私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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フロント横のカーテンを開け、富永さんに「あんな…」と切り出す。

 

デリケートな内容だ。

ちゃんと言葉を選んで、なんとか富永さんに協力してもらわなければ。

加奈さんが逃げ出そうとしていることは伏せて、でも本数はごまかして彼に伝えてもらえるようにしなければ。

富永さんはお店の店長だ。

加奈さんがここから彼から逃げ出すってことは店からもいなくなるということ。

それを正直に話してしまったらダメだ。

 

私は富永さんにどうやって言ったらいいのかを瞬時に考える。

 

 

「今加奈さんと話してたんやけどな。」

 

「おう。加奈か。」

 

「スカウトで来たんやろ?自分でも言うとったわ。」

 

「そうやで。」

 

「そのスカウトの人って富永さんと付き合い長い人なん?」

 

「うーん…まぁまぁやのぉ。ひょこっと顔出して新しい女の子紹介してきて、急にいなくなってまたひょこっと顔出して紹介してきて…みたいな感じやなぁ。まぁコレのなりそこないみたいなもんやろ。」

 

富永さんは『コレ』と言いながら人差し指でほっぺをサッと斜めに撫でた。

 

「ふーん…。じゃあ加奈さん以外の女の子も紹介してきたことがあるん?」

 

「おう、あるで。」

 

「やっぱり紹介してもらったらマージンみたいなの払うんやろ?」

 

「そうやで。それがそいつらの仕事やからのぉ。」

 

やっぱりそうなんだ。

結局沖縄で女引っ掛けてその女を売ったってことだよね?

加奈さんは引っ掛けられて売られたってことだよね?

 

「そうなんや…。それでさ、今加奈さんから聞いたんやけど、毎日入った本数確認するためにTELかけてくるってほんま?」

 

「おー、そうなんじゃ。毎晩やで。奴らも生活かかってるから必死や。大事な商品やからなぁ。でもさすがに可愛そうになるで。加奈のことがな。」

 

富永さんは椅子の背もたれにグッと身体を持たれかけさせて、両手を頭の後ろに組みながらそう言った。

 

「そうやんなぁ…今その話し聞いてたら可哀そうになってなぁ。子どものおもちゃも買ってやれん言うててな。」

 

富永さんが加奈さんを可哀そうだと思っているのがわかって少しホッとした。

 

「そうかぁ。うーん…」

 

「それでな、相談なんやけど…」

 

「ん?なんや?」

 

「いや、相談いうか、お願いいうか…」

 

「おう。なんや?」

 

「加奈さんの本数な、ちょっとごまして報告するとかできひん?」

 

「ん?どういうことや?」

 

富永さんは椅子の背もたれにに預けていた身体をグッと起こし、私の方を見た。

 

「いや、1本か2本少なく申告してくれるだけでいいんやけど…。加奈さん子どもに何か買ってあげたいんやって。お休みの日にどこか連れて行ってあげたいんやって。

ええやろ?それくらい。毎日がんばってるんやからなぁ。なぁ?」

 

お金を貯めて逃げ出そうとしている話しは絶対にしない。

富永さんには悪いけど、今回は裏切らせてもらいます。

 

「おー…うーん…でもなぁ…そうしてやりたいのは山々やけどな…もしその嘘がばれた時がのぉ…。あいつらほんまになにするかわからんのや。普通やないからな。うーん…」

 

そりゃそうだ。

女を沖縄で引っ掛けてきて売るなんて普通じゃできない。

金づるを手放さないために毎日確認のTELをかけたり、子どもの世話までするなんてどう考えてもおかしい。(どこまで世話してるかしらないけど。)

 

「そうかぁ…。なんとかならんかなぁ?ほんのちょっとでええんよ。加奈さん、このままじゃストレスで身体こわすかもやで。」

 

「そうか。うーん…。ちょっと考えるわ。なんとかするわ。加奈は頑張って働いてくれてるからな。わかった。」

 

富永さんは下を向いて「うんうん」と何度も頷きながらそう言った。

 

「わー!ありがとう!加奈さん喜ぶわぁ。」

 

私は富永さんに抱き着いた。

 

「おう。わかったわかった。ちょっと考えてるわ。」

 

富永さんは私の背中をポンポンと叩いた。

 

「じゃ!それだけ!」

 

「おう。加奈になんかあったら教えてくれや。頼むわ。」

 

富永さんはフロントから出て行こうとした私にそう言いながら手を挙げた。

 

「はーい!」

 

やった!

