私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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中島さんの次の指名のお客さんはもう何度も来てくれている優しいおじさんだった。

 

そのおじさんはいつも差し入れを持って恥ずかしそうに挨拶をする。

その姿を見た時、ちょっと泣きそうになった。

 

「有里ちゃんに会うの、いつも楽しみにしてるんや。ほんまはもっと来たいねんけどなぁ。これくらいしか来られへんのやぁ。もっと応援したいんやけどなぁ。」

 

おじさんのそんな言葉を聞いて、私はなんとか自分を立て直すことができた。

そしてそのおじさんがいつにも増して愛しく感じた。

 

おじさんとの90分間はそれはそれは楽しい時間だった。

 

椅子もマットも喜んでくれる。

SEXも優しい。

そしてそれ以外の時間も会話が弾む。

 

…これだよ…これ…

 

おじさんとの時間はあっという間だった。

お金を頂く時も感謝の想いがひしひしと湧く。

 

「ありがとうございます!」

 

私が頭を下げてお礼を言うと、おじさんは「こちらこそ。ありがとう。」と優しい笑顔で返した。

 

また泣きそうになった。

 

「さー!有里ちゃんのお陰でまた頑張れるわぁ!」

 

部屋を出る時におじさんが伸びをしながらそんなことをサラッと言った。

そんなことをサラッと言えるこのおじさんを心底「すごい」と思った。

 

 

出勤してから6時間以上経っていた。

控室に行ったのは出勤した時だけだ。

 

「…やっと休める…」

 

そう呟きながら控室のドアを開ける。

 

「上がりましたー。」

 

「お上がりー!」

「有里ちゃん久しぶりに顔見たわー」

 

控室には理奈さんと杏理さんが座っていた。

2人の姿を見てホッとしている自分がいる。

 

「長いこと入ってたん?今日会うの初めてやんな?」

 

理奈さんがニコニコした顔で私に聞いた。

 

なんか…安心するなぁ…

 

理奈さんの顔をジッと見る。

 

「え?なによ?どうしたん?気持ち悪いわぁー。」

 

返事をしないで顔をジッと見られたらそりゃ気持ち悪いよね。

 

「え?あはは。ごめんごめん。あんまり可愛らしい顔してるから。」

 

「なんやの?!有里ちゃんがおかしなったで!どないしたん?」

 

「あははは。おかしなってないわ!ほんまのこと言うたんやで。」

 

 

「あはは」と二人で笑い合う。

その向かいで「何言うてんの。」とチラッとこっちをみて話しにちょっとだけ加わる杏理さん。

 

やっぱ…ここいいわぁ…

 

さっきのおじさんにだいぶ癒されたけど、やっぱりまだ何か引っかかりのようなものが心の中に残っていた。

その引っかかりがすーっと取れていくのがわかる。

 

 

「あれ?さつきさんは?お客さん?」

 

今日出勤のはずのさつきさんがいない。

そのことにふと気づき、杏理さんに聞いた。

 

「さつきちゃんな、今日も貸し切りやで。」

 

「そうやって。同じ人やて。すごいなぁ。」

 

理奈さんが無邪気にそう言った。

 

 

また貸し切り…

 

前に貸し切りをしてからまだそんなに日が経っていない。

 

「こういうの危ないんやで。」

 

杏理さんがポソっと呟いた。

 

「危ない?なんでです?」

 

「なになに?なんで危ないん?」

 

私と理奈さんは身を乗り出して杏理さんに聞いた。

 

「外出している時にそのお客さんから『お金今度まで待ってくれ』って言われた子ぉおってん。お店に内緒でって言われたんやて。でもそんなん出来ん言うたらすんごい遠くまで連れていかれてな。監禁されそうになったらしいで。その子は隙を見て逃げてきたから無事やったんやけどな。」

 

「えぇ?!なにそれ!!それ捕まるやつやろ?捕まったん?」

 

理奈さんが目をまん丸にしながらそう言った。

 

「いや、捕まってへんよ。前にいた店での話しやねんけど、その店割と女の子に冷たくてな。『最初に確認しなかったお前が悪い。逃げられたんやからよかったやんか。』とか言われて終わってしまったらしいで。」

 

「えーー!!なんやそれ!!」

「なんですか?!それ?!」

 

なんじゃそれは?!

その店なんじゃ?!

 

「そんな店いっぱいあるで。そやから、貸し切りを受けるかどうかは店だけが決めることやないってことやな。受け入れたていうこっち側の覚悟も必要ってことやんな。」

 

うーん…

でもそのお客さんがいい人そうだったら受けてしまうだろうし、お店側もOKを出したなら大丈夫かも…と思ってしまうだろう。

 

ただ店以外で2人きりになる、しかも車だったりするんだからそれなりの覚悟はしなければいけないのかもしれない。

 

「あと心配なのはアレやな。」

 

杏理さんが話しを続けた。

 

「え?なに?!アレてなんや?」

 

理奈さんが聞いた。

 

「まぁこれはお店側の心配やけどな。」

 

「うん。なに?」

 

「その男が店を辞めさせるかもしれへんってこと。」

 

おー…

そうか…

それはあるかも。

 

「貸し切りしてしまうくらいなんやから独り占めしたいんやろ?惚れてるんやろなぁ。付き合うことになったり、結婚しようって言い出したりはあると思うで。」

 

なるほど…

 

「そうですよねぇ…。それはあるやろなぁ…」

 

さつきさんなら十分ありえる。

男の人がほっとけない雰囲気を醸し出しているし、独り占めしたくなる女性だと思った。

 

「せやなぁ。さつきちゃんならそれはあるなぁ。」

 

