私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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純さんは大きないびきをかきながら寝続けた。

最初はビクビクしていた杏理さんと理奈さんは、寝続けている純さんを横目に少しずつくつろぎ始めていた。

 

30分ほど経った時、純さんが「うぅ~ん…」と言いながら身体をよじらせた。

 

ビクッ!

 

3人とも純さんの方を見る。

 

「うぅ~ん…ふぁ~あ…んふふ。寝てしまったわぁ…」

 

純さんは起き上がって口の周りを手で拭いた。

よだれを垂らしていたらしい。

 

「あ、理奈ちゃんも杏理ちゃんも帰ってきてたんやねぇ。んふふふ。おかえりなさぁい。寝てしまってたわぁ。んふふふ。」

 

純さんはねっとりとした口調で理奈さんと杏理さんにそう言った。

 

「あ、うん。上がりましたー…」

 

「あー…うん。よぉ寝とったなぁ。」

 

理奈さんも杏理さんも顔が引きつっている。

 

「なんや急に眠たくなってしまったわぁ。マンガ読んどったのに。んふふふ。なぁ有里ちゃん。」

 

純さんが私の方を向いて声をかけた。

 

「あー…そうですねぇ。急に寝てしまいましたねぇ。大丈夫ですか?」

 

『虫がいる』って言いながらバンバンそこら中叩いてましたよねぇ?

…とは言えなかった。

 

「え?んふふふ。何がぁ?大丈夫やでぇ。」

 

純さんは私の方をまったく笑っていない目で見ながらそう言った。

そしてその後すぐに「あぁ…喉乾いたぁ」と言いながら冷蔵庫に向かった。

純さんの周りには2ℓのペットボトルがあと3本もゴロゴロと置いてあるのに。

 

「つめたーい!」

 

純さんはそう言いながら冷蔵庫から1ℓのペットボトルのスポーツドリンクを持ってきた。

理奈さんも杏理さんもチラチラと純さんの行動を見ている。

私は本を手に持ちながら純さんをジッと見ていた。

 

純さんは座椅子に腰かけたと同時にペットボトルの蓋を開け、勢いよく飲み始めた。

 

 

ゴクゴクゴクゴクゴクゴク…

 

 

純さんが一回もペットボトルから口を離さない姿を見て、理奈さんと杏理さんは顔を見合わせて目を丸くしていた。

 

 

「はぁーー。美味しい…。」

 

1ℓのペットボトルはあっという間に空っぽになった。

純さんはすぐに隣に置いてあるお水のペットボトルに手をやった。

 

蓋を開けようとしている…

今1ℓ飲み干したばかりなのに。

 

「…純ちゃん…よぉ飲むなぁ…」

 

純さんの隣に座っている杏理さんが声をかけた。

声をかけずにいられなかったんだと思う。

 

「え?んふふふ。そうやねん。なんや喉が渇いてなぁ。今日暑くない?んふふふ。なんや身体も暑いんやぁ。」

 

「…そうか?別に暑くないで。熱あるんちゃうか?」

 

杏理さんは若干冷ややかな口調で純さんと話している。

純さんは気付いてないけど。

 

「え?熱?んふふふ。そんなんないわぁ。なんや汗が出るんやぁ。」

 

そう言えば純さんのおでこから汗がたらたらと流れている。

控室は冷房が効いていて寒いくらいの温度なのに。

 

「あ、ちょっとトイレ行ってくるわぁ。」

 

純さんは誰に言うわけでもなく、一人でブツブツそう言いながらトイレに立った。

 

 

「…完全に後遺症やな。」

 

純さんが控室から出て行ったのを確認した杏理さんが口を開いた。

 

「そうなんやぁ…。杏理ちゃん詳しいん?」

 

理奈さんが複雑な表情で杏理さんに聞いた。

 

「前にいた店におったんよ。同じ感じの子ぉが。その子、私に正直に言ってくれてな。

いろいろ教えてくれたんよ。後遺症のこと。」

 

杏理さんは真剣な顔でそう言った。

 

「え…?そうなんや…」

 

「え?それで?後遺症ってどんな感じなんですか?」

 

私と理奈さんは純さんが戻って来ないかひやひやしながら杏理さんに質問した。

 

「さっきめっちゃ水分とってたやろ?あれ典型的な症状やで。あと体温調節が効かなくなるんや。寒いぐらい涼しいのに暑い言うとたやろ?見ときぃ。この後寒い言い出すで。」

 

…そうなんだ…

ということは純さんは今苦しんでる時なのかもしれない…

 

「…あの…さっきの『虫がいる』ってバンバン叩いたあれは…」

 

「幻覚やろ?幻覚の症状が出るってことは相当やっとった方やないかなぁ…」

 

…そうなんだ…

 

「それで?この後純さんはどうなっちゃうんですかね?」

 

「そやな…。その詳しく教えてくれた子ぉはいつの間にか飛んでしまったわ。噂ではまたヤッてるって。すごい覚悟で止めたらしいけどなぁ…。まぁ…完全に止められる子ぉは少ないやろなぁ…。」

