私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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次の日。

 

朦朧とする頭を抱えながら小林さんからのTELに出た。

 

「もしもし?ゆきえ?おはよー!」

 

相変わらず元気だ。

 

「うん。おはよう。」

 

「ゆきえ?元気ない?どうしたん?」

 

小林さんは私の声を聞き分ける。

少しでも元気がない様子だとすぐにわかってしまう。

 

「え?ううん。大丈夫やで。」

 

私はまた嘘をつく。

大丈夫ってなんだろう?

 

「そうか?そうならええんやけど…」

 

「うん。昨日な新しい娘が入ってんで。可愛らしい娘でな。」

 

自分の焦りや不安を隠して小林さんに話す。

私のこの醜い感情は誰にも知られたくないし、知られたら絶対に嫌われてしまう。

 

「へぇー!そうなんや。仲良くなれるとええなぁ。」

 

「うん。そうやね。」

 

「まぁいくら可愛らしい言うても、ゆきえにはかなわないやろなぁ。ゆきえが一番やもんなぁ。えへへ。」

 

「え?何言うてんの?」

 

「ほんまのことやもん!ゆきえが一番やー!」

 

「はぁ?」とあきれながらも小林さんの言葉に少し安心してる自分がいる。

「んふふ」と笑いながら喜んでいる自分がいる。

そう言って欲しかったと思っている自分がいる。

小林さんがそんな安心を与えてくれるからこの関係を続けているんだと私は気付いている。

 

…やっぱり私は私が嫌いだ。

 

「ほな!がんばってや!また連絡するわぁ。ゆきえ!大好きやー!」

 

小林さんは全身で『大好き』を伝えてくる。

私が何をしてあげたわけでもないのに。

なんでだろう?

こんな醜い私をなぜ「大好きだ」と言えるんだろう?

 

 

「うん。私も大好きよ。」

 

私はまた嘘をつく。

 

「え?もう一回!もう一回言うて!」

 

「え?なんでぇ?」

 

「ええから!お願い!!」

 

「…んふふ。大好きやで。」

 

「やったぁーー!!これで今日めちゃめちゃ頑張れる!!ほなね!!」

 

 

私は嘘つきで汚い。

この汚さを隠さなければ。

 

シャワーを浴びて化粧を念入りにする。

店に行ってお客さんに入ったらとれてしまうのに。

綺麗な服を着て今日も高いヒールの靴を履く。

 

私の中身を隠すために外側を飾る。

なんとかバレませんように。

 

 

 

「おはようございます。」

 

個室の準備を終え、フロントの富岡さんに雑費を払いに行く。

フロントに下に隠れる様にひざまづき、富永さんに2千円を渡す。

 

「おはようございます。今日からまた新しい子が入るからな。よろしくな。『奈々』や。」

 

『なな』さんは『奈々』と書くらしい。

予約票の名前の欄を見て知った。

 

「もう来てるでな。あいつもおもろい奴やでぇ。変わりもんやな。岐阜県から来てるんや。」

 

「え?岐阜県?どうやって通うんですか?どこかお部屋借りたんですか?」

 

岐阜県…かぁ。

忍さんを思い出す。

今頃どうしてるんだろう。

 

「いや、週末だけここにくるんやけどな、控室で寝泊まりする言うてるわ。」

 

「え?控室で?」

 

「おう。まぁ布団はあるし、風呂は入れるし、台所はあるし…大丈夫やろ?」

 

まぁそうか。

そういえばなんでも揃ってる。

 

「まだ若いんや。20歳やいうてたわ。有里の一個下か?まぁなかよぉやってくれ。頼むわ。」

 

20歳!

初めて年下の子に会う。

 

「そうなんですか?!年下の子、初めてです。」

 

「おうそうか。こういう業界初めてやから、いろいろ頼むわな。」

 

「はい。こちらこそお願いします。」

 

 

どんな子だろう?と思いながら控室に向かう。

 

ドアを開けると目の前に理奈さんの背中が見えた。

 

「おはようございます!」

 

理奈さんの向かいに杏理さん、その隣にさつきさん。

そして一番端の席に見慣れない顔の子がちょこんと座っている。

 

「おはよう、有里ちゃん。」

 

理奈さんが振り返って私に挨拶をした。

 

