私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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火曜日の夜、小林さんは仕事が終わったら急いで私の部屋に来る。

そして水曜日一日一緒にいて、木曜日の朝私の部屋から出勤する。

なんとなくそれが当たり前になりつつあった。

 

木曜日の朝。

小林さんがポツリとこう言った。

 

「今日もここに帰ってきたいなぁ…」

 

私に言っているのか独り言なのかわかりづらいほどの小さなつぶやき。

まぁ…私に言っているんだろうけど。

 

私はそのつぶやきを無視した。

聞こえないふりをした。

 

小林さんは一緒に暮らしたいと思っているみたいだ。

私は…

…うーん…

 

確かに仕事を終えて帰って来た時に小林さんがいてくれたら淋しくないし、ストレスかくる「食べ吐き」を抑えられるかもしれない。

小林さんは優しいし、私の話もゆっくりと聞いてくれる。

それに何よりいつだって私の行動を制しようとはしないし、味方でいてくれる。

 

でも…

やっぱりそこには「愛情」はない気がした。

最近口では「大好きだよー!」とは言うようになった。

言うと小林さんがへにゃへにゃな顔をして喜ぶから。

ただそれだけ。

私のことを好きでいるんだなぁとか、必要としてるんだなぁということを感じたいが為に言っているだけだ。

 

そしてそんな自分を「打算的な嫌なやつだ」と心の中でけなしていた。

 

 

「じゃあ…行ってきます…」

 

淋しそうに出かける小林さん。

 

「うん。そんな顔しないの!!いってらっしゃい!」

 

私はこの後一人になれることを内心喜んでいる。

なので小林さんの淋しさがわからない。

 

「うん…じゃあ、また電話する。」

 

「うん。」

 

玄関でいってらっしゃいのキスをして送り出す。

 

 

「今日もここに帰って来たいな…」のつぶやきについては2人とも触れず、

小林さんは仕事に出かけて行った。

 

 

「一緒に暮らす…かぁ…」

 

 

1人になった部屋で独り言を言う。

 

「まぁ…それもいいかなぁ…」

 

なんとなくそんな気になってきた。

どうせ来年には殺されちゃうかもしれないんだし、『同棲』という経験をしてみてもいいのかもしれない。

小林さんはその話しも知っているし、私がその前提で今生きていることも承知だ。

それでも一緒に暮らしたいというなら、それもいいかもしれない。

 

 

出勤の時間。

今日から新しい女の子が入ってくる。

私はワクワクしながら店に向かう。

 

個室の準備をし、フロントへ立ち寄る。

 

「おはようございまーす!」

 

フロント横のカーテンを開け、椅子に座っている富永さんの横に正座をする。

お客さんが来ても見えないようにカウンターより下に隠れるのが決まりだ。

 

「おう。おはようございます。」

 

富永さんはくるりと椅子をこちらに向け、私の方を見た。

雑費の2千円を富永さんに渡す。

 

「もう来てるからな。新人が。有里、よろしくな。」

 

「え?もう来てるんですか?」

 

「うん。今日は1人じゃ。明日もう一人来るからな。頼むわ。」

 

「はい。こちらこそです!何さんですか?」

 

「今日の来てるのは『さつき』じゃ。明日来るのは『なな』。

今日のはあれやぞぉ~。おもろいでぇ。わはは。もうなんや、わけがわからんぞ。

ええコやけどな、もうなんちゅうか、おもろいでぇ。わはは。」

 

富永さんは口に手を当てながら面白そうに笑った。

 

「え?あはは、どういうことですか?何がそんなに面白いんですか?あはは。」

 

富永さんがあまりにも楽しそうに、面白そうに笑ったので釣られて笑ってしまう。

 

「わはは。ああいうのを『天然』っていうんやろうなぁ。おもろいでぇ。会うたらわかるわ。わはは。」

 

「あはは。そうなんですか。たのしみやなぁ。あれ?今日研修ですか?」

 

「そうや。クマさんもあれは困るんやないかのぉ。わはは。」

 

富永さんはずっと楽しそうに笑っていた。

どうやら新しい子は相当な『天然ちゃん』らしい。

 

「じゃ、そういうことで今日もよろしくお願いします!あ、もう予約入ってるからな。もうすぐ来るわ。」

 

「あ、はーい。よろしくお願いします。」

 

 

控室に向かう。

 

どんな子だろう?

富永さんがあんなに笑うくらいの天然っぷりってどんなんだろう?

