私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「まぁくーん!お酒まだぁ~?」

 

まどかさんは身体をぐねぐねに揺すりながらお酒を催促する。

 

「今持ってくよー!」

 

カウンターの中で大きな声で答えるまぁくん。

 

「んっふふふ~。お酒飲もうねぇ~。ねぇ~。」

 

まどかさんは隣の男性に甘えた声でそう言いながらもたれかかった。

 

「まどかさーん。大丈夫ですかぁー?」

 

その男性はまどかさんの両方のほっぺを片手でむぎゅっと掴んでそう言った。

 

「らいじょうぶやでー。飲むんやからー。」

 

まどかさんはほっぺを掴まれたまま、男性の方を向いて答えた。

 

「あっはははは!まどかさん可愛いー!あははは。」

 

「あっはははは!止めてやぁー!もー!」

 

その男性もかなり酔っぱらっているらしく、そんなことをしながら二人で笑い転げていた。

 

「ほーい!お待たせー。まどかちゃん、お酒やでー。」

 

まぁくんがウイスキーのボトルと水割りセットをまどかさんのテーブルに置いた。

 

「待ってたんやー。これこれぇー!まぁくん!はよ作りぃ!」

 

まどかさんがまぁくんに命令する。

 

「はいはーい。今作るってー。」

 

「はよしぃやぁー!ほんまにまぁくんはぁー!なぁ?遅いんやぁ。なぁ?そうやろ?」

 

隣の男性とまぁくん、まどかさんは二人の男性に囲まれてなんだか嬉しそうに見えた。

 

 

「まどかちゃんそうとう酔っぱらってるなぁ。」

 

理奈さんが横座りのまま、まどかさんの方を見て私にそう言った。

 

「そうですねぇ…。」

 

私はまどかさんの姿を見て不快に感じていた。

そして『カッコ悪いなぁ…』と思っていた。

そんなこと思ってはいけないと思いながらも。

 

「ごめんやでぇ。うるさいやろ?」

 

まぁくんがまたいつの間にかカウンターの中に戻ってきて、小声で私たちに謝った。

どうやら他のお客さんのところにも謝りに行っていたらしい。

 

「いつもあんな感じなん?」

 

理奈さんがまぁくんに小声で聞く。

 

「うーん…まぁそうやなぁ。今日は結構ひどい方やな。あはは…」

 

「そうなんですか…。あんな感じじゃない時もあるんですか?」

 

私はまぁくんの方を向いて聞いた。

 

「うん。今日はほんまにちょっとひどい方やな。昨日はあんな感じやなかったで。

明け方までおったけど…うーんと…昨日昨日…」

 

まぁくんは昨日のまどかさんの様子を思い出そうとしていた。

私はまぁくんの口からまどかさんの様子が聞けるのを待った。

 

「あ!そうや!泣いとったんや!そうやそうや。」

 

「え…?泣いてたんや。」

 

理奈さんが驚いた顔をしてまぁくんに聞く。

 

「うん。泣いとったなぁ。まぁよく泣いてることあるけどなぁ。」

 

まどかさんはここでよく泣くんだ…。

 

 

「あっはははは!もーぅ!飲めー!」

 

ボックス席の方からまどかさんの酔っぱらった笑いが聞こえてくる。

その声が痛々しく感じた。

 

「まどかちゃんはなんで泣いてるん?」

 

理奈さんがまぁくんにサラッと質問をしている。

 

「うーん…そやなぁ…『私なんて結局1人なんや』とかよぉ言ってるなぁ。あと『誰も私のことなんて好きやないんや』とかかなぁ。」

 

「仕事のことは?なんも言うてへんか?」

 

理奈さんが軽い口調でまぁくんにさらに聞いた。

 

「あ、言うとったわ。『店長がほんま許せん』って怒っとったときあったで。あとは『もうこの仕事嫌や』って言うてたことあったわ。まぁ…でもみんなそんな時あるやろ?大変な仕事やんか。そう思う時やってあるやろ。」

 

「そうかぁ…。じゃあさ、まぁくんはまどかちゃんがこんなに荒れてる理由はなんやと思うの?」

 

 

まぁくんはまどかさんのことについて、私たちに当たり障りのないことしか教えてないような感じがした。

こういう仕事をしているんだから当たり前のことだとは思う。けど…

真剣にまどかさんのことを聞いているのだから、真剣に答えて欲しいと思ってしまう。

 

理奈さんもそう感じたのかわからないけど、まぁくんにいい質問をしてくれた。

 

 

「荒れてる理由?荒れてる?…そう見えるんやなぁ。」

 

まぁくんは首をかしげてそう言った。

 

「え?まぁくんはどう見てるんですか?」

 

