私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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旅行から帰ってきてからのコバくんと私はますます同棲生活が板についてきたような感じになった。

コバくんの「大好きだよ攻撃」は毎日続き、時折真剣に『愛してる』という言葉すら出てきている。

コバくんはたまに私からキスをしたりするとすぐにフニャフニャの顔をして「えへへ。やったー」と大喜びしていた。

 

傍から見たらラブラブの2人に見えるんだろうなぁ…。

 

いつもそんなことを思っていた。

そして私は『大好き』ってなんだろう?と思っていた。

 

『大好き』も『楽しい』もわからない。

コバくんの「ずっと一緒にいような」の気持ちもわからない。

『ずっと一緒にいたい』と思う感情がわからない。

 

自分の毎日で精一杯の私。

『ずっと』があるかどうかもわからないし、ましてや『愛してる』なんて、『愛』なんてまったくわからない。

 

わからないくせに「うん」と返事をしている自分が嫌でたまらない。

「私も大好きやで」と返すたびに私は自分を罰していた。

 

嘘つき。

偽善者。

やっぱり私は私が嫌いだ。

 

 

私とコバくんは表面的には平和でラブラブな同棲生活をしていた。

私の中身は相変わらずめちゃくちゃだったけど。

 

 

そんなある日。

 

出勤すると冨永さんが「有里。ちょっとええか?」と呼びにきた。

まだ控室には誰も来ていない。

 

「え?あ、はい。」

 

私は富永さんと一緒にフロントの中に入った。

 

「どうしたんですか?」

 

私がそう聞くと、富永さんは「はぁ」と小さな溜息をついた。

 

「…昨日な、さつきが店に来んでな。」

 

「え?無断欠勤ですか?」

 

「おう。」

 

「えー…そうなんですかぁ…」

 

「今日も連絡したんやけど携帯がつながらへんでなぁ。有里、なんか知らんか?」

 

 

さつきさんはあれからどんどん指名が増えていた。

『貸し切り』をする彼も回数が頻繁になっていた。

つい先日、私とさつきさんが控室で2人になった時、こんなことを言っていた。

 

「彼がな…店やめて欲しい言うねん。」

 

“彼”とは『貸し切りの彼』のことだ。

 

 

 

私たちは(私たちとは理奈さんと杏理さんと私のことだ)さつきさんが控室にいる時、よく「貸し切りの人、大丈夫なん?」と聞いていた。

 

さつきさんは「え?…えへへ…」と戸惑った顔をしながら「…それが…」と遠慮がちにぽつぽつと話しをしてくれた。

 

 

「店に帰る時間が近づくと拗ねるんや…」

 

引きつった顔でさつきさんはそう言った。

 

その話しを聞いて杏理さんは「ほらぁ…。私が言うてた通りやったやろ?」と私と理奈さんに言った。

 

「店に『もうすぐ帰ります』の連絡を入れる時も大変で、一回携帯隠されたことあんねん…」

 

さつきさんはますます引きつった顔でそんなことを言っていた。

 

「えへへ。でもね、いい人なんよ。優しいしなぁ。」

 

その後すぐに小さな声でフォローを入れていたけど。

 

「付き合ってくれって言われへん?」

 

杏理さんが突っ込んで話しを聞く。

 

「え?…えへへ。言われました…」

 

さつきさんがうつむきながら答える。

 

「で?さつきちゃんはどう思ってるん?」

 

杏理さんは冷めた目でさつきさんに質問を続けていた。

 

「え…え…と、それはないかなぁ…と思ってます。」

 

「ふーん…そうなんや。気ぃつけなあかんで。貸し切りってなかなかのことやねんで。何かあった時、誰も助けてくれへんのやから。」

 

杏理さんは冷たい口調でさつきさんを諭していた。

杏理さんなりの優しさなんだと思うけど、口調が冷たすぎてさつきさんは若干怖がっているように見えた。

 

「さつきちゃん。もし貸し切りが嫌なら断ってもええんやからね。お店に来て欲しいって言えばいいんやからな。」

 

理奈さんが優しくアドバイスをする。

 

「あ…はい。そう…ですよね…」

 

曖昧な返事。

挙動不審な動き。

 

私はそれを見てなんとなく嫌な感じがした。

 

「さつきさんはどうしたいんですか?貸し切りの時間は嫌じゃないんですか?」

 

私はさつきさんの意思がわからなくて聞いてみた。

 

「え…いや…うーん…出かけるのは楽しい…んや。でも…あの…うーん…」

 

やっぱり煮え切らない。

 

私たちはさつきさんのその様子をみて、なんとなくモヤモヤした気持ちになって話しを終える。

 

そんなことが何回か繰り返されたある日、控室に2人になった時さっきの言葉をさつきさんが私に言った。

 

 

「彼がな…店やめて欲しい言うねん…」

 

私は「やっぱりきたか」と思っていた。

私と2人の時にその話しをし始めたということは、私に聞いてほしいということなのかもしれないと思った。

 

「うん。それで?さつきさんはどうしたいん?」

 

私は姿勢を正して話しを真剣に聞く体勢をとった。

 

「え…うん…どないしようかと思って…」

 

もじもじと俯いて小さな声でさつきさんは言った。

 

「彼はさつきさんが前の旦那さんから逃げてきたことは知ってるん?」

 

さつきさんは暴力をふるう旦那さんから逃げ出してここに来た。

そして特に借金があるわけでもなく、なんとなくこの仕事に流れ着いてきた人だった。

 

「え?…うん…知ってる…全部話してるから…だからそれを聞いて…あの…結婚しよう…って…」

 

え?

