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女の子が4人…
私はその事実にちょっとひるんだ。
どうやってお店の生計をたてているんだ?
富永さんと上田さんがボーイ、高橋さんが店長…
裏方が3人に女の子が4人って…
あ!
クマさんが社長だった!
社長…?
クマさんが…?
こういうお店はだいたい裏にヤ○ザさんが絡んでるときいていた。
クマさんがヤ…には見えない。
うーん…
クマさんは相変わらずまどかさんのとなりで仰向けに寝っ転がっている。
「ちょっと!クマさん!やめてよぉ~」
ときおりまどかさんがカラダをくねらせて文句を言っている。
こたつの中で足を触ったりしているみたいだ。
…うーん…
「よし。じゃ、行くか。」
クマさんがムクッと起き上がった。
「そうや!さっさと仕事しぃ!」
まどかさんがクマさんに厳しい口調で言う。
「なんやぁ~、今してきたやろー?なぁ?有里。」
「は?!はいはい!」
確かにガッツリしてもらった。
あんなにたくさん。
「はいはい。よぉがんばったなぁ!はよ行ってやー。」
まどかさんはからかうような口調でクマさんを追い出そうとする。
「はははは!なんやぁ?まどかは冷たいのぉ。じゃ、有里。またな。」
クマさんはひょうひょうとした歩き方で控室から出て行った。
クマさんと入れ替わりで杏理さんが帰ってきた。
「上がりましたー。」
「お上がりぃ。」
「お上がりなさい!」
まどかさんと私で答える。
この「お上がりなさい」も2人じゃ淋しいなと感じた。
「あ、有里ちゃん。研修終わったん?大丈夫やった?クマさんちゃんとやってくれたん?」
杏理さんがサバサバとした口調で話しかけてくれた。
「あ、はい。大丈夫です。」
「そうかぁ。今日お客さん入るんやろ?」
「はい…。そう…みたいです。」
私はつい不安そうな顔をしてしまった。
「緊張してるん?大丈夫やって!有里ちゃん、若いし可愛らしいからお客さん喜ばはるって!」
杏理さんが座椅子に座りながら私に励ましの言葉をかけてくれた。
「私なんかさぁ…」
座ったとたん、杏理さんは愚痴を言い出した。
「どうしたん?杏理ちゃん。」
まどかさんが杏理さんの方をグッと向いた。
「またや。またお客さんに嫌味言われたんや…」
杏理さんは「はぁ…」とため息をついた。
「なに?またなん?気にせえへんでええって!」
まどかさんが演技じみた口調で励ます。
「そうはいってもなぁ…やっぱり手術しようかと思うわぁ…」
え?!
手術?!
嫌味?
「え…?手術って…どこか悪いんですか…?」
私は聞いてもいいものかと思いながらも、気になって聞いてしまった。
「ちゃうねん…見てわかると思うけどな、ほら。」
杏理さんは私に自分の胸をグッと突き出して見せた。
あ…
…ぺったんこだ…
「ほんまにぺったんこやねん。これはほんまにヤバいわ。」
杏理さんは美人だ。
歳もまだ若そうだった。(多分20代後半か30代前半。
そして小柄で細身。
でもガリガリではなく、二の腕も程よい柔らかそうなフォルムをしている。
そしてなにより気さくで気取っていない。
人気がでる要素満載な感じの女性だった。
「え…?あ、あぁ…」
私は初対面の杏理さんになんて答えたらいいかわからずに口ごもった。
「今も嫌味言われるしな…指名も思うように増えへんし…やっぱり手術するしかないと思うねん。」
杏理さんは私の反応を気にせず、まどかさんと私にそう言った。
「指名ちゃんとあるやんかー!だってな、手術したらすっごい休まなあかんねんで。傷だってすぐには消えへんやろ?」
まどかさんは手術反対を主張する。
「まぁそうやなぁ。」
「そうやろ?なぁ?有里ちゃん。」
まどかさんが私の方を向いて言った。
え?
今日初対面の私に返事を求めます?
