私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「理奈さん!久しぶりすぎますよぉー!」

 

理奈さんが店内に入ろうとしていると、いたるところからそんな声が聞こえてきた。

 

「そうやんなぁ。久しぶりやなぁ。あ、ここ?ここ座ってええの?」

 

理奈さんが店に足を踏み入れ、スタッフの誰かに聞いている。

私は理奈さんの後ろから様子を伺っていた。

 

ひょこっと理奈さんの背中から顔を出して店内をのぞき込む。

その瞬間

 

「いーらっしゃいませぇーー!!」

 

と大きな声が店内に響いた。

 

「いらっしゃいませーー!!素敵な女性がもう一人いらっしゃってまーす!!」

「いーらっしゃいませー!理奈さんがもう一人可愛らしい女性を連れてきてますよぉー!」

 

カウンター内のあちこちからそんな声が飛び交う。

 

「え?!あ…どうも…」

 

私はその状況に戸惑い、理奈さんの後ろに隠れながらぺこりと頭を下げた。

 

「あはは!有里ちゃんびっくりしたやろ?ここやって。座ろう。」

 

私が戸惑っている姿に気を使って理奈さんが席に促してくれた。

 

ここがトキかぁ…

 

戸惑いながらも店内をぐるりと見回す。

 

少し暗めな電球色の明かり。

向かって左側から4人ほどが座れるようになっているカウンター、そのカウンターがコの字型になって続いている。

コの字型の部分にはだいたい全部で12人ほど座れるようになっている作りだった。

私たちは店に入ってすぐ、コの字型のカウンターの突端の場所に案内された。

 

カウンター内には5人ほどの男性スタッフが立っていて、目の前に座ったお客さんと談笑している。

カウンター内も店内も人でぎゅうぎゅうな感じだった。

でもそのぎゅうぎゅう感は全然嫌な感じではなかった。

 

店内は私たちが来たことで満席になった。

狭い店内にお客さんのいろんな声が響く。

 

「あはははは!そうやってんて!!」

「えーーー!なにそれーー!」

「ほんまムカつくわぁー。」

「あんな、昨日な…」

「そんでな、俺がこう言ったんてん!あんな…」

「ほんまですかぁ?!あっはははは!」

「俺ね、今日こんなことがあったんすよ!実は…」

「今日のお客さんほんま最低やったわーもうほんま嫌やわぁー」

 

 

いろんな人の声がわんわんと飛び交う。

 

「うわぁ…」

 

思わず小さな声で言ってしまった。

 

K氏のもとに居た時、新宿のゴールデン街のスナックに何度か連れて行ってもらったことがある。

その時も「うわぁ…」と感じたけれど、それとはまた違った「うわぁ…」な雰囲気がトキにはあった。

 

私はトキの猥雑な雰囲気がけして嫌いではなかった。

というか、むしろワクワクして好きな雰囲気だった。

 

「こんばんわーー!お疲れさまでっす!!理奈さん、ほんま久しぶりですねぇー!淋しかったですよぉー!」

 

一人の男性スタッフがカウンター越しに声をかけてくる。

この人がまぁくんかなぁ…

 

「久しぶりやなぁ。て、誰やったっけ?」

 

理奈さんの言葉に男性は大袈裟にずっこける。

 

「ちょっと!それはないわぁー!信也!信也ですよ!前に一緒に飲んだやないですかぁ!」

 

「え?あははは!そうやったっけ?ごめんごめん。忘れてしまったわ。あはは。」

 

「えーー?!ほんまに言うてます?ショックやわぁ。まぁいいですよ!今夜。今夜覚えてもらいますよ。忘れられない夜にしますよぉ。うっふふふふ。」

 

その信也さんという男性はわざと格好つけてそう言った。

 

「なんやそれ。すぐ忘れそうやわ。あはは!有里ちゃん、何飲む?」

 

理奈さんがそう言うと信也さんはすかさず私の方をみて「有里ちゃんっていうんですか?信也です!!よろしくお願いしまっす!!」と握手を求めてきた。

 

「あ…あはは…有里です。よろしくお願いします。」

 

