私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「実は…」

 

加奈さんが躊躇しながらも照れた表情で話し始める。

 

「うん?!どうした?」

 

私は加奈さんが何を言い出すのか少し緊張していた。

『スカウトの彼がまた優しくしてきてほだされた』とかの話しだったら勘弁してほしいと思っていた。

 

 

「あの…お客さんが結婚しようって言ってきて…」

 

加奈さんはちょっと目を泳がせながらそう言った。

 

「え?!は?!」

 

びっくりした。

まさかそんな展開になるとは思っていなかった。

 

「なになに?!どういうこと?!」

 

私は加奈さんの方をグッと向いて、身を乗り出して話しを聞いた。

 

「実は何度も指名で来てくれるお客さんがいて…その人に正直に今の状況を話してたんです。そうしたら…一緒に逃げようって言ってくれて…それで…あの…結婚しようって…えへへ。」

 

そのお客さんとはもう何度か子どもも一緒に外で会っているらしく、子どももそのお客さんに懐いていると言っていた。

 

「え…スカウトの彼がいるのにどうやって外で会ったん?子どもも一緒にやろ?」

 

「あ…はい。私が休みの日はすぐにどこかに出かけてしまうんです。多分パチンコだと思うんですけど…。で、その時に彼に連絡をとって会わせました。」

 

スカウトの彼は加奈さんがお休みの日は一日中、もしくは次の日の朝まで帰って来ないこともあると言っていた。

 

「へー…で?加奈さんはその彼のことどう思ってるの?」

 

私は内心あきれていた。

『また男か』と心の中では軽蔑していた。

加奈さんはずっと男についていくのか…と。

 

「いや…ほんとにいい人すぎて…いいのかなぁって思ってるんですよ。でも…一緒にいたいなぁとも思ってます。」

 

「そうなんやぁ…。うーん…私は正直今の話し聞いただけでは心配やなぁ…。大丈夫なんかなぁ…?」

 

加奈さんがまた騙されてるんじゃないかと疑っている。

その彼が豹変しないとも限らない。

私はそれを正直に加奈さんに言った。

 

「そう…ですよねぇ。でも、そんな人じゃないんです。ほんとにいい人で優しいんですよ。」

 

加奈さんははにかんだ笑顔でそう言った。

 

あぁー…

これはもうダメだ…

 

今加奈さんに何を言ってもダメだと思った。

冷静に見ることなんて出来ない状態だとすぐにわかる。

 

「子どもにたいしてもほんとに優しい目で見てて…」

「どうやって逃げ出そうかと本気で考えてくれてて…」

「私のこともすごく考えてくれてて…」

「私も疑って見てたんですよ。そんな人がいるわけないって…」

 

冷静に見ている風な言葉を並べ立ててはいるけれど、絶対に冷静ではないことが見て取れる。

 

「そうかぁ…。うーん…。私はなんとなく心配やけどよかったやんな。加奈さんの人生やもんな。加奈さんが幸せなようにしたらええやんなぁ。」

 

ほんとにそう思っている。

加奈さんと子どもたちが安心して毎日を送れるのが一番だ。

 

「そう…ですよねぇ。うん。有里さん、ありがとう。」

 

加奈さんが晴れやかな笑顔を見せた。

 

「私、彼と逃げます。」

 

言い切った。

加奈さんがそう言い切った。

 

「そうかぁ。うん。加奈さんがそうしたいならいいんちゃうかな。」

 

もう止められないんだろう。

止める理由もないし、私にそんな権利はない。

でもなんとなく気持ちがモヤモヤしていた。

 

「はい。有里さんのお陰です。ほんとにありがとうございます!」

 

加奈さんは私に深々と頭を下げた。

 

「えぇっ?!私なんもしてへんよ!加奈さんが決めて、加奈さんがこれから行動を起こすんやろ?!」

 

私はほんとに何にもしていないし、今加奈さんが下した決断も納得している訳ではない。

 

「いや、こんな風に考えられたのは有里さんのお陰ですから。」

 

 

…よかったのか悪かったのか…

 

「そうかぁ…。で?いつ頃決行するつもりなん?」

 

もう加奈さんの中では『彼と逃げる』が固まってしまった。

あとはそれをいつ決行するかだ。

 

「実は今日店に来るんです。その彼が。今有里さんと話してて決心がついたから、それを今日彼に伝えます。いつ、どうやって逃げるか具体的なことを彼と相談します!」

 

加奈さんは興奮した笑顔でそう言った。

 

「バレないようにしないとどうなるかわかりません。追いかけられるかもしれないし。もし捕まったりしたらどうなってしまうかわかりません。それを考えると怖いけど…。でもやります。」

 

ソワソワと身体を動かしながら話す加奈さん。

聞いてるだけでドキドキする。

そして「生きてるなぁ…」と感じてしまう。

結果がどうであれ、自分が決めたことをやってみようとしている時、人間は強さを発揮するんだと感じた。

そして怖さを感じている時、人間は生命力を発揮する。

 