「え?…そう…ですねぇ…手術って…痛いんですかね?」
私はどっちとも言えないかわりに素朴な疑問を投げかけた。
「聞いた話しによるとな、手術後のケアがめっちゃ痛いらしいんや。」
杏理さんは他の店の女の子で豊胸手術をした子に話を聞いたらしい。
シリコンを胸に入れ込む手術はなんてことないけど、術後そのシリコンが癒着して固まらないように毎日地獄のような痛みに耐えて自分でおっぱいのマッサージをしなければならないらしいと話した。
「えー…そ…それは…大変だぁ…」
私はその話を聞いて鳥肌が立った。
「有里ちゃん。杏理ちゃんな、ずっとそのことを悩んでるんよ。指名だってとれてるのになぁ。私はせんでもええと思うんやけどなぁ。」
まどかさんは自分の豊満なカラダの前で腕を組みながらそう言った。
それは説得力ないし…
嫌味だよぉ…
私はまどかさんのちょっといやらしい女の部分を垣間見た気がした。
「はぁ…悩むわぁ…」
杏理さんはほんとに悩んでいる様子だった。
私はその姿を見てちょっと衝撃を受けていた。
そうか…
そういうことに悩むソープ嬢もいるのか…
なんとなくその話題が終わった気がして、私は自分の気になっていることを聞いてみたくなった。
「あの…女の子3人になったのっていつからなんですか?」
個室が7個あるお店に女の子が3人はあり得ない数だ。
お店をまわすことができないし、お客さんを増やすことも難しいだろう。
「え?えーと…いつやろなぁ?なぁ?杏理ちゃん。」
「そやなぁ…。もう3ヶ月にはなるんちゃう?」
まどかさんと杏理さんの話しによると、とある店から女の子の引き抜きがあったらしい。
リーダー格の女の子が引き抜かれ、その取り巻きの子も一緒にお店を移動してしまったんだと話してくれた。
「あー…そうなんですか…」
「そうそう。そういうことたまにあるんやで。あの子、富永さんが贔屓してくれなくて怒っとったから。ガバッといなくなったなぁ。」
富永さんが店長だった時のことだ。
その子たちが引き抜かれてしまったことで店長を変えられてしまったんだろう。
「贔屓してくれなくて?ってどういうことですか?」
「なんかすごいプライドが高い子でなぁ。他の店にいるときに店長に一番贔屓されてたらしいんや。」
「でも富永さんはそういうことせえへんからな。みんなに平等やし、正直な人やから。」
「そうそう。うまいことできひんねんねんなー。あははは。そこがええとこやねんけどなー。」
「でな、その子が『富永さんのとこでは働けへんわ!』って捨て台詞はいて辞めて行ったんや。取り巻きの子ぉ引き連れてな。」
はぁー…
なんだろ?それ…
「あー…そんなことがあったんですか…はぁ…」
「私たちはその子と仲良くなかったし、富永さんのやり方が好きやったからここにおるけどな。」
「でも高橋さんはなぁ…なんかうるさいしなぁ…」」
杏理さんは高橋さんのことをあんまりよく思ってなさそうだった。
「まぁな。でも数字でわかりやすく示してくれてるんちゃう?嫌味やけどな。」
まどかさんはどっちでもなさそうだった。
「あ…それと…クマさんって…何者なんですか?」
私は最大の疑問点、クマさんについて尋ねた。
「え?クマさん?あははは!なんなんやろね?」
「クマさんなぁ。よぉわからへんねん。なんか気付くとここにおるんなぁ。あははは。」
え?
よくわからない?
気付くとここにいる?
「姉妹店がこの近くにあるねんけど、どっちもの社長やからうろうろ移動してるんちゃう?」
「でもあっちの子たちには相手にされないんやろなぁ。」
「なんかいつもここで寝っ転がってるなぁ。あははは。」
ウロウロしていて気付くとここの控室でゴロゴロしている…?
んー…
ますますクマさんの存在がよくわからなくなった。
「まどかさん、まどかさん。」
控室のスピーカーからコールがかかった。
「はーい!」
まどかさんは鼻にかかった甘えた声で返事をした。
「ご指名です。スタンバイおねがいします。」
「はーい!」
まどかさんはスッと顎をあげて私を見た。
私はその顔と雰囲気を見て「ん?」と思った。
どこかで見た気がする…
「じゃ、いってくるね♡」
まどかさんは「んふふ」と言いながら控室を出て行った。
「いってらっしゃーい。」
まどかさんを送り出した後、私はちょっと前の記憶を思い出すことになる。
つづく。
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