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中島さんが寝初めて20分が過ぎようとしている。
その間私は1人手持ち無沙汰な時間を過ごした。
隣でお客さんが大金をはたいて寝ている。
そろそろ起こそうかな…
大きな口を開けてグオグオと寝ている中島さんをチラッと見て「よし」と立ち上がる。
「あと30分くらいで時間終わっちゃいますけどー。おーい。どうしますかぁー?」
寝ている中島さんをゆさゆさと揺り起こす。
「んん?なんや?んー…?」
中島さんはそう言うとまたすぐにいびきをかき始めた。
「おーい。このまま寝てていいんですかー?」
とりあえずもう一回聞いてみる。
「ん?んー…?なんやぁ?」
「あと30分くらいで終わりますけどー。このまま寝てますかー?」
「ん…?なに…?あと30分?んー…じゃあもう一回90分…切り…返し?やったっけ?そうしといてくれー…」
きた。
きたか。
「あー…ごめんなさい。この後予約が入ってしまってもう切り返しできないんです。ごめんなさいー。」
富永さん、ありがとう。
「お…?なんやて?」
「次のー予約がー入ってしまったのでー切り返しできないんですぅー」
寝ぼけている中島さんにちょっと大きな声でそう言った。
「なんやぁ…そうかぁ。次の予約やめてしまえー。」
「え?そんなん出来ませんよぉ。どうします?まだ寝てます?」
目をつぶったままの中島さんにもう一度聞いた。
「んー…風呂ー…風呂入るわぁ…」
中島さんはそう言った後、またいびきをかいて寝てしまった。
「はーい。じゃお風呂ー入れ直しますねー」
暑いお湯をお風呂に張り、中島さんを再度起こす。
残り時間あと25分。
「起きて下さーい!お風呂入りましたよー!」
「ん…?んーー!…はぁー…」
中島さんは仰向けに寝たまま小さな伸びをした。
そしてゆっくりと起き上がった。
「ふわぁぁぁぁぁー。んーーー!」
大きなあくびと大きな伸び。
「ふう!…寝てしまったなぁ…。」
私の方をチラッと見て中島さんは言った。
「んふふ。寝てましたね。気持ちよさそうでした。」
「お前も寝たんか?」
「寝てませんよ。待ってました。」
「寝たらよかったんや。気持ちよかったでー。」
「寝れませんよー。」
「なんでや?」
「中島さんのいびきがうるさすぎて!」
「ぬははは。そうか。」
「そうですよー。あはは。お風呂入ります?ちょうどいい温度ですよ。」
「うー…ん。入るかぁ。」
「はい。」
私が立ち上がってお風呂の方に行こうとすると中島さんは両手を前にグッと突き出した。
「え?」
「ほら!立ち上がれへんから。ほら!」
…両手を引っ張って立ち上がらせろと?
「んーもう!はい!」
私は中島さんの両手を引っ張って立ち上がらせた。
「もうちょっと優しくやってくれやぁ。」
「もーわかりましたよぉ。」
フラフラと立ち上がった中島さんを支えるようにお風呂へ誘導してゆっくりとシャワーをかける。
酔っぱらっているから足の方からゆっくりとかけないと死んでしまうかもしれない、なんて思いながら。
「お風呂、入れます?」
まだ寝ぼけた顔でボーっとしている中島さんにそう聞くと、中島さんは「ん?うん」と小さく頷いた。
なんとかカラダを支えて浴槽に入ってもらう。
「うぁ~…あぁ…」
頭をガクンと後ろにもたれかけて呻く中島さん。
とても気持ちよさそうだった。
「気持ちええわぁ…。有里…やったな?こっちこい。」
…まだ名前曖昧ですか?