加奈さんの全身から“何か”を感じた。

 加奈さんは『今この瞬間』が一番幸せなのかもしれない。

 

「応援してる。そんで成功を祈ってるで。」

 

私は加奈さんのその姿を見てそんな言葉しかかけられなかった。

 

「はい。有里さん。いつ私がいなくなってしまうかわかならいので連絡先教えておいてもらえますか?逃げた後、有里さんには無事だっていう報告がしたいので。いいですか?」

 

加奈さんが手帳を私に差し出した。

 

「うん。ええよ。連絡くれたら嬉しい。無事だって報告があったらほんまに嬉しいからしてきてや。」

 

私は手帳に自分のTEL番を書いて渡した。

 

「ありがとう。」

 

その時控室のスピーカーから富永さんの声が聞こえてきた。

 

「加奈さん。加奈さん。」

 

ハッとする加奈さん。

 

「彼だ。」

 

ドキッとする私。

 

「うん。ちゃんと伝えてきてね。」

 

「はい。あードキドキする!」

 

加奈さんが身をよじる。

 

「なんや私もドキドキするわぁ」

 

私も身をよじる。

 

「あはははは!じゃ、行ってきます!」

 

良い笑顔だった。

 

「いってらっしゃい!」

 

私も笑顔で言う。

 

 

加奈さんは自分で決断したことを彼にどうやって伝えるんだろう。

そしてそれを聞いた彼はどんな風に喜ぶんだろう。

そしてどんな計画を立てるんだろう。

 

「…どうなっていくのかなぁ…」

 

 

私は私のこれからのことを思うように加奈さんのことを思った。

 

この決断が合ってるのか間違ってるのかなんてわからない。

でもなぜかそっちを選んでしまう。

考えても考えてもそっちを選んでしまう。

 

私もどう考えても人からおかしいと言われてしまうような選択しかできなくて今ここにいる。

 

「…うまくいくといいなぁ…」

 

1人控室で呟いていた。

 

 

それから何事もなく数日が過ぎた。

 

加奈さんは「彼とちゃんと話しました。」と言っていたけれど、特に逃げ出す日にちを言うでもなく淡々と仕事に来ていた。

私はまたあえて加奈さんに詳細を聞かないようにしていた。

チラチラと気にはしていたのだけれど。

 

 

 

「有里ちゃん。今日飲みに行かへん?」

 

仕事終わりに理奈さんが誘って来た。

 

「あーいいねぇ。」

 

私は理奈さんの誘いを受け、一緒にふく田に行くことにした。

最近は理奈さんの誘いを優先するとコバくんが少し拗ねるようになっていてちょっとだけめんどくさい。

でも私は一応TELをする。

 

「今日は理奈さんと飲みに行くから遅くなるわぁ。ごめんやでぇ。」

 

なんで謝ってるのかわからないけど一応謝る。

 

「えぇー…そうかぁ…淋しいなぁ。帰って来るんやろ?何時ころ?朝にはいるやろ?」

 

淋しそうな声を出すコバくん。

それがまたうっとおしく感じてしまう。

 

「うーん…何時ころになるかはわかれへんよ。ごめんやでぇ。ゆっくり寝ててな。」

 

うっとおしく感じているのを隠してまた謝る私。

私の時間なのになんで気兼ねしなくちゃいけないんだろう?

一緒に住んでるだけなのになんで謝らなきゃいけないんだろう?

 

「うん…。ゆきえがおらんと淋しいわぁ。はよ帰って来てなぁ。」

 

むかっ。

うっさいわ。

はよ寝ろや。

私のことはほっとけや。

私はお前の持ち物じゃない。

 

一瞬で心の中をこんな言葉たちが占領する。

でも私はその言葉たちを見て見ぬふりをする。

 

「うん。わかった。でもはよ帰れるかはわからんから寝てや。な?あったかくせなあかんで。な?」

 

優しい口調で諭す。

優しい女のふりをする。

 

「うん…。わかった。おやすみ。気ぃつけてな。理奈さんによろしく。」

 

コバくんは拗ねた声でそう言った。

 

「うん。おやすみぃ。」

 

 

TELを切ると猛烈な怒りに襲われた。

 

「彼?大丈夫やった?」

 

となりにいた理奈さんが私に聞く。

 

「うん。なんか腹立ってきた。なんではよ帰らなあかんの?なんで私が謝らなあかんの?は?!なんなん?私の時間やん!私はあんたより理奈さんのが大切なんよーー!」

 

わざとふざけて大袈裟に言った。

 

「うおーー!お前より理奈さんの方が好きなんやーー!」

 

ふく田のカウンターで頭を抱えて叫ぶ私。

 

「あっはははは!それなんなん?!彼がそれ聞いたらほんま泣くでー!あははは!」

 

理奈さんが嬉しそうに大笑いしている。

 

