私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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個室の掃除が終わり、階段を降りる。

 

「有里。ちょっとええか?」

 

階段の下にいた富永さんが声をかけてきた。

 

「え?はい。」

 

富永さんは私に近づいてきて小声で話した。

 

「奈々…どうやった?」

 

きっとフロントでも泣いたんだろう。

富永さんがちょっと心配そうな顔をしている。

 

「あー…はい。泣いてましたねぇ。」

 

「おー…そうかぁ。結構泣いとったか?」

 

「うーん…そうですねぇ。でも帰るころには笑ってましたよ。ずっと辛そうにしているわけじゃなかったし…大丈夫やないですかねぇ。」

 

私は詳しい話しはしないように、言える範囲で富永さんに控室の様子を話した。

 

「そうかぁ。まぁよろしく頼むわ。お客さんから上がってきたときはフロントで大泣きしてなぁ…。できるだけ声かけてやってくれや。頼むわ。」

 

フロントで大泣き…

そうだったんだ…

 

「あー…まぁ私でよければ…。」

 

「うん。有里には助けてもらってるわ。ありがとうな。」

 

富永さんは私に向かって軽くペコっと頭を下げた。

 そしてすぐに頭を上げて「理奈が待っとったけど、どこか行くんか?」と聞いた。

 

「あ!そうやった!今日初めて『トキ』に行くんですよー!」

 

私はニコニコしながら富永さんに報告をした。

みんなに「行かない方がいい」と言われていた場所に行けるのはなんだかワクワクする。

自分がその場所で何を感じるのかを知るのが楽しみだった。

 

「え?トキ?…んー…トキかぁ…」

 

富永さんは急に顔を曇らせた。

 

「わしもたまに行くけどなぁ…行かんほうがええんやないかのぉ…。」

 

でた。

『トキ』の名前を出すとだいたいこの反応だ。

自分は行ってるのに。

 

「みんなそう言いますよねぇ。なんでやろう?理奈さんがいっしょやし、大丈夫やないですか?」

 

私がそう言うと冨永さんは「うーん…」と腕組みをして何かを考えているようだった。

 

「まぁあんまりスタッフの男の子と話さなければええやろう…。まぁくんっていうマスターがおるんやけどな、そいつには十分気ぃつけや。ええ奴なんやけどな。この業界でスナックをして長い奴やから口が上手いしタヌキやでな。まぁくんに泣かされた女の子がたくさんおるでな。」

 

へー…

マスターのまぁくんかぁ…

 

これはますます楽しみだ。

 

「はい!わかりましたー!うひひー!」

 

私は富永さんの心配をバカにするようにわざとふざけた返事をした。

 

「わはは。まぁ有里なら平気やろう。ま、楽しんできぃ。」

 

富永さんがやっと笑った。

 

「はい!まどかさんに会えないかと思ってるんです。会えたらどうします?」

 

「おー!そうかぁ。そういうことやったんやな。そうやなぁ…『いつでも戻ってこい。待っとるで。』と伝えてくれ。」

 

「はい。もし会えたら伝えておきます。」

 

「うん。頼んだで。」

 

「はい。」

 

「まぁくんには気ぃつけや。な?」

 

「はい!!」

 

 

 

富永さんに良い返事を返して別れる。

 

ほー

楽しみだぁ。

まぁくんか。

どんな人なんだろう?

 

 

「お待たせしましたー!」

 

控室に入ると理奈さんと奈々さんがなにやら話し込んでいた。

 

あそうか。

奈々さんは今日から日曜日の夜まで控室で寝泊まりするんだった。

 

「あ、有里ちゃん。お疲れー。」

 

「お疲れさまです。」

 

奈々さんはニコニコしながら私に挨拶をした。

さっきの泣いていた時とはまるで違う表情だった。

 

「あ!奈々さん元気になってるやないですかぁ。よかった。」

 

私は奈々さんのニコニコ顔を見て少し安心した。

 

「はい!さっきはすいませんでした。あはは…なんか恥ずかしいなぁ。」

 

奈々さんは少し恥ずかしそうに下を向いた。

 

「恥ずかしい事なんてあらへんで。大丈夫や。な?有里ちゃん。」

 

理奈さんが明るくそう言う。

 

「うん!普通ですよ。この仕事の初日なんですから。私も泣きそうでしたもん!あはは。」

 

