私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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8月が終わろうとしていた。

私は12日に誕生日を迎えて22歳になった。

 

さつきさんは急にポコっと休むこともあったりするけど、マイペース(のようにどうしても見えてしまう)に仕事をこなしていた。

そして私の思った通り指名の数を順調にのばしていた。

私はその事実に焦ったりしながらも、なんとなくさつきさんの性質がわかってきて、思ったよりもイライラせずに過ごしていた。

 

奈々さんは金曜日から日曜日までの出勤にちゃんと来ていた。

たまに赤い目をして個室から帰ってくるときもあるけどなんとなく笑顔も増え、控室でもよくしゃべるようになっていた。

 

杏理さんは相変わらず淡々と仕事をこなしていたが指名の数はなかなか増えず、「やっぱり手術しようかなぁ…」と何度も口にしていた。

 

理奈さんは8月もすごかった。

毎日ほぼ指名で埋まっていた。

そんな忙しい日々でもいつもニコニコへらへら笑いながら「有里ちゃーん」と私に話しかけていた。

もうだいぶ理奈さんとは仲良くなり、私は理奈さんにいつの間にか敬語を使わなくなっていた。

 

まどかさんは…

 

まだ店に来てなかった。

 

というか、あれから富永さんに連絡があり「店を辞める」とはっきりとした口調で伝えてきたらしい。

 

私と理奈さんがトキでまどかさんに言った言葉は、結局なんの意味もなかったことになる。

 

私は…

 

少しずつ、ほんとに少しずつ指名の数が増えてはいるけれど「なんかしっくりこないんだよなぁ…」と毎日感じていた。

この「なんかしっくりこないんだよなぁ…」の正体がなんなのかがよくわからないまま、毎日が過ぎていく。

 

小林さんのことをいつの間にか「コバくん」と呼ぶようになり、コバくんからの毎日のTELは続き、そして毎週火曜日の夜から木曜日の朝まで一緒にいる生活が当たり前のようになってきていた。

コバくんは「毎日ここに帰ってきたいなぁ…」という言葉を前より頻繁に口にするようになっていた。

私は「そうかぁ。でも毎日ここから出勤するの大変やろ?」となんとなくはぐらかしていた。

でももうすぐ一緒に暮らしてしまいそうな予感がしている。

心のどこかで「まぁそれもいいかなぁ…」と思っている自分がいつもいるのに気づいていた。

 

 

そんな8月の終わりのある日。

 

もう一人新しい女性がシャトークイーンに入ってきた。

名前は純さん。

歳は30代後半、熟女な雰囲気な女性だ。

 

 

「んふふふ。純です。よろしくねぇ。」

 

純さんは唇を舐めまわしながらねっとりとしゃべる、不思議な雰囲気の女性だった。

 

「あ、よろしくお願いします…」

 

黒いレース調のワンピース。

チラチラと見える赤い下着。

豊満な胸元の谷間がいやになまめかしい。

 

唇には真っ赤な口紅を塗り、その唇をいつもねっとりと舐めまわしていた。

くっきりとした二重瞼の目元にはがっつりアイラインをひき、青いアイシャドウが薄く塗ってある。

 

「妖艶な」や「怪しい色気」という言葉がぴったりとくるような雰囲気だ。

 

純さんは雄琴村でもう何年もソープ嬢をやっていたらしく、ここ数年は体調を崩して休んでいたと言った。

 

そういうことをこちらから聞いてもいないのに、ねっとりとした口調でずっと話し続けるような女性だった。

 

 

「もう大丈夫なんですか?体調は。」

 

私が純さんにそう聞くと、「うん?んふふふ。もうね平気やねん。大変やったけどな。んふふふ。」と不思議な笑い方で返事をした。

 

「有里ちゃんは大丈夫なん?体調は?んふふふ。」

 

「え?はい。大丈夫ですよ。」

 

「そう?ならよかった。んふふふふ。」

 

…シーン。

 

「有里ちゃん、昨日な、私肉じゃが作ったんよ。んふふふふ。ゴハンのおかずな。んふふふふ。」

 

「はぁ…そうですか。で?」

 

「え?今日はどうしようか?んふふふふ。でもあんまり食べたくないねん。ゴハン。んふふふ。」

 

「はぁ…」

 

…シーン。

 

「あ、さっきテレビで面白い芸人さん見てな。んっふふふふ。おもろかったわぁ。んふふふ。あ、これな、私知ってるねん。見て見て有里ちゃん。この雑誌のこれ。前にも見たことあるねん。んふふふふ。」

 

「え?あ…はぁ。そう…ですか…」

 

「あ、そうや。私コンドームなかったんや。有里ちゃん少し貸してくれる?明日買ってくるから。ええやろ?んふふふふ。お礼なにがいい?あ、そうや。このマンガ読む?今日な、私これ見つけてな。ええやろ?このゴム。髪結ぶのにちょうどええと思ってな。んふふふ。なぁ?」

 

「え…と。はい。そう…ですねぇ。」

 

 

…シーン。

 

純さんはとりとめもない、しかも何の脈絡もないことを次々と話す。

 

次第に控室では私と理奈さんしか純さんの相手をしなくなり、他の娘たちは微妙に純さんから距離を置くようになった。

 

「純さん、なんか不思議な人やなぁ。」

 

「そうですよねぇ。」

 

理奈さんと私はそんなことをお互いに話していた。

 

純さんが来て3日が経ったある日。

 

私はお客さんを帰して控室に戻った。

 

「上がりましたー。」

 

控室のドアを開けると純さんが一人で座っていた。

他のみんなはそれぞれにお客さんについていた。

 

控室には私と純さんだけ。

 

「あ、有里ちゃん。おあがりぃ~。」

 

そうねっとりとした口調で言った後、純さんは自分の周りに置いてある2ℓのペットボトルの蓋を開け、ガブガブと勢いよく飲んだ。

純さんの周りには5本ほどの2ℓのペットボトルが置いてある。

中身はお水だったりポカリスエットだったりお茶だったり。

 

純さんは2ℓのペットボトルの中身を一気に飲み干した。

 

え?