「あ、有里さん…おはようございます。」

「おはよう有里ちゃん。」

 

さつきさんと杏理さんが挨拶を返す。

 

「あ…おはようございます…」

 

一番端にすわっている子がおどおどと小さな声でぺこっと挨拶をした。

 

「おはようございます。奈々さん?有里です。よろしくおねがいします。」

 

私は笑顔で明るく挨拶をした。

 

「あ、奈々です。よろしくお願いします。」

 

奈々さんは猫背の姿勢でペコっともう一度軽く頭を下げた。

 

顔には出さなかったけど奈々さんの姿を見て私は正直驚いていた。

 

奈々さんの髪は、ショートカットで軽く毛先がはねるようなパーマをかけている。

そして青く染めていた。

綺麗な青色だった。

そして鼻と唇には小さなピアスが一つずつ。

耳にはすごくたくさんのピアスがついていた。

 

目は細く、涼し気な印象をあたえている。

鼻筋は綺麗にとおり、肌は抜けるような白さだった。

すこしぽっちゃりとした身体に黒いタンクトップを着ている。

タンクトップから出た二の腕にはよくわからない言葉のタトゥーが入っていた。

 

おぉ…

パンクだ…

 

ソープランドに似つかわしくない風貌。

でもそれがなんとなくカッコ良く見えた。

 

…なんだか話しかけ辛いな…

 

私がそう思っている時、理奈さんがあっけらかんとこう言った。

 

「奈々ちゃんパンクやろぉ?すごいやろぉ?有里ちゃんびっくりしてるんちゃう?あははは!」

 

うお!

恐るべし理奈さん!

無邪気にはかなわない。

 

「はいぃ。ちょっとびっくりしました。でも…奈々さんカッコいいですねぇ。」

 

「ほんま、カッコええやんなぁ。私もおへそにピアスしたいんやけどな、痛いやろ?奈々ちゃん、鼻とか唇とか痛いやろ?」

 

理奈さんはぐいぐい奈々さんに質問をする。

それがほんとに嫌味がなく、私はやっぱりそんな理奈さんを尊敬してしまう。

 

「痛いんですよぉ。唇はほんとに痛かったです。あ、おへそにもやってるんですけどおへそも痛いですよぉ。」

 

「うわぁー。やっぱりそうかぁ。痛いんかぁ。」

 

「でも私の友達にココにやった子がいて。そっちの方がもっと痛かったって言うてました。あはは。」

 

奈々さんは「ココ」と言いながら自分の股を指差した。

 

「えぇ?!ココって?!どこですか?!」

 

思わず聞いてしまった。

ココって?!

 

「ココのビラビラのとこですよぉ。」

 

えぇ?!

小陰唇ってこと?!

 

「嘘っ?!なんで?!なんでそんなとこに?」

 

「あははは。なんかカッコいいって思ったんやないですかぁ?めっちゃくちゃ痛かったらしいですよ。あははは。」

 

奈々さんはちょっと“陰”な雰囲気を漂わせながら笑った。

少し伏し目がちで口を少ししか開けないしゃべり方をしていた。

でも口調は気さくで素朴な感じを受けた。

 

「おもろいなぁ。奈々ちゃんはパンクとかが好きなん?」

 

理奈さんが笑いながら聞いた。

 

「え?いや…ロックが好きですね。今バーテンダーもやってるんですよ。ロックバーみたいなところで。」

 

「へぇー!そうなんやー!じゃあお酒も好きなん?」

 

「そう…ですねぇ。でも弱いんですよ。カクテルとか作るのが好きです。」

 

「へー!カッコいいなぁ!」

 

「ほんとカッコいい!」

 

ほとんど私と理奈さんが奈々さんと話していた。

杏理さんはたまにこっちを向いて「へぇー」と言うくらい。

さつきさんはニコニコしながら頷いたりボーっとしたりしていた。

 

「さつきちゃんは昨日どうやったん?大丈夫やった?」

 

理奈さんがさつきさんに話しをふる。

その流れもすごく自然だった。

 

「え…?えと、あの、はい…。有里さんにとても親切にしてもらって…助かりました。

でも全然なんにもできなくて…。あ、でも優しいお客さんで…あの、よかったです。えへへ…。」

 