 

…そうなんだ…

 

「…純ちゃんはどうやろなぁ…止められたらええけどなぁ…」

 

理奈さんがそう言い、私は「うんうん」と頷いた。

 

「ま…無理やろな。」

 

杏理さんがボソッと呟く。

その言葉に私と理奈さんは何も言えなくなる。

 

「…う~ん…」

「…う~…ん…」

 

2人で唸っていると「ただいまー」と言いながら純さんが戻ってきた。

 

「あ…おかえりなさい…」

 

純さんにそう言いながら顔を見た。

 

…目の焦点が合っていない。

 

「…喉が渇くわぁ…」

 

純さんは焦点の合わない目のままペットボトルの蓋を開け、ゴクゴクとまた勢いよく飲んだ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

お水をペットボトル半分くらい飲んだ後、純さんはブルブルッと身震いをした。

 

「…さ…寒いわぁ…」

 

 

杏理さんが言っていた通りだった。

純さんは『寒い』と言いながら自分で持ってきていたふわふわのひざ掛けを身体にくるんで炬燵にもぐりこんだ。

もちろん夏なので炬燵の電源は入っていない。

 

「はぁ…寒いわぁ…」

 

純さんはそう言いながらいつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

「…どないするん?…」

 

理奈さんが純さんの奇行を見てビビッている。

 

「そやなぁ…。どないするんやろ。」

 

杏理さんは案外冷静だ。

 

「…どうしたらいいんでしょうねぇ…」

 

私はこの後純さんがどうなっていくのかが気になって仕方がなかった。

どういう経緯でこうなったのかわからないけれど、純さんには純さんの今までの物語があるんだ。

そしてこれからの物語もあるんだ。

 

そこに私は介入できない。

安易に介入できる状態でもない。

 

でも…

 

と私は思う。

 

何かしてあげられることはないだろうか?

 

と。

 

そしてそう思っている自分が嫌になる。

さっきまで怖くて「これからずっと一緒に控室にいるなんて嫌だ!」と思っていたくせに。

 

ただの自己満足。

タチの悪い偽善者。

 

本気で介入する気なんてないくせに『何かできないか?』なんて考えている自分が気持ち悪かった。

 

 

「富永さんに言うて辞めさせてもらった方がええんちゃうかな…」

 

理奈さんが困った顔でそう言った。

 

「え…?」

 

私が理奈さんの方を向くと、理奈さんは引きつった笑顔のまま早口でこう言った。

 

「だって怖いやんか。控室に来るたび怖い思いすんの嫌やわ。それにお客さんにだって迷惑かけるかもしれへんやろ?この店にこういう子がいるんわ嫌やわぁ。」

 

「…え…うん…」

 

私は驚いていた。

理奈さんがそんなことを言うなんて思ってなかったから。

それにすごい早口だったことに驚いていた。

 

「…そやな。お客さんに迷惑かけられても困るしな。私だって毎回控室に戻って来る時に緊張したくないわ。ゆっくりしたいやん。」

 

杏理さんもサバサバした口調でそう言った。

 

「そやんなぁ。ちょっと富永さんに言うてくるわ。」

 

理奈さんがサッと腰を上げた。

 

「うん。私も行こうか?」

 

杏理さんが理奈さんに聞く。

 

「うん。そやな。杏理ちゃんも来てくれたらありがたいわ。」

 

理奈さんがなんだか焦っている。

いつもおっとりとしている理奈さんが焦っている。

 

ほんとに怖いんだ…。

 

理奈さんは純さんがほんとに怖いんだ。

自分の恐怖を取り除くために焦っているんだ。

たしかにさっきの私もそうだった。

でも今は少し冷静になっている。

 

「…今行くん?」

 

私だって怖い。

でも純さんだって私と同じ人間だ。

そしてこうなる前の純さんはきっともっと違う人だったんだ。

今純さんは元に戻ろうとしている苦しい時なんだ。

せっかくここでお仕事ができるようになったのに、私の方から辞めさせるきっかけを作るなんて…

 

…できない…と思いかけた時、理奈さんが「杏理ちゃんととりあえず話してくるわ。」と言いながら出て行ってしまった。

 

 

富永さんは「検査ではシロやったから辞めさせる理由がない」と言っていた。

理奈さんと杏理さんはどんな話しをするんだろう。

そして富永さんは2人の話しを聞いてどう判断するんだろう。

 

 

気付けば控室にまた純さんと2人きりになっていた。

 でもさっきほど怖くない。

 

身を乗り出して純さんの寝顔を見る。

 

よだれを垂らしながら横向きに寝ている純さんの寝顔は子供みたいな顔だった。

 

この人にも親がいるんだよなぁ…

この姿を見たらどう思うんだろう…

 

そう思うと胸がグッと切なくなった。

 

 

 

 

そんな純さんは次の日から店に来なくなった。

私に強烈なインパクトを与えたまま、その後一回も姿を見せなかった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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117 - 私のコト

 

 

 

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