 

 

「おはようございます!」

 

控室のドアを開けると炬燵の隅っこにちょこんと座っている女性と、その横で背中を丸くしてテレビを見ているクマさんの姿があった。

杏理さんはまだ個室から戻ってきていない。

 

「あ…おはようございます…」

 

小さな声でその女性が挨拶をしてきた。

 

「おはようございます。さつきさん?ですか?有里です。よろしくお願いします。」

 

「あ…え…と…はい…。おねがいしますぅ。」

 

さつきさんはぺこりとお辞儀をしながら小さな可愛らしい声で返事をした。

 

さつきさんは真っ白と言っていいほど色白な女性だった。

小さな顔に大きな目、通った鼻筋にさくらんぼのような唇。

まっすぐで綺麗な黒髪をショートカットにしている。

その綺麗な顔立ちは『端正』という言葉より『小動物のような、お人形のような可愛らしさ』を感じさせた。

年齢は…多分20代半ばか後半くらいに見えた。

 

全体的におどおどとした態度のさつきさんは守ってあげたくなるような雰囲気だった。

 

 

「クマさん、あんまりいじめんといてなぁ。」

 

私はこれから始まる研修のことが心配になった。

こんなにおどおどしているさつきさんがあの研修に耐えられるのか。

 

「なんだよぉ有里。お前の時いじめてなかったやろぉ?」

 

クマさんはしわがれ声で笑いながらそう言った。

 

「だって…初めてなんやろ?こういう業界。優しくせなあかんよぉ。」

 

「俺は優しいやろ?なんや?有里ぃ。」

 

クマさんは笑いながら私の太ももをグッと掴んだ。

 

「ちょ…!やめてやぁー!あははは!」

 

 

クマさんとはもうこんな感じの会話ができるようになっている。

いつもクマさんはことあるごとに私にちょっかいを出して来るようになっていた。

 

「さつきさん、研修がんばってくださいね。クマさんがいじわるしたらぶってもいいですから。あははは!」

 

「なんやてぇ?いじわるなんてせんやろがぁ。こいつはぁ。ははは!」

 

クマさんは私の脇腹をくすぐった。

 

「ちょ!ほんま止めてやぁ!もー!」

 

さつきさんはそのやり取りをニコニコしながら見ていた。

すごくのんびりとした感じだった。

 

「じゃ、さつき。行くか。」

 

クマさんがそう言いながら「どっこらしょっと」と腰をあげた。

 

「はい。お願いします。」

 

ゆっくりと立ち上がるさつきさん。

 

「いってらっしゃい。がんばって!」

 

私はなんとなく心配でもう一度声をかける。

 

「はい。んふふ…緊張します。」

 

さつきさんは「んふふ」と笑いながら肩をすくめるような仕草をした。

 

ほんとに大丈夫かなぁ…。

 

 

「おはようー!」

 

杏理さんが個室から降りてきた。

 

「あ、おはようございます。」

 

「あ…おは…ようございます…」

 

立ち上がったさつきさんがおどおどと挨拶をする。

 

「あれ?新人さん?さつきちゃんだっけ?よろしくおねがいします。杏理です。」

 

杏理さんは多少ぶっきらぼうに見えなくもない態度で挨拶をした。

 

「あ…はい。さつき…です。よろしくおねがい…します。」

 

ぺこりと頭を下げて、おどおどともう一度あいさつをするさつきさん。

 

「うん。研修?がんばってな。クマさん、いじめたらあかんよ!」

 

あははは!

杏理さんに同じこと言われてる。

 

「なんやお前たちはぁ。いじめたことなんかないやろぉ?」

 

クマさんはニヤニヤ笑いながら答える。

 

「じゃ…いってきます…」

 

さつきさんは猫背の姿勢でひょこひょことクマさんの後を着いて行った。

 

 

「…大丈夫なん?あれ。」

 

杏理さんが冷たい口調で言う。

 

「んー…なんか心配になっちゃう人ですよね。あはは。」

 

私は笑いながら答えた。

 

「ほんまやな。長くないんちゃう?」

 

杏理さんはいつだってこういう口調だ。

でもほんとは優しい人なんだけど。

 

「どうでしょうねぇ…。がんばってほしいけどなぁ。」

 

 

「有里さん、有里さん。」

 

スピーカーから声が聞こえた。

 

「はい。」

 

「お客様です。スタンバイお願いします。」

 

「はーい。」

 

 

さつきさんのことも心配だけど今は人のことを心配している場合じゃない。

私は人の心配が出来るような立場じゃないんだから。

 

手に汗が滲む。

心臓がバクバクいい始める。

逃げ出したい衝動に駆られる。

 

 

「ふぅ~…」

 

 

今日も私の闘いが始まる。

 

 

 つづく。

 

 

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104 - 私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

 

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