私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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理奈さんと奈々ちゃんが後ろの席で「怖いなぁー!」「なんかドキドキしますねぇ!」と言い合っている。

 

私は助手席に座りフロントガラスを凝視していた。

 

「ほんまにそんなことがあるんかのぉ。」

 

車を運転しながら富永さんがいぶかしげに呟く。

 

「きっと富永さんが寮に泊まってもなんにも気付かんのやろなぁ。あははは。」

 

理奈さんが後ろから身を乗り出して富永さんに言った。

 

「なんや?!理奈、お前もやろがぁー。」

 

「私は怖ぁて泊まられへんわ!奈々ちゃんよぉ泊まってたなぁ!」

 

「いや、なんとかやっていけるんちゃうかと思ってたんですけどねぇ。えへへ。」

 

奈々ちゃんは見えてしまってもなんとか共存していけるんじゃないかと思っていたらしい。

でもそれは多分富永さんに寮のことを言うのを遠慮していただけだと思う。

せっかく用意してくれた寮のことを悪くいうことが出来なかっただけだと思った。

 

「ほんまに見えるんか?奈々。そんなことがあるんじゃのぉ。」

 

富永さんは首をかしげている。

見たことがない、感じたことがない人ならそういう反応になるのはわかる。

 

「あるんよー。ほんまにあるんよぉ。」

 

奈々ちゃんの代わりに私が答える。

 

「そうなんじゃのぉ。わしにはわからんのぉ。」

 

「今日はチラッと見に行くだけだけど、あんまり長居してしまったりなんとか感じようとしてしまうと付いてきてしまうこともあるからな。みんな一応お塩持っといて。」

 

私はあんまりアテにならないと思いながらもお塩を持ってきていた。

そしてみんなに一応なんとなくの注意点を言っておいた。

 

「えー!付いてきてしまったら困るわー!」

 

理奈さんが驚いている。

 

「そんなことがあるんか?!それは困るのぉ。」

 

富永さんも驚いている。

 

「今は大丈夫ですよね?私に付いてきてたりしませんよね?!」

 

奈々ちゃんもビビりながら私に聞いてくる。

 

「うーん…今んとこ大丈夫やけど、奈々ちゃんを見てるとその寮の雰囲気がわかるからなぁ。危ないとこやな。」

 

ちょっとだけ奈々ちゃんが寮のエネルギーに侵食されてるのがわかる。

わかりやすく言えば「場との同調が起こっている」という感じ。

奴らと同じ周波数を放っているように感じる。

 

「えーーー!!ヤバいやん!!奈々ちゃんヤバかったんやん!!」

 

理奈さんがびっくりしている。

 

「マジですか?!私ヤバいやないですか?!」

 

元々暗い何かをまとっているような雰囲気を持っている奈々ちゃんは奴らと同調するのは極めて簡単だ。

それに加えて男の借金を抱えて、日々見知らぬ男性と個室でカラダを重ねるという仕事をしている。

 

落ちていくのはたやすい。

 

「だから店で寝泊まりする方がええんよ。今日から安心やね。」

 

私がそう言うと後部座席で「よかったなぁ。」「ヤバかったですねぇ。」「もうあそこには行かんほうがええんやなぁ」「でもこれから行くんですよね?」「そら見てみなわからんやろ」と2人が言い合っている。

 

 

店から車で10分ほど走ると暗い道に入った。

私は自分の肩の痛みが増していることに気付く。

肩こりとは違う痛み。

ちくちくと刺すような独特の痛みが増してきている。

これは奴らの影響だ。

 

「うわ…怖い…」

 

私はその寮へと続く道があまりにも暗くて怖くて思わず呟いてしまった。

 

「着いたで。」

 

富永さんは寮のアパートの前に車を停めてそう言った。

私たちは車から降り、アパートを見上げた。

 

その暗くて怖い道をほんの少し奥に行ったところにそのアパートはあった。

ポツンと一つだけ街灯があり、そのアパートをぼんやりと照らしていた。

1階に4部屋、2階に4部屋の古いアパート。

元々白かったであろう壁は汚れていてところどころに蔦が絡んでいる。

どの部屋にも灯りは点いていなくてアパート全部が真っ暗だった。

周りには他の民家もマンションもアパートもない。

そこだけポツンと孤立しているような場所だった。

 

「…富永さん、このアパート他に誰か住んでるんですか?」

 

この異様な雰囲気。

なんでこんなところを寮にしてるんだ…

ここを借り続けている気が知れないと思っていしまう場所だった。

 

「住んでるんやないか?まぁまぁいい部屋だと思うで。」

 

はーーー?!

ここが?!