私は両手で信也さんの手を握り、丁寧な握手をした。

 

「えぇー!なにこれ!!なんですか?!この丁寧な握手は?!感動しましたぁーー!!有里ちゃん!可愛いなぁー。」

 

信也さんは大袈裟に驚いて、大袈裟に私を褒めた。

 

「ビールでええ?ちょっとはよビール持ってきてくれる?喉カラカラやねん。」

 

理奈さんは信也さんの大袈裟なリアクションになんの反応も示さず、ビールを注文した。

 

「あ!そうっすよね!はい!よろこんでーーー!!」

 

信也さんはまた大袈裟に身体を翻して「ピュー!」と口で言いながら狭いカウンターを移動していた。

 

信也さんは大澄○也に似た風貌で、髪をワックスでテカテカに固めていた。

黒いVネックのシャツを着て首には金のネックレスをしている。

腕には高そうな時計をしていてパワーストーンのブレスレットをいくつか巻いていた。

歳は31,2くらい。

 

私は信也さんのオーバーリアクションに若干引いていた。

 

「あの人がまぁくんなのかと思いましたよ。違うんですねぇ。」

 

私は店内の声に負けないように理奈さんに大きな声で話しかけた。

 

「え?あ、あれは違うで。あんな子おったかなぁ?私全然覚えてないわぁ。あはは。」

 

理奈さんはもうすでに私の方を向いて座っている。

ふく田でやっていたように椅子に横座りをして、背もたれに腕を乗せてくつろいでいた。

足もブラブラさせながら。

 

この人はどこに行ってもこのままなんだろうなぁ…

 

理奈さんのその姿を見て私はそんなことを思っていた。

 

「お待たせしましたー!すいません!ビールです!!」

 

信也さんが私たちの前に冷えたグラスを置いた。

手にもった中瓶のビールをトクトクと注ぐ。

 

「ありがとう。じゃ乾ぱーい!」

 

理奈さんが私にグラスを向ける。

 

「あ、乾ぱーい!お疲れさまでした!」

 

カチンとグラスが鳴った瞬間、信也さんが大声で「おーつかれさまでしたぁーーー!!」と言った。

それに返事をするようにカウンター内の男性たちが「おー!つかれさまでしたぁーー!!」と一斉に言った。

 

「ええ?!す…すごい…」

 

私はビールを飲もうとしたときにそんな声が店中に響いて驚いた。

 

「あはは!びっくりしたやろ?うっさいわぁー。」

 

理奈さんは笑いながら何事もなかったかのようにビールをゴクゴクと飲んだ。

私は「あ…はは…すごいですねぇ…」と言った後、理奈さんに続いてビールをゴクゴクと飲んだ。

 

「えと…あの…えーと…」

 

目の前で空のグラスを持ってわざとウロウロしている信也さんがいた。

 

「えーと…あの…あのぉー…」

 

コミカルな動きで空のグラスをアピールしている。

 

「え?飲むん?飲みたいん?」

 

理奈さんがわざとつっけんどんに信也さんに言う。

 

「えぇ?!!いいんですかぁーー?!いやぁ、なんか悪いですねぇーー!!あははは!」

 

「あははは。アホやな。はい、どうぞー。」

 

理奈さんは信也さんにビールをついだ。

 

「いただきます!!」

 

信也さんは元気にそう言うと一気にゴクゴクとビールを飲み干した。

 

「くはぁーーーー!!美味いっす!美女二人を目の前にして飲むビールは美味いっす!!」

 

 

理奈さんは「うっさいわー」と言いながらも楽しそうにしていた。

私は信也さんを見て「あぁーこういうことなのかぁ…」と思っていた。

 

全力で自分の相手をしてくれる男性がここにいる。

それがたとえ仕事だとわかっていてもソープランドという場所でお客さんに気を使った後、ここで誰かに全力で相手をしてほしいという気持ちが湧くのかもしれない。

しかもそれがそこそこ見栄えのいい男性だったりするんだから、それは女性として当たり前の感情なのかもしれないと感じた。

 

 

「理奈さーん、今度ゴハン食べに連れて行ってくださいよぉ。なんか美味しいもの食べたいですよー。」

 

