私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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小林さんと火曜日の夜から水曜日まで一緒に過ごした。

朝、私が淹れたコーヒーを一緒に飲み、お昼前には私が作ったゴハンを一緒に食べた。

夜は一緒にタクシーで行きたかった近所にある割烹に行った。

 

小林さんは終始優しく、そして私を抱こうとはしなかった。

 

「ゆきえ。俺、ほんとは抱きたいけど…そんなことより一緒にいたいだけやから。毎日身体大変やろ?だから抱かないから。でも一緒にいさせてくれるか?」

 

そんなことを夜寝るときにつぶやくように言っていた。

私はそれを聞いて「そうなんだ…」と「ありがとう」と「いいよ。」の言葉を言った。

 

水曜日の夕方。

小林さんは「帰りたくない」と言った。

 

「明日ここから出勤してもええか?ワイシャツもパンツもシャツもゆきえが洗濯してくれたから大丈夫やし…」

 

火曜日小林さんはスーツでここに来ていたからそのスーツで出勤すればいい。

私は断る理由が見つからず、「ええよ。」と答えていた。

そてに付け加えて「お弁当とか持ってく?」なんて言ってしまっていた。

 

「え?!ええの?お弁当?!持ってく持ってく!!」

 

小林さんは飛び上がってしまうんじゃないかと思うくらい喜んだ。

私はその姿を見て「喜んでるなぁ」と思い、そして少し自分の存在が認められたような気分になっていた。

 

小林さんは全身で『私の存在を肯定してくれる人』だと感じていた。

そしてそこにちょっとだけ“居心地の良さ”を見出している自分がいた。

 

そこには小林さんへの『愛』や『大好き』はほとんどないのだけれど。

 

 

木曜日の朝。

私はかなり早起きをして小林さんへのお弁当を作った。

ごはんを炊き、おかずを3品ほど。

 

お弁当作りは思いのほか楽しく、自分が『ちゃんとした女性』になったような気持にさせてくれた。

 

「おはよう~」

 

眠い目をしょぼしょぼさせながら小林さんが起きてくる。

 

「おはよう。そこにタオル用意してあるからね。着替えはそこね。」

 

「うん。ゆきえ。ありがとう。」

 

お弁当の用意とコーヒーの準備をしている私に小林さんは後ろから抱き着いてきた。

 

「え?うん。」

 

「ゆきえ~、ゆきえ~。大好きやぁ~。」

 

後ろから抱き着いたままほっぺをくっつけてくる。

まるで子犬のようだ。

 

「んふふふ。はよ顔洗っておいでー!」

 

私はこの新婚ごっこのような時間が演技じみているように感じながらも、少し幸せな気分になっていた。

 

「はーい!」

 

小林さんは「いいお返事」をしながら洗面所に向かった。

 

 

 

 

「いってらっしゃーい!」

 

「うん。行ってきまーす!またTELするわー!」

 

 

玄関で小林さんを送り出す。

 

パタン。

 

ドアが閉まる。

 

「…ふぅ。」

 

笑顔が一瞬で真顔に変わる。

 

テーブルの上を片づけ、キッチンの食器を洗う。

 

「…はぁ…」

 

片付けを終え、ソファーに座るとため息とともにどっと疲れが出た。

 

テレビをしばらくボーっと見ているとお腹が空いてきた。

 

「そうだ…」

 

私は小林さんに作ったお弁当の残りを綺麗にお皿に並べ、お味噌汁を作った。

 

ごはん、おかず、お味噌汁…

 

ランチョンマットを敷いて、綺麗に並べる。

 

ここ2日間『ちゃんとした女性』を出来たんだから、一人になってもきっと出来るはずだ。

 

「いただきます。」

 

きちんと手を合わせ、ゆっくりとごはんを噛みしめる。

 

「美味しいなぁ…」

 

そう思いながら、ゆっくりと食べてみる。

 

ごはんをちゃんと食べるってきっとこういうことなんだろうなぁと思いながら、お茶を飲む。

 

でもその時間はやってきてしまった。

食べすすめていけばいくほどお腹がいっぱいになっていく。

当たり前の話だしそうならなければ困るのに、私にとってその時間はとても恐ろしいものだった。

 

