳しくて。そこで殴られながら覚えました!あはは。」

 

これはほんとのこと。

K氏の元でほんとに殴られながら覚えたことだった。

 

「若いのに勉強したんやなぁ。うん。ええ子や。」

 

山田さんはベッドの上に腰かけたまま、床にペタンと座っている私の頭を撫でた。

 

「え…?あはは。そうですか?ありがとうございます!」

 

私はそんなことで褒められると思っていなかったのできょとんとしていた。

 

「ちょっと!社長!有里ちゃんは僕のお相手なんですから!手ぇ出さないでくださいよ!なぁ?有里ちゃん。なぁ?理奈ちゃん。そうやろ?」

 

柳原さんが私をグッとそばに寄せる。

 

「別に手ぇ出してるわけやないやろぉー!うん。ええ子でよかったな。うんうん。」

 

山田さんがご満悦な顔で「うんうん」と頷いている。

私はただ乾杯の時にグラスをちょっと下げただけだ。

それでこんなに「いい子」と言われるなんて驚きだった。

 

その時。

理奈さんが山田さんに驚きの行動をする。

 

 

「山ちゃんは私の相手やでー!なぁ?」

 

理奈さんは山田さんを『山ちゃん』と呼び、ベッドの上に飛び乗り隣に座った。

そしてあろうことか、抱き着きながら山田さんのツルツルの頭をぺしぺしと優しく叩いたのだ。

 

え?!

 

「可愛らしいやろー?この頭。あははは。いつもこうやってるんやんなー?」

 

笑いながらツルツル頭を撫でたり優しく叩いたりする理奈さん。

 

「いつもこうやるねん。あははは。失礼なやっちゃろー?」

 

ニコニコ嬉しそうに笑う横山ノック。あ、いや、山田さん。

 

私はその姿を見て驚くと同時に、強い嫉妬心と敗北感が湧いていることに気付いていた。

 

 

私にはこんなことできない…

 

この理奈さんと山田さんの距離感。

これはもはやお客さんとソープ嬢という関係性じゃない。

 

「理奈にはかなわんわ。わははは。」

 

山田さんが嬉しそうにそう言いながら笑っている。

 

理奈さんのお客さんの懐に入っていく技を知りたいと強く思った。

と、同時にこれは技なんかじゃないということも重々知っていた。

 

悔しい。

私にはこんな関係性は作れない。

 

理奈さんがシャトークイーンにいる限り私はナンバー1には絶対になれないと悟る。

そしてずっとナンバー1で居続けている人の凄さを知った。

 

表面上は和やかな歓談時間だった。

みんなで「わはは」と笑い合いながら楽しくお酒を飲んだ楽しい時間。

 

でも私の胸中は荒れ捲っていた。

 

 

「さ、そろそろお風呂入る?」

 

理奈さんがさりげなく山田さんを気づかい、声をかける。

歓談しながらちゃんと時間を見計らっていることもすぐにわかった。

 

「お?そうやな。お風呂入るか。柳ちゃんもそろそろ有里ちゃんと2人きりになりたいやろ?そうやろ?」

 

「わー!バレましたかー!あははは。」

 

「じゃそろそろ個室に別れましょかー?」

 

理奈さんが明るく私たちを促す。

 

「はーい!じゃ柳原さん。行きましょ。」

 

私は柳原さんの腕をとって「はよ行こう!」と引っ張った。

 

「おう。行こう行こう。社長。ごちそうさまでした!」

 

「おう。ゆっくりしてこい。あーゆっくりなんてできひんかぁ?!わはは。」

 

「じゃ有里ちゃん、また後で。んふふふ。」

 

理奈さんがふざけて私を送り出した。

 

「はーい!また後でー!」

 

私は胸の中に渦巻いている敗北感と嫉妬心をギュッと隠して笑って答えた。

 

 

個室に戻り、私は柳原さんとお風呂に入りSEXをした。

柳原さんは年の割に激しいSEXをした。

興奮しているのがわかる。

でも細かく私を気づかうのを忘れない。

 

柳原さんはとてもいい人だった。

 

「有里ちゃん。今度社長が食事に誘うと思うけど来てくれるか?」

 

SEXが終わって腕枕をしながら柳原さんが私に聞いた。

 

「え?はい!もちろんですよ。私でよければ連れて行ってください。」

 

私は柳原さんの腕の中でゴロゴロとくっつきながらそう答えた。

 

「うんうん。よかった。これで僕のお相手もできた。うんうん。」

 

柳原さんは私の頭を撫でながら嬉しそうにそう言った。

 

 

「じゃ、有里ちゃん。また社長と一緒に来るから。またね。ありがとう。」

 

お見送りの時、柳原さんが私の肩を抱いて囁いた。

 

「はい。お待ちしてますね。こちらこそありがとうございます。」

 

最後にギュッと抱きしめてから上がり部屋に入っていった柳原さん。

 

 

気に入ってもらったみたいでよかった…

 

その姿を見ながら安堵の溜息をつく。

 

でもその裏にはなんともいえない嫌な気持ちがある。

 

 

『社長が一緒じゃなきゃ来ないのかよ。』

 

 

と。

 

結局私は理奈さんの下の立場でメインを張れない女なんだ。

メインのお客さんは理奈さんがギュッと握っている。

私はそのおこぼれを頂く立場の女。

 

もちろんそのありがたさもわかっている。

私のことを信頼してなければ紹介なんてしないし、理奈さんが私をいいと思っていくれているからこそだと。

それだけでもすごいことなんだとわかっている。

 

でもそれがわかっていてもこの感情はぬぐえない。

 

 

私、悔しいんだ。

 

 

理奈さんとのれっきとした差を見せつけられたことに落ち込んでいるんだ。

 

…かなわない…

 

どうやってもかなわない。

 

わかってはいたけど歴然とした差を見せられると辛い。

 

 

私はこの90分間で打ちのめされた。

 

「はぁ…天才にはかなわないなぁ…」

 

見たくない現実を見せつけられた私はこの感情をどう処理したらいいかわからず、重い足取りで個室に戻って行った。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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149 - 私のコト

 

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