私はまぁくんの反応が思ってたのと違うことに驚いていた。

なにかまぁくんなりの理由を言ってくれるのかと思っていたのに。

 

「まどかちゃん、ずっとあんな感じやで。もう何年もここに通ってるけど、ほぼ毎回泣いたり怒ったり今みたいに大笑いしながら酔っぱらってたり。いつもだいたい潰れるまでここで飲んでるんやで。そやから今日の状態が“荒れてる”とは感じひんなぁ。なぁ?」

 

まぁくんは隣にいた信也さんに「なぁ?そうやろ?」と聞いた。

信也さんは「え?ははは。まぁそうですねぇ。」とちょっと引いた感じで返事をした。

 

 

「え?ほぼ毎日?もう何年も?それほんま?」

 

理奈さんは軽く驚いた様子でもう一度まぁくんに聞いた。

 

「そうやで。ほぼ毎日やな。明け方まで。よぉあそことかカウンターで寝てるで。」

 

毎日…

ここで…

 

噂ではちょっと聞いてたけどほんとに毎日ここに来てたなんて…

 

私はまどかさんの毎日を想像して切なくなった。

 

毎日ソープランドでお客さんの相手をして現金を手にする。

そのカラダと心を張って得たお金を持ってここでお酒をガブガブ飲む。

スタッフの男の子をいじって笑い、まぁくんの前で泣いて、怒って…

 

お金で買われて今度はそのお金で買う。

 

お金を払うから相手にしてくれるんだとわかっていながらもここに来てしまうんだ。

 

『誰も私のことなんて好きやないんや』

 

そう言いながらもここに来てしまうんだ。

 

 

「ちょっと話してきます。」

 

私はなんだかまどかさんと話してみたくなり、スッと席を立った。

 

「え?有里ちゃん?話すん?」

 

理奈さんが驚いて立ち上がった私を見た。

 

「はい。なんかちょっとこのまま帰りたくないんで話してきます。」

 

「えぇ?…ほんなら私も。」

 

理奈さんは尻込みしながらも立ち上がった。

 

「まぁくん、ちょっとまどかちゃんのとこ行くわ。」

 

理奈さんがまぁくんに断りをいれている。

 

「え?そう?大丈夫?」

 

「うん。有里ちゃんが行くいうから…」

 

私はその二人の会話を聞きながらまどかさんの席のほうに近づいた。

 

 

「まーどかさんっ!!」

 

まどかさんの前の席にそう言いながらドカッと座る。

 

「え?」

 

まどかさんは一瞬私の方を睨むように見た。

そして次の瞬間

 

「きゃー!有里ちゃーん!!飲もう!一緒に飲もぉ~」

 

と言ってテーブル越しに私に抱き着いた。

 

「一緒に飲んでいいんですか?やったー!」

 

私はまどかさんのテンションに合わせる様に答えた。

 

「理奈さんも一緒にいいですかぁ?」

 

私はそろそろと近づいてくる理奈さんの手をとり、まどかさんに聞いた。

 

「きゃー!理奈ちゃーん!ナンバー1の理奈ちゃんと一緒に飲めるなんて嬉しいわぁ~!知ってるやろ?理奈ちゃん。ずっとナンバー1なんてすごいやろぉー?」

 

まどかさんは隣の男性にそう言いながら身体を密着させた。

 

「知ってますよぉ!理奈さんは有名人やからー。」

 

「そうやんなぁー。私とは大違いやもんなぁー。」

 

まどかさんは少し拗ねたような態度になった。

そして次の瞬間。

 

「どうせ私なんか有名でもなんでもない、ただの売れないソープ嬢やもんなぁ!悪かったなぁ!もう店にも行ってへんし、ソープ嬢でもなくなってしまったわ!悪かったなぁ!」

 

まどかさんは急に怒りだしていた。

 

隣の男性は「そんなことないって!」とか「いやいや、誰もそんなこと言うてへんやろ?」とかの言葉をへらへらと笑いながら言っている。

 

「まどかさーん!乾杯しません?」

 

私は急に怒りだしたまどかさんに笑いながらそう言ってみた。

こういう酔っ払いの人の対応はK氏の元で何度も経験していた。

 

「え?うんうん!しようしよう!かんぱーい!!」

 

思った通りまどかさんの機嫌は急に良くなり、笑いながら乾杯をした。

 

「なんで?!なんで理奈ちゃんと有里ちゃんがここにおるん?!よく来るん?!」

 

まどかさんは必要以上に大きな声で話す。

これも酔っぱらった人の特徴の一つだ。

 

「まどかさんに会いに来たんですよー。よくここに来てるって聞いたから。」

 

私はなるべく明るく、でも軽くしゃべる。

理奈さんも私の行動をみて同じように「そうやでー。」と同じトーンで言った。

 

