私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「加奈さんは子供がおるんですよね?男の子?女の子?」

 

控室で加奈さんと2人になった時、何気ない会話の流れで聞いてみた。

いつも笑っている彼女に暗いものを感じていたし、どんな経緯でここに来たのか気になっていたから。

 

「あ、そうなんですよぉ。男の子2人です。えへへ。」

 

加奈さんは細い目をさらに細めて「えへへ」と笑った。

 

「何歳?可愛いやろなぁー!」

 

「5歳と2歳です。やんちゃですけど可愛いですよぉー!」

 

加奈さんが嬉しそうに話す。

ほんとの笑顔が一瞬だけ見られた気がした。

 

「写真ないん?見せてほしいわぁー!」

 

「え?写真みてくれるんですか?えーっと…これです!」

 

満面の笑み。

ほんとに子供を可愛いと思っているのが伝わる。

加奈さんは携帯に保存されてる写真を見せてくれた。

 

「わーー!めっちゃ可愛い!!うわ、ほんまに可愛いなぁー!」

 

携帯の画面に映っている可愛らしい2人の男の子。

無邪気に笑っているその顔はたまらないものだった。

 

「えー、嬉しいです!可愛いんですよぉ。」

 

加奈さんは嬉しそうに私に話しをしてくれた。

 

「どうですか?沖縄からこっちにでてきて。もう慣れました?」

 

加奈さんは私より6歳年上の28歳の女性。

でも見た目は中学生みたいに幼かった。

 

「いやー…なかなかねぇ…。」

 

加奈さんは週6勤務をしていて、週に一回しかお休みをもらっていない。

 

「週一回のお休みだとお子さんと遊べないですよねぇ。日中どうしてるんですか?」

 

ずっと気になっていたところだった。

あの可愛い2人の男の子はお母さんと離れている間、どうやって過ごしているんだろう。

 

「あ…うん…えと…知り合いの人が預かってくれてて…えへへ…」

 

歯切れの悪い返事。

嫌な感じがする。

 

「そうなんですかぁ。あ、加奈さんはスカウトされてここに来たんですよね?沖縄で。」

 

「あ、そうなんですよー。でも…これでよかったのかなぁって思ってたり…えへへ…」

 

あー…

そうなんだ…

 

加奈さんの表情が急に曇る。

 

「スカウトってどんな感じなんですか?」

 

私はその表情が曇った内容が知りたかった。

もし悪い奴に捕まっているなら、ドツボにハマる前に加奈さんを救えるなら救いたいとも思っていた。

 

「えと…町で声をかけられたんやけど…」

 

加奈さんはぽつぽつとシャトークイーンに来るまでの経緯を話した。

 

前の旦那さんがお酒を飲むと暴力をふるう人で、子どもにも手を挙げそうになったから子ども2人を連れて逃げ出したこと。

沖縄は仕事も少なく給料も安い。なので子ども2人抱えてどうやって生きていくか迷っていたこと。

両親には頼れない現実。

そんな時、街でスカウトの人に声をかけられたこと。

 

「スカウトってどういうことなの?」

 

結果ヒモになる人だって知ってたけど聞いてみた。

 

「えと…マネージャーみたいなもんだって言ってました。私が仕事しやすいように環境を整えるのが俺の仕事だって。だから今のマンションも探してくれて…で実は日中子どもの世話してくれてるのもその人なんです…」

 

やっぱり…

 

「そうなんやぁ…。結局その人と一緒に暮らしてるってことでしょ?加奈さんの恋人みたいな感じなの?」

 

スカウトって…

ソープ嬢のスカウトじゃなくて、自分の金づるをスカウトしてるってことだよね?

 

「えと…一緒に暮らしてます。でも…恋人って感じでもなくて…その人はビジネスパートナーだって言ってました。」

 

はーーー?!

ビジネスパートナー?!

んもーー!!

 

「そう…なんだぁ…。でもさ、その人とSEXはしたんでしょ?」

 

「え…?あー…はい。最初だけですけど…」

 

んもーーーー!!