「はい」
中島さんは自分の背中の方に来いと私に言った。
「ここに入れ。」
「…はい」
私は言われるままに中島さんの背後に周り、後ろから中島さんを抱きしめるような体勢になった。
「あぁー…ええなぁ…」
中島さんは私の肩に頭を乗せ、全身でもたれかかった。
「お前…柔らかいなぁ…お腹ぷにぷにやないか。ぬははは。」
悪かったな。
気にしてること言うな。
「もう!そんなこと言わないでくださいよー!」
「ぬはは。ちょっと肩揉めや。」
「え?肩?こうですか?」
「あー…お前下手やな。もっとこっちや。」
「え?わかんないですよ。こうですか?」
「あー…まぁそんな感じやな。」
中島さんはワガママ放題だった。
私がそのワガママに戸惑いながら応じているのが面白いのか、ずっとニヤニヤしている。
私はその感じが嫌で嫌でたまらなかった。
ずっとバカにされているようですごく不快だった。
「…そろそろ時間です。出ないと。」
不快な気持ちをなんとか隠して中島さんを促す。
「ん?もうそんなか?」
「はい。もう出てカラダを拭かないと間に合わないですよ。」
「うん。わかった。はい。」
中島さんはまた両手を前に出して待っている。
「えー?…わかりましたよ。ちょっと待ってください。」
中島さんの背後から立ち上がり、前にまわって両手をつかむ。
「よいしょっと!」
ザバッと音を立てて中島さんが立ちあがった。
「ぬふふ。舐めて。」
立ち上がった中島さんが自分のしぼんだおちんちんを指差してそう言った。
このじじぃ…
一瞬ハラワタが煮えくり返るような感情が湧いた。
「え?!」
「はよぉ。舐めて。」
ニヤニヤしながらおちんちんを突き出す中島さん。
私は自分の感情をグッと抑えて浴槽にひざまづいた。
右手でしぼんだおちんちんを持ち、口に含む。
チラッと上目遣いで中島さんを見る。
ニヤニヤしている…
中島さんは右手で私の頭をそっと掴み、フェラチオの動きを誘導した。
口に含んだおちんちんは一向に大きくなる気配を見せない。
だんだん感情が無くなっていく。
さっきはハラワタが煮えくり返りそうだったのに、今は何も感じない。
おちんちん大きくならないなぁとか、もうすぐ時間なんだけどなぁとか、この後お茶出した方がいいのかなぁとか、そんなことを考えている自分がいた。
「…もうええわ。出る。」
中島さんは私の頭から手を離し、口からおちんちんを外した。
「はい」
浴槽から出てシャワーを出し、中島さんの股間を中心にシャワーをかけてあげた。
自分のカラダにもサッとシャワーをかけ、「じゃあ拭きますからこっち来て下さーい。」と言いながら足ふきマットの上にトンと乗っかった。
「うん。」
中島さんはそう言うと子どものように両手を広げて拭かれるのを待っている。
サッと全身拭いて「はい、いいですよー。」と言って時間を見た。
あと残り5分。
ヤバい。
「あ!もう残り5分です!もう着替えてくださいねー!」
そう言うと「え?おう。そうか。」と中島さんも応じてくれた。
自分のカラダをサッと拭いて急いで着替える。
中島さんも私の焦りっぷりを見てなのか、おとなしく黙々と着替えてくれていた。
かなりフラフラでゆっくりではあったけど。
「お茶、お茶飲みます?」
着替え終わった私は一応まだ着替えている途中の中島さんに聞いた。
「ん?お茶?ええわ。」
ベッドに腰かけながらゆっくりハーフパンツを履いている中島さん。
なんだかさっきよりおとなしく感じる。
「金…やな。金ここで払うんやろ?」
脱衣かごにポンと置いてあった二つ折りの黒い財布を手に持ち、私の方を見る。
「あ、はい。ここでお願いします。」
「うん。なんぼや?」
「え…と…」
なんだか値段を言うのが気が引ける。
かなりの額だから。
「…じゅ…10万…5千円です。」
10万だよ。
大丈夫?
10万円払えるの?
驚いたでしょ?
そんなにいってるって思わなかったでしょ?