「えぇっ?!そうなん?!なんでー?!私に会いに?!あっはははは!おっかしぃーー!!そんな人おんねんなー!あっはははは!」

 

まどかさんは大袈裟なリアクションでことさら大きな声で笑った。

 

まどかさんの姿を見て、私の心はどんどん切なくなっていく。

泣きそうだ。

 

まどかさんは無様で哀れだった。

そして怖かった。

 

 

「まどかさーん!多分忘れちゃうと思うんですけどね、言っとかなきゃ私が嫌やから言いますねー。」

 

私は自己満足の為に話し出した。

泣きそうなのをこらえて。

 

「え?なんなーん?有里ちゃんが真剣な顔してるぅー!」

 

まどかさんは水割りをこぼしそうになりながら身体をぐねぐねと揺らしている。

 

「まどかさんのこと待ってますからねー。待ってるお客さんもいるんですよー。シャトークイーンのみんなだって待ってるんですよー。富永さんだって『待っとるで』って言ってましたよー。嫌な思いさせて悪かったって言ってましたよー。聞いてますー?

ねぇ?理奈さん。」

 

私は目が座ったぐねぐねのまどかさんに向かってそう言った。

聞いてないだろうしきっと覚えてないだろうけど。

 

「うん。まどかちゃん帰ってきてくれたら嬉しいわぁ。みんなそう思ってるで。」

 

理奈さんはまどかさんに向かって小さな声で言った。

 

 

まどかさんは上半身をフラフラと揺らしながら「えぇ?」と座った目で私たちを見た。

 

「まどかさーん!聞こえましたー?」

 

まどかさんの耳の近くで声をかける。

 

「うん?なにぃー?!何の話しぃーー?!」

 

…やっぱりだめか。

 

「あははは!あかんかったかぁ。」

 

理奈さんがまどかさんの態度を見て笑う。

 

「あはは…やっぱりダメだったかぁ。」

 

私も笑っていた。

けど、ほんとは笑っていなかった。

 

 

「有里ちゃん、もう3時や。帰ろうか。」

 

理奈さんが店の時計を見てそう言った。

 

「…そうですね。帰りましょう。」

 

まどかさんには届かなかったけど伝えたい事だけは言った。

これじゃなんの意味もないけど。

 

「まぁくん。帰るわー。」

 

理奈さんがカウンターの中にいるまぁくんに向かってそう言うと、まどかさんが「ん?!」と私たちを睨みつけた。

 

「帰るん?!もう帰るん?!なんで?!なんで帰るん?」

 

私を睨みつけて怒るまどかさん。

 

「はいはい。怒んないのー。はいはい。」

 

カウンターから伝票を持って出てきたまぁくんがまどかさんをなだめる。

 

「みんな帰ってしまうんやろ?そうやってみんな帰ってしまうんやろ?うぅ…うぅー…」

 

まどかさんは急にテーブルに突っ伏して泣き始めた。

 

「はいはい。泣かない泣かない。」

 

まぁくんはまどかさんの背中をさすりながらなだめ続けた。

 

「これ今日の分ね。今タクシー呼んだから。」

 

まぁくんは理奈さんに伝票を渡しながら小声でそう言った。

 

「うん。ありがとう。」

 

理奈さんはお財布を出しお会計を済ませた。

私は「後で金額いってください」と言いながらまどかさんをジッと見ていた。

 

「うぅ…うぅ…みんな帰ってしまうんや…うぅ…」

 

泣き声がだんだん小さくなる。

そして「スー…スー…」と寝息に変わっていった。

 

「寝てしまったなぁ。今のうちに帰りぃ。」

 

まぁくんが言う。

 

「…はい。」

 

「うん。帰るわ。まぁくん大変やな。」

 

「いやいや。いつものことやでな。あははは。有里ちゃん、これに懲りずにまた来てや。な?応援してるしな。今日はありがとうな。理奈さん、またこんなに空けずに来てやー!ありがとうございました。」

 

まぁくんは私たちを店の外まで見送りにきた。

 

「ありがとうございましたー!」

 

タクシーに乗り込む私たちに深々と頭を下げるまぁくん。

 

私は遠ざかるトキの店を見ながら「はぁ…」とため息をついた。

 

「まどかちゃん…すごかったなぁ…」

 

理奈さんが小さく呟く。

 

「…なんか…うまくいかなかったですね…へへ」

 

私は泣かないようにおどけて理奈さんに言った。

 

それからはなんとなく2人とも沈黙のままタクシーに揺られていた。

 

 

トキでの初めての夜は胸がキリキリするほど切ないものになった。

 

 

 

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114 - 私のコト

 

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