 

「最初だけ?今は?」

 

「今は仕事に支障がでるだろうからってしてません。私も別にしたくないんでいいんですけど。えへへ。」

 

いや、そういうことじゃないでしょ。

 

「それで…?お金の管理ってどうなってるの?」

 

私はだんだん自分の心配が的中してることに気が付いていた。

そしてだんだん怒りと憤りで胸がドキドキしているのがわかる。

 

「それなんですよ…。毎日5千円しかくれなくて…。この5千円もお店で使うたばこ代とかお酒代とかでほとんどなくなっちゃうから…。毎日全部もっていってしまって『お金は俺が管理する』って言ってるんです。だから子供におもちゃも買ってやれなくて…」

 

加奈さんが引きつった笑顔でそう言った。

 

でた…

ほらこれだ。

 

「それさ…ほんとに管理してくれてるの?大丈夫?」

 

私は憤りをなんとか抑えて加奈さんに聞いた。

 

「あ、それは大丈夫だと思います。いつも通帳の中身を見せてくれるんですよ。そうしたらだいたい毎日通帳に記載されてて…」

 

「あー…そう…。なら今はまだ安心やねぇ。それとさ、ほんとに子供大丈夫なの?子ども置いてパチンコ行っちゃったりしてない?」

 

「あ、それも多分大丈夫です。毎日子どもに聞いてますから。近所の公園に連れて行ってくれてたりしてるみたいです。ゴハンは毎日用意してから仕事に来てるんで…。」

 

うーん…

子どもをほったらかしにするとか暴力をふるうとかをしてないならいいんだけど…

 

「手をあげたりされてない?優しいの?」

 

私は加奈さんがどんどん心配になってきていて質問が止まらなくなっていた。

 

「あ、それはないですね…。優しい…ですよ。子どもにも優しくしてくれてます。」

 

「そうかぁ。それならいいんやけどねぇ…。」

 

なんだかしっくりこない。

加奈さんはほんとにこれでいいんだろうか。

 

「ただ…お金のことがなんか嫌で…。毎日店に確認のTELをしてるんですよ。私が今日何本入ったか聞いてて…。私が渡す金額がお店で聞いた本数と合わないとすっごく怒るんです。」

 

うわー…

やっぱりなぁ…

 

「加奈さん本数ごまかしたことあるん?」

 

「はい…1日5千円じゃ子どもに何にも買ってあげられないし、お休みの日もどこにも連れて行ってあげられないし…だから一回だけごまかそうとしたんです。1本少なく言って自分のヘソクリにしようと思ったんですけどすぐにバレました。まさかお店に確認してると思わなくて…。」

 

お店の雑費も払わなければいけないし、お客さん用にタバコもお酒も買っておかなければならない。

5千円なんて経費で消えてしまう。

加奈さんは自分の為じゃなく子どもの為に本数をごまかそうとしていたことに胸が痛んだ。

 

「…加奈さん…あのさ…これ言っていいことなのかわからないんだけどさ…」

 

貴女騙されてるよ!と声高に言いたかった。

早く逃げなきゃ喰いものにされてボロボロになっちゃうよ!と説得したかった。

 

でもそれを言っていいものなのか躊躇している自分がいた。

 

今の状況を変えるのはかなりエネルギーがいる。

騙されてると知ってしまったら加奈さんはどうなってしまうのか…

 

「え?うん。何ですか?有里さん。」

 

加奈さんが珍しく真剣な顔で私に聞いた。

笑っていない。

加奈さんのほんとの顔を見た気がした。

 

「…それさ…騙されてるよね?私はそう思うよ。」

 

言ってしまった。

加奈さんの真剣な顔を見たらますます言わずにはいられなかった。

 

加奈さんはどんな反応をするだろうか。

 

 

「…やっぱり…そうだよねぇ…。」

 

下を向いてしばらく黙っていた加奈さんがスッと私の方を向いて小さな声でそう言った。

 