中をまだ見てないけどここが良い部屋だなんて到底思えない。

 

「寮の部屋はもう汚いけどな。ははは。他は綺麗なんやろ。」

 

…笑ってるよ…

 

「なんか暗いなぁ。なんも見えへん私でも怖いわぁ。富永さん平気やの?」

 

理奈さんが私にぴったりとくっついて富永さんにそう言った。

 

「お?そうか?怖いか?汚いし古いなぁとは思うけどなぁ。そうかぁ?」

 

「いや、めっちゃ嫌な感じしますよ。ねぇ…有里さん。」

 

奈々ちゃんも私にぴったりとくっついてそう言った。

 

「…富永さん…ここ、結構ヤバいですよ。多分他の住人も変な人多いと思いますよ。」

 

私の肩の痛みはマックスになっていた。

さっきからぞわぞわと鳥肌が立ち続けている。

 

「おー…そうかぁ。なんかいるか?」

 

いや、なんかいるとかの話じゃないって。

 

「まぁ…すごいっすね…」

 

とにかくその“場”がひどかった。

よくこんなところにアパート建てたなぁと言いたくなる。

 

「とりあえず荷物とりにいかなあかんから、中も見てくれ。」

 

富永さんが私たちを促す。

 

「あ、これ持ってて。」

 

私はあらかじめ紙で包んでおいた塩をみんなに渡した。

 

「どこかポケットとかに入れておいたらええから。」

 

「はい。わかりました。」

 

「わかった。わー…どないしょう。怖いわぁ…」

 

出発するまではしゃいでいた理奈さんが怖気づいている。

無理もない。

この雰囲気じゃしょうがない。

 

「どうする?ここで待ってる?」

 

怖がっている理奈さんに私が聞いた。

 

「えーーー!!1人で待ってる方が嫌やわぁ!行く行く!」

 

理奈さんは私の腕に捕まってついてきた。

奈々ちゃんも私の後ろにぴったりとくっついている。

 

「そんなに怖いなら来んでよかったのになぁ。理奈は関係ないやろー。」

 

富永さんが呆れている。

 

「だってぇ。面白そうやったからぁー。あー!来なきゃよかった!」

 

理奈さんが後悔している。

 

「すいません…私の為に…」

 

それを見て奈々ちゃんが恐縮し始めた。

 

「ちょっと!今そんなこと言ってる場合やないでしょ!もう笑っちゃおう!わはははは!怖いー!わははは!」

 

近所迷惑にならない程度の声で私は笑った。

こういう時怖さにやられてしまうのも奴らの思うツボだから。

 

「はい!笑って!わははは!」

 

「えー?!笑うん?わは…わは…あははは!」

 

「あは…あは…あはははは!」

 

最初は無理やり笑っていた理奈さんと奈々ちゃんが本気で笑いはじめた。

 

「あはははは!私らなにやってるんやろ?!おもろい!あははは!」

 

「あはははは!なんかおかしくなってきた!あははは。」

 

こういう時は笑っちゃうのが一番いい。

経験上そう思う。

 

「そうそう!その調子!わはははは!じゃ行くよー!」

 

「おう。」

 

アパートの一階の角部屋。

そこが店の寮だった。

 

富永さんがガチャっとドアを開ける。

 

真っ暗な部屋。

 

「うっ…」

 

すごくカビ臭い。

そして空気がジメジメとしている。

 

「今電気つけるからな。」

 

富永さんが玄関のスイッチを入れた。

 

「うわぁ…」

 

電気を点けても暗い部屋の中。

玄関を入ると右手に小さなキッチンがあり、小さな冷蔵庫が置いてある。

左手にはお風呂場であろうドアがあり、その横にはトイレのドア。

そのトイレのドアがちょっとだけ開いている。

 

その奥には和室の8畳一間の部屋があった。

 

明らかに奈々ちゃんのものではないごちゃごちゃした荷物がたくさん置いてある。

押し入れの襖はボロボロで、窓にはカーテンもなく段ボールが貼ってあった。

 

「…これは…ヤバイな…」

 

小さく呟く。

 

「いやぁ…汚ったないなぁ…」

「そうなんですよ。汚いし臭いですよね。」

 

理奈さんと奈々ちゃんが私の後ろで言い合っている。

 

「こんなにひどかったかのぉ。奈々が入る前に上田に掃除を頼んだんやけどなぁ。」

 

富永さんがすっとぼけた様子でブツブツ言っている。

 

いや…掃除うんぬんの話しじゃないと思うけど。

 

「富永さん、奈々ちゃんの荷物ってこれだけやん?他のこのごちゃごちゃはなんなん?」

 

ぐちゃぐちゃに丸められた服がたくさん。

よれよれになった本数冊。

ボロボロの携帯電話。

何かを書き綴っているノート。

 

「多分いままで寮を使ってた子ぉの忘れもんやろなぁ。」

 

「私も処分していいかわからなくてそのままにしてたんですよ。」

 

…うーん…かなりすごいな…

 

「有里さんちょっとトイレ見て下さいよ!」

 

奈々ちゃんが私にそう言いながらトイレに連れて行く。

 

「ほら!すごくないですか?」

 

「うわ…」

 

トイレがとにかく汚かった。

電機は点かないし便座はよくわからない黒い汚れがたくさんついている。

トイレマットは元々黄色だったのがかろうじてわかるくらいのもので、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

「もーここがほんとに嫌で…」

 

その言葉を聞いている時、私は「ヤバい…」と感じていた。

 

長居しすぎている。

早くここから出なくては。

 

強い危機感に襲われる。

 

その時。

 

 

ビシッ!!

