私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「…俺…」

 

小林さんが頭を下げたまま小さな声で何か言おうとしている。

何を言われるか怖かったけど、小林さんが言葉を選んで話そうとしているのがわかるから、ちゃんと聞こうと思っていた。

 

「…有里ちゃ…いや…ほんとの名前、なんていうの?」

 

小林さんが顔を上げて聞いてきた。

すごく真剣な顔をしていた。

 

「…え?…ゆきえ…です。」

 

久しぶりに自分のほんとの名前を口にした。

そうか。

そういえば私は「ゆきえ」だった。

 

「…ゆきえ…ちゃんか。…俺…今困ってんねん。」

 

小林さんがまた頭を下げた。

「困ってる」と言いながら。

 

 

「…そう…ですよね…そりゃ困りますよねぇ…こんな話しされちゃねぇ…」

 

 

私は涙を拭いて冷静さを取り戻そうと必死になった。

せっかく楽しい時間だったのに。

こんなことになってしまった。

せめてお別れの時くらいは笑顔でバイバイが言いたかった。

 

 

「…違うねん。そうやないねん。」

 

小林さんが顔を上げてまっすぐに私を見た。

 

「え?」

 

「…俺…ゆきえちゃんみたいな女を探してたんや。」

 

小林さんは私から目線をそらしてうつむいた。

 

え?

私みたいな女?

どういうこと?

こんなめちゃくちゃな私?

 

「え?…どういう…意味ですか…?」

 

全く意味がわからなかった。

私の話を聞いて小林さんが何を思ったのか全くわからなかった。

 

 

「…俺…ゆきえちゃんのこと…めっちゃ好きになってしまったわ…」

 

 

え?!

…どこが?

あの話しにどこにその要素があるの?

軽蔑されて当然の話しでしょ?

 

「もちろん初めて有里ちゃんに会った時から好きやったで。可愛いなぁと思ったし、こういう娘ええなぁって思った。でも…今の話し聞いてしまったら…もう…あかんわ…」

 

小林さんは自分の気持ちを伝えようと一生懸命なように見えた。

私はその言葉を聞いてもいまいちピンとこなかった。

小林さんが何を言ってるのかよくわからなかった。

 

「…俺…ゆきえちゃんのことめっちゃ好きやわ。ほんまにこういう女を探してたんや!って思ったんわ。…だから…俺…ゆきえちゃんと一緒にいたい。…あかんかな…?」

 

一緒にいたい?

…私と…?

 

どういうことだろう…?

“今日”一緒にいたいってことかな?

“今夜”一緒にいたいって…こと?

 

…やっぱり小林さんの言ってることはよくわからない。

私にはよくわからない。

 

「…え…ーと…ありがとうございます…引かないでいてくれて、ありがとうございます。それに…好きになってくれて…でも…どこが…ですか?何が…?どこにその要素があったのかわかりません…。」

 

私はできるだけ正直に小林さんに私の気持ちを伝えた。

 

「…俺もよくわからへんねん。言うなら全部や。俺、こういう女を探してたんや!ってすっごく感じたんや。…一緒におってもええ?」

 

…そうなんだ。

私は小林さんの言葉がよくわからなかったけど、その気持ちは嬉しかった。

私の話しを聞いても軽蔑することもなく、むしろ好きだと言ってくれた。

一緒にいたいと強く言ってくれた。

小林さんに心を動かされたわけじゃないけど、こんな風に言ってくれたことがとても嬉しかった。

 

「…うん…」

 

私はコクンと頷いた。

 

「…こっち来て…」

 

小林さんはソファーの隣を指した。

小林さんには二人掛けのソファーに一人で座ってもらっていた。

私はその横でビーズクッションに座っていた。

 

「…うん…」

 

狭い二人掛けのソファーにギュッと密着して座る。

小林さんは私の肩をそっと抱いた。

 

「…俺…困ったわ…めっちゃ好きになってしまったわ…」

 

肩を抱きながら小林さんは天井を仰いだ。

私はその様子を見て「へぇ…」と他人事のように感じていた。

 

「…ありがとう…」

 

それしか言えない。

 

「…一緒におってもええんやんな?」

 

…別にいいよ…

貴方がいたいなら…

 

「…うん…」

 

「…ほんまは車で寝ればいいかと思ってたんやで。ほんまやで。有里ちゃんのプライベートの時間に呼んでくれてほんまに嬉しかったんや。だからそこだけは守ろうと思ってたんやで。ほんまに。抱こうとなんて思ってなかったんやで。」

 

小林さんが真剣な顔でこっちをみながら言った。

 

そうなんだ。

そういう風に思ってくれてたんだ。

 

…うん。

彼は私を幻滅させなかった。

 

