私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「有里ちゃん。ほんまにまっすぐ帰るか?」

 

中川さんが前をまっすぐ見ながらそう口を開いた。

 

「え?」

 

ふと前方を見ると『琵琶湖ロイヤルホテル』と書かれた看板が見えた。

 

行きの車中、(へーこんなところに割と大き目なホテルがあるんだー)と思いながら見ていた場所だった。

通り過ぎざまに入口を見た時、キラキラと光っているシャンデリアが印象的だった。

 

 

「ここでゆっくりお茶でもして行かへんか?」

 

 

あぁー…

中川さん…

言っちゃったかぁ…

 

私は一瞬でガッカリとした気持ちと嫌悪と胸のドキドキがない交ぜになったような気分になった。

 

 

「えーと…いや、帰ります。」

 

 

ドキドキしながらお断りの言葉を言う。

中川さんの反応を気にしながら。

 

 

「そうか。…ちょっとだけやで。」

 

 

はぁ…

 

食い下がってきたおじいちゃんに腹立たしさすら感じる。

 

「いや、すいません。帰ります。」

 

「すいません」と言ってしまった自分が悔しい。

中川さんの方を見ずにじっと返事を待った。

 

 

「そうか。残念やなぁ。」

 

 

中川さんはニコニコとニヤニヤを混ぜたような笑顔を崩さずにそう言った。

 

少しだけ吐き気がした。

さっき食べたお昼ご飯でお腹がいっぱいになってることに嫌悪感を抱いていた。

中川さんの発言にショックを受け、その嫌悪感は更に増した。

 

小林さんが来る前に「食べ吐き」をしてしまいたい。

この胃の中にある食べ物を全部出してしまいたい衝動にかられていた。

 

早く帰りたい。

早く。

 

 

車の中には居心地の悪い空気が流れていた。

さっきまであんなに饒舌だった中川さんもずっと無言だった。

 

 

マンションの前に到着すると時刻は17時少し前だった。

 

 

「ほな。有里ちゃん。またな。」

 

 

中川さんは車から降りてトランクから紙袋を出してくれた。

さっき買ってくれた信楽焼きが入っている紙袋だ。

 

 

「あ…今日はほんまにありがとうございました!」

 

私は笑顔で深々と頭を下げてお礼を言った。

 

「うん。楽しかったわ。」

 

中川さんも笑顔でそう言った。あと…

 

「今度はお茶しような。」

 

といっそうの笑顔で言った。

 

私はその言い方とニヤけた顔に寒気がした。

 

「え…あはは…」

 

笑うしかなかった。

きっと引きつった笑いだっただろう。

 

「ほなな。また店行くわ。」

 

中川さんが片手を上げて運転席にスッと入っていく。

 

「はい。お待ちしてます!ありがとうございました!」

 

「うん。じゃ。」

 

中川さんは窓を開けてもう一度手を上げた。

 

車の姿が見えなくなるまで見送る。

その間、私の吐き気はどんどん増していた。

 

車の姿が見えなくなると、急いで踵を返してマンションの方に走る。

 

早く。

早く。

 

郵便受けを確認する。

 

鍵が…ない…

 

小林さんがもう来てるんだ。

 

はぁ…

なんであんなこと言っちゃったんだろう…

 

これで家に帰っても「食べ吐き」はできない。

 

「き…気持ち…悪い…」

 

吐き気が増す。

お腹いっぱい食べてしまった罪悪感からくる吐き気なのか、中川さんへの嫌悪の吐き気なのか、それとも小林さんがいることへの拒絶なのか…

もうわからない。

 

とりあえず走って階段を上る。

 

ガチャ。

 

ドアを開ける。

 

 

「お帰りーーー!」

 

 

リビングと廊下を仕切るドアの向こうから元気な声が聞こえた。

 

ガチャ!