 

 

大きな音が鳴り響いた。

 

「うわ!!」

 

理奈さんがその音に驚く。

 

「あ…これです。この音。」

 

奈々ちゃんが私に言う。

 

「家鳴りか?でかいなぁ。」

 

富永さんが呑気に呟く。

 

「…ヤバいね。早く行こう。一応身体に塩かけて。」

 

私は持ってきていた塩を自分の身体にふりまいた。

 

何かが私たちをとりまいている。

暗い何かが私たちを追い込んできているように感じる。

 

「早く出よう。まずいよ。」

 

私の肩の痛みはガマンできないくらいになっていた。

 

 

ビシッ!!

 

もう一度大きな音がして窓がガタガタと鳴った。

 

 

「奈々、荷物これだけでええんか?」

「はい!これだけです。」

「はよしよう。」

 

「笑って!わははははは!」

「あ、そうやった!わは…わは…わはははは!」

「わははははは!」

 

私たちは無理やり笑い、急いで部屋を出た。

 

走って車に戻り「早く出して!」と私は言った。

 

「おお!」

 

富永さんは訳もわからないまま車を発進させた。

 

「ふぅーー!!笑っててー!」

 

私は理奈さんと奈々ちゃんに指示を出した。

 

「あははははは!」

「あっははははは!」

 

後部座席で2人が笑っている。

 

「ふうーーー!!」

 

私はなんとか自分を取り戻そうと深呼吸を続けていた。

その様子を富永さんが心配そうに見ている。

 

「有里。大丈夫か?」

 

「ふーーー!!…はい。ヤバかったです…なるべく早く遠ざかって下さい。」

 

「おう。」

 

富永さんは私の様子を見て素直に従った。

 

「有里ちゃん、もう笑わんでええ?」

 

理奈さんが私の両肩をさすりながら聞いた。

 

「あー…うん。もうええよ。はぁー…怖かったぁ…」

 

ほんとに怖かった。

そしてヤバかった。

 

見えた奴らの数が尋常じゃなくて途中から目を伏せてしまったくらいだ。

だんだん近づいてくる存在に久々に恐怖を感じた。

 

「どうやった?」

 

富永さんが小さく聞いた。

 

「いや…あれはマズいです。すぐに解約したほうがいいし、できるなら掃除にもいかないほうがいいです。」

 

思い出すだけで怖い。

 

「そうかぁ…。困ったのぉ。」

 

富永さんが呟く。

何に困ってるのかしらないけど、困ってる場合じゃない。

 

「怖かったなぁ…今日1人で家に帰るの嫌やわぁ…私も店に泊まってもいい?」

 

理奈さんが富永さんに聞いた。

 

「あ!私もそうしてくれると嬉しいです!」

 

奈々ちゃんが嬉しそうにそう言った。

 

「おー別にええで。ただ布団が一組しかないけどな。」

 

「別にええわ。炬燵で寝るし。有里ちゃんも一緒に控室に泊まろうやぁ。」

 

理奈さんが私のことも誘って来た。

 

それもいいかもしれない。

コバくんには後でTELしよう。

 

「あー…それいいなぁ。そうしよう。富永さん、私もいい?」

 

「おーそれは別にかまわんで。」

 

「やったー!じゃコンビニ寄って!お酒買って帰ろうー!なんか旅行みたいやなぁ!」

 

さっきまで小さくなっていた理奈さんが喜んでいる。

 

「わー!なんか楽しくなってきたー!」

 

さっきまで怖がって泣きそうになっていた奈々ちゃんが嬉しそうにしている。

 

「今日はキャーキャー言いながら話そうー!」

 

私もさっきまでの雰囲気を打破しようと話しに乗った。

 

 

『シャトークイーンの幽霊寮探検』からいつの間にか『お店の控室でお泊りの会』に変わっていて笑ってしまった。

 

 

さっきとはうって変わって楽しい雰囲気の車内になった。

そのお陰で奴らがついてくることもなく私は安堵の息を吐いた。

 

 

もうあそこには二度と行かないぞ。

 

 

そう決意するくらいそこは怖い場所だった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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141 - 私のコト

 

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