「は?なんで私が連れてかなきゃあかんのよ。」

 

「えぇー、いいじゃないですかぁ。俺と理奈さんの仲やないですかぁ。」

 

「いつからそんなんなったん?!私覚えてなかったけどな。」

 

「え?!!うぅ…あの日の夜のことを忘れてしまったのね…うぅ、ひどい…」

 

「あははは。アホやな。」

 

 

理奈さんと信也さんがふざけているのを横目で見ながら、私は店内の様子を観察した。

 

男性と女性のカップルできているお客さんもいる。

どこかの店のボーイさんなのか、男性1人で来ている人もいる。

私の二つ先の席に座っている女性は1人で来ているようで、真剣に目の前の男性スタッフになにやら相談事をしている様子だった。

その男性スタッフも少し姿勢を前のめりにして、顔を近づけて真剣に話しを聞いている。

 

 

そうかぁ…。

 

私は店内の様子を見て、ますます「なるほど」と思っていた。

 

ここにハマる女性はたくさんいるだろうなぁ。

私がいろんな人に「あそこには行かんほうがいい」と止められた理由がよくわかった。

 

21歳の何も知らないであろう小娘の私がここに来たら、この場所の餌食になってしまうと心配するのは当然だ。

 

店内の喧騒をBGMに私はそんなことを考えていた。

 

その時。

 

「いらっしゃーい!理奈ちゃん!久しぶりやんかぁー!隣のかわいこちゃんは初めての子やろ?紹介してやぁー。」

 

少し酒やけしたような声の男性が、信也さんの横からにゅっと顔を出して元気に話しかけてきた。

 

「まぁくん、久しぶりやなー。元気か?」

 

理奈さんがいつもと変わらないマイペースなトーンで返す。

 

この人がまぁくん?

 

「この子ね、有里ちゃん。可愛らしいやろ?騙したらあかんで。大事な子なんやからな。わかったか?まぁくん。」

 

「有里ちゃん?可愛らしいなぁー!まだ若いやろぉ?よろしくお願いします!まぁくんです!って、何言うてんの!騙すって何よおー!ほんま人聞きの悪いぃー。有里ちゃん、飲んでる?」

 

まぁくんはテンション高く私に挨拶をした。

まぁくんのニコニコした顔はまるで人を騙すようには見えなかった。

 

「あ…有里です。よろしくお願いします。」

 

私はぺこりと挨拶をした。

 

「わーー!なんか初々しぃー!何?まだ入ったばっかりなん?こんな子ぉ久しぶりやー!可愛いなぁー!」

 

まぁくんはぺこりと挨拶しただけなのに大袈裟に驚いていた。

 

「そうやろ?初々しいやろ?有里ちゃんええこなんやで。だから汚したらあかんで!」

 

「ほんまやなぁ。スタッフみんなに言うておくわぁ。」

 

 

これが初々しい?

私が?

 

私はここの男性たちの高いテンションについていけず、そしてそのノリに乗っかれずに一人ちょっと冷めたようなポジションに居続けた。

 

そしてそんな私を信也さんもまぁくんも「初々しい」と言い、「可愛らしい」と表現した。

 

ただこの場所のノリに乗っかれないだけなのに。

 

「そうや。まどかちゃんって最近来てないん?」

 

飲み物がビールから理奈さんのボトルキープしていたウイスキーの水割りに変わって、しばらくしてから理奈さんがまぁくんに質問をした。

 

 

「え?まどかちゃん?」

 

「うん。まどかちゃん。来てる?」

 

そうだ。

それを確認しに来たんだった。

 

 

「来てるで。昨日も来てたで。」

 

 

え?!

昨日も?

 

 

「今日もそろそろ来るんちゃうかな?」

 

 

理奈さんと二人顔を見合わせる。

 

「来るまで待つか。」

 

理奈さんが少し酔っぱらった顔でそう言った。

 

「はい。待ちましょう。」

 

 

まどかさんが来たらなんて言おう。

今まどかさんはどんな状態なんだろう。

 

少し胸がドキドキしていた。

 

 

 

つづく。

 

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