たどたどしい話し方。

はっきりしない口調。

最後に「えへへ…」でごまかす感じ。

そのどれもが私を少しイラだたせた。

ほんの少しだけ「可愛いな」とも感じていたけれど。

 

 

「さつきちゃんはおっとりしてるなぁー!あはは!可愛らしいなぁ!昨日からずっとこうなん?有里ちゃん?」

 

理奈さんは明るくあっけらかんとさつきさんのことを指摘した。

これまたなんの嫌味もなく。

 

「あはは。そうですよぉ。昨日なんて髪の毛も顔もびちょびちょのまんま上がってきたんですよぉ!で、それを全く拭こうとしないんですよ!びちょびちょのままずっと座っててびっくりしましたよぉ!あはは!」

 

「えぇ?あははは!そうなん?変わった子ぉやなぁ!それでどうしたん?」

 

「言ってもまるで拭こうとしないから私がタオル持ってきて渡したんですよ。」

 

「えへへ…。そうなんです…有里さんに何度も手間かけさせちゃって…えへ…」

 

「で?有里ちゃんが拭いてあげたんか?あはは。」

 

「さすがに自分で拭いてましたよー!ねぇ?さつきさん?」

 

「えへへ…自分で拭けました…えへへ…」

 

「自分で拭けたん?!すごいやんか!あっはははは!」

 

理奈さんは可愛く優しくさつきさんをいじった。

そのやりとりで私のイラだちはスーッと消えていた。

 

さすが理奈さんだな…。

これはなかなか真似できないなぁ…。

 

私は理奈さんのすごさを何度も確認させられた。

これを素でやっているところがほんとにかなわない。

自分でこのすごさに気付いてないところがまたすごい。

 

 

「おー。奈々。そろそろやるかぁ。」

 

控室のドアが開いてクマさんがノソっと入ってきた。

 

「あ、クマさん。これから研修か?」

 

理奈さんがクマさんに話しかける。

 

「そうや。働きもんやろ?忙しくてなぁ。んっふふ。」

 

クマさんが相変わらずのしわがれ声で言う。

 

「そんなわけないやろぉ。クマさんが忙しいわけないやんかぁ。あはは。」

 

「奈々さんのこといじめたらあかんよ!優しくやで!」

 

理奈さんと私でクマさんをいじる。

 

「なんやぁ。またそんなん言うて。いじめたことなんてないやろぉ。な?杏理。」

 

クマさんはこっちを見ていた杏理さんに助けを求めた。

 

「え?クマさん、ちゃんとやらなあかんで。ちゃんとやってるんか?」

 

杏理さんは冷たい口調でクマさんに言った。

 

「なんや。杏理は冷たいなぁ。」

 

クマさんが笑いながら拗ねた口調でそう言うと、杏理さんが「あははは。」と笑った。

 

「さつき、昨日いじめてないやろ?ちゃんとやったやんな?な?」

 

今度はさつきさんに助けを求めた。

 

「え…えと…はい。…たぶん…」

 

「あはははは!」

「多分てなに?あははは。」

「お前!多分はないやろ?!」

「ちゃんとやってないんやんか?!あははは」

 

 

控室中に笑い声が響く。

 

…楽しいなぁ…

私、ここの一員でいたいな…

 

理奈さんの存在は大きい。

理奈さんがいるだけでなんとなく楽しくここがまとまる感じがした。

 

 

「じゃ、行こうか。奈々。」

 

「はい。お願いします。」

 

奈々さんが少し緊張した顔で立ち上がる。

 

「がんばってな!」

「がんばってくださいね!」

「クマさんが変なことしたら怒ったらええで。な?」

「奈々さん…がんばって…ください…」

 

みんなで奈々さんを送り出す。

 

「はい。行ってきます!」

 

「いってらっしゃい!」

 

 

シャトークイーンの控室がだんだん賑やかに楽しくなっていっている。

 

ぐるっと控室を見回す。

 

ここにまどかさんがいたらもっと楽しくなったはずだ。

 

そんなことを考えてた時、理奈さんが私の耳元でこう言った。

 

「今日トキ行ってみような。まどかちゃんに会えるかもしれんし。な?」

 

「はい!お願いします!」

 

 

今夜初めて『トキ』に行く。

どんなところなんだろう?

まどかさんが入り浸っている場所は。

 

 

つづく。

 

 

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109 - 私のコト

 

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