「…そんな風に思ってくれてたんや。…そうなんや。ありがとう。」

 

「そうやで。有里ちゃんとはまたお店で会えばいいと思ってた。いい友達になれればいいと思ってたんや。ほんまやで。」

 

「…うん。」

 

「でも…もうあかんわ。…惚れてもうたわ。あかんわ。」

 

小林さんはまた天井を仰いだ。

 

私は…

…何も心を動かされなかった。

「へぇ…惚れちゃったんだぁ…」と心の中で思っていた。

ずっと他人事のようだった。

 

 

「…キス…していい?」

 

小林さんが聞いてきた。

私は迷うことなく頷いた。

 

小林さんはこれでもか!というくらい…

 

優しいキスをした。

 

「…シャワー…浴びてくる…?」

 

口を離して小林さんが聞く。

 

「…うん…そうする…」

 

そう答えて立ち上がる。

着替えを用意してバスタオルを持ってお風呂に向かう。

 

「…じゃ…先に浴びるね…」

 

「うん。待っとるよ。」

 

扉を閉め、服を脱ぎ始める私。

 

 

…どうしてこうなった?

これから私は小林さんとSEXをする。

仕事でない、「ゆきえ」としてSEXをするんだ。

この時間はなんだ?

 

頭がボーっとする。

さっき何を言われたのかよくわからない。

小林さんは私に惚れたと言った。

やっぱり意味がわからない。

「惚れる」ってどういうこと?

「めっちゃ好き」ってなんだろう?

 

…私…は?

 

淡々とシャワーを浴びる。

冷静にムダ毛のチェックをしている自分に笑ってしまった。

これから始まる時間がどんな風になるのか全くわからない。

その「わからなさ」にちょっとワクワクしていることに気付く。

 

身体を綺麗に拭き、着替える。

リビングに戻り小林さんに声をかける。

 

「…お待たせしました…タオル用意しますね。」

 

「…あっ!うん。…ありがとう。」

 

小林さんはジッと考え事をしていたようだった。

 

「じゃ…待っとってよ。」

 

そう言いながら私をギュッと一回抱きしめてお風呂場へと行った。

 

 

小林さんがシャワーを浴びている間、私は淡々とテーブルの上を片づけた。

食べ残したハンバーグや肉じゃがをタッパに詰めて冷蔵庫にしまう。

汚れた食器を流しに運ぶ。

テーブルの上を綺麗に拭く。

 

その間、私はまた自分が何をやってるのかわからなくなる。

 

これから?

これから何が始まるの?

 

食器を洗いながらシャワーの音を聞く。

 

…これから…

今シャワーを浴びている人とSEXをするんだ。

 

「…ふーん…そうなんだぁ…」

 

なんとなく言葉に出してしまった。

 

 

シャワーの音が止む。

ちょっと胸がドキドキし始めた。

ただSEXをするだけなのに。

 

「お待たせ。…あ!片づけしてくれてたんや!…ありがとう。」

 

キッチンで洗い物をしている私を小林さんが後ろから抱きしめる。

 

…悪い気はしない。

まるで絵に描いた新婚のようで。

 

「…もうこれは明日でいいや。」

 

私は洗い物をやめて小林さんに抱き着いた。

そうやったら小林さんが喜びそうな気がしたから。

 

「…ほんま?ええの?…じゃ、向こう行こう…」

 

案の定小林さんは嬉しそうな顔をして私をベッドへ誘った。

 

「うん。」

 

手をつないでベッドへ行く。

小林さんは優しく包み込むように私を抱きしめる。

優しいキス。

上手いとはいえないけど優しい愛撫。

 

「…好きや…ゆきえ…って呼んでいい?」

 

耳元での囁き。

 

全てが心に響かない。

嬉しい気持ちはあるけれど、全く私の心には響かなかった。

 

「…ありがとう…ゆきえ…って呼んでいいよ…」

 

きっと「私も好き」って言われたいんだろうな。

そう言ったらすごく喜ぶんだろうな。

 

でも私には言えない。

 

 

山場のない、ただただ優しいSEXが終わった。

小林さんはとても嬉しそうにしていた。

「ゆきえ、めっちゃ好きやー!」と何度も言って私を何度も抱きしめた。

私はそのたびに「きゃー!」とはしゃいだ。

ほんとは「私も好きー!」と言えたらどんなに幸せだろうと思いながら。

 

でも残念なことに、私には『人を好きになる』なんていう資格がない。

それに『人を好きになる』ということが全くわからないのだ。

 

小林さんの明るさと優しさが私の心をほっこりさせていることは事実だけど、ただそれだけ。

 

 

私と小林さんは狭いシングルベッドで二人で眠った。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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69 - 私のコト

 

 

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