お腹がいっぱいになってしまった…

 

「ごちそうさま…でし…た…」

 

そう言いながら、私の頭の中は『食べ吐き』の計画でいっぱいになっていた。

炊飯器にごはんがあとどれくらい入っているか、おかずはあるか、パンは何枚あるか…

 

バッ!とテーブルから立ち上がり、どんぶりにごはんを山盛りよそう。

冷蔵庫から昨日の残りものをあるだけ取り出し、今朝小林さんに出そうと思っていたパンをオーブントースターに2枚入れる。

バター、砂糖、卵、マヨネーズ、チーズ…

普段制限しているものたちをつぎつぎとりだし、すぐに口に運べるようにテーブルの上に放り出す。

 

目を見開き、どんどん口に詰め込む。

お水を途中でガブガブ飲み、また次々と口に詰め込む。

 

目から涙が出てくるくらいお腹をパンパンにする。

 

限界がきた。

 

「うぅ…」

 

大き目のスプーンを片手にギュッと持ちトイレに駆け込む。

トイレットペーパーをスプーンにグルグル巻きにして喉の奥へ突っ込む。

 

「おえ」という声もでないほどスムーズに嘔吐できる喉のポイントと、突っ込む物の太さや大きさがわかっている自分が惨めだった。

 

 

「ふぅ…」

 

胃の中の物を全て吐き出し安堵する。

 

時計を見るとまだ10時だった。

 

「…1時間は寝られるかな…」

 

嘔吐のあとに来る異常なほどの眠気がだんだん近づいていることを察知する。

意識が朦朧とし始める中、私は自分を責める。

 

やっぱり『ちゃんとした女性』になんてなれないんだ。

なんてひどいことをやっているんだ。

小林さんに見せている私の姿なんて嘘ばっかりの姿じゃないか。

 

私は相変わらず醜くて汚い。

こんなぐちゃぐちゃな私を好きになる人なんているわけない。

 

「…眠い…」

 

今日も私は演技をするんだ。

綺麗でいい女のような振る舞いを意識して頑張るんだ。

こんな醜い姿が1ミリもバレないよう頑張るんだ。

 

「…眠い…」

 

私はまどろむように眠った。

 

 

ガンガンする頭の痛みを見ないふりをして出勤の支度をする。

 

「今日は木曜日か…」

 

化粧をしながら確認をしてがっかりする。

木曜日は理奈さんがお休みの日だ。

 

綺麗めのワンピースを着てストッキングを履く。

高めのヒールを履いて背筋を伸ばす。

玄関に置いてある姿見に自分の姿を映す。

 

…さっきと全く違うな…

 

さっきのボロボロの自分とはまるで違う自分がそこには映っていた。

 

私はその自分の姿からサッと目を逸らし、勢いよくドアを開けた。

 

 

私はこれから『シャトークイーンの有里ちゃん』の時間を過ごすのだ。

 

コツコツと音を鳴らして階段を降りる。

さっきのボロボロの私はどこかに行ってしまった。

今私はソープ嬢の有里ちゃんなのだ。

 

「シャトークイーンまでお願いします。」

 

タクシーの運転手さんに行先を伝える。

 

「はい。わかりましたー。おねえさん、シャトークーンの人なの?綺麗やなぁ。」

 

「え?そうですよ。えー!ありがとうございます。」

 

「おねえさんみたいな人がいるなら行きたいなぁ。今度お願いしてもいいですかぁ?」

 

「ほんとですかぁ?そう言って来ないくせに!」

 

「いやいや!絶対行きますって!名刺もらえませんか?」

 

「名刺持ってないんですよー。有里です。シャトークイーンの有里。」

 

「有里さんね!覚えておきます。ほんまに行ってもいいです?」

 

「もちろんいいですよー!ほんまに来ます?」

 

「めちゃくちゃタイプなんですよ!ほんまに行きますって!」

 

「あははは。お待ちしてます♡」

 

 

私はさっきまでのボロボロのゆきえじゃない。

こんな会話のできるシャトークイーンの有里だ。

 

今日も一日が始まる。

 

 

つづく。

 

 

 

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