私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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私と理奈さんはその日の仕事を終え、ふく田に向かった。

 

「久しぶりやなぁ!有里ちゃんと飲むの。」

 

タクシーの中で理奈さんがニコニコしながらそう言った。

 

実際コバくんと一緒に暮らし始めてから飲みに行く回数が激減していた。

いつも早く帰ってあげなきゃ!と思っていたから。

理奈さんにはなんとなくコバくんのことを話してある。

 

「コバくんとは仲よぉやってるん?有里ちゃん、ぜんぜん私と遊んでくれへんもんなぁー!」

 

理奈さんが意地悪な顔をしてそんなことを言った。

 

「まぁ仲よぉやってるよ。理奈さんやていつも忙しそうやないのぉー!」

 

「私は忙しくないでー。いつも一人淋しく家に帰るだけや。うぅ…淋しいわぁ…」

 

理奈さんはニヤニヤしながら泣きまねをしていた。

 

「なんやのそれ!あははは。」

 

理奈さんはここ数年彼氏がいないと言っていた。

理奈さんを彼女にするのは大変だろうなぁと思う。

ソープ嬢が天職だという女性を彼女にするってなかなかのことなんじゃないか。

 

「有里ちゃん、なんか話したいことがあるんやろ?」

 

理奈さんが笑いながらこっちを見た。

 

「あー…まぁいろいろと。とりあえず飲んでからにしよう!」

 

「そうやな。なんか有里ちゃんがイライラしてるなぁと思ってたんや。そやろ?」

 

…おぉ…

こういうところなんだよなぁ。

かなわないなぁと思うのは。

 

「…あはは…バレないようにしてたんやけどなぁ。理奈さんにはかなわんわぁ。」

 

「やっぱりなぁ。そのイライラの理由もなんとなくわかるけどな。あはは。」

 

「ほんまに?!…かなわんなぁ。」

 

理奈さんは私が今日ここに誘った理由がわかっているようだった。

 

 

久しぶりのふく田。

相変わらず上品な凛とした佇まいの入口を見てなんだかホッとする。

さっきまで私がいた雄琴村とはまるで違う、静かな雰囲気を醸し出している。

 

藍染めの暖簾をくぐり、カラカラと引き戸を開ける。

 

「いらっしゃいませー!」

 

白木の綺麗なカウンターの中から店長さんがにこやかに迎えてくれる。

 

「あらー!有里ちゃん!久しぶりやなぁー!淋しかったわぁー!」

 

上品な話し口調の店長さんのその言葉に自然に笑顔になる。

 

「あはは。すんません。久しぶりになってしまいましたねぇ。」

 

「いやぁー嬉しいなぁー!相変わらず観音様みたいやなぁー。」

 

出た。

その言葉も久しぶりだった。

 

「久しぶりやろ?私はこないだ来たばっかりやからな。有里ちゃん来て嬉しそうやなぁー!」

 

理奈さんがそう言いながらカウンターのいつもの席に座る。

 

「そりゃ嬉しいわー!もちろん理奈ちゃんが来てくれるのも嬉しいんやで。」

 

「はいはい。店長さんが有里ちゃんの好きなの知ってるからそんなん言わんでええよー。あはは。」

 

「いやぁー!理奈ちゃんも大好きやでぇ。あはは。」

 

理奈さんと店長さんのやり取りを聞いてなんだか嬉しくなる。

 

やっぱりここはいいなぁ…

 

私もカウンターのいつもの席に座る。

カウンターの一番端っこは富永さんのために開けておく。

 

誰がそう言ったわけでもないのに、いつの間にか自然に理奈さんもいつもの席に座り、私もカウンターの端から二番目に腰かける。

 

なんだかそんな他愛もないことが嬉しく感じる。

 

「じゃ有里ちゃん。お疲れさまー!」

 

「お疲れさまでーす!」

 

運ばれてきたビールで乾杯をする。

ゴクゴクとビールを飲み干し、理奈さんが口を開く。

 

「で?どないなん?」

 

理奈さんはさっそく椅子に横向きに座り始めた。

いつも理奈さんは酔っぱらってくると横向きに座り、私の方を身体ごと向いて話しをする。

それが今日はさっそくその姿勢になっていた。

 

「理奈さん!早くない?その姿勢!あはは。」

 

「そやな!あははは!で?どないなん?」

 

「うん…あのさ…」

 

私は新しく入ってきたあきらさんと乙葉さんのことをなんとなくどう感じているかを話した。

特に話したかったことはあきらさんと杏理さんのこと。

 