え?

えーーーー?!

 

「け、結婚?!結婚しようって?!」

 

まさかそこまでとは…

 

「…うん…指輪まで用意してて…」

 

ゆ…指輪まで…

 

「それで?!さつきさん、どうしたいん?」

 

もう一度聞いてみた。

 

「うん…どうしたらええと思う?有里ちゃん。」

 

は?

私に聞いたってわかるわけないやろーー!!

 

「…好きなん?その人のこと。」

 

『好き』がわからない私がする質問でしょうか?

 

「…う…ん…好き…やと思う…」

 

ほんと?

ほんとに?

好きってなんなの?

 

「…そうなんや…ずっと一緒にいたいー!とか思う?」

 

それがわからない私が聞くことでしょうか?

 

「う…ん。一緒にいたら楽しいし…安心するねん…」

 

安心…

安心と好きは同じなのかな。

 

楽しい?

…さつきさんはその人といたら楽しいんだ…

 

「そうかぁ…。でもそこまで言ってくれるなんてすごいなぁ…。今さつきさんが一緒にいたいならそうすればいいんやないかなぁ。先のことなんてわからへんのやし。」

 

私にはなんて言ったらいいかわからない。

さつきさんが楽しいならそれでいいし、一緒にいたいと思うならそうすればいいんだと思った。

 

「う…ん…そうやな…そう…なんやけどなぁ…」

 

さつきさんは伏し目がちに目を泳がせながらそう言った。

 

「有里ちゃんならどうする…?」

 

パッと目を上げて私に聞くさつきさん。

首をかしげての上目遣いが悔しいけど可愛い。

 

「えー…うん…と…そうやなぁ…」

 

なんとなくとコバくんと同棲生活をしている私には何も言えない。

ほんとは「自分でこの仕事をするって決めたんだから納得するまではやると思うで!」と強く言いたい気持ちがあるのに。

 

「わからんなぁ…。状況にもよるやんなぁ…。」

 

ほんとはこの仕事を辞めてくれなんていう男は好きじゃない。

そしてその男の言うなりになる女も好きじゃないし、それで幸せになれるなんて到底思えない。

でも私にはそんなことを語る資格なんてないし、言うつもりもなかった。

 

「そう…やんなぁ…はぁ…どないしよう」

 

さつきさんは「はぁー…」と言いながら天井を仰ぎ見た。

 

 

…ほんとに悩んでるのかな…

 

そのさつきさんの様子を見て、私はそんな風に感じていた。

きっともう決めてるんだろうな。

誰かに同意して欲しいだけなんだろうな。

 

 

「さつきさんの良いようにしたらええよ。どうなっていくかなんて誰にもわかれへんのやから。」

 

私は真剣にそう伝えた。

ほんとのことだ。

 

きっとさつきさんがかけて欲しかった言葉じゃないんだろうけど。

 

 

 

 「…貸し切りのお客さんから『辞めて欲しい』って言われてたみたいですよ。」

 

私は富永さんにそう伝えた。

嘘をつくのも違うと思ったし、黙ってるのも違うと思ったから。

 

「やっぱりそうか…。かなり貸し切りが頻繁やったからそうなるんやないかと思ってはいたんやけどなぁ。そうか。うん。…やられたなぁ…。」

 

「あ、でもまだわからないですよね?今日は来るかもしれないし。昨日だけですよね?無断欠勤。」

 

「そうや。でもな、さっきさつきの部屋まで行ってみたんや。わしが用意した場所やからな。わしが保証人やし。そうしたらもうカーテンもなんもなくなってたんじゃ。

ありゃ飛んだな。まいったのぉ。」

 

富永さんはフロントの椅子に腰かけてうなだれていた。

 

「そうなんですかぁ…。」

 

 

 

控室に行くと杏理さんが座椅子に座っていた。

 

「有里ちゃん。さつきちゃんの話し聞いた?」

 

杏理さんが冷めた顔で私に聞いた。

 

「うん。聞いた。…飛んだって?」

 

「やっぱりなぁ…。変な男やないとええんやけどな。」

 

「そうやねぇ。また暴力とか振るわれないとええなぁ。」

 

「…そうやね。」

 

なんだか複雑な気持ちだった。

私も杏理さんも「ふぅ…」と小さく溜息をついて、2人で顔を見合わせた。

 

「…あはは。なんで私たちが落ち込んでるんやろ?」

 

杏理さんが冷めた笑い声をあげて言う。

 

「…ほんまですねぇ。あはは。」

 

そしてまた2人で「ふぅ…」と小さく溜息をついた。

 

 

 

さつきさんはそれ以降店に一回も来ていない。

そしてどこにいるのかもわからないままだった。

 

 

つづく。

 

 

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