「…はぁ…」

 

肩を落として溜息をつく加奈さん。

 

「…あんな、前の店でもおったんよ。沖縄からスカウトで来たんやっていう子ぉが。まわりのいろんな人から聞いた話しやとコレを打たれて縛られてるって。もうコレで離れられないようにして働かされてるんやって。私もその姿見てしまったんやけどな…。

こんなこと言うていいのかわからんけど、加奈さんだってそうならないとも限らないやろ?もしそうなったらどうする?子どもは?」

 

もう止まらない。

私はなるべく感情的にならないように気をつけながら、ゆっくりと加奈さんに話しをした。

 

加奈さんは細い目を丸くしながら私の話しを聞いていた。

 

「…雄琴には沖縄からスカウトで来てる子ぉが多いんやって。沖縄の子ぉはそれだけ純粋な子が多いってことやなって前の店のボーイさんが言うてたわ…騙されやすいって。」

 

加奈さんに失礼なのかもしれない。

でももう話さずにはいられない。

 

「私ははよ逃げた方がいいと思うで。どうせ雄琴で働くんやったらその人抜きで働いた方がいい。もう風俗に足突っ込んだんやから肚はくくれたんちゃうの?きっかけはその人がくれたかもしれんけど、もう自分でできるやろ?違う?」

 

加奈さんは私の方をジッと見て、時折「うんうん」と頷きながら真剣に話しを聞いていた。

 

「…うん…有里さんの言う通りだな…。うっすら気付いてたんだ…騙されてるんじゃないかって…。」

 

加奈さんはポロリと涙をこぼした。

 

「…逃げよう…でもお金がない…どうしよう…」

 

加奈さんが「逃げよう」と言った。

下を向きながら決心をつけようとしている。

 

「今日からお金をちょっとずつ貯めます…。ごまかしてでも。あ、でも店に連絡が来る…どうしよう…」

 

「逃げよう」と決心をつけようとしている加奈さんをなんとか応援したかった。

逃げられるように私がお金を渡すことは簡単だ。

でもそれじゃいけないような気がした。

 

「通帳持ち出すことはできないの?彼が隠してる場所知ってるん?」

 

「知ってるんですけど…暗証番号もわからないし、隠し場所は鍵もかかってるんです…」

 

「鍵のありかは?暗証番号は…なんとかなるかもしれんし…」

 

「鍵はいつも身に着けてるんです。あ…でも…お風呂のときとか…」

 

加奈さんがどんどん逃げ出す方法を考え始めている。

私はそれを感じてなんだか嬉しくなってきた。

 

「もう逃げようと決めたならじっくりいこう。つかまったら大変やから。な?」

 

「…はい。そうですね。ちょっとじっくり考えます。有里さん、ありがとう。」

 

「いや…ほんまに逃げるなら出来ることはやるよ。あ、富永さんに言うてみようか?お店に連絡きたらごまかしてもらおう。相談してみようか?」

 

「え…?いいんですか?」

 

「うん。最終的には加奈さんが自分で言わなあかんと思うけど、今ちょっと私から相談してみようか?富永さんはぜったいそのスカウトマン側の人やないと思うから。」

 

「うわ…ありがとうございます!お願い…してもいいですか…?」

 

「うん。役に立つかわからないけど…一本ついた数ごまかすくらいいいんやないかなぁ。」

 

「お願いします!ありがとうございます!」

 

加奈さんは嬉しそうに私に頭を下げた。

 

「うん!じゃ言ってくる!」

 

私はいそいでフロントに行き、「富永さん!ちょっといい?」と言いながらカーテンを開けた。

 

「お?有里、どうした?」

 

「うん。ちょっと相談があるんやけど…」

 

「おう。なんや?」

 

「あんな…」

 

 

こうして私と加奈さんの『スカウトマンと言う名のヒモから逃げ出そう作戦』が開始されることになった。

 

 

つづく。

 

 

 

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143 - 私のコト

 

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