ビールを飲みながらつらつらと話す私の言葉に理奈さんは絶妙な相槌をいれる。

 

 

「うん。うん。そうなんや。それで?うん。えー!そんな感じなん?そうかぁ。それで?…」

 

理奈さんがずっとフラットな状態で話しを聞いてくれている安心感からか、私はどんどん話してしまう。

 

「…そんでなんかちょっと嫌な感じがしてな。控室でコソコソ話してる感じも嫌でな…富永さんとか店の悪口を言ってるみたいな感じだし、なんかなぁ…」

 

話していると自分の気持ちが整理されていく。

何が嫌で何が気になるのか。

 

「私は富永さんもあの店もすごく好きやし、すごく感謝してるんや。だから目に前でそんな話しされたくないし、それに同意してそうな杏理さんの姿を見るのも嫌なんや。

控室の居心地が悪いって嫌やんか…」

 

理奈さんは私の話に頷きながら「そうやんなぁ」と呟いた。

 

「私もなんとなく気付いてたで。それに有里ちゃんが控室にいない時、私が寝てると思って杏理ちゃんとあきらちゃんが話してるの聞いてしまったんやけどな…」

 

「え?なになに?」

 

理奈さんが真剣な顔で口を開く。

 

「…私と有里ちゃんは富永さんに可愛がられて特別扱い受けてるって言うててな。」

 

え?!

は?

なにそれ?!

 

「え?!それは杏理さんが言うてたん?あきらさんが?」

 

「…うーんと、最初はあきらちゃんが言うてたんやけど、杏理ちゃんも『そうやねん』ってめっちゃ同意してたで。そんなことないのになぁ…。」

 

なんだそれ…

私と理奈さんが富永さんに特別扱いを受けてる?

なんだ?それ。

 

「…どういうことなん?なに?それ。」

 

「なぁ。杏理ちゃんまでそんなこと思ってたのかと思うとなんや淋しいやんなぁ。」

 

なんだか腹が立ってきた。

あきらさんがなんでそんなことを言うのか全く分からない。

富永さんは誰かを贔屓するような人じゃない。

そしてあきらさんの話しに杏理さんも同意しているようで悲しくなる。

 

 

その時引き戸がカラカラと開く音がした。

 

「おつかれさーん。」

 

振り返ると富永さんが片手を上げて入ってきた。

 

「お疲れさまでーす!」

「お疲れさまー!」

 

理奈さんと二人でペコっと頭を下げる。

 

「おー有里。久しぶりやないの?ふく田にくるん。」

 

富永さんがそう言いながらいつもの席に腰かけた。

 

「はい。めっちゃ久しぶりです。」

 

「理奈はこないだ一緒に飲んだやんな。」

 

「うん。飲んだな。」

 

「なんや?なんか相談事か?」

 

富永さんが運ばれてきたビールを飲みながら私に聞いた。

 

「まぁ…そんな感じです。今日は富永さんとも話したくて。」

 

「おう。そうか。あれやろ?あきらと乙葉のことやろ?」

 

富永さんはチラッとこっちを見ながら言った。

 

「あー…わかってたんですねぇ。」

 

「まぁわしも2人とは話したかったんじゃ。まぁゆっくり話そうや。」

 

私と理奈さんは富永さんにさっきまでの話しをした。

 

あきらさんと杏理さんが富永さんと店の悪口を控室で言っているようだということ。

理奈さんが聞いてしまった話し。

それに加えて乙葉さんの控室での様子も話した。

 

富永さんは「おう。うん。」と静かに頷きながら私たちの話しを聞いていた。

そして「もうあれやな。」と口を開いた。

 

「…あきらはあかんな。そうなんやないかと思ってたんやけどな。あれはアホじゃ。あかんわ。」

 

富永さんはカウンターに両腕をついてあきれた様子でそう言った。

 

「あいつはどこの店でも何かしらのトラブルを起こしてるんや。自分が一番店で可愛がってもらわんと気が済まんのや。だから最初はすごかったで。わしへのゴマすりがな。」

 

あきらさんはどこの店でも店長と自分が一番仲良くならないと気が済まないらしい。

その為に富永さんにかなりすり寄ってきたと言った。

 

「わしはそういうの好かんし、誰と一番仲良くするもなにもないやろ?わしは一番長くここにいてくれている理奈を信頼してるし、あんなに女の子が少ない時に『頑張ります!』って言うて店に入ってくれて頑張ってくれてる有里を応援するに決まってるやろ。そやからすり寄って来るあきらになびかんかったんじゃ。そしたらこれじゃ。」