本数をごまかすことはなんとかなりそうだ。

あとは加奈さんがもう一度富永さんに直接相談して…

あ、でも逃げ出そうとしていることは伏せておかないと。

 

「加奈さん!」

 

控室では加奈さんが手帳を出してなにやら書き出している。

 

「あ、有里さん。どうでした?」

 

「うん。なんとかしてくれるって!考える言うてたわ!後は加奈さんがもう一度富永さんに直接話せばええと思うで。」

 

「うわ…ありがとうございます。」

 

「でもな、逃げ出そうとしてることは言うたらあかんよ。」

 

「あ…そうですね。」

 

「子どもの為にちょっとお金が欲しいって言うてるって言っといたから。」

 

「あ、はい!ほんとにそうですし。わかりました。なんか…ありがとうございます…。もう逃げようって思ったら一刻も早く逃げたくなって…何かやってないと落ちつかなくて。こんなん書きはじめちゃいました。えへへ…」

 

加奈さんは手帳をパッと見せてくれた。

 

加奈さんは手帳に小さい字で毎日1本ごまかせたら何日でどれくらいお金が貯まっていくのかを計算していた。

 

 

加奈さんだって引っかかってしまった女だ。

引っ掛ける方だけが悪いわけじゃない。

加奈さんにもそれなりな原因があるんだろうし、フラフラと付いてきてしまったのはどうかと思うところはある。

 

でも巻き返すことはできる。

気付いたら肚に力を込めて止めればいいんだ。

 

私は人のことをどうこうしている場合じゃないと思いながらも、なんとなく加奈さんのことに足を突っ込んでしまった。

加奈さんがこれからどんな動きをするのか、期待と不安を込めて見てみたいと思った。

そして私の期待通りに動いて欲しいと願っている。

私が私に期待しているのと同じように。

 

「焦ったらあかんよ。富永さんも言うてたけど、やつらは何しでかすかわからんのやから。今は優しいかもしれないけど怪しい行動がバレたりしたら…。日中は子どもが向こうのそばにいるんやからね。」

 

「あ…そうですね…。はい!」

 

加奈さんは目に涙を浮かべていた。

そして「ちょっとずつバレないようにやっていきます…」と小さな声で呟いた。

 

「うん。私には何もできないし、加奈さんが決めていくことやけど…でも応援してるし気にしてるから。めげないで欲しいし諦めないで欲しいと思ってるで。な?!」

 

これは私が私に言っている言葉だった。

めげないで逃げ出さないで諦めないで…

 

私は私が決めたことから逃げ出さないでいられるのだろうか。

加奈さんは諦めないでいてくれるのだろうか。

 

 

 

私はそれからなるべく加奈さんに突っ込んだ話をしないようにしていた。

あまりそんな話ばかりしてうっとおしく思われるのを避けるためだ。

 

富永さんはあれからいろいろ考えてくれて「女の子の入った本数を外部に言うのはやめて欲しいと社長に言われたから教えられなくなった」と言ってくれたらしい。

 

TELでそのことを伝えた時、その彼はものすごく憤慨していたと冨永さんが言っていた。

 

「もうめちゃくちゃな理論をふっかけてくるんや。ずーっとやで。ありゃわやくちゃじゃ。」

 

そんなことを言いながらも「まぁこれで毎晩のTELもなくなってよかったけどなぁ」と優しい顔で言っていた。

 

加奈さんは時折私に「順調に貯まっていってます。えへへ。」と報告してくれた。

そして「もうあいつがうっとおしくてたまらないんです。こないだは喧嘩しました。」としっかりとした表情で言ってきたりもした。

 

店に来たときはただただおどおどしていた加奈さん。

スカウトのその彼との喧嘩なんて考えられなかった加奈さんが喧嘩をしたと言っている。

 

「こっちが強く出ると急に弱くなるんです。めっちゃくちゃ機嫌とってきたりして。それが余計にうっとおしくて。なんであんな奴に引っかかっちゃたんだろう?って腹が立ってきて…」

 

『逃げよう』と覚悟を決めて、今の自分の状況を冷静に受け入れた加奈さん。

『肚をくくる』とこんなにも女は変わるのかと驚いていた。

 

 

「絶対に逃げ出します。絶対にバレないように。追いかけられないようにうまくやります。毎日そのことばかり考えてます。有里さんのお陰です。えへへ。」

 

控室で2人になると加奈さんはこっそりそんなことを言ってくれていた。

私はその姿を見て、その言葉を聞いて、嬉しいと思う反面「熱くなりすぎないでー」と心配していた。

 

 

そんなある日。

 

加奈さんが「あの…有里さん…」と話しかけてきた。

 

「え?!なに?どうした?なんかあった?」

 

「ちょっと相談があるんだけど…」

 

加奈さんがちょっとはにかんだ顔で私に言う。

 

「えー?…何ぃ?」

 

「えへへ…実は…」

 

 

加奈さんが照れながら話し始めた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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144 - 私のコト

 

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