「なんかほんまに腹立ってきた。今日は帰らんとこかな。あ!また控室に泊まったらええんやんな?そうしよ。」

 

私は前に理奈さんと奈々ちゃんと控室に泊まったことを思いだした。

あの時間、すごくよかったんだよなぁ…とふいに思う。

 

「え?!大丈夫なん?彼心配するやろなぁ。」

 

「別にええわ。一応朝連絡するし。あーそうしよう。」

 

「じゃ後で富永さん来るから言うとけばええやん。」

 

「うん。あーもう絶対そうしよう。帰りたないもん。」

 

「あーあ。彼かわいそうになぁ。」

 

「え?別にかわいそうなことないわ。なんか腹立ってしまったら今日はもう絶対帰らん!!」

 

私はお酒が入ったせいもあり、なんとなく意地になっていた。

コバくんが私の毎日を制限してきている。

私が勝手にそう思っているだけなのに、私がそうしてしまっただけなのに、怒りの矛先をコバくんに向けていた。

 

富永さんに店に泊まる了承を得て、結局私は1人で控室に泊まることにした。

理奈さんは「今日は帰るわー」と言って帰ってしまった。

 

私は店の控室の炬燵に横になり、ウトウトと眠りについた。

 

 

…TELが鳴っている。

 

トロトロとした目をなんとか開きながら時計を見ると朝の8時だった。

 

コバくんかな…と思い携帯の着信番号を見ると見たことがない番号からだった。

 

「…もしもし…?」

 

誰だろうと思いながら電話に出る。

 

「あ!有里さん?!」

 

電話の相手は加奈さんだった。

 

「あ!加奈さん?うん。有里だよ。どうしたん?!」

 

電話の向こうからはザーザーと風の音が聞こえる。

 

「今逃げてきたとこ!今彼と子どもと一緒に逃げ出して来た!車で遠くまで逃げるから!もうこの携帯も解約してしまって連絡取れなくなってしまうと思うから!有里さん、ありがとう!もしかしたらあいつが店に行って迷惑かけるかもしれない。そうしたらほんとにごめん。富永さんにも言っておいてもらえるかな。もちろん落ち着いたらこっちから連絡するんだけど。いろいろごめん。ありがとう。」

 

慌ただしく話す加奈さん。

焦っているのがわかる。

興奮しているのもわかる。

 

「そうなんや!わかった!はよ逃げて!あとはなんとかなるやろ。がんばれ!幸せになって!がんばって!!」

 

慌ただしく答える私。

胸がドキドキする。

 

「うん。ほんとにありがとう!また落ち着いたら連絡する!じゃ!また!」

 

加奈さんは忙しくそう言って電話を切った。

 

「…はぁ…そうか…逃げたんだ…」

 

ドキドキしながら呟いた。

 

「あ…コバくんに連絡しなきゃ…」

 

起きてしまったついでにコバくんにTELをかける。

 

「…もしもし…」

 

明らかに暗い声でコバくんが出た。

 

「もしもし?」

 

「今どこにおるん?」

 

声が怒っている。

その怒っている声にまた腹が立つ。

 

「…店の控室。泊まってしまったんや。」

 

「…そうか。でもな、連絡くらいしてくれたらええやんか。」

 

「ちょっと酔っぱらってしまって寝てしまったんよ。」

 

謝りたくない。

今日は謝りたくない。

 

「…そうか。…心配するやんか。」

 

「…うん。もう仕事やろ?」

 

「もう車の中や。今日は帰ってくるやろ?」

 

「うん。帰るよ。」

 

「ほな待ってる。ちゃんと帰ってきてや。」

 

「うん。わかった。気をつけてな。」

 

「…ゆきえ。」

 

「なに?」

 

「…大好きやで。おらな淋しいわ。」

 

コバくんは怒ってたはずなのに急にそんなことを言った。

 

「ありがとう。ちゃんと帰る。」

 

「うん。じゃあね。」

 

 

あそこで「大好きやで」はズルい。

怒るに怒れないじゃないか。

 

モヤモヤしながら私はまたゴロンと横になった。

 

加奈さん…どこに逃げるんだろう…

今ごろスカウトの彼は気付いて慌ててるのかな…

コバくんは今車のなかでどんな気持ちなんだろう…

私…なにやってるんだろう…

 

そんなことをつらつらと考えながらまた私はウトウトと眠りについた。

 

 

ガタガタッ…

ガタガタッ…

 

 

え…?

 

 

控室の外からガタガタと音が聞こえる。

 

 

 

ガタガタ…ガタガタ…

 

 

ガチャ!

 

突然私が寝ていたところとは離れた場所にある控室のドアが開く。

 

「え?!」

 

ドアが開いた音に驚いた私は身体を起こした。

 

 

「え…?え…?」

 

 

次の瞬間私の身体は恐怖で固まることになる。

 

 

 

つづく。

 

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