 

「ゆきえ!お帰りー!」

 

小林さんが満面の笑顔で私を出迎えた。

 

「うん…ただいま…」

 

「え?どないしたん?大丈夫か?ゆきえ?」

 

私の様子を見て、小林さんの表情がサッと変わる。

 

「う…ん…。ちょっと気持ち悪いから…トイレ行ってくるね…」

 

「うん。うん。行っといで。こっちで待ってるから。」

 

小林さんは私の腕を持ち、抱える様にトイレに運んでくれた。

 

 

「うえ…おえーー…うぅ…おえっ…」

 

口に指を突っ込み、できるだけ胃の中の物を出す。

 

人差し指と中指、二本の指を喉の奥に入れてもあまりもどせなくなってる自分にイラつく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃな顔をトイレットペーパーでぬぐう。

少しすっきりした。

 

でも、なんだか泣けてきていた。

 

「うぅ…うぅ…うー…」

 

リビングにいる小林さんに泣いてることを気づかれたくない。

自分でなんで泣いてるかわからないのに、泣いてる理由を説明なんてできないから。

 

声を殺して泣く。

自分の部屋なのになんで声を殺して泣かなきゃいけないんだろう?と思いながら。

 

「ゆきえー?大丈夫か?」

 

遠くで声が聞こえる。

 

「う…ん…大丈夫…」

 

涙をサッと拭い、返事をする。

 

「なんか持ってきた方がいいものある?お水とか…拭くものとか…って…場所わからんな…」

 

小林さんがドアのかなり向こうでブツブツ言っている。

心配してウロウロしてるのが手に取るようにわかる。

 

「もう出るから大丈夫。ありがとう。」

 

トイレからそう返事をすると「そう?じゃ俺向こういってるから!なんかあったらすぐ呼んで!」といそいで部屋の戻って行った。

私を気づかっての動きだった。

 

「ふ…ふふ…」

 

ワタワタしている小林さんの動きがなんだか可愛く感じて笑ってしまった。

 

 

トイレから出て、顔を洗い口をゆすぐ。

 

「ふぅ…」

 

吐いて泣いてすっきりした。

 

「よし。」

 

タオルで顔を拭いて頷く。

 

 

「ごめんなぁ。急に気持ち悪くなってしまって。ほんまごめんやで。」

 

笑顔でそう言いながらリビングに入る。

 

「もう平気なん?なんかあったん?」

 

小林さんが私の前に駆け寄り、心配そうな顔で見る。

 

「う…ん。まぁなぁ…」

 

私は苦笑いで答える。

 

「なに?なにがあったん?」

 

小林さんは私の腰を抱き、ソファーへと誘導した。

 

「うーん…あんな…」

 

私は今日の出来事を小林さんに話した。

 

「…だから言うたやん。そうなるんやないかと思ったんや。うわ…。なんか俺、腹立ってきたわ。なんやねん、そのおっさん。大事なゆきえになにさらしてるんや。うーー。あかん。それあかん。」

 

 

小林さんはしばらく憤慨していた。

私はその姿を見て…

 

「ふーん…」と思っていた。

 

『大事なゆきえ』?

 

へー…

そうなんだ…

 

「ゆきえ…大変やったなぁ。平気か?」

 

小林さんは心配そうな優しい顔で私を見た。

 

「ぎゅってしてもいいか?今触られるのいや?」

 

優しい気遣いの言葉。

 

「ううん。大丈夫。」

 

私がそう答えると、小林さんはぎゅっと私を抱きしめた。

 

「もう行ったらあかん。お客さんと出かけたらあかんよ。俺心配やもん。ゆきえが嫌な思いするん嫌やもん。」

 

抱きしめながら何度もそう言った。

 

私は…

 

「うん。そうやね。」

 

と言いながら、「嘘ばっかり。私のことなんて心配じゃないでしょ?」と思っていた。

 

小林さんが優しい言葉をかけてくればかけてくるほど、私の心は閉ざされていくような感じがしていた。

 

 

「…ゆきえ…大好きや…」

 

 

小林さんの言葉がすごく遠くに聞こえた。

 

 

 

つづく。

 

 

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99 - 私のコト

 

 

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