「で、あの子その話しに乗ってしまいそうやろ?結構すぐ辞めてしまうかもなぁ。」

 

杏理さんが冷めた口調で座椅子にだらりと座りながらそう言った。

 

「なんか…あれやな。あんまり1人のお客さんと長く居たくないなぁ。なぁ?」

 

理奈さんが私に笑いながら話しをふった。

 

「そうやねん。長くて120分やなぁ…。」

 

中島さんとあんなに長い時間いた後でこの話し。

ほんとに実感する。

 

「90分がちょうどええわ。私お客さんに延長言われたら断るときあるねん。あははは。『あんまりお金使わんほうがええって。また次来てやぁ』て言うてな。あははは。」

 

…なんと…

 

私はあっけらかんとそう言った理奈さんにびっくりしていた。

 

…延長を断るって…

しかもお客さんに直接断るって…

 

すごい!!

 

私には延長を断るなんてことは思いつかなかった。

それに延長を頼まれて喜ばないソープ嬢なんていないと思ってたし。

 

「もちろん断らん時もいっぱいあるで。でも私のことよぉ知ってるお客さんは延長って言うてきぃひんもんなぁ。あははは。」

 

…余裕だな…

 

私と理奈さんの違いは余裕だ。

 

「私はよぉ断れんわ。理奈ちゃんさすがやなぁ。」

 

杏理さんが理奈さんの方を見ながらハスキーな声で言った。

 

うん。

ほんと。

私もそう思う。

 

なんとなく気持ちもほぐれてきていた私は、やっとさっきの中島さんのことを口にしてみようと思った。

 

「…あんな、さっきな…」

 

「うん?なになに?」

 

「なになに?」

 

理奈さんも杏理さんも私の話しに耳を傾けてくれる。

私はさっきの出来事をなるべくかいつまんで2人に話した。

 

中島さんの様子、言われたこと、やらされたこと、切り返し3回もされたこと…

 

大してショッキングなことをされたわけでもないし、見ようによっては楽なお客さんなのかもしれない。

でも私はすごく嫌だった。

その嫌な感じをどうしてもわかってほしくて、「それは辛かったねぇ」と言って欲しくて話していた。

 

きっとこの2人ならわかってくれるはず。

 

「…それでな、さっき片付けてるとき泣いてしまってなぁ。あはは…」

 

わかって欲しいと思いながらも作り笑いをしてしまう。

しんみりとは話したくない。

とってつけたような同情も嫌だ。

 

話し終えた時、少し後悔している自分がいた。

 

こんな話じゃきっとわかってくれない。

それに聞かされた方も「で?それで何が嫌やったん?」という感じに違いない。

 

…私、なんで話しちゃったんだろう…

 

そんなことを思っていた時。

理奈さんが私の方を驚いた顔で見ながらこう言った。

 

「有里ちゃん、よぉやったなぁ。偉いわー!嫌やったやろぉ?辛かったなぁ。」

 

「え…?」

 

続いて杏理さんが怖い顔で私の方を見て口を開いた。

 

「なんやそのおっさん!ムカつくわぁ。有里ちゃんが素直に聞くからそれを楽しんでたんやろ?困らせて楽しんでたんやろ?腹立つわぁ。有里ちゃんも素直に聞きすぎや!」

 

杏理さんは腹が立ちすぎて私にも怒っていた。

 

「まぁ素直に聞いてしまう気持ちもわかるしそれが有里ちゃんのええとこやねんけどな。」

 

と付け加えながら。

 

「…え…?」

 

私は2人の反応に驚き、また涙がこみ上げてきてしまった。

 

「…う…ごめん…泣いてしまうわ。」

 

頑張ってこらえているけどもう目から涙があふれてきている。

 

「よしよし。」

 

理奈さんが私の頭を撫でてくれた。

 

「有里ちゃんいつも弱音吐かへんし、いつもしっかりしてるやんか。たまにはこういう姿見せてくれるとなんか安心するわぁ。なぁ?杏理ちゃん。」

 

「うん。そやな。有里ちゃんいつも笑ってるもんなぁ。こうやって話してくれるとなんや安心するわ。有里ちゃんもそういう時あるんやなぁって。」

 

え…?

そうなの…?

私は私ほどへなちょこなヤツいないと思ってけど…

周りからはそう見えるんだ…

 

「え?…そうなん…?」

 

「そうやでー。だから泣いていいんやで。」

 

「うん。泣いたらええやん。」

 

2人の言葉がすごく嬉しかった。

 

「う…うぅ…うー」

 

堪えていた涙が溢れる。

 

「よしよし。よぉやったなぁ。」

 

理奈さんが頭と背中を撫でてくれている。

 

「そんなおっさんもう来んでええわ!酔っ払いは嫌や。」

 

杏理さんが私の代わりに怒ってくれている。

 

「うー…うぅー…」

 

この涙はなんだろう?

悔しい気持ちと悲しい気持ち。

そして嬉しい気持ちが混ざっている。

 

弱音…吐いてもいいんだ。

嫌だって思ってもいいんだ。

怒ってもいいんだ。

 

こうやって気持ちをわかろうとしてくれて、慰めてくれる人がいるんだ。

 

「…ありがとう…うぅー…」

 

私は2人の前でしばらく泣き続けていた。

そして理奈さんと杏理さんはちゃんと私に付き合ってくれていた。

 

「…ありがとう…なんか…ごめんね。」

 

「ごめんいらんて。」

 

「なんでごめんやねん。」

 

一言一言が優しくて私に刺さる。

 

 

また頑張れるなぁ…と感じていた。

 

 

 

つづく。

 

 

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125 - 私のコト

 

 

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