私も明るくそう答えた。

 

「あはは…なんか…よかったです。この店で。明日怖いけど…がんばります。」

 

奈々さんが顔を上げて照れくさそうにそう言った。

 

『この店でよかった』

 

私も同じ気持ちだった。

 

 

「うん。また明日な。じゃ有里ちゃん、行こうか。」

 

「はい!奈々さん、じゃまた明日。ゆっくり寝て下さい!」

 

「はい。おやすみなさい。」

 

奈々さんは笑いながらそう言った。

奈々さんが笑っていてよかった。

 

 

「理奈さん、なに話してたんですか?奈々さんめっちゃ明るくなってるやないですか。」

 

裏口から店を出ながら理奈さんに聞いた。

 

「え?世間話やで。なんともない話しやで。あはは。」

 

…これだよ。

理奈さんマジック。

 

「どういうことですか?世間話ってなんですか?」

 

私は理奈さんがどうやって話したのか知りたかった。

世間話ってどうやってするのか知りたかった。

 

「えー?世間話しは世間話しやないの!知らんの?有里ちゃん。あははは。」

 

理奈さんは私の質問に笑った。

でも私はほんとにわからなかったのだ。

『世間話し』とはどういうものなのかが。

 

「具体的に何を話してたんですか?教えてくださいよぉ。」

 

「え?うーんと…そうやなぁ、今日のお客さんはすぐにイってしまって笑いそうになってしまったんやでーとか、さっきテレビで美味しそうなアイスを紹介してて食べてみたいんやーとか、入った頃はマットから落ちたこともあんでーとか、あとはーうーんと、

滋賀県には美味しいラーメン屋さんがないねんなーとか、コンドームが破れることもあるからピルは飲んだ方がええでーとか…まぁいろいろやな。」

 

 

それ…

世間話しですか?

ふり幅デカくないですか?!

 

「あははははは!」

 

私は理奈さんの『世間話し』の内容を聞いて笑い転げた。

 

「なに?私何か面白い事言った?あはは。」

 

理奈さんは私があまりにも笑うのでつられてニヤニヤしていた。

 

「それ、世間話しですか?!コンドームが破れることもあるから…って!それ世間話しじゃないですよ!あははは!」

 

「えー?!そうかぁ?!あははは!」

 

 

私たちはネオンの消えた雄琴の中を笑ながら歩いた。

シャトークイーンからトキまで歩いて3分ほど。

他の店がずらっと並んでいる場所を笑い転げながら歩く。

 

店の片づけをしている他の店のボーイさん達が私たちをチラチラと見る。

女の子がこの村内を歩くことなんてめったにないことだから目立つんだろう。

 

楽しかった。

理奈さんと夜の雄琴村を歩くことが楽しかった。

 

「理奈さん。さっき富永さんから『まぁくんには気をつけろ』って言われたんですよ。そうなんですか?」

 

だんだんトキに近づいていた。

理奈さんからも前情報をもらおうと、私はまぁくんについて質問をした。

 

「え?まぁくん?へー。気ぃつけろって?そうかなぁ?私は別になんともないけどなぁ。ええ人やで。おもろいで。」

 

理奈さんはあっけらかんとしていた。

この人にかかったら誰でも『ええ人』になってしまうんだろう。

 

「ついたで。入れるかな?」

 

 

入口の横に『スナック トキ』と黒い文字が書かれている白い看板。

その看板に蛍光灯の明かりが煌々としている。

上を見上げるとせりだした赤い屋根に大きく『スナック トキ』と書いてある。

薄汚れたその赤い屋根がなんとなく切なく感じた。

 

窓一つない外観からは中の様子がまるでわからない。

 

ここで毎晩いろんなドラマが繰り広げられてるんだろうなぁ…

 

そんなことを思っていた。

 

 

「こんばんわー!入れる?」

 

少し重厚な木製のドアを理奈さんが開ける。

 

「いらっしゃいませーー!!」

 

お店の中から何人もの男性の声が一斉に聞こえた。

 

「あ!理奈さん!久しぶりやないですかー!!入って入ってー!」

 

理奈さんはドアから店をのぞき込んでいた。

その向こうから元気な男性の声が聞こえる。

 

 

初めてのトキでの夜が始まる。

 

 

 

 つづく。

 

 

 

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111 - 私のコト

 

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