 

あきらさんは富永さんにかなり話しかけていったらしい。

そしてなんならカラダも差し出すくらいの感じを出してきたんだと冨永さんは言った。

 

「えぇ?!それほんまなん?!」

 

「はぁ?!なんじゃそれ?!」

 

理奈さんと私は顔を見合わせながら驚いた。

 

「まぁ…ここだけの話しやで。何度も飲みに誘われたしな。夜は一緒に寝たらええやんかーって言うてたわ。」

 

…富永さんを誘惑する?…

お腹がでっぷり出た50代のおっさんだよ…

そりゃいい人だしなかなか面白い人だし頼りになるとは思うけど…

 

新しい店で自分の立場を確立するために店長に言い寄るってことでしょ?

 

…なんじゃそれ…

 

「富永さん全然なびかへんかったん?ちょっとヤっちゃおうかなーとか思わへんかったん?」

 

理奈さんがニヤニヤしながら富永さんに聞いた。

 

「思うわけないやろー!おかしなこと言うたらあかんわー。わしがそんなことに引っかかるわけないじゃろが。」

 

富永さんは焼酎の水割りをゴクッと飲みながら淡々と答えた。

 

「あははは。そりゃよかったわ。」

 

「…でもそれが原因で控室で悪口言い始めたってことですか?」

 

私は富永さんの話しが信じられなかった。

そんなことをする女性がいるっていうことが信じられなかった。

 

「そうや。そういうヤツなんや。今杏理とつるんでるやろ?杏理を巻き込みはじめたなぁ。杏理もアホやなぁ。ほんまに…」

 

富永さんはちょっと淋しそうな顔をしてそう呟いた。

 

「…どうするんですか?」

 

私は杏理さんがどうなってしまうのかが心配だった。

きっとあきらさんの口車に乗ってしまっているだけだと思うから。

いや、そう思いたいから。

 

「…まぁこれ以上なんやエスカレートするんやったら辞めてもらうで。そりゃ客も呼んでくれるし店の売り上げ的には助かるんやけどな。でもそんなことより大切なことがあるやろ?店の雰囲気を壊すようなら辞めてもらうわ。杏理にもそのうち話しせなあかんやろな。」

 

これ以上エスカレートするって…

なにがどうなったら辞めてもらうんだろう。

 

「…そうですかぁ。あ、あと乙葉さんのことなんですけど…あれ…大丈夫なんですかね?あんまり控室にいることないですけど、たまに見るとめちゃくちゃ体調悪そうにしてますよ。ねぇ?」

 

「そうやんな。いつも顔色悪いし控室ではぐったりしてるなぁ。まぁあれだけ仕事してたらそうなるわなぁ…。乙葉ちゃんどっか悪いん?」

 

私たちの質問に富永さんは下を向いたまま呟くようにこう答えた。

 

「まぁ…あいつも病気やからな。いつも薬飲んでるんや。」

 

え?

薬?!

 

「どこが悪いん?」

 

理奈さんが驚いて富永さんに聞いた。

 

精神安定剤や。鬱らしいで。薬でなんとか持たせてるんや。」

 

…鬱…

なのにあんなに仕事してるって…

 

「仕事してないと不安で余計あかんのやろな。ぶっ倒れるまで仕事して、で辞めて休んで、また復帰して…その繰り返しや。いつも一生懸命やからお客さんも途切れんやろ?病気やから必死で、そやから人気が出て…てなぁ。皮肉なもんじゃ。」

 

あー…

それは…

 

なんだか乙葉さんの話しを聞いて胸が痛んだ。

だから毎晩誰かと飲んでなきゃやってられないんだ。

 

「弟の学費とお母さんの医療費をあいつが全部賄ってるらしいで。お父さんはおらん言うてたしな。もう必死やろな。」

 

うわぁ…

それは…なんだか…

 

私の脳裏に『生き地獄』という言葉が浮かんだ。

 

「働くやろ?もう辞められんのやろなぁ。でも気ぃつけてないといつ倒れるかわからんからな。」

 

富永さんは下を向いたままぼそぼそとそう言った。

 

 

私と理奈さんは「そうやんなぁ…」と小さな声で言いながらお酒を口に運んでいた。

 

 

あきらさんと乙葉さん。

全く違う個性と背景をもった2人。

でも同じところがあるんだと感じる。

 

2人とも淋しくてやるせないんだな…

 

そんなことを思っていた。

 

 

つづく。

 

 

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