「ん?10万…となんぼ?」
中島さんは全く躊躇することなく、驚くことなく、財布のお札を数えていた。
「10万5千円です。」
「これ…であると思うで。確認してや。」
私の手に何枚もの1万円札が渡された。
「あ、はい。ありがとうございます。確認しますね。」
「うん。」
お札を確認している間、なんだかすごく居心地が悪かった。
それがなぜかはわからないけど。
「ちゃんとあったか?」
中島さんが小さな声で聞いた。
「はい。ちゃんとありました。ありがとうございました。」
「うん。もう時間やろ?行こうか。」
さっきのニヤニヤ顔がもうどこにもない。
真面目な顔をしている。
まるで別人だ。
あぁ…
これがいつも人に見せている顔なのかもしれない…
そんなことをふと思った。
「ちょっと待ってくださいね。」
私はそう言うとフロントにコールをした。
「お客様お上がりです。」
「はい。お疲れさまでした。この後ご指名続きます。」
受話器の向こうで富永さんの冷静な声が聞こえる。
「はい。」
この後は指名のお客さんが入っている。
なんだか慌ただしい。
「お待たせしました。行きましょうか。」
「うん。」
中島さんは多少フラッとしながら立ち上がり、素直に私に従った。
そして階段を降りるとき、私の腰に手をまわし「また来るわ」とつぶやくように言った。
「はい。飲み過ぎないでくださいよ。」
笑ながらなんとか答える私。
「お客様お上がりでーす!」
階段を降り切ったところでボーイさんが待っている。
「ありがとうございましたー!」
深々と頭を下げ、上がり部屋のドアが閉まるまでお見送りする。
中島さんは後ろを向いたまま片手を上げてバイバイをした。
バタン。
ドアが閉まったのを確認してフロントのカーテンを開けて入る。
「お疲れさん。豪気なおっさんやったなぁ。おもろいおっさんやったろ?」
富永さんが呑気にそんなことを笑いながら私に言った。
「…もう大変でしたよ。…めっちゃ嫌でした。」
さっきまで何も感じていなかったのに、急に胸が締め付けられるような感じがした。
何かがこみ上げてくる。
「なんでや?嫌なことされたんか?」
「え…?いや、そういうわけじゃないんやけど…」
「なんや?なんか嫌なこと言われたんか?」
「え…いや…そういうわけじゃないです…」
「じゃあええ客やないかー。」
「…もういいです。次は?」
「あんないい客おらんやろー。切り返し3回やで。また来るやろなぁー。」
富永さんは上機嫌だ。
「…次は?もういらっしゃってますか?」
富永さんの上機嫌が不快だった。
「ん?まだや。もうすぐ来るやろうから準備しといてや。頼むわ。」
「…はい。」
私は不機嫌なまま個室に戻り、次の準備を始めた。
お風呂の栓を抜き、溜まっていたお湯を捨てる。
ゴーッと音を立ててお湯が減っていく。
私はそのグルグルと回りながら流れていくお湯をジッと見ていた。
「う…うぅ…」
急に涙が込み上げてくる。
ガマンできない。
「うぅ…うー!うー!」
泣き声がだんだん大きくなっていく。
隣では理奈さんも杏理さんも接客しているかもしれないのに。
「うーーー!うーーー!!」
抑圧していた感情が噴き出す。
お風呂場から部屋の方に戻り、ベッドをバンバンと叩く。
枕を壁に投げつける。
ぐちゃぐちゃになったタオルシーツを丸めて強く投げつける。
「うわーー!ううーーー!!」
地団駄を踏みながら大きな声で泣く。
私…すごく嫌だったんだ。
「はぁ…はぁ…」
ひとしきり暴れて泣いた後、息を切らせながら部屋を見回す。
ぐちゃぐちゃだ…
「はぁー…」
私は大きなため息をついてからゆっくりと個室の掃除を始めた。
「はぁ…さ、次いこうかぁ…」
私は私に言い聞かせるようにそう呟きながら一つ一つ部屋を整えていった。
自分の気持ちを整える様に。
次のお客さんが待っている。
つづく。
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