2ℓを一気に?

 

私はその勢いに驚き、立ったまま純さんを凝視してしまった。

 

「ん?有里ちゃん、どうしたん?」

 

ペットボトルから口を離した純さんがこちらを見てそう言った。

 

「え…?えと…」

 

私はその純さんの目を見た瞬間「ヤバい」と感じた。

 

普通なら「すごい飲みますねぇ!」とか「2ℓを一気飲みって!どういうことですかぁ?!」とツッコミを入れるところなのに、そんなこと言っちゃいけない!と感じていた。

 

「いや…お疲れさまです…」

 

ゆっくりと座る私。

 

「うん。おつかれさま。んふふふ。」

 

不思議な笑い方をする純さん。

 

純さんはすぐに新しいペットボトルの蓋を開け、また一気にその中身を飲み干した。

 

「ぷはぁ!はー。なんや喉乾くんやぁ。これじゃ足りなかったなぁ。」

 

純さんはブツブツと独り言を言った。

 

 

…なんか…怖い…ヤバい気がする…

 

 

私はそんなことを感じながらも純さんから目が離せないでいた。

凝視するのをやめられなかった。

 

純さんはもうすでに4リットルの水分を飲み干している。

なのに「足りない」と言っている。

 

これは普通じゃない。

 

「えーと…さっきマンガ持ってきたんよぉ…どこやったかなぁ。」

 

ブツブツと言いながらマンガを探す純さん。

 

「あったあった。これこれぇ。んふふふふ。」

 

一人で笑いながらマンガを開く。

 

パラパラパラパラパラパラ…

 

すごい速さでマンガのページをめくる。

 

ん?

これ…

どっかで見たことある光景だ。

 

ピタ。

 

純さんがページをめくるのを急にやめて止まった。

 

次の瞬間。

 

バンッ!

バンッ!

バンッ!

バンッ!

 

純さんは開いたページの上をバンバンとたたき始めた。

叩く範囲がどんどん広がり、炬燵のテーブルの上もバンバンとたたき始める。

 

バンッ!

バンバンッ!

バンッ!

バンバンバンッ!

 

うつろな目でバンバンと叩きまくる純さん。

 

 

あ…

これ知ってる…

 

私は「花」の麗さんのことを思い出していた。

 

 

怖い…

 

なにこれ。

怖い。

 

「ちょ…純さん?どうしたんですか?」

 

怖いながらも声をかける私。

 

「え?虫…虫おるやろ?ほら!ここ!」

 

純さんはそう言いながらいたるところをバンバン叩いた。

 

 

やっぱり。

あの時と一緒だ。

 

「純さん…虫…いませんよー。」

 

私は少し離れたところでそう声をかけた。

 

「え?…いない…?虫やで。おるやろ?おらん?」

 

純さんはうつろな目で私を見て、悲しそうにそう言った。

 

「おらんよ。虫なんておらんよ。よーく見てください。」

 

私はなるべく優しい口調で純さんにそう言った。

 

「え…?あー…んふふふふ。見間違いやな。おらんかったわ。んふふふ。有里ちゃん、ありがとう。」

 

純さんは笑いながらまたペットボトルに口をつけた。

そして少しすると横になって寝てしまった。

 

私は息を飲むように純さんの姿を観察していた。

下手に動くと刺激してしまうんじゃないかと思い、そっと見守っていた。

 

純さんが寝たことを確認して私はすぐにフロントに走った。

 

フロントのカーテンをシャッと開け、「富永さん!」と言いながら富永さんの膝の上に倒れこんだ。

 

「お?どうした?!有里?!」

 

富永さんは驚いて私を見た。

 

「ちょっと!純さんヤバいですよ!うー…怖かったぁ…」

 

私は今にも泣き出しそうになっていた。

心臓がバクバクしている。

 

「え?純?どうしたん?」

 

富永さんは目を丸くして私に聞いた。

 

私は今見た出来事を興奮しながら富永さんに話した。

富永さんは私の話しを「おぉ。」「なんやそれは」「そりゃまずいな」と言いながら聞いていた。

 

「…おしっこ検査したんですよね?大丈夫やったんですよね?」

 

私は少し落ち着きを取り戻した状態で富永さんに聞いた。

 

「おぉ。やったで。ちゃんと結果もみたで。シロやったで。」

 

「じゃ…なんで…」

 

富永さんは少し考えてから「後遺症やろうな…」とポツリと言った。

 

「後遺症?後遺症であんなになるんですか?!」

 

信じられない。

おしっこの検査で引っかからないのにあんな風になるなんて。

 

「ちょっと面接のとき怪しかったからな、病院のおしっこ検査の時トイレの窓の外で見張ってたんや。だからおしっこを買ったってことはないんや。だから…考えられるには後遺症しかないなぁ…。」

 

…怖い。

やっぱり怖い。

 

「…どうするんですか?これからどうするんですか?」

 

私は富永さんに詰め寄った。

このまま純さんと一緒に控室で過ごすなんて絶対に嫌だ。

 

「…うーん…」

 

富永さんは腕を組んで考え込んでしまった。

 

純さんのあの姿が頭から離れない。

あの怖さをもう味わいたくない。

 

私は富永さんの口から出てくる言葉を待った。

 

 

 

つづく。

 

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