私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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トキの猥雑な雰囲気になんとなく慣れてきていた。

というか、程よく酔いがまわってきたんだと思う。

 

「有里ちゃんはなんで雄琴に来たん?若いし、しかも東京出身なんやろ?

なにがあったん?」

 

まぁくんは私たちの前でいろんな話しを面白ろおかしく話し、そしてたまにこういうデリケートな質問をさりげなく入れてきた。

それが絶妙な間合いで、しかも嫌味なく自然に聞いてくる。

 

私はまぁくんの話しっぷりや態度を見て、また「なるほど」と感じていた。

 

まぁくんはちょっとぽっちゃりした体格で丸い顔をしていた。

顔の造作は笑うとくしゃっとなるような可愛らしい顔立ち。

見ようによっては男前にみえなくもない。

髪は短髪で角刈りのような髪型。

そしてその短い髪を金髪に染めていた。

赤いTシャツに金色の太めのネックレス、腕にはロレックスの時計をしていた。

 

まぁくんの顔立ちや表情は人を安心させてしまうようなそれだった。

 

でも…

 

と私は感じていた。

 

「まぁくんには気をつけろよ」と言っていた富永さんの言葉がなんとなくわかる。

この人には気を許しちゃいけない、と私のどこかで警報が鳴っている。

 

 

「えーと…なんかいろいろあって、なんだか700万円返さなきゃいけなくなっちゃったんです。あははは!」

 

これくらいがちょうどいいかな。

ネタにもされやすい範囲かな。

 

そんなことを考えて答えた。

 

「えぇ?!なんやそれ?!どういうこと?!」

 

「あははは!有里ちゃん端折り過ぎやろ。まぁでもそういうことやもんなぁ。まぁくん、有里ちゃんすごいねんでー。若いのになぁ。」

 

まぁくんは驚き、理奈さんがフォローしてくれた。

 

「なんやよぉわからんけど、有里ちゃんなんかすごそうやなぁ。もっと聞きたくなってきたわぁ。それ、どういうことなん?教えてやぁ。」

 

まぁくんは真剣な顔で私にさらに質問をしてきた。

私は「えぇ?」と少し考えてからまぁいいかと思い、かいつまんで今までの経緯を軽いバージョンで話した。

お客さんにもよく聞かれる質問だから割と何パターンか話し方の種類が出来上がっていた。

 

重いバージョンと軽いバージョン、ふざけたバージョン、ほとんど嘘バージョン…

 

私はいつの間にか雄琴に来た経緯について話すのに、これだけのバージョンをもっていた。

 

こういう場でちゃんと真面目に話したって意味ないし。

聞く方も聞かれる方も「なんとなく」のことでしか成り立っていない場ばかりだ。

 

私は話慣れた軽いバージョンで経緯を話す。

ほんとはいろんな思いがあって、いろんな出来事があったけど、そんなことはすっ飛ばして軽く話す。

どうせ本気で興味なんてないくせに聞いてくる人がたくさんいる。

でも私はその質問に答える。

いつの間にかなるべく正直に忠実に答えようとしている自分が嫌だ。

もっと場に合わせてライトに軽く答えられるようになるのが“大人”ってもんなのかもしれない。なんてことを考える。

 

 

「えぇ?!なんかいろいろすごいなぁ!!センセーショナルやね!なんか有里ちゃん応援したくなるわぁ!なぁ?理奈ちゃん。」

 

まぁくんが感心した様子でそう言うと、「そうやろぉ?ほんますごいねん。有里ちゃん。」と理奈さんがなぜか自慢げに言った。

 

「え?そうですか?じゃ、えーと、応援よろしくお願いします。」

 

私はわざとぺこりと頭を下げた。

 

「あはは。ほんまやで。応援するわー。頑張って!3月までなんやろ?ここにおるの。」

 

まぁくんは私の水割りを作りながらそう言った。

 

「はい。3月まで…のー…つもりです!…あはは…できんのかなぁ。ずっと雄琴におったりしてねー。あはは。」

 

心の中の不安が思わず出てしまう。

ほろ酔いになっていて弱気がでてしまった。

 

私はずっと不安だ。

目標をかなりの覚悟で決めたつもりだし、その先には“死”が待ってると思う。

どうせ死ぬんなら!という覚悟なのに、“死”をも感じての覚悟なのに、いつも揺らぐ。

 

「出来るって。有里ちゃんなら出来るで。大丈夫。俺わかるもん。」

 

まぁくんが真剣に私に言った。

私は不覚にもそのまぁくんの言葉にうるっときてしまった。

 

「なぁーんてなー!俺がそんなこと言うたって真実味がないやんなぁー!あははは!」

 

まぁくんはすぐにおちゃらけて場を和ませた。

私はそんなまぁくんに「なんかありがとう。」と言っていた。

 

「いやいやいや…飲んでええ?」

 

まぁくんはニヤッと笑いながらおかわりを催促した。

 

「なんやーおかわり欲しいからええこと言うたんやろー。」

 

理奈さんが突っ込む。

 

「あははは!バレた?って…ちゃうちゃうちゃう!ちゃうって!あはははは!」

 

私は再度「なるほど」と心の中で大きく頷いていた。

 

この店にいればいるほど、通ってしまう女性の気持ちがわかる。

そしてまぁくんはさすがにこの仕事が長いだけあるなぁと思った。

ずっとお客さんが絶えない理由がちゃんとあるんだ。

それが良い悪いは別として。

 

そのときガチャっとドアが開く音がした。

 

「いーーーっらしゃいませーー!!」

「いらっしゃいませーー!!」

「おっかえりなさーーい!!」

 

カウンター内のあちこちから元気な声が飛び交う。

 

「あ!まどかちゃん。いらっしゃーい!」

 

私の目の前にいるまぁくんがドアの方を向いてそう言った。

 

 

まどかさん?!

 

 

私と理奈さんは顔を見合わせてからドアの方を向いた。

 

 

「こんばんわぁ~」

 

振り返るとドアにもたれかかっているまどかさんがいた。

 

「まどかさん?!」

「まどかちゃん?!」

 

私と理奈さんはまどかさんに声をかけた。

 

「へぇ?あれぇ?理奈ちゃん?あれぇ?えーと…誰だっけ?あ!有里ちゃんかぁ~。あっははは。ここでなにやってんのぉ~?」

 

まどかさんは見るからにべろべろに酔っぱらっていた。

 

「まどかちゃん、大丈夫?」

 

まどかさんの後ろから一人の男性が顔を出し、べろべろのまどかさんの身体を支えていた。

 

「えぇ?だいじょーぶやって!飲もう!まぁくん席ある?せーき!」

 

まどかさんはろれつが回らない口調で付き添い?の男性に「飲もう!」を連発していた。

 

「まどかちゃん。もう止めといた方がええんちゃうか?」

 

いつの間にかカウンターから出てきていたまぁくんがまどかさんを介助している。

店中のお客さんがまどかさんの方を見ている。

私と理奈さんはまどかさんの姿を見てあっけにとられていた。

 

「なーんでやー。だーいじょうぶやって!あ、あそこ?あそこ座っていい?ね、あそこ座ろう!」

 

まどかさんはトキの唯一の小さなボックス席を指差してフラフラしながら椅子に座った。

一緒にいる男性がまどかさんの腰を抱きながら隣の席につく。

 

「おつかれさんやったな。大丈夫か?」

 

まぁくんがその男性に小声でそう言ったのを聞いてしまった。

 

「理奈さん、まどかさんが一緒にいる人ってここのスタッフの人ですか?」

 

私は小声で理奈さんに聞いた。

 

「うん。多分そうや。前に見たことあるもん。」

 

あー…

そうなんだぁ…

 

まどかさんは「お酒ー!まぁくんお酒ー!」と何度も大きな声で言っている。

髪を振り乱し、身体をぐねぐねと揺すりながら。

 

私はそのまどかさんの姿をボーっと凝視していた。

何故かわからないけど「ちゃんとこの姿を見ておこう」と思っていた。

 

 

「有里ちゃん…どうする?」

 

理奈さんが困惑した顔で私に聞いてきた。

 

「うん…。そうですねぇ…。」

 

私はまどかさんから目を離さずに答えた。

 

きっと私たちにはどうにもできないことなんだ。

そうわかってはいるのに、どうにかしたいと思っている自分がいる。

 

「…どうしたらいいんでしょうねぇ…」

 

私はまどかさんから目が離せないでいた。

 

私だってこうならないとは限らないんだ。

いつだってあの姿と背中合わせにある世界に私はいるんだ。

 

そう自分に言い聞かせるようにまどかさんの姿をいつまでも凝視